上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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幕間 いつぞやの教え

『大友家が衰退した原因は宗麟がキリスト教に傾向し過ぎて仏教信者を省みずに家臣の一派を纏められなかった事に目が行きがちだけど、それだけではない。宗麟は要所要所で島津・龍造寺との戦に敗れて決定的な主導権を握ることが出来なかったことも原因なんだ。ま、この辺は正直テストにはどうでもいい範囲だけどね』

 

 龍兵衛が言っていたこと。今の惟信にはそのどうでもよかったことが大事すぎる程に大事なものとなっている。

 記憶力の良い惟信はそれを覚えていた。そして、その詳細までもをはっきりと明確とだ。

 

 

 

 

 

 先の城原川の一件の一週間後には大友軍は佐賀城を包囲した。反龍造寺の国人衆らも集ってその数は五万にまで膨れ上がっていた。

 宗麟は高良山を本陣として包囲の指揮を執る。だが、龍造寺軍も退路が無い以上は兵法でいう死兵。士気も高く容易に大友軍を寄せ付けなかったため、戦況は小競り合いを繰り返しながら数ヶ月が推移した。とは言え、龍造寺側には長期の篭城戦に必須である援軍の見込みはなく、このままいけば落城は必至の状況であった。

 包囲を続けても落ちる気配が一向になく、諸国の動きを気にしている宗麟は城攻めの大将として弟の大友親貞を三千の兵で前線に送り出し親貞に総攻撃命令を下した。翌日には親貞は佐嘉城の北に位置する今山に布陣した。

 惟信はここが一つの分岐点であることは分かっていた。親貞は凶兆の日を気にし過ぎてなかなか出陣しない。ここは道雪に城攻めの大将を変えるべきだと宗麟に進言したい。

 しかし、それを実行するには家柄という壁があった。

 叩き上げの惟信は大友家の一部から疎まれる存在でもある。幸い道雪がいる為に表面化するような対立は無いが、宗麟に直談判するのには様々な目を向けられることははっきりしている。

 その為に惟信は戦の中で未然に防ぐ策を考えていた。それならば問題は出ない。そして、これはあまり考えてはいないが、もう少しは惟信の発言力も上がる。

 次に起こるであろう戦は局地戦の為にさほど軍全体に影響が出るわけでは無いが、勝機を逸することは避けなければならない。

 ところが、それは最初から頓挫することになった。

 

「私は親貞様よりも道雪殿か紹運殿を城攻めの大将に任ずるのがよろしいかと思います」

 

 そう口火を切ったのは軍師の石宗であった。彼は主君である宗麟に対してその鋭い眼光を抑えることはせずにむしろさらに鋭く刀のような視線を感じさせた。

 

「どうして? たまには弟に功を立てさせて道雪には休んでもらおうと思ったんだけど」

 

 少々不満げな宗麟は負けじと石宗を睨み返すが、彼はまったく気にしない。しかし、既に宗麟は親貞に大将を任じた以上はそれをすぐに覆すとなると彼女には優柔不断なところがあると見られかねない。ましてやこの大軍を率いている大将がそれでは軍全体の士気にも影響する。

 

「私は親貞様が役不足とは思ってはおりませぬ。ただ、この佐賀城を攻めるにあたってはかなりの判断力が必要となります。故に経験豊富な方にお任せするのが良いと考えたまでです」

「・・・・・・惟信、あなたはどう思う?」

「えっ、私ですか?」

 

 今ここには宗麟と石宗の他に三人。道雪と紹運、そして惟信がいる。その為に自分よりも先に二人にお伺いを立てるのが普通であるというのにいきなり自分に振られたものだから惟信は驚きを隠せなかった。

 しかし、当主から振られた以上は答えない訳にはいかない。少し腕組みをして惟信は考えるとすぐに自分の考えた結論を出した。

 

「親貞様を今更変える訳にはいかないのならば、道雪様を副将として親貞様の下に行かせればよろしいのではないでしょうか?」

「なるほど、それなら宗麟様と石宗殿の面子を守れますね」 

 

 紹運は納得したようにおとがいに手を当てて頷く。しかし、宗麟は未だに承伏しがたいように扇子をぽんぽんと叩いて考えている。

 惟信も引き下がりたいところだが、ここでそうするとせっかく乗り掛かった舟から川に落とされるようなものである。

 やはりより確実な勝利を得るため舟にはしがみつく覚悟で宗麟に進言しようとしたが、それも未遂になった。やはり、石宗が割って入ったのである。

 

「宗麟様、これは御家の事情の為ではなく、勝利の為。大友家の繁栄の為です。ご決断を」

 

 ぐっと石宗は宗麟を見て首を縦に振るように祈っている。そして、結局宗麟は折れた。

 

「うーん、石宗がそこまで言うのなら仕方がないか。道雪、行ってくれる?」

「御意、お任せください」

 

 それを聞いた時、惟信は安堵の溜め息を出さないようにするのに必死だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 佐賀城はもともと龍造寺氏が居城としていた村中城を改修・拡張したものである。

 幅五十メートル以上もある堀は、石垣ではなく土塁で築かれている。平坦な土地にあるため、城内が見えないように土塁にはマツやクスノキが植えられている。城が樹木の中に沈み込んで見えることや、かつては幾重にも外堀を巡らし、攻撃にあった際は主要部以外は水没させ敵の侵攻を防衛する仕組みになっていたことから『沈み城』とも呼ばれてきた。また城郭と城下町の完成予想図と思われる『慶長御積絵図』とは異なる部分が多く、厳密には未完成の城である。

 道雪は惟信ともう一人の腹心である小野鎮幸に命じて迅速に準備を進めて翌日には今山に到着した。そこからは佐賀城が一望することができる。

 そこで三人を出迎えたのは姉とは違って真面目で謙虚そうな姉譲りの金髪を長く伸ばした若い男性。

 

「お待ちしておりました道雪殿」

「いえ、親貞様。あなたはこの戦の総大将、頭をお上げください」

 

 道雪がそう言っても親貞は「恐縮です」ペコペコ頭を下げながら徐々に頭を上げる。それには後ろに控えている惟信と鎮幸もその少し滑稽な姿に苦笑いを浮かべるしかない。

 第一に姉と違いすぎる。悪戯好きな宗麟と違って親貞はかなり真面目な性格の持ち主で叩き上げの惟信にも真摯に様々な事を教授したりする。

 そして、それが今回は周囲から見ると少し、惟信と石宗からはかなりの大事となった。

 

「しかしながら、占いでは二十日までは凶兆であると出ています。龍造寺は僅か五千、何故にすぐに動く必要があるのですか?」

 

 真面目すぎる為に様々な事を真摯に受け止めるきらいがある。さらに少し楽観的なところがある親貞は佐賀城をすぐに落とせると高をくくっているが、そこに大きな欠陥が浮き彫りになる事は百戦錬磨の道雪には見逃せる訳がなかった。

 

「親貞様、占いを信じるなとは申しません。ですが、少々私は見方を変えるべきだと思います。凶兆は今のままでは凶となり、攻略法を変える事で吉に転ずると考える事も出来るのでは?」

「確かに道雪殿の見方もあります。されどもう決めたことを覆す訳には・・・・・・」

 

 渋い表情で言う親貞に道雪は先の宗麟への進言の一端も担っている為にこれ以上は強く言えない。

 

「では二十日に攻撃という事でよろしいですね?」

 

 少し道雪は間を取った後にゆっくりと首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

「少し楽観的過ぎるのではないでしょうか?」

 

 陣幕に戻る途中。惟信と対照的に短く髪を切りそろえた女性。年は惟信よりも年上であるのにそうは見えず、背丈は紹運と同じくらいだが、頬に古傷があるところから長きに渡って戦に身をおいている事が分かる。

 小野鎮幸。

 惟信にとっては姉貴分のような存在でもある一方で色々と道雪と一緒に惟信をからかってくるようなところもある為、公では頼れるが、私ではあまり頼りたくない存在でもある。

 

「決まったことです。もはや親貞様が考えを改めるとは思えませんが、我々は大友家の勝利の為に動くのみです」

 

 道雪は既に戦へと頭が切り替わっている。親貞を止められるのは道雪だけでもはやそれがかなわない以上は進むしかない。それは鎮幸も惟信もよく分かっている。

 

「こうなった以上は龍造寺軍の奇襲に気を配る必要があります。鎮幸と惟信は警戒を怠らないように」

「「はっ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その二日後の夕刻。

 直茂は机に向かって書き物をしていた。城壁の向こうには敵がいるというのにその表情に悲壮感はなく、ただ目の前の書き物に集中している。そうしていると襖の外にすっと気配がした。

 

「直茂様、報告です」

「遠慮はいりません」

「敵大将大友親貞は現在宴を催しております。おそらく戦前の宴かと」

「分かりました。引き続きお願いします」

「はっ」

 

 そう言うと外の気配はまたすっと消えた。そして、それと同時に直茂は立ち上がって隆信の下に向かった。

 

「隆信様」

「来た?」

「はい、間違いありません」

「よし、出るよ」

「御意」

 

 隆信の後に直茂は続く。決戦の時はこの時しか無い。

 

 

 

 

 夏至はとうにすぎている。しかし、残暑は厳しく汗が滲み出るような暑さが夜まで続いていた。その中を龍造寺軍の選び抜かれた精鋭は迅速にかつ隠密に進んでいる。

 今山には静かな脅威が迫っていることは宴で盛り上がっている親貞が気がつく筈がなくそのまま龍造寺軍は緩い監視の中をかいくぐって大友軍本陣に迫った。

 そして、隆信が鞘から抜いた刀は一つの陣を差す。

 

「かかれ!!」

 

 その声を合図に四天王の円城寺信胤率いる弓隊の矢が一斉に夜空へと舞った。そして、突然の奇襲に混乱している大友軍大将大友親貞の陣に信勝の精鋭部隊が斬り掛かる。

 宴で前後不覚になった者達は馬に蹴飛ばされ、必死に抗おうとする者も混乱状態でまともに戦えない。そして、親貞を探して龍造寺軍はさらに攻勢を強めて行った。

 さらに直茂は大友軍の陣に鉄砲を撃ちかけ「寝返った者が出た」と虚報を流して大友軍の中心を機能出来ないようにしてしまった。

 そして、隆信自ら白刃を血に染め上げていき、親貞のいる本陣に迫る。だが、龍造寺軍の精鋭は後一歩のところでというところで立ち往生を余儀なくされる。

 

「ぎゃあぁぁああ!!??」

 

 矢の雨が今度は大友軍から降り注ぐ。そして、今度は騎馬兵・歩兵が攻めかかってくる。未だに冷静に対処できる将がいるようだ。

 しかし、所詮は悪足掻き。親貞を討ち取れば大友家は勝機を失い必ず攻め手を失う。隆信直々の指揮の下で兵達はそう思っていた。

 だが、一人の人物が登場すると同時に戦場の空気は一変した。

 

「お、鬼だー! 鬼道雪が来たぞー!!」

「何!?」

 

 冷静な信勝も思わずその兵が指差した方向をはっと見てしまう。松明の火が姿を映している。そこには見間違う筈の無い黒戸次に乗りながら刀を振るう華麗な女性。しかし、握られている刀、雷切には殺気が溢れんばかりに漏れ出ている。

 

「なるほど、全て道雪殿の手の平だったということか・・・・・・」

 

 仮にも主家の一族たる親貞を囮に使うような策を信勝に思いつけと言われるとさすがに無理である。仕方無いと思いながらも信勝は隆信に撤退を促しに向かった。

 そして、その間にさらなる凶報が舞い込んでいた。

 

「申し上げます。大友軍伏兵が自軍の退路を封鎖しているとのこと」

「そう、なら仕方無い。信勝と信胤は殿を頼む」

 

 信勝と後陣からの報告を受けて怒りをかみ殺しながら隆信は撤退の合図を出した。

 

「申し訳ありません。まさか道雪殿がこのような事を・・・・・・」

「気にしないで直茂、私も少し宗麟の弟に目が行っていたし」

 

 互いに少しばかり意気消沈する。伏兵による挟撃をどうにか振り切ったが、僅か一千にも満たない兵で打って出た為に犠牲は少ないものの周りの兵は数えられそうなまでに減っていた。

 そして、直茂は明日から行われるであろう大友軍の攻撃にどうすれば対抗できるか考えながら馬を走らせる。

 思考は川上川を渡ろうとした時に遮られてしまった。川の草村から流れ星のような矢が降り注ぐ。

 

「申し上げます! 大友軍の伏兵です!」

 

 そう隆信に言った兵の背中に矢が刺さった。その方向を直茂が見ると歩兵が一斉に掛かって来た。

 

「我こそは小野鎮幸! 死にたい者は順に前に出ろ!」

 

 叫び声が聞こえる。鬼道雪の腹心の一人の鎮幸が槍を振り回している。しかし、直茂はそれに目をやる暇はなかった。

 隆信を守るように下がらせる。だが、背後からも叫び声が聞こえてきた。

 

「由布惟信これにあり! 私と戦いたい者はいるか!?」

 

 道雪の誇る立花双璧がやってくる。その戦場を想像するだけで龍造寺軍は恐怖に陥る。しかも惟信は続けざまに「道雪様が来たぞ!」と叫ぶものだから奈落のように恐怖のどん底に落とされて行く。

 悔しい思いを抱きながらも直茂は当主である隆信を佐賀城に無事に戻すことに必死になっていた。信勝や信胤がいる為に心配は無いはずだが、どうにか犠牲を少なくする必要がある。

 その時佐賀城の方から騎馬の音が聞こえてきた。

  

「直茂様! 援軍です。援軍が到着しました!」

 

 その先頭には一応は四天王に勝るとも劣らない武勇を持っており、自身も四天王の一人と自称している将。

 

「昌直、よく来た」

 

 隆信が少しほっとしたようにその将に視線を向ける。

 

「隆信様、ご無事でなによりです! あとは俺に任せて下さい!」

 

 木下昌直はそう言うなりすぐに大友軍に斬り掛かって行った。そして、この間に隆信は直茂と共にどうにか佐賀城に帰還するのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時をその日の昼に遡る。

 親貞が直接が道雪の下にやって来た。内容としては明朝と総攻撃を仕掛ける故にその前祝いとして宴を開きたいというものであった。

 

「いけません。勝ってもないのにどうして宴を開く事が出来ましょうか?」

 

 一旦親貞は下がった後、惟信は即座に反対の意を示した。道雪と鎮幸もあまりこの誘いにはあまり乗り気ではなかったが、ここまで惟信がはっきり言うのには少し驚いた。

 普段は上に逆らうような性格ではないが、物事をはっきり言う性格の為に色々と疎まれているところがある彼女に道雪も鎮幸も少しは釘を差すこともしているが、今回は聞いてくれない。

 そこまでして何かあるのではないかというのならば道雪も無碍には出来ない。再び親貞を呼ぶと宴は戦の終わった後にするべきだという旨を伝えると残念そうにしたが、自分は宴をするというように伝えて出て行った。

 惟信がその生真面目なくせに楽観主義者の背中に何か言おうとしたが、鎮幸がそれを止めた。こうなったからには自分達だけでも気を引き締めなければならない。

 

『大友軍が佐賀城攻めに失敗したのは親貞が前祝いとして宴を開いたことだ。これは長い戦乱の中でもよくある話で桶狭間の戦いでも一説ではそれが原因であるという説もある。このおかげで龍造寺は一応服従の形を取っていたけど戦略上は大友家と対して有利になった。取った領地は自分達のものに出来るようになった・・・・・・って、ごめんごめんまた話が逸れたな』

 

 段々と思い出す度に蘇ってくるのは今後の大友家の行く末を語る龍広の姿。その声を思い出し、拾い上げて惟信は道雪に今日龍造寺軍が夜襲を仕掛けたらどうすればよいか聞くと、道雪もはっとして目を開き、鎮幸も顔を青ざめた。

 

「惟信、直ちに親貞様の陣の周りに兵を配置する準備を始めて下さい。鎮幸は私と共に親貞様の本陣に向かいます」

 

 道雪の素早い指示に各自すぐに動いた。すぐに惟信は兵をいつでも移動できる状態にして道雪の帰りを待つ。そして、少し日が西に傾き始めた頃に道雪は帰って来た。

 案の定親貞は一応は気をつけると言っていたものの味方の士気を上げるための宴を中止する事はしないと聞かなかったようだ。

 

「こうなった以上は致し方ありません。惟信、手筈は整っていますね? あなたは下村に伏せて鎮幸と協力して敵を挟撃して下さい。 鎮幸、あなたは川上川に伏せて撤退してくる龍造寺に追撃を。私は密かに親貞様の陣に向かい敵を迎え撃ちます」

 

 やむを得ない決断ではあるが、大友家の為には鬼となるしかない。鎮幸と惟信は溜め息を吐きながらも道雪の後を付いていった。

 そして、二人は結果的に龍造寺軍の精鋭中の精鋭を破った。残念ながら敵将の木下昌直の奮戦で隆信を取り逃がしたが、一応は決戦であった為にこの勝利は大友軍全体の勝利をより確実なものとする。

 

「申し訳ありませんでした」

 

 今山の本陣に戻った道雪と二人の家臣は親貞の謝罪をまず最初に受けた。

 親貞からすればこの勝利は喜べない。自身の楽観視が戦を動かした。下手をすれば龍造寺に主導権を握られていたかもしれない。

 

「親貞様、僭越ながら申し上げます。戦に楽なものはありません。必ず勝利できるとは限りません。気の緩みは敗北を招きます。それを親貞様は肝に銘じるべきです」

 

 厳しい言葉が親貞に突き刺さる。しかし、道雪は毅然として頭を垂れる親貞から目を離さない。親貞はもう一度「申し訳ありません」と言うと明朝の戦を道雪に一任したいと言ってきた。

 しかし、道雪は良しとはしない。

 

「親貞様は宗麟様の弟君、一介の家臣である私が出る場ではありません」

 

 頑なに厳しい。変わることは無いと悟った親貞は明日は必ず最後まで自身の悪い癖を出さないようにすると誓った。 

 それを見た惟信は勝利を確信し、龍兵衛に心から感謝したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今山の戦勝の報告を受けた宗麟は内心で拳を握り締めた。しかし、この戦はあくまでも局地戦。まだ佐賀城は落ちてはいない。その事を石宗に窘められると宗麟ははいはいとうるさそうにしながらも緩みかけた緊張の糸を直した。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

 一方陣幕に戻った石宗は宗麟が抑えた溜め息以上の溜め息を吐いた。一つの山を越えたように疲れたその表情は普段の石宗からはあまり見られないものである。

 

『石宗、あなた最近拾ったっていう孤児《みなしご》。別に僧であるあなたが見逃すなというのは言わない。私もそうする。だけど、あそこまで信用していいものなの?』

 

 先程言われた宗麟からの言葉にあったのは自身が拾った惟信に対するものとは対照的な石宗が拾った若者に対する不信感と普段の彼女からは思えない程の嫌悪感であった。

 

「信用というよりは・・・・・・面白いと思っただけですよ。宗麟様、あれは必ず・・・・・・必ずや必要となってくる筈です」

 

「ふふっ」と口の片方をを歪ませ先程は宗麟に言わなかった石宗の言葉にはどこか確信めいたものがあった。

 

 

 

 翌日

 万策尽きた龍造寺隆信は家臣と共に大友家に正式に和睦をせざるを得なくなったのである。




史実では惟信と鎮幸の年は惟信が上で鎮幸が下ですけれど、オリジナルということでそこはどうか気にしないで下さい。
それから皆さんに前もって言っておきます。決して月冴は出しません。
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