上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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第五十三話改 東北は今日も雪だった

 雪が降り、屋根に積もっている山形城では最上から安東の誘いを受けて寝返った寒河江兼広が大宝寺義氏よりも一足先に包囲していた。彼の心に領土を広げてもらった上杉に対する恩などどこにも無い。

 更なる領土拡張に対する望みだけが心にあった。結局は彼も自身のことしか考えていなかったのである。それ故に、大宝寺よりも早く山形城を囲み、落として羽前最大の城を独り占めにしようと思っている。

 城攻めに話を戻すと兼広は改めて山形城の壮大さに目を見張った。

 彼は思った。義守などよりも自身の方がこの城の持ち主として相応しく、羽前を取るにはこの城は欠かせない。

 義守と義光は今は城にいない。家臣の者が守っていて兵も二人がかなり引っ張って行った為、籠城するのにも事欠く程度にしかいない。

 既に義氏が来る前から城を落とす算段が付いている。もはや勝利は決まっていると兼広は確信に近いものがあった。

 そんな彼を嘲笑うように寒い風が強く吹いて顔を直撃し続けている。

 翌日の夕刻には寒河江軍は三の丸を突破し、山形城の包囲を着々と絞っていた。

 兼広は戦勝を祝う宴を開くことを決めて兜を外して酒を持たせる。

 戦の最中にあってもやはり酒とは良いものだ。喧騒な雰囲気から解放され、時間がゆっくりと過ぎて行く感覚がある。疲れが出ているからこそ酒はいる。 

 ぐいっと一気に飲むのでは無く、戦終わりの時間と同様にゆっくりと味わうかのように痛飲する。そうするとその日の疲れがすっと身体から抜けていくような気持ちになるのが兼広の楽しみだった。

 

「申し上げます! 最上軍が引き返して来ました!」

 

 杯を叩き付けた欠片が報告に来た兵の頬を掠めた。そのこと気にもかけずに兼広は陣を出た。そこには楽しい気分をぶち壊し、兼広の楽しみを終わらせたことへの怒りがあった。

 近くにいた配下に迎え撃つように命じ、兼広は再び酒を煽る。伊達軍が来ていることは既に知っているが、慌てることはない。山形城はその前に落とせば良いのだ。かれらの物にはさせない。

 苛々を抑えること無く兼広は休息を中止して残りの配下に山形城攻撃を命じた。

 

 

 

 

 山形城に籠もる志村光安は全くもって予測していなかった寒河江の襲撃にわずか一千の兵で五千の兵の襲撃を防いでいるところは流石である。

 元々剛毅な性格の彼は兵を良く指揮し、挫けそうな者が居れば自ら敵に斬りかかるなど鼓舞をして二の丸よりも先の侵攻し許さなかった。

 しかし、守っている彼は大宝寺の援軍が来ればかなり厳しいことになるのはよくわかっていた。厳しいで済んだらまだ良いかもしれないが、二の丸や本丸も危なくなる。

 民を城内に避難させているだけに城が落ちれば民は略奪の標的になってしまう。

 光安は義光から民を最後まで守るように何度も命じられている。逃がしておくならば戦の混乱に乗じて逃がすのが一番得策かもしれない。

 危険ではあるが、三の丸に敵が入った以上は兵は死なない為に目の前の敵とぶつかり合っている隙に逃がすのが危険だが、逃げ延びる確率は高い。

 そう結論付けた光安が立ち上がろうとした時だった。

 

「報告。三里南に伊達の旗印を発見。およそ三千かと」

「申し上げます。大宝寺の軍が二里程西に、その数二千」

 

 光安は天を仰いだ。これで民を逃がす方角は北だけになった。満延達がやって来ていることは既に報告が来ている。

 だが、逆に考えれば寒河江の軍もそちらに向かうということは明白で民と寒河江軍が鉢合わせでもしたら全滅する恐れもある。それに大宝寺はともかく精鋭揃いの伊達軍が近付いている以上、こちらから戦を仕掛けるのは危険だ。

 被害を受けて更なる被害を受ける羽目になって山形城は援軍を待たずに陥落してしまう。

 光安は息を吐いて浮かしかけた腰をどっかと音を立てて落とした。もはや城から人を出すことは不可能である。

 いざとなれば民も巻き込むことも致し方ないと光安が疲れた身体を休めようと水を飲んでいるとまた報告が届いた。

 

「寒河江軍が二の丸に攻撃を開始」

 

 光安はすぐに頭を切り替えて指揮を執るべく雪の降る前線に向かった。

 

 二の丸は大分押されているが、光安がいつものように自ら敵を斬り捨てることで兵も奮い立っていた。後ろの本丸では民が肩を寄り合わせて怯えている。もはや逃げ場はない。

 しかし、負けた訳ではないのだ。味方の援軍が来るか敵の援軍が来るかはまだ分からない。

 また報告を告げる兵が来た。それでどちらの援軍が来るのか分かる。そして、光安の動きが決まる。

 

「申し上げます。大宝寺、突如撤退開始!」

「・・・・・・何故だ?」

 

 怪訝な顔をして伝令兵に光安は訪ねる。吉報ではあるが、向こうはそのようなことが起きる状態ではないはずだ。周りの将兵達も驚愕の表情を隠せない。

 

「どうやら羽黒山で一揆が起きた模様です」

 

 光安は目を見開き、ことを察して薄く笑った。

 

「(やったな土佐林殿・・・・・・)」

 

 元々義氏は羽黒山信徒と仲が悪かった。禅棟が就いていた羽黒山別当の地位を得たのは良かったが、増税とすぐに別当を辞して将軍家から許された屋形号を名乗るなど羽黒山信徒や民から不満を持たれていた。

 さらに彼自身が増税を謙信達から咎められていた事。上杉家の世継ぎである景勝に疑問を持っていた事が決め手で義氏は反旗を翻した。

 しかし、土佐林達上杉家与党の家臣から不満を持たれた。もし軒猿達の手引きが無ければ禅棟らは義氏によって殺されただろう。

 そして、今回の戦で義氏は出陣した後に示し合わせたような一揆は羽黒山信徒と未だに繋がりが深い禅棟の影が光安の頭にも見え隠れしている。

 さらに義守がこちらに向かっていることも知らされた。これは山形城内の兵の士気を大きく引き上げた。それまでに山形城を防衛すれば間違い無く寒河江軍は退却する。

 問題は伊達軍の動きだ。義守達が速いか伊達が速いかは分からない。しかし、常識的に考えると伊達の到来が間違い無く速い。

 頼みとなる満延達が速く来ることを光安は城を守りながら祈るしかない。

 敵を薙ぎ倒しながら光安は頭の中で伊達が来た時の対策を練っていた。

 更に一刻経ち、夕方から夜に変わろうという時間になっても寒河江軍は攻勢を緩めない。向こうの方が外にいるのだからこちらに来た報告が全て向こうには行っているのは確かである。来る時が来た。

 

「申し上げます。伊達軍の旗を確認しました」

 

 

 満延達が山形城見えてきたのは光安に伊達軍襲来の報告が来てから半刻経った時、兼広配下の足止めをそこに人がいなかったかのように華麗に突破した後も休むことなく進んだが、辺りはすっかり夜になっていた。 

 

「満延様、伊達が既に・・・・・・」

「言わなくてもいい。行くぞ! 山形を救い、光安を救う!」

「「「応っっ!!!」」」

 

 負けることは出来ない。満延の延沢家と寒河江家の因縁は深い。義守に不満を持っていた最上八楯の一派が反乱を起こした時、延沢家は寒河江家を一番に攻撃した。決着は付かなかったが、これはかなり問題となった。

 延沢家も最上八楯の一つ。天童から再三の共闘を持ち掛けられた。だが、満延は義光を通じて既に最上に恭順の意を示していた。

 義光は満延の立場を利用させて満延が天童に従うことを誓わせて近隣の不安が無くなったと寒河江が油断したところを襲わせたのだ。

 あの時から兼広は満延に敵愾心を露わにして最上が上杉に降り、兼広が領地を獲得すると何かと付けて満延を見下すことが多くなった。

 偉そうにしている兼広に満延もかなり我慢をしていた。

 この戦は最上を守る為でもあればその我慢を発散する時でもある。

 伊達という邪魔も入ったが、それもかつての戦での鬱憤晴らしというやつだ。一つの戦で二つの鬱憤を晴らせる。

 人としての楽しみが出来たところで満延は戦場となっている山形城を視界に捉えた。

 

 

  

 羽黒山信徒の中に民とは思えない出で立ちと鎧姿をした人物が二人いた。一人は僧侶、一人は武人、土佐林禅棟と池田盛周である。

 彼ら二人は羽黒山信徒を率いて大宝寺義氏の居城、鶴ヶ岡城を攻めていた。鶴ヶ岡城は義氏の居城となっているが、あくまでも軍事拠点の支城という見方が強い。

 そこを破れば大宝寺の本拠地である尾浦まで後一歩である。

 あの時最上軍と上杉の援軍の間で嫌な空気が流れ、義守がそれを遮るように山形城に向かうと言ってどうにか一触即発の雰囲気を破ったが、それでは大宝寺と寒河江。さらに伊達を纏めて相手取るという非常に不利な状況下に晒されることになる。

 なんとかして敵の戦力を分散することが出来ないかと定直から相談を受けた禅棟は羽黒山信徒のことを思い出した。

 義氏に不満があるかれらなら義氏の増税を撤廃すると約束すればすぐに動いてくれる筈だ。

 そう考えた禅棟は義守の許可を得ようとしたが彼は首を横に振った。

 

「民を巻き込んでまで勝ちたいとは思いませぬ」

 

 即刻却下された。

 しかし、今はそんな贅沢を言っている場合ではない。

 どうとか山形城を救う為にもどこかの勢力を引き離さないといけない。  

 南羽州の西にある鶴ヶ岡城に向かっている為に東の山形城との距離もどんどん離れているのも事実で満延が先に着いたとしても兵力の差は否めない。

 

「義守様、私も賛成です。この禅棟殿は御自身が泥を被る覚悟でございます。それを反対なされては禅棟殿の立場がありません」

 

 定直も加わって懇々と説得するとようやく義守も仕方無さそうに頷いてくれた。

 支配者は時として被らないといけない物。越えないといけない物がある。無事に突破した者が戦にも勝ち抜くことが出来る。

 禅棟は羽黒山信信徒の代表に密書を送り、盛周を借りて僅かな兵と共に別行動を始めた。

 羽黒山信徒は簡単に誘いに乗った。義氏の増税に悩まされていた民達もその騒動に次々と立ち上がり鶴ヶ岡城に攻め込む。鶴ヶ岡城にも兵は残っていたが、数が違い過ぎるのと城内で義氏に不満を持っていた東禅寺・来次の二将が寝返り、あっさりと落城した。

 夜になっても禅棟と盛周は勢いを緩めずに続けて本城の尾浦城に迫ったが、ここでも守りを任されていた砂越はあっさりと降伏した。

 元々大宝寺の治める地域は不安定な土地だったが、それなりにもう少し良い政治を行うことが出来た筈だった。外には強かった義氏も内には弱かった。

 脆くも義氏が来る前に帰る所は無くなった。

 

 その頃、義守は義氏の隊と鉢合わせていた。

 義守の顔を見た瞬間に義氏の顔は血管が破裂しそうな程に赤くなり見るからに悔しそうに義守を見ていた。鶴ヶ岡城の陥落は届いている筈だ。

 夜の暗闇の中で松明の明かりがよくその顔を映している。義氏の感情が一目でわかった。それを見て義守が一計案じる。

 義光に耳打ちすると彼女は嫌な笑みを浮かべながらどこかへ向かった。

 それを隠すように義守は前に出て義氏を真っ直ぐ見て明らかに動揺している周りの兵を見る。

 

「尾浦も落ちました。皆さんの帰る所はありません。今なら間に合います。降伏して下さい!」

 

 それを聞いた義氏の顔を青筋が脳天に辿って着いた時にはぷつりと何か音がしたのを義氏の近くにいた兵は聞いた気がした。

 逃げ出そうとした兵を斬り捨てると義氏はよくわからない奇声を上げて義守目掛けて突っ込んで行く、義守は相手にすることなく、すっと馬を反転させて退却する。

 しかし、義氏は執拗に義守の背中を追った。暗闇で見えなくなりそうになっても徹底的に義守を見つけて追った。そして、周りは全く見えなくなった。

 

「やれやれ、こんな策に掛かるとは義氏もやはり脳筋じゃのう」

 

 義守に言われて義光は大宝寺を包囲するように陣を整えたが、簡単に引っかかってくれた義氏には敵なのに哀れに思えてきた。

 怒りに任せるのは自身の力を強めて良い傾向に行く時もあるが、殆どの場合は結局返り討ちにあって終わる。

 義氏はその典型的過ぎる例だった。半刻もしない内に義氏は完全に孤立してしまい、それから少し経った時には完全にボロボロになりながら不運にも景家に降伏を願ってその景家の槍の錆びになっていた。

 

「まぁ、良しとしようか・・・・・・」

「良いと致しましょう・・・・・・」

 

 下らないと思いながらも秀綱と定直は同じ思いでこの戦を終えた。 

 

 

 

 今宵の月は満月だ。夜襲をかけるには向いていないが、それでも愛しい山形を守る為に義守達は馬を急がせる。

 歩兵の中には息が上がって今にもへたり込んでしまいそうな者もいるがそれでもかれらは走る。将兵一体となってこの夜空の下、寒河江の陣に襲い掛かり徹底的に叩く。

 元々満延に出していた指示であるが、山形城からの報告が無いということは満延達に何かあったからに違いない。やはり向こうにも足止めの兵が向かったのだろう。

 いくら勇猛な満延と満茂であっても疲れは出る。思うように突破出来ていないのかもしれない。ならば自分達がやらなければならない。

 上杉・最上軍は馬をさらに加速させて景家と秀綱が先頭に立って山形城に向かっている。

 二人は先の発言で最上からの信頼を失っていた。それを挽回するためにも武勲を立てないと気が済まない気持ちで早く早くと山形城を目指す。

 満月の光の御陰で山形城が思ったよりも早く見えてきた。二人はそれぞれの得物を構えて寒河江が居るであろう陣を探し当ててそこに入った。

 そこにいた将のような人を見つけて斬り掛かろうとした時。

 

「あ、義守様、お帰りなさい。お先に失礼しています」

「義守様、申し訳ありません。兵達がどうしてもと聞かないので・・・・・・」

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

 それなりに出来上がっている光安と申し訳なさそうにしていながらも酒からほんのり顔を染めている満延を見ると何があったと先ずは率直にそれが言いたい。

 だが、残念ながらそんなこと言えるような状況ではない。

 義守も義光も景家も兵達と一緒に目と口で綺麗な丸の形を作って絶句している。定直と秀綱だけが落ち着いた素振りで礼儀正しく待っていた将達に御辞儀をするが、その目はいささか開いていた。

 山形城がちゃんと守れているのは別に良い。守りきったのだから。満延達別働隊が居るのも別に良い。先に山形城に到着するのは計算済みだ。

 疑問は二つある。

 一つは何故、山形城の攻防戦が終わっているのか。

 

「何でこの方が寒河江の首を持っているのですか?」

 

 義守が代表して二つ目の疑問をしっかりと言ってくれた。

 

「ん? 私達が居て何か悪いか?」

「私『達』?」

 

 義守が可愛らしく小首を傾げると満延達の背後にさらに義守達は顎が外れるようなものを見た。

 

「梵天丸ーお酒持って来たよー」

「成実、もう少し落ち着いて・・・・・・」

 

 やってきたのはドタバタと酒樽を頭に乗っけて酒が少し零れているのも気にせずに走って来た少女とそれを宥める長身の女性。二人は義守達に気付き、『こんばんは』と頭を下げる。

 ようやく頭の配線が繋がった義光が一言叫ぶ。

 

「何で伊達がここに居るのじゃ!?」

 

 結論から言うと伊達は上杉との戦での邂逅を終えた後、輝宗に事の詳細を告げた。

 政宗が謙信との一騎打ちに負けたと聞くと輝宗は高笑いを上げて政宗の肩を叩いた。

 驚きながらも政宗が何故そこまで笑っていられるのか聞く。

 

「やはりこれからは上杉と我々の時代になる。東北でどんな波乱が起こるか想像するだけで楽しみなのだ」

 

 端から見ればそれだけの理由かよと何か言いたくなるが、輝宗も戦人である為、そしてここにいる全員も同じく戦人である。三人は肩をすくめあってそれを眺めるだけであった。

 ところが着々と上杉が領土を拡大している頃、伊達では色々と揉め事が起きた。元々不満を持っていた国人衆が反乱を起こし、それに対応する羽目になってしまっていた。

 さらに輝宗がその戦の最中に人質に取られるなど家中でも騒然とするような事が起き続けた為に外に出ようにも出られない日々が続いていたのだ。

 気付いた時には上杉と伊達の領土の大きさはかなりのものになっていた。しかも、伊達を囲むような領土の拡大を重く見た輝宗は挽回策を考えたが、知恵袋の景綱が上杉に居る以上は簡単には上杉に手を出せない。

 しかし、伊達にも転機が訪れた。本願寺からの誘いである。輝宗は政宗達を呼んでどう動くべきかを訪ねたが、なんと今回は賛成する者が現れなかった。

 

「また同じような手を使えば伊達の名前は完全に地に落ちます。それに春日山には景綱がいます。第一に上杉とは上洛中は領内に侵攻しないと和睦を結んでいるでしょう?」

 

 政宗はつらつらと正論をぶつけて輝宗を説き伏せた。政宗達は国人衆の反乱は先の戦の乱入で自分達もいつかは伊達に斬られると思ったことによるものだと分かっていた。

 あのような思いはもうたくさんである。それは輝宗も感じていたことなので仕方無いと本願寺の誘いは丁重に断った。

 

「だが、これから我々はどうするのだ? もはや周りは上杉に囲まれている。田村が残っているとはいえそれ以外はどこにも行けぬぞ」

 

 田村が徹底抗戦の構えを崩していないが、放っておいてもすぐに落ちる。

 だとすると他に侵攻することになるが、蘆名も最上も上杉の傘下に入っている。

 残るは葛西・大崎辺りだが、攻めたところであまり領地が拡大する訳でもなく、また間延びした感じに領地がなるので分断される危険性がある。

 はっきり言って時間を無駄にしたというのが伊達の領土拡大が遅れたことが根本的な原因だった。

 それは今になっては無情の時間が帰って来てくれる訳でも無いので後悔しようにも出来ない。そうなってくると残る方法は危険だが、一つしかない。

 

「だからってよくも上杉に降ろうなんて思ったわね。私だったらそんなさっぱりと決められないよ」

「まぁ、元々上杉には借りがあったし。謙信殿とは仲良くやって行けそうだったからな」

 

 にやりと満延に笑っている政宗には以前の乱入戦の時の罪悪感は無いように見えてしまって義光は少しばかりの拍子抜けとかなりの怒りを覚えた。

 だが、義守と定直、秀綱が三人がかりでそれをどうにか宥め続けたおかげでどうにか話せるまでに回復した義光が口元をヒクヒクさせながら政宗達に詰め寄る。

 

「まぁ、お主らの処遇は謙信殿が決めることだとしても先の戦の落とし前についてはどうするつもりなのじゃ?」

 

 明らかに嫌味たっぷりな発言に政宗も苦笑いを浮かべるしかない。言っていることは義光の方が正しいので言い返せないが、余裕な態度を崩さずにいる。

 

「私の父、輝宗と綱元の父、左月が手土産を持ってくる手筈となっている。それで大丈夫だろう」

「手土産・・・・・・ですか?」

 

 義守が小首を傾げると政宗は悪戯っぽく『今言ったらつまらんだろう』と笑ってそれ以上は何も言わなかった。

 義守は追及を諦めてようやく満延に状況を聞くと兼広は成実が討ち取って寒河江は殆どの兵が被害を受けて撤退して行った。後は寒河江を攻めれば万事片が付くだろう。

 満延も最初は伊達が寒河江を攻めているのを見てまた山形城を横取りする気かと思った。

 しかし、満延達が現れても何も伊達に動きはなくただ寒河江を攻めているのを見て疑問に思ったそうだがよく見ると光安が一緒に政宗と並んで馬に跨がっているのを見て、一瞬呆気に取られたが、そこから光安が自ら使者として事情を説明したので一応は分かったそうだ。

 報告も終わったところで政宗達が持って来たかなりの量の酒で宴が始まった。

 夜空の満月の月明かりの下での一杯もなかなかの風流だったが、長い戦を続けた最上軍からすればかなりの疲れを癒やす為のものにしか考えられず、結局、雪が止んだこともあって本当にその日は朝まで飲んで勝利を祝った。

 その後、鶴ヶ岡城と尾浦城を落とした盛周と禅棟が帰還した。

 義守は正義感の強い盛周がこのことに何か危ないことを言うではないかと不安になったが、盛周は予想通り最初こそ斬り掛かろうとまでした。しかし、義守の説教と思ったよりも素直に政宗達の言い分を聞き入れたのでとりあえずはよしとなった。

 その三日後には寒河江の残党も全滅した。

 義守は南羽州を守り、愛する山形の民を守りきった。

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