上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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第六十話改 自由の道連れ

 上杉は苦境の中の苦境の中の苦境、地獄の中の地獄を通り抜ける事が出来た。伊達軍を仲間に迎え入れる事も出来た。しかし、その代償として武勇と知略の大黒柱を二本失う事になった。大き過ぎる代償に上杉はその立て直しを図るべく日々奮闘していた。

 しかし、越中では戦いがまだ終わっていた訳ではない。

 龍兵衛が帰還して三日後に一カ月間の謹慎を命じられたその次の日、いきなり女中が部屋に来た。

 

「謙信様、神保長職と名乗る方が城門でお会いしたいと申しておりますが」

「何、神保殿だと? ああ、やはり駄目だったか・・・・・・」

 

 通すように命じるとすっかり変わり果てたぼろぼろな姿をして長職が謙信の前に現れた。

 

「久しいですな、謙信様、私が来た以上は分かっておいででしょう?」

「ええ、済まなかった。救援も出せずに」

「いやいや、謙信様の状況を考えるとあれで救援を出してくれと言われて応えるのは無理というもの。しかも私ではあの窮地を抜け出せてはいないでしょう」

 

 衣服は汚れ、顔には整っていない髭が伸びていて生やしていた顎髭も目立つという事で無造作に切ってある。

 最後まで戦おうと粘った長職は一向一揆勢の苛烈な攻めを一身に受ける気持ちのまま敗れ去った。

 

「それよりもよくぞあの窮地から生きて帰ってこられましたな」

「職鎮が私の身代わりになってくれました。もし彼がいなければ私は富山城と運命を共にしたでしょう」

 

 聞けば職鎮が最後の突撃をかけている間に長職は密かに道なき道を通り、海路まで使ってほうほうの体で魚津まで逃げ込み、朝信の下に逃げ込んだという。

 

「その後の職鎮の行方は掴めておりません。おそらくは自害したか、処刑されたでしょう」

 

 最後まで忠義を通した宿将に長職は申し訳ない気持ちでその思いを語る。

 謙信も黙って聞きながらその気持ちを汲み取り、自ら話し出すことはせずに後悔の呟きを聞き続ける。

 謙信とて定満と藤資を失った。颯馬には我が儘に聞いてもらい、愚痴を長々と話したのだ。彼もその時の自身と同じ、辛さを誰かに知ってもらいたいと自分勝手な思いを抱いているに違いない。

 自身と同じ思いを持つものはどこにでもいると思っていると長職は話し続けた口を休めるように話を区切り、一息置くと頭を下げて再び口を開く。

 

「そこで、私はもうどこにも行く宛がない。謙信様の家臣の列の末端に並べて頂ければ私はもう何も申しません」

「分かった。神保殿・・・・・・いや、長職、これからよろしく頼む」

 

 四面楚歌の籠城を何ヶ月も大軍から守った将である。嫌と言うのは宿敵ぐらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ全部~?」

 

 官兵衛の目の前には山のように置かれた資料の山。本格的に仕事をすることになって入ってみれば、上洛中やその帰りに起きた戦や定満と藤資の喪に服していた間に溜まっていたものがそれぞれの目の前にある。

 顔の半分が向かいにいる兼続から見えないのは決して官兵衛が小さいからではない。

 

「仕方ないだろ? 誰かの弟子が謹慎になっているんだから」

「表向きじゃん!」

 

 颯馬の嫌味にはっきりと官兵衛は言ってはいけないことを言う。龍兵衛は別に出て来ても謙信からも何も言われない。しかし、謹慎扱いになっているので普通に外に出るのもおかしいのだ。

 

「まったく、龍兵衛も随分と騒がしい師匠を持ったものだ」

「随分と苦労したみたいだ。主に黒田殿の暴走を止める事とかにな」

「どういう意味?」

「それは直接龍兵衛に聞け」

 

 颯馬と兼続の半分からかった目に少しじとっとした目をして反論しようとしたが、龍兵衛に詰め寄る体力を残す為にここは官兵衛は踏みとどまる。

 

「だけど確かに出てきても別に良いんだけどな、龍兵衛」

 

 その颯馬の言葉が始まりだった。

 

「ただあいつはさぼりたいだけだろう?」

「龍兵衛って意外と真面目そうだけど逃げる時は逃げるからねぇ~」

「河田殿も随分と駄目なところがあるんだな」

 

 何故か景綱まで加わってその後もしばらくここにいない龍兵衛の悪口が続いた。

 定満がいないせいかそれはかなり盛り上がって気付けば太陽が一番高いところまで来ていた為、悲鳴を上げても戻って来ない時間を取り戻す術も無く、その日は半徹になってしまった。

 その理不尽な八つ当たりが龍兵衛に返ってくるのは謹慎が解けた瞬間の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 謹慎中だとはいえ城内は普段通りに行き来してよいということになっている。とはいえ寒さに弱い龍兵衛は外に出るような事はあまりせずに部屋の中で色々と本を書いていた。

 しかし、龍兵衛も外に出なければ身体に悪いのは分かっているので雪の残る中庭に出てみることも欠かさない。そこで彼が目にしたのは雪をかき分けて進む謎の跡だった。

 

「(あっ・・・・・・)」

 

 忘れていたというわけではないが、最近の目まぐるしい事態に行ったり来たりしていた為に少し目が行っていなかった。

 呼ぶと出て来たのは楽しそうにしていた子猫。ではなく普通の猫よりは小さいが、子猫と呼ぶのは失礼な程に大きくなった猫が姿を表した。

 

「(あの童謡は絶対嘘だな・・・・・・)」

 

 それほど龍兵衛の猫は雪の中を元気に走っている。そして、龍兵衛の胸に直接飛び込んできた。

 

「元気にしてたか?」

 

 がっちり受け止めてそう言うと猫はそれを肯定するように一つ鳴いた。だが、冬だというのに身体が冷えているというわけではないことに気になった。

 そこで龍兵衛はひとまず猫を上に上げておいて龍兵衛がいない間に世話を頼んでいた女中の所に向かった。それに猫が付いて来たのは言うまでもない。

 

「龍兵衛様がいない間、とりわけ雪が振っていた時にはその子を上に上げて部屋で温めてあげたんです」

 

 聞くと随分と猫は龍兵衛がいない間、勝手に上がっては龍兵衛の部屋の前をうろうろうろうろしていたという。

 

「今は龍兵衛様外に出ることは無いんですからたまには面倒を見てあげたらどうです?」

「いや、一応謹慎中だからねぇ」

 

 頭を優しく撫でると猫はごろごろと喉を鳴らす。

 逆にこれはいい機会かもしれないと気ままな猫を見ていると思ってしまう。

 色々と面倒な事は別の軍師に押し付けている今だからこそ愛猫とすごせるというものだ。たまには猫を見習ってみるのも良い。

 龍兵衛は猫を抱き上げると誰にも見つからないように懐に猫を隠して部屋に戻る。

 どこにでもある殺風景な部屋だが、やはり家が一番落ち着く。

 性質も部屋に居着くという猫に似てきたと思うと良いのか悪いのか分からなくなる。しかし、今だけはそれで良いと片付けられる余裕がある。 

 確かに龍兵衛は定満と政景の事については参っていた。そして、その後悔の念は忘れようとも無理なものである。

 そもそも龍兵衛からしても定満は随分と心の崩壊から助けてもらったいわば相談員のような存在である。

 政景にしても謙信の傘下に入ったのが同時期であった為に家格が違うとはいえ、かなり私的には面倒を見てもらっていた。

 時に官兵衛を上杉は迎え入れた定満はその代わりという訳であるのだろうか。

 しかし、官兵衛は今は名がさほど売れていない。半兵衛は一応は羽柴秀吉の軍師としてかなり織田でも重き場所に座っているそうだ。

 龍兵衛もそうだが、官兵衛も名があるとすれば謀反人の汚名であるが、逆に幸いするかもしれない。それは官兵衛の能力を考えるとすぐに名高い軍師となるだろうが、しばらくは利用可能である。

 そう考えながら猫を撫でつつ、半兵衛の無事と道勝の悔しい思いをしている様子を内心くつくつと笑いながら想像していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 岐阜城の一室では旧斎藤家の面々が密かに集まって越後の間者が持ち帰って来た報告に暗い部屋がますます暗くなるような雰囲気になっていた。

 

「これはどういうことだ!?」

「さぁ~半兵衛さんに聞かれましても~たぶん龍兵衛ちゃんが半兵衛さんよりも先に誘ったのではないでしょうか~?」

「ちっ! 忌々しいったらありゃしない。おかげで信長や重臣達に随分と白い目を向けられたよ!」

 

 道勝はヒステリックに喚いて思い通りに行かなかったことへの八つ当たりに半兵衛に散々嫌味を言って出て行く。

 半兵衛と美濃三人衆はニヤニヤと笑い合っていたが、彼女が気付く筈もない。

 ずんずんと歩いていく道勝の頭にはニヤニヤと見下しながら笑っている龍兵衛の顔が浮かんでいた。

 

「その顔、私が踏みつけてやる!」

 

 そう言いながら道勝は廊下の奥に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 謹慎中の身の故に知らない事も色々と知れるのも龍兵衛は楽しみになっていた。

 周りからするとその考えは不謹慎だが、本人はそれがどうしたと気が向いては外に出て城内をぶらぶらしている。

 表向きは屋敷にすら基本的に帰る事が出来ない城内監禁の身である為に余計に色々と知る事が出来るのだ。 

 

「うっきー!!」

「ぐるるる!」

「こら、三! 何やってるの!?」

「猿も、めっ!」

「犬猿の仲と言いますけど、どうしても折りが合わないですね・・・・・・」

「(こくこく)」

「おかげでこの子達は景勝様も嫌いますし」

「(しょぼーん)」

 

 中庭で沈み合う景勝と資正の犬猿事情はかなりの問題となっている。戦の時もそうで、どうも景勝と資正は場所を離さないと上手くいかない。

 

「(臭いの問題かな?)」

 

 また別の日は道場にて。

 

「さすがに景資殿は随分と腕がたちますね。やはり、上杉軍にその人ありと言われた方ですね」

「いや、妾などまだまだじゃ。しかし、お主もなかなか腕がたつのぉ。どれ一つ手合わせと参ろうか?」

 

 道場では景資と綱元という猛者がお互いの武を素振りで見極め、立ち合い、見ている側も汗を握るような試合をする。それ以外にも歴史上の様々な猛将が立ち合っているのを見ると龍兵衛は改めてとんでもない方達がいるのを実感した。

 

「(味方になってくれて良かった・・・・・・)」

 

 また別の日は廊下にて。

 

「ふむ・・・・・・なるほど・・・・・・」

「さっきから何なのよぉ? あたしの後ろにずっと付いて来てぇ」

「いや、前田殿は良い尻をしているなと思って」

「ぶっ! な、何かと思えばいきなり・・・・・・ひゃあ!」

「ふむふむ、なかなか、やはり、な・・・・・・」

「だ、誰かぁ、助けて~業っちが変態になってる~」

「む、私は別に良い尻を揉んでいるだけだ。変態とは心外だな」

「それが変態なのよ~」

「それにこのような格好している前田殿の方がけしからんな」

「って! あぁん、言ってるそばから強く揉まないでぇ~」

「(見なかったことにしよ・・・・・・それから慶次、身体よじりすぎて胸が出そうになってるの気付け)」

 

 

 

 

 

 

 夜になると猫は龍兵衛の部屋でぐっすりと眠っている。しかし、龍兵衛はここのところは夜に眠れない日々が続いている。どうも不眠症になってしまったらしい。

 気晴らしというわけではないが、外に出てみる。雪は降っていないものの寒さは変わらない。

 夜風は身体に毒と言うが、龍兵衛は気にした事がない。それが身体が冷えて風邪をよく引く原因なのだが、気にせずに城内をあてもなく歩く。端から見れば完全な不審者だ。

 

「ん?」

 

 しばらく歩いているとどこかからは知らぬが、笛の音が聞こえてきた気がした。縁側の方に足を向けるとその音源は景綱の笛の音色だと分かった。

 その姿は星空輝く美しい夜空にとても合っていた。幻想的な音色は夜の星にまで溶け込むかのように心にじーんと響く。

 目を瞑り、しばらく龍兵衛はそこで立ってその音色と頭の中でのその風景を思い描いていた。

 

「そこにいるのは誰だ?」

 

 演奏が終わったと思うと景綱の鋭い殺気が若干籠もった声が聞こえる。

 龍兵衛は景綱のからは死角になる所に立ってその音色だけで風景を思い描いていた為、気付かれないようにという配慮を忘れていた。

 

「見事な音色に惚けていた。罪人ですよ」

 

 諦めて龍兵衛が顔を出すと景綱は声に振り返り、彼の顔を認めて意外そうな顔をした。

 

「河田殿、そこに立っていると不審者に見られても仕方ないと思わないのか?」

「分かってはいたんですけど、このようなものは目よりも耳で聞くのが一番ですからね。風景があったとしても、その音が引き立てる」

「わかっているな。河田殿も笛をやるのか?」

「ええ、ですが、自分は片倉殿とは違いますね。片倉殿は儚く悲しい音色で人の心を惹き付ける。しかし、自分はどちらかというと和やかさや喜怒哀楽の哀を感じさせるのが主流です。まぁ、片倉殿のようなものも吹けますが」

「なるほど、私もそのようなものも吹けるが、確かに私はこちらの方が合っているからな」

 

 笛は人の心を表すと言うが、景綱は龍兵衛もかなりの耳と芸術感を持っていると悟った。素人では一度聞いただけでそのような事も分かるというのはなかなか難しい。

 龍兵衛の大柄な体格を考えると似つかない趣味だが、上杉の面々を見ているとそのような感性も無くなったので景綱はさして気にならなかった。

 上杉に捕らえられて後、不自由な生活を強いられてきたが、決して上杉に悪い印象は持っていなかった。

 普通に監禁状態であったが、部屋を用意されて城内を歩いても良いというのには彼女自身かなり驚かされた。

 伊達を舐めていると見られてもおかしくないが、逆に余裕がある故にこのような事をする事が出来るとも思慮深い景綱には取れた為、逆に彼女は考えさせられた。

 周りに変わった人々がいてかれらにたまに振り回されることもあったが、この一風変わった家の生活も苦ではないと感じるようになっていた頃にあのような一大事が起きた。

 定満が訪ねて来たのは実及に政景の事を密かに報告する為に龍兵衛と共に来た時だった。

 その時、彼女が景綱に頼んだのは、新発田方面打開の為の策。

 最初は唖然とした。そのような事を敵の軍師である景綱に聞いてくるとはこの前にも先にも彼女だけだろう。しかし、定満は変わらないふにゃりとした笑みを浮かべていた。

 

『輝宗さんは上杉の味方なの。だから景綱さんも味方、なの』

 

 今、思い返せば何とも意味の分からない理由だが、それが現実となったのだから驚かされる。そして、景綱は一定の情報を聞いて定満に自身が考えた策を言った。

 定満はにっこりと笑いながら頭を撫で、その場を後にした。

 地獄が終わった後、景綱は彼女が考えた策を定満がそのまま長重達に書状で送り、かれらはその策通りに動いて勝利を収めた事を知った。

 

「(無茶苦茶過ぎる・・・・・・)」

 

 普通なら少しでも疑っても良いのに定満はそのまんまで策を遂行した。そう考えた時、景綱には戦慄の震えが走った。

 もしかしたら定満は伊達がこう動くのも予想の内だったのではないかという考えが景綱には芽生えた。考え過ぎと吐き捨てることも出来るが、策を言っている時の自身も別に二心など抱いてすらいなかった。

 定満は全てを見ていたと思うと戦慄が走るのも無理はなかった。

 

「宇佐美殿は恐ろしいな・・・・・・」

「どうしたんです? 藪から棒に?」

 

 何でもないと首を振ると景綱は龍兵衛の笛が如何なものか知りたいと言うと最初こそは渋っていたが、「道理に合わないだろう?」と景綱に悪戯っぽく笑われては下がる訳には行かない。龍兵衛は渋々笛を取りに戻って行った。

 星と月の輝きで闇は浅い。

 

「如何でした?」

「うーむ、思っていたのよりもちょっと違うな」

「どういう意味です?」

「ああ、変に勘ぐるな、下手という訳ではない。河田殿の音色に少しばかり悲しみが入っていたからな」

 

 なるほどと苦笑いをして龍兵衛は「察してください」と景綱に言うと景綱もさすがに悪い事を言ってしまったと詫びを入れた。

 人の感情を笛は語る。何であれ、龍兵衛はいまだに定満の衝撃から立ち直ってはいないからこその今の音色である。

 その後は話題をそれぞれの笛に対する考えや奏法などを話しあった。

 しばらくして景綱が何かを思い出して龍兵衛に聞く。

 

「そうだ。河田殿」

「なんでしょうか?」

「夕刻に黒田殿と何を話していたのだ?」

「ああ、あれですか。まぁ、ちょっとした世間話ですよ」

「そうか? それにしてはかなり神妙な顔つきだったぞ」

「はは、気のせいでしょう? では自分はこれで・・・・・・」

 

 鋭さには恐ろしいとおもいな龍兵衛は逃げるように立ち去って行った。

 夜ということを忘れて龍兵衛は足音を立てて歩く。思考には寝ているであろう他者への配慮ではなく、夕刻に遡っていた。

 官兵衛が資料を読みながら歩いていると前から龍兵衛が歩いて来た。しかし、官兵衛はそれに気付かずに資料に集中している。それでも龍兵衛は気になる事を言わずにはいられなかった。

 

「重さんからの書状・・・・・・」

 

 官兵衛がぴくりと動きを止める。振り返ると龍兵衛は官兵衛を真っ直ぐに見ている。

 

「やはりあれは捨て切れなかっただけですね? 自分には分かりますよ。あのような書状、普段ならすぐに捨てますよね?」

 

 呆れたように溜め息を吐く龍兵衛。

 もしかしたらと思っていたが、ばれていた事に別に不快感はなかった。むしろさすがだなと思い、察しの良さに嬉しく感じる。

 上杉に加わったのは自身だけのことを考えると良かったが、友の身体の事を考えると自分はやはり織田に行くべきではないのかと未だに思ってしまう。

 半兵衛に感謝すれども官兵衛には迷いがあった。

 

「自分は止めません。ですが、謙信様達は止めますよ?」

 

 龍兵衛は最近になって自然と出るようになった威圧的な視線を浴びせる。謙信の命令とあらば官兵衛を逃がさない。

 いざとなれば殺すことも厭わないと目で語る。無言の威圧をものともせず、官兵衛はその視線を鼻で笑ってあしらう。

 

「まったくあんたには適わないね」

「いえ、師匠には生涯追い付く事はありません。時が来たら考えましょう。重さん達を助ける方法を」

 

 私情に走った事を龍兵衛は咎めるような事はしない。彼もまたどのようなことがあっても上杉の面々同様に斎藤家の面々を助けたい気持ちを抱き続けている。

 そのまま二人は互いに笑みを浮かべて背を向けて歩き出した。

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