上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

69 / 207
第六十四話改 今日もどこかで

 積雪の少なかった事が幸いしてか今年の越後には少しだけ早い春がやってきた。

 草木など見るものは全てが少しずつ晴れやかになり、うららかな日差しは少し早く出てきた植物に注がれる。

 それに乗じて人も動き始め、農商問わず城下は盛り上がり始めた。がやがやとうるさい店先で声を出す主や子供の喧嘩が春の空気を動かしているように見える。

 しかし、春の到来と共に様々な要らない動きも出始めた。代表例と言っていいのが商人の不正である。

 

「消えたこの収益、いったいどこに行ったの?」

 

 夜中に詰め掛けた数人の兵は瞬く間に主やその家族、奉公人を縛り上げた。主は抗議し、奉公人達も怖い形相をして兵達を睨んでいる。

 しかし、その兵達の間からやってきた人物に主達は血の気を失い、奉公人の中にはわなわなと怯えるように震えている者もいる。

 彼は表向き、城下町の民には温厚に接している。しかし、その裏に隠された非情な目は揺るがずに常に悪事を見続けている。 

 善者には循吏のごとく法を正しく理解し、かれらを導く。一方で、悪者には一切の妥協は許さずに厳しい処罰を行い、些細な商人の不正も許さない断固した姿勢で臨む上杉の軍師。

 夜陰に隠れる灰色の服を身にまとい、そのドスの利いた声と上から見下すような視線は鋭く、見えない筈の刃が見え隠れしている。

 

「もう一回聞くけど、どこに行ったの? ねぇ!?」

 

 精神から崩すような口調と不正を見つけた証拠となる書状を音を立てて手でばんばんと叩きながらさらに龍兵衛は主に詰め寄る。

 この店は税として納めるべき利益の一部を別のところに流し、それがばれないように賄賂まで送ってごまかしたりするなど様々な手法を使ってきたのだが、税政の総指揮を執っているのは龍兵衛である。賄賂などという馬鹿げた事が通じる訳がなかった。

 ばれていないつもりだった筈なのに外堀はしっかりと埋められていると観念したようでがっくりと主は首を落とす。

 それから顔を上げずに震えるような声で何かをぶつぶつと言い始めた。

 

「・・・・・・」

「え!? 何!? もう一度!」

 

 主を気遣うことなく冷徹な姿勢を崩さないまま龍兵衛は敢えて大声で聞き返す。主は泣きそうな顔で震えながら声を必死に出した。

 

「いくらで・・・・・・見逃してもらえます・・・・・・?」

 

 これを聞いた途端に後ろで控えていた兵達の顔が青ざめた。最初の頃、このようなことをして見逃してもらおうという輩が何人もいた。

 金で全て解決すれば事が済むそう考える輩は多いが、龍兵衛は笑って皆を恐怖の海に溺れさせては救わずに放置して来た。

 案の定、かれら全員が龍兵衛の鉄槌を受けて撃沈した。下手をするとしばらく気絶してしまうような者もいた。

 だが、怖いのはその後である。賄賂での買収という事は立派な犯罪に当たる。そこで城に連れて帰るとまずは罪が重くなった事を伝え、その犯人が人にまで危害を与えていなかったらひとまずは生きて帰ることは難しい片道切符の佐渡行きである。

 しかし、人にまで危害を与えていた場合は別に刑罰が用意されていた。一例がまず柱に犯人をくくりつけ、目隠しをさせられる。そして、犯人の目の前で人は血をどれくらい流すと死ぬのか話した後に犯人に傷を付けて血の代わりに水を流す。

 そして、犯人に暴れると血が流れると言うなどさらに犯人を精神的に追い込む。その後に犯人が死んだらそれで良し。駄目なら駄目でもたいていの犯人は恐怖心で心はすっかり堕落する。

 基本的に最後は誰一人として平常な心を保った人はいない。これには謙信からもお墨付きがあるし、上杉は誰もが不正は許さない姿勢の持ち主なのでやりすぎだという意見は出て来ても正しいことをしていると龍兵衛が言えばそれで終わってしまう。

 だが、間近で見ていた兵の中には 気分を悪くして途中退場する者もいる程である。それを平然とやってのける事が出来るのは龍兵衛がかつての経験からこういった事に対しての慈悲の心が無いからである。

 そして、今回の主はそれに該当した。

 彼は元々冷酷な性格であった。誰であろうと自分の害になりそうな者を追い落とすことに躊躇いを覚えたことは一度足りもなかった。

 それ故に次に発した龍兵衛の発言に兵達は驚愕した。

 

「じゃあ、ここにある金の大半を俺らが持っていって良いのなら許してもいいよ」

 

 その声は柔らかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大事な仕事を終えた段蔵は帰る途中に龍兵衛におずおずと訪ねる。

 

「ねぇ、龍兵衛、本当に見逃していいの?」

「良い訳ないだろ。あれほどの事をやっておいて俺が見逃すと思うか?」

「じゃあ何で・・・・・・」

「あの野郎、横流しした金の行き先を話さなかった」

 

 怪訝そうに聞く段蔵に龍兵衛はどこか確信めいた口調で答える。 

 

「それならさっさと牢に入れちゃって、聞き出せばいいじゃん」

「そうはいかん。あれほど詰め寄っても言わないのなら相手はかなり大物だ」

「だったらなおさら・・・・・・」

「あれぐらい問い詰めておいても口を割らない。どこかに仲間がいる筈だ」

 

 段蔵は目を見開いてから事態を重く見て表情が真剣なものになった。そして、今度は龍兵衛は問い掛ける。

 

「今、上杉と対立していて一番禍根があって、さらにこういった事をしているのは?」

「本願寺」

「ご名答」

 

 龍兵衛は段蔵が答えると共にぴんと人差し指を立て、前を向きながら横にいる段蔵に話す。

 

「簡単に言えば、本願寺はまだどこかに間諜を入れている可能性が高い。あの店主が黙りこくっているのはそれが原因だ。だとすれば俺らがあそこに踏み込んだ事はすぐに仲間から本願寺・・・・・・いや、加賀に行くだろう。あの富樫晴貞がこれを聞けば・・・・・・」

 

 ここまで言うと龍兵衛はもう言う必要も無いだろうと問い掛けるように段蔵を向く。段蔵も言いたいことが分かったので頷いた。

 店主は間違いなく晴貞によって殺される。

 情報の収集の為にあちこち駆けずり回って晴貞の真の性格を知っている段蔵はあの晴貞が使えなくなった輩を生かしておくとは思えなかった。

 

「段蔵、あの店の金の約七割を没収した。しばらくはやっていけるだろう。だが、殺される前に逃げるかもしれん」

「でもそのために釘を差しておいたよね?」

 

 一応は逃げたら今度は容赦なく罰するとは龍兵衛は威圧感を全面に出して言っておいた。

 

「でも、逆効果になるんじゃない?」

「可能性は否定できない。一応はしばらく監視しといてくれないか。万が一自害しようなら助ける。もしそうではなく、誰かに殺されたなら助けなくていい。その下手人を追ってくれ」

「あの人は助けなくていいの?」

「あんなの生かしておいても意味がない」

 

 きっぱりと言い切る龍兵衛には彼の冷酷な一面が表情と言動からにじみ出ていた。

 

「下手人も捕らえずに泳がせてくれ。誰が主犯なのか調べる為にも」

「え? 主犯は晴貞じゃないの?」

「いや、絶対にそれ以上の何か大きな影があるはずだ」

 

 確信がある。越後を取るという野望があるとはいえ、あれほど大きな計画を晴貞という自己の欲望を満たすだけの存在が思いつく訳がない。

 だとすればもっと先の人に接触するところを調べられるかもしれない。

 

「春先早々済まないな」

「別にいいよ、仕事だもん」

 

 特に気にしていないように段蔵は両手を頭の後ろで組んでいる。彼女には別に気になっていることがあった。

 

「んでさ、あの金はどうすんの?」

「蔵の中に潜らせて色々と混ぜる」

「・・・・・・はっ?」

「まぁ、悪いようにはしないさ」

 

 よく分かっていない段蔵に肩をすくめて誤魔化すようにそう言うと龍兵衛は歩く速度を速めた。 

 俗に言うマネーロンダリングのような事をするのに躊躇いは無い。没収した金は国の財産からすれば微々たる物かもしれないが、龍兵衛には必要なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう颯馬か、おはよう」

 

 夜遅くに仕事があったとはいえ龍兵衛は早朝には起きて欠伸を噛み締めるようにぶらぶらしていると颯馬に出会った。

 

「昨日はご苦労さん」

「なに、一つ揉んでやっただけだ」

 

 両手を上げて開いた手で肩を揉むような仕草でおどける。颯馬も軽く笑ったが、すぐに真剣な表情に変わった。

 

「それで、やっぱり・・・・・・」

「間違いない。だが、決定的なものが無い。そっちは?」

「駄目、色々と聞いたけど口を割る前にあの世に逃げられた」

 

「そうか・・・・・・」と少し残念そうにしながら二人は一緒にぶらつく。しばらく沈黙が続いたが、歩いている内に我慢出来なくなった龍兵衛が口を開いた。

 

「ところで最近、どうも関東がきな臭くなってきているんだろ?」

「ああ、佐竹が結城と手を組んだ。里見も戦の準備を始めているらしい」

 

 北条が目標であることは言うまでもないが、あの北条早雲が簡単にやられるとは考えられないt二人の見解は一致している。しかし、颯馬には一つということで確信があった。

 

「今回は北条も苦戦するかもしれないな」

 

 龍兵衛も首肯する。箱根山を挟んで隣に織田・徳川の脅威がある以上はそちらにも警戒をしなければならない。徳川は一応の同盟関係ではあるが、実質上は織田の配下とみていい。

 佐竹・里見・結城の三家と織田の兵力は同等ぐらいである。下手をすると挟撃の危険も出る以上は北条はどこかに頼る必要がある。

 小山・小田。どちらも小粒で頼れる程の戦力は無いと言っていい。

 

「有り得ない話だが、まさか北条が謙信様と同盟なんて考えるか?」

「仮に使者が来たとして、謙信様はともかく憲政殿が許すと思えん」

「だよな・・・・・・」

 

 颯馬は大きな溜め息を吐く。

 憲政はかつての事から北条を恨んではいないが、毛嫌いしている。さらに関東管領の地位は元は憲政のもの。謙信が北条との同盟に賛同しても憲政が反対すればその発言は無碍には出来ない。

 だが、これは上杉にとっては好都合である。断る理由もある以上はしばらくは動かないで済むという事だ。

 織田が武田と北条を攻めている間にこちらは国内の消耗した力を取り戻せる。さらに武田・北条と織田が戦い終えた頃を見計らって疲労したところを突けば後々の事を考えても犠牲が少ない。同盟を組むよりも静観の構えを見せる方が先々の利益はある。

 だが、今はそんな事よりも本願寺と東北の失った地域の奪還を上杉が最も重要とするべきものである。

 

「蘆名の金上盛備殿からは叛意はなかったという使者が来ている。輝宗殿は蘆名を裏切った猪苗代盛国を追い出したそうだ」

「まだ戦力は残っているという事か。蘆名に相馬を、伊達は最上と安東を討伐させる。田植えが終わり次第にこちらから将兵を派遣しておけば良いだろう」

「休む間もなく戦か・・・・・・面倒な事だ・・・・・・」

 

 龍兵衛からは自然と嘆息が出る。

 謀反人や犯罪者には容赦が無い彼だが、上に従ってやむを得ずに動いている兵達もいるのには哀れみを感じていた。

 町人や地主達の不正でも上を罰して関与していない下の者には色々と次の職場を与える機会を作っている。そんな事なので城下町では彼にとある二つ名が出来ていた。

 

「まぁ頑張ろうや『慈悲深き蒼鷹』殿?」

「言ってろ」

 

 前漢時代に出てくる酷吏の代表的存在として宮中を恐怖に陥れた事で名高く、最後は皇族を処刑したことを景帝の母親に恨まれ、泣く泣く景帝は処刑を命じたとされる人物。

 彼の不正に対する厳しい姿勢によって付けられた蒼鷹という通り名と、龍兵衛の善良な人に対する慈悲や城下町での人気になぞらえて付けられた訳だが、本人は彼の事を高く評価していない為にあまり快く思っていないので言われるとこのようにはぐらかすのが大体のことである。

 

「具体的な策は決めてあるのか?」

「腹案はあるけどそれは全員の意見を聞かないと」

「じゃあ今日だな」

「いきなりかよ!?」

「あるって言ったのはお前だろ?」

 

 両手の人差し指で颯馬を指差すと颯馬も溜め息しか出てこない。ちなみに龍兵衛は決してさっきのあだ名で呼ばれた為の意趣返しという悪い考えは持ってはいない。

 

「お前にはあるのか?」

「多分お前と同じ事考えているよ」

 

 にやりと笑い合いながら二人は朝稽古でもどうだという颯馬の誘いに龍兵衛は乗り、道場へと向かった。

 朝の日差しが今日一日の天候を指し示している。だが、その二人の笑いがまったくの作られたものであるとは天も知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「どれぐらいになりそうだ?」

「ひとまず・・・・・・三カ月ぐらいかと」

「それでは織田が既に武田を倒しているかもしれんぞ」

 

 件の策の事で上杉の軍師は謙信と共に具体的な策について論議している。しかし、実行には時間が掛かるのは事実で兼続は懸念が残ると考えていた。

 北条との同盟には謙信と軍師一同、全員が賛同している。つまりは織田との対決姿勢を示すことになるのだが、北条との同盟をしなくても革新的な考えを持っている織田信長は関東管領という役職を幕府から拝命している上杉とはいずれ対立する。

 

「いずれにしろ、今は時間も兵も足りない・・・・・・」

「兵法で速攻こそが勝利の道と言われているが・・・・・・」

「そんな余裕は無いのが現状、だね・・・・・・」

 

 景綱と兼続の言葉を繋ぎ、官兵衛が肯定するとどんよりとした空気になった。謙信も黙り込んでしまい、誰も話そうとはしない。

 龍兵衛は官兵衛をちらりと見る。それに気付いた官兵衛はゆっくりと横に首を振った。もどかしく感じながらも現状の策はこれが精一杯という訳だ。

 本来なら危機的状況で師匠に頼るようなだらしない性格ではないのだが、この時ばかりは仕方なかった。 物質が無い以上は人は何も出来ない事をまざまざと見せつけられている。今ここだけが冬に逆戻りしたようである。

 

「他に何かあるか?」

 

 誰からも発言が無いのを見て謙信は龍兵衛と颯馬の策を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・・・・」

 

 自室に戻ると龍兵衛は押し入れの中に入った。うなだれている時間はない。中をごそごそと探ると一つの大きな箱を取り出した。木で作られた頑丈そうな箱の中から出てきたのは金である。

 

『昨日の店は大分前からあんな事やっていたそうだが、泳がせていたのか? いやに時間が掛かったな。もしそうなら、龍兵衛らしくない』

 

 意外そうな目で謙信から言われたのは別に大した事はない。単に驚いたという発言である。

 何度もいうが、龍兵衛は不正には今までどこかの国が絡んでいようと断固とした態度で臨んできた。その彼が相手が本願寺に通じている可能性が高いという事で不正を揉み消して泳がせるようなことをしたと聞いた時、謙信は驚き、兼続は「捕まえて首根っこから何でも吐かせれば良かったんだ!」とぶち切れかけて官兵衛は弟子の成長に嬉し泣きをした。

 これで官兵衛には後で舐められていたことへの憂さ晴らしとしてじっくりと折檻をする予定が龍兵衛に出来た。

 

「別に俺だってやりたくてやっている訳じゃあないんだが・・・・・・」

 

 人を罰するのは辛いが、やらないといけない事情がある。

 全ては上杉の為、これは正しい悪である。そう言い聞かせると龍兵衛は金の一部を取り出して風呂敷に詰める。その時、もう一つの箱に目が行った。

 その中にあるのは昔の彼の存在を意義し今の彼の存在を脅かしすもの。そして、彼の出生にあった謎を解く鍵が入っている。

 春日山に帰ってきてからずっと調べようとしているが、勇気が出ない。全てを見れば全てが分かる。しかし、それを知りたいという勇気が出ない。

 そもそも昔の自身の心と今の自身の心がやすやすと変わる訳がない。つまりは龍兵衛も元々は人が必ず持つように臆病な性格である。

 

「(まぁ、いいか・・・・・・気が向いたらで・・・・・・)」

 

 内心の恐怖を内心の気ままさで強引に押し殺すと部屋を出て城下町の裏街道に消えて行った。

 仕事を終えた龍兵衛は心の片隅でちょっとした残忍な笑みと共に悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 その一週間後、件の店の主以下全員が殺害されているのを隣の店の主が発見した。

 しかし、犯人は不明のままその痛ましい事件は主達の無理心中で片付けられ、次第に忘れられていくのである。

 

 

 

 

 

 

 背筋にぞくりとした感覚に襲われた。別に自身の身にも周りにいる誰かにも何かが起きた訳ではない。今後に何か嫌な予感がしたわけでもない。

 

「どうかしましたか? 惟信」

「いえ、何も・・・・・・」

 

 惟信は背後にいた一人の将に声を掛けられる。輿に乗っている女性は惟信よりも背は小さいが、彼女の師であり、実質上の主である。

 

「あまり不安そうにしては駄目ですよ。しっかりと前を向いていなければ兵達も不安になります」

「申し訳ありません。今後は気をつけます」

「分かっていれば良いのです。今は・・・・・・」

「今は龍造寺との戦に集中しろですか? 道雪様?」

 

 遮れられたとはいえ、別段不満そうにはせずにくすりと微笑を浮かべながらその女性、立花道雪は「その通りです」と頷く。

 宗麟に拾われて以降、道雪であれば惟信としての彼女を高める事が出来ると考えた宗麟によって当時、戸次家の当主であった道雪の下で修行を積んでいた。

 その空手などで鍛えた身体能力の高さを見出され、道雪の課す厳しい訓練に耐えて惟信は武勇の才能を開花させ、立花道雪の家臣の筆頭格の地位を勝ち取った。

 

「筑紫、秋月を打ち払い。草野を屈服させた今、大友に対する警戒が強まっています。早い攻めが必要となりますよ」

「毛利は今、尼子と、伊東は島津と、相良は甲斐殿を仲立ちに同盟関係にあります。心おきなく戦えるというものでは?」

「いけませんよ。いつなにが起こるかが分からないのがこの乱世です。今は味方でも明日には敵になるかもしれないのですよ」

 

 すんなりと非を認め、惟信はすぐに「申し訳ありません」と頭を下げる。

 この謙虚な姿勢と普段の暖かい温もりを感じるのほほんとした性格が人からの好感を生んでいる。しかし、当の本人はまったく自覚が無い為にその視線には気付いていない。

 さらに彼女自身が未だに捨てられない未練とそのことを知っている宗麟達が面白がって色々と男の将達を妨害しているので誰もその背中に追い付けていない。

 

「それにしても男性が未練を断ち切り、女性が未練を追う。まるであべこべですね・・・・・・」

「何か?」

「いえ、何でもありませんよ」

 

 邪念を持たずに行けと言った手前、そのような事を考えているとは言えない。小首を傾げる惟信に彼女と違って少しも慌てることなく道雪はすぐに平静さを取り戻した。

 それに道雪は主君から龍造寺討伐の総大将を拝命された身である以上は彼女自身が一番気を引き締めないといけない。

 内心の緩みを打ち直して道雪達は龍造寺討伐の一歩として一路勢福寺城へと向かう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。