上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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第七十話改 山あり谷あり

 援軍として訪れた伊達軍が小手森城に籠もっていた将兵及び女子供、さらには生きている馬までをも撫で斬りにした由という報告を大内討伐に向かった親憲から受けた三人は愕然としていた。

 天を仰ぎ見る弥太郎に珍しく真面目な表情をしている慶次。だが、二人よりもそれ以上にこの報告に一番愕然としているのは龍兵衛であった。

 

「(やりかねないからあえて安東攻めに伊達を持って行ったのに・・・・・・)」

 

 この日の前日に横手城を包囲して落城寸前であるという報告を受けていただけに大丈夫だろうと思っていた矢先のことであった。もう結果が出てしまった以上は彼もまた両手で顔を覆うしかない。

 別段、撫で斬り自体、戦国時代では良くあったことだと聞いていたのと自身も斎藤家でこういった皆殺しを手伝わされたことがある。しかし、今は時期が悪い。上杉軍全体の士気にも関わるが、東北の反上杉に悪影響を及ぼしかねない。

 

「とりあえず、このことは合流後で聞くことにしましょう・・・・・・」

 

 今は石川を倒すことに集中しなければならない。だが、黒い歴史をまたしても覆すことが出来なかった自分を呪わずにはいられない。何かを見出せるのであれば良いが、利益を一切見出すことが出来ない

 意味があってこその政宗が起こした所業であることは分かっている。しかし、それをただの残虐行為と見なす者はどれほどいるのだろうか。

 

「(いや、今言ったばかりだろう。今は石川だ)」

 

 逸れた思考を戻す為、頭を振って思考を現状に戻す。龍兵衛は控えさせていた地図を出して弥太郎、慶次、盛義と盛秀を含めた五人で今後の戦運びを話し合い始める。

 雲霧城を落とした為に石川の本城である三芦城へと進む為の弊害は藤田城のみとなった。もっと早い段階で雲霧城へ攻撃を掛けていれば良かったと思っても詮無き事。先を見なければ軍師として失格である。

 

「こうなった以上は藤田城へ今日中に進軍し、包囲してしまいましょう。そうすれば敵にこの情報が流れる前に降伏させることも可能です」

 

 龍兵衛は切り替えて次なる戦略を立てる。上杉の機動力を考えれば容易いことである。その意見に反対意見は無い。

 

「慶次は二階堂殿と共に先に向かってくれ。春日山より援軍がもう少しで到着すると報告が届いた。それを交渉材料にして自分達が到着する前に城を落としても構わない」

「了解」

 

 広まる前に城を落とせば、たとえ向こうが猜疑心を持ったとしても上杉は寛大であることを示すことも可能である。上杉軍の力を見せておけば降伏してくれる可能性も高い。

 

「二階堂殿、先導役の役目、よろしくお願い申し上げます」

「うむ、任せてもらおう」

 

 二階堂盛義は盛隆という年頃の娘がいるというのに顔には髭一本も無く、きりっと引き締まった顔をしている。

 あまり有名ではない為に龍兵衛もなかなか彼については知る情報がなかった。知っているものもあるにはあるが、それは決して眼前の盛義とは似ても似つかない。

 

「(これなら三芦城まではすぐに辿り着けそうだな)」

 

 油断は禁物ということは分かっている。しかし、戦では頼もしい面々が揃っている以上は少しばかり奢ってしまいそうになってしまう。

 

「ちょいちょいと・・・・・・」

「いひゃあい!?」

「油断は禁物だぞ? 変態さん?」

「弥太郎殿~」

 

 皆がいなくなった瞬間に弥太郎は背丈に似合わない悪戯っ子に変わる。以前に黒歴史がばれてからは更に龍兵衛に対する悪戯は増えている。

 本当に戦の時だけは頼もしい面々だと龍兵衛は脇腹をさすりながら改めて思った。

 翌日からの藤田城へ進軍するまでに上杉軍は奇襲を受けること無く無事に到着出来た。そして、盛義は仕事をほっぽりだした慶次に代わって包囲が完了したらすぐに降伏勧告の使者を出した。

 

「まったく、前田殿はどこに行ったのやら・・・・・・」

 

 呆れるしかないが、盛義も慶次の実力は認めている。しかし、あの悪戯好きで気ままな性格が娘の盛隆に影響しているのにはちょっと眉をひそめていた。

 彼女の気ままな性格が盛隆の趣味である草むしりを気が向いたらやるようになってしまうという困った方に行ってしまっているのだ。

 

「呼んだ~?」

「まったく、使者はそろそろ帰ってきますよ」

「あっそぉ・・・・・・じゃ、任せた」

 

 一瞬で面倒くさいと察したのか逃げられた。溜め息しか出てこないが、盛義は思わず笑ってしまった。

 それからしばらくして帰ってきた使者の結果は駄目。

 仕方無いと思った龍兵衛は夜襲に警戒しつつ弥太郎達が率いる本隊を待って攻撃を仕掛けることにした。

 残念がっている盛義と対照的に慶次はどこか嬉しそうにしている。

 

 この使者が持って帰ってきた結果は慶次にとって望んでいたものでもあった。彼女は戦に身をおいてこそ本領が発揮される。慶次自身もそのことはよく分かっていた。だからこそ戦を望み、早くそこに我が身を置きたいのだ。

 うずうずと逸る気持ちを抑えながら慶次は早く戦になることを願っていたが、願望はその日の内にやってきた。

 野営していた上杉軍の陣中には静かな沈黙が流れていた。静寂の中を飛ぶ一本の矢。その綺麗な軌道は風のない空中で乱れることはない。そして、矢はしっかりと上杉軍の兵の一人に突き刺さった。

 それを合図にした訳ではないが、雄叫びが周辺に木霊する。上杉軍の陣中に石川の軍勢が雪崩れ込んできた。

 

「前田様! 夜襲です!」

 

 兵の一人が大慌てでやってきた。しかし、慶次の姿はそこには既にいない。驚いた兵は辺りをきょろきょろと見回すが結果は同じこと。

 急いでそこから離れた場所を探すと慶次は既に敵と戦っていた。その有様からして動揺している素振りは無く普段通りの強さで槍を振り回している。さらに周辺の味方の兵にも指示を飛ばして火の始末をさせている。

 

「あらぁ? どうしたの」

 

 周りの敵を大体片付けた慶次が呆然としている兵に気付いて声を掛けてくる。返り血を浴びたその顔は彼女の美しさを損なうことは無く、戦の中で舞う残酷で美しい夜叉に見える。

 

「え、いえ、その・・・・・・」

「ああ~もしかして夜襲が起きたってことぉ?」

「えっ? ええ・・・・・・」

「だいたい分かるでしょ。陣中に入った最初の夜は夜襲に注意って」

 

 この兵は慶次を見誤っていた。普段の戦ぶりからただの戦闘狂にしか見えなかったのだ。しかし、慶次も育ちの良さから色々と学んできた。それを一介の兵が知る由もない。それも最近入った二階堂家の新兵なら尚更である。

 

「で、そっちは救援いるの?」

「はっ、少しばかりお願いを」

 

 そう言うが早いか慶次は盛義のいるであろう場所へと向かった。 

 一方の盛義は夜襲に警戒をしていたが、慶次程上手く対応出来ていなかった。布陣して初日なので疲れて眠りが深かったのである。

 少々の被害が出始めていて、盛義自身も少し焦っていた。娘が継いだ蘆名の傘を借りてどうにか二階堂家の威厳を保ってきた。そして、上杉に盛隆の計らいで降伏した後も二階堂家を残し、心無い者から他家の七光と言われながらもどうにか自身の領土を守ってきた。なんとしてもここで退く訳にはいかない。

 いつまでも他人に頼っていると言われない為にも。

 だが、その心意気も呆気なく終わることになる。一つの銃声が響くとその銃弾は盛義の顔をかすめた。

 すると盛義のきりっとしていた顔が徐々に青ざめていき、目が異常に釣り上がり、口を大きく開け、まるで発狂しているかのような表情になる。

 

「ひょ、ひょえええぇぇぇ~!!!」

 

 その奇声はこの戦場の隅々までに聞こえたであろうか。ともかく盛義はその後にすぐに気絶してしまい、兵達によって奥に避難させられた。それからすぐに慶次がやってきた。 

 

「前田慶次、推参! って・・・・・・肝心な人がいないじゃないのぉ?」

「申し訳ありません。二階堂様は流れ弾によって怪我の治療に」

 

 二階堂の兵達からすれば自家の当主が全く機能しなくなったなど口が裂けてでも言えない。それを知ったら何をするか分からない慶次では尚更である。

 

「ふーん、案外丈夫じゃないのねぇ・・・・・・ま、いっか。ここはあたしに任せて」

 

 そう言うや否や慶次は武芸者でも見ることが難しい程の速さで敵に突撃を仕掛ける。その後ろから付いて来た上杉軍の兵が小波の如く続いていく。

 

「さぁ、私が相手になるから束になって掛かってらっしゃい!」

 

 慶次らしくない殺気の籠もった声と一緒に無情な台詞が上杉・二階堂軍には安堵感を含んだ鬨の声を、石川軍には怒りを与えた。

 

「貴様などさっさと捕らえてその身体を殿に献上してやるわ!」

「あっそ」

 

 その間の抜けた慶次の言葉と共に喚き、突っ込んで来た兵は真っ二つに頭から切り裂かれた。

 

「悪いけど、そんなに私も安っぽいもんじゃないのよね」

 

 慶次は無駄のない身のこなしで敵を圧倒し始めた。その武に後ろの兵達も続いていく。

 この夜襲の知らせはすぐに弥太郎と龍兵衛にも入ってきた。とはいえ二人共もしかしたらあるかもしれないと思っていたのでさほどのことではないと最初は捉えていた。

 だが、盛義の軍勢に被害が出たという少し懸念がある。それが藤田城に伝われば士気が上がって降伏させる余地が徐々に少なくなってしまう。

 弥太郎は急いで進軍をさせるとそのまま二時間後には藤田城城外の陣に着いた。

 すぐに軍議を開くと盛義の代わりに盛秀がやってきて素直に盛秀が倒れた詳細について話す。弥太郎がぷるぷると震えていたが、龍兵衛が下で密かに足を踏みつけたおかげで黙ったままで済んだ。

 

「それで、二階堂殿は?」

「意識は回復致しました。誠に此度はお見苦しい姿をお見せして、主君に代わり某がお詫び申し上げます」

「いや、お気になどなさらず。敵の夜襲は失敗に終わったことですし。後は石川が降ってくれれば良いのです」

 

 盛秀は恥ずかしさを誤魔化すように何度も頭を下げている。あの盛義の狂気じみた行動は重臣中の重臣である盛秀ぐらいしか知らなかったことで今回のあれは例外として一応は済んでいる。

 

「まぁ、須田殿も二階堂殿の下へ向かって看病していてくれ。後は私達で」  

 

 弥太郎が締めくくるように言うと盛秀は陣幕を出て行った。そして、中には弥太郎・龍兵衛・慶次の三人となった。

 

「しかし、二階堂殿は夜襲に警戒していなかったのだろうか?」

「有り得ますね。しかし、二階堂殿も分かっていなかったと断定するのは早急です・・・・・・まさか弥太郎殿は二階堂殿に罰を?」

「いや、戦もまだ始まったばかりでそのようなことをすれば纏まりが無くなりかねん」

 

 弥太郎の判断に二人も同意を示した。悪口にも聞こえるが、緒戦に不意を突かれるようでは抵抗可能と判断されて今後の戦も楽にはならない。

 そして、藤田城の状況に話題は移る。

 先の夜襲にて藤田城の城兵は上杉軍以上の被害を被り城内の兵は多くても一千程度となった。今は密かに龍兵衛が城内の様子を探らせている。

 

「もう少しで帰って来る筈です。それから使者を出すかどうか決めましょう」

「援軍の方はどうだ?」

「早馬が到着の前日に来る手筈になっています」

 

 了解したと弥太郎が頷くと今度は仮に藤田城が降伏しなかった場合の戦運びを考える。

 藤田城は小さな山城ではあるが、阿武隈川の支流藤田川の南の丘陵に築かれている。

 城は谷を囲む様に曲輪を配し、主郭は東側にあり南北に長い曲輪で南側がやや高くなっている。主郭の北下にある曲輪は南側に虎口を開いている。

 龍兵衛は城の見取り図を開くとその虎口を指差した。

 

「ここを落とせば城自体の機能がいかなくなります。敵もそのことを十分理解しているでしょう。その為に弥太郎殿と二階堂殿で南西の大手門を攻めて敵の目をそちらに引き付けて下さい。後は自分が慶次と須田殿とで上手くやります」

「分かった。そちらは任せよう」

 

 そう言うと弥太郎は姿勢を崩して足を組みながら溜め息と共に溜まっていた緊張感を一気に吐き出す。普段から同じようなことをしているが、今日はいつもと違い、息を吐く音が呆れたようにも聞こえた。

 

「・・・・・・で、どうするのだ」

「うーむ、いくら何でも・・・・・・仕方ありませんね?」

 

 お互いに頷き合うとここまで全く話に入ってこなかった慶次に近付く。力任せにぐいっと龍兵衛が身体を押すと「きゃあ!?」と声を上げて椅子からひっくり返った。

 

「痛ぁ、なにすんのぉ?」

「話し合いの最中に居眠りして鼻提灯出していた奴が言うな」

「だってぇ、夜襲終わりは疲れるのよぉ、どんだけ駆け回ったと思っているの」

「「知らんな」」

 

 無情の返答によよよと泣き崩れる慶次を二人はしらーっとした目で見ていた。

 その日の夜になって城に潜入していた段蔵が戻ってきた。その様子からどうにも夜襲の影響で士気が上がり、さらに元々玉砕覚悟の防衛戦であったようで降伏勧告に来た使者を斬る役割を持った者もいる程だそうだ。

 わざわざ死に行くような事を命じたり自らやったりする程弥太郎も龍兵衛も馬鹿ではない。

 

「んで、後は龍兵衛の推測通りだったよ」

 

 問題無く事は進んでいる。あるとすれば、弥太郎の率いる上杉軍の進軍する西の道に櫓がある事と城の兵も襲撃に気付けば死に物狂いで攻め込んでくるだろう。ならば善は急げ、今宵攻めかかるのが良いと判断した龍兵衛は早速夜襲を弥太郎に進言した。弥太郎も迷わず頷くと準備をあっという間に終わらせて密かに進軍を命じた。

 弥太郎の軍は特殊な篝火を用いることで櫓の監視を潜り抜け、各々が所定の位置に付き、段蔵が配下と共に各軍の状態が確実に良くなった段階で上杉軍は動いた。

 まずは手筈通り弥太郎が南西の大手門を攻めた。案の定敵、敵の守りは薄く、あっさりと突破に成功した。それに慌てた石川軍は弥太郎が自らを上杉軍総大将と名乗りを上げながら突撃をして来た為に更なる混乱と欲を引き立て、目をそちらに向けさせた。

 そして、万事恙無く策の通りに進んだところで龍兵衛の指揮棒が虎口を指した。敵の一部はその前日に拝んだ慶次が真っ先に突撃するのを見て恐怖にかられた。 

 その時と変わらぬ槍さばきは見る者を魅了させ、魅了された者はとことん屍に変わり果てた。

 

「ん~、歯応え無いわねぇ・・・・・・もっと戦える人は順番に相手するわよぉ」  

 

 しかし、その発言は石川軍に怒りをもたらせども慶次に向かって行く気概を与えはしなかった。誰も来ないのを確認すると慶次はそのまま石川軍に容赦なく攻めかかる。

 

「はぁ、あの真面目な目を少しは普段も出して欲しい・・・・・・」

 

 龍兵衛は後ろで指揮を執りながらそんなことを呟いた。一応守られているが、そのフードを被った薄い南蛮製の羽織りは石川軍からは恰好の目標となった。

 彼自身、そんなに後ろには守っていなかったので慶次の猛攻をかいくぐった兵が龍兵衛に襲い掛かる。

 

「名のある武士とお見受けする。いざ尋常に勝負!」

「・・・・・・げ」

 

 戦に出ている以上は安全な場所は無いと知っているが、自身がそんなに長く戦えないと知っている彼にとっては迷惑この上ない。とはいえ彼も多少は武に通じているので一兵卒に手間取ってしまうことはない。

 ひょいと攻撃をかわすとその隙から刀を入れる。あっさりと兵が倒れたと思ったら今度はもう一人の兵が斬り掛かってきた。

 

「危ないな」

 

 ありふれたことを言いながらまた敵を斬り捨てる。だが、口先だけで龍兵衛自身には余裕がある訳ではない。身体中に冷や汗をかいている。

 

「河田殿、ここは某に任せて指揮を執ることに専念して下され」

 

 後ろから槍が飛んできて次に来た敵に刺さったと思うと、背後から掛かった盛秀の声に龍兵衛は内心、安堵しながらも平静さを保ち、静かに、緩んだ気持ちを引き締めながら引き下がった。

 そして、背後を取られた形となった上に慶次と盛秀の活躍によって虎口は呆気なく落ちた。

 楽な戦などどこにも無いことは分かっている。しかし、これ程、手応えも歯応えも無い戦は幾度も修羅場で戦ってきた者達にとっては楽としか言いようがなかった。

 

「慶次、そちらはどうだった?」

「問題無し。そっちは?」

「言うまでもない。行くぞ!」

 

 弥太郎と慶次は合流し、そのまま向かってくる敵さえも近付けないような動きで藤田城の本丸へと向かう。

 邪魔な兵達を全て斬り捨て、悠々と本丸へ入るとそこには白髪交じりの髪をして物腰穏やかな初老の男性が立っていた。

 

「そなたが藤田城城主溝井義信か?」

「死に行く者の名を聞いて何とする?」

 

 一瞬でも穏やかだと思った二人は第一印象を改める必要があった。

 溝井義信は物腰穏やかのそれ以上でも無いと思ったが、彼にも武人として気概があった。それは御家の為に死するという武人としての覚悟。そして、二家に仕えないという武人としての道理。

 弥太郎にも義信の眼が語るそれは間違いなく感じられているだろう。

 

「降伏勧告を今致したところで変わりないな?」

「ふん、貴様らなどの成り上がりに降るなど、由緒正しき石川の恥でしかないわい」

「力の差があっても、か?」

「確かに儂らも降伏を考えた。されど・・・・・・」

 

 義信は一息入れると二人を勢い良く指差して喚くように大きく口を開いた。

 

「罪の無い者達も皆殺しにする貴様らなど降る価値も無いわ!」

「なっ・・・・・・」

 

 二人の身体中を雷で撃たれたような衝撃が走った。何故それを既に知っているのだろう。内密にしてきたことが包囲していた藤田城に漏れていた事に弥太郎と慶次は驚きを隠せないままであった。

 それを見ていた義信はしてやったりと笑うと鎧の下に着ていた白装束をさらけ出し、あっという間に小刀を腹に刺した。するとずっと後ろで控えてらしい兵が出てきて介錯の務めを終えるとすぐに自身も首に刀を刺して果てる。

 二人はただ呆然とするばかり。そして、首を取ると城を出ると兵達と共に暗い気持ちを少しでも慰めようと勝ち鬨を上げる。 

 それから全軍を城に入れると真っ先に龍兵衛の下へ向かい、見つけるとすぐに声を掛けた。

 四人の主だった将と共に戦後処理を終えながら話し合っている時に弥太郎が件のことを話す。

 

「そうですか、小手森の事がばれていましたか」

 

 龍兵衛は心底残念だというように表情を暗くする。内心の冷や汗は免れない。藤田城に知られているということは他の城にも小手森城のことが知られている。

 

「こうなった以上は三芦城もこうなると覚悟をしていた方がよろしいですね」

 

 親憲の暗い表情が周りにも徐々に蔓延して行く。

 

「そうねぇ、力攻めがどこまで上手く行くかは知らないけどぉ」

「もしかすると此度の戦はもう石川を落として終わりになるかも・・・・・・」

 

 慶次と龍兵衛の弱気な発言も無理はない。ただ問題は回復を早めて強引に外征を進めた以上は戦略通りの戦果を上げる必要がある。

 だが、一旦起きた汚点はすぐに消えてくれるものではない。少なくともこの戦の間は耐えなければならないのが現状だ。

 

「早馬が到着致しました」

 

 五人は顔を見合わせて早く通すよう弥太郎が急かす。そして、待ちに待った援軍が明日にも到着する事が告げられた。これだけでも良い材料には十分である。

 しかし、その率いる大将に少々の問題があった。

 

「なんで謙信様自らのご出馬を?」

 

 出迎えようと三人は陣の入口に向かうと一番前には見慣れた白い颯爽とした軍服を身にまとっている謙信の姿があった。

 

「家臣達がいつ死ぬか分からぬ時に私だけが後ろに引っ込んでいてはな・・・・・・」

「政務は?」

「颯馬と朝信と長秀に任せてきた」

「「「(押し付けたな・・・・・・)」」」

「まぁ、私が来たらば兵の士気も上がるからな。少しは戦運びも楽になるだろ」

「「「(本心は違うくせに・・・・・・)」」」

 

 体裁の良いことを言っていると内心呆れた溜め息を吐く。

 謙信自身、戦好きという訳ではないが、少しばかりは自由に動ける戦場の方が楽であると思い、出て来た事を上杉の直臣三名はよく分かっている。

 

「いや、私も止めたのじゃがな・・・・・・」

 

 三人から「おい、何故だ?」という声なき声を籠めた視線に感じ取った義清は言い訳を始めようとするが、もはやここまで来た以上は止めるものも止められない。三人はただ溜め息を吐くしかなかった。

 一応、援軍が着いたことでもう少し戦いに余裕が出てきた。

 気になるのは武田だが、織田との攻防戦に目が行っている以上は今のところは気にしなくても良い。だが、そんな気楽な構えを龍兵衛は謙信の言葉によってすぐに捨てなければならなかった。

 

「大内の方も抵抗しているそうだが、景勝が向かった事だし、問題無かろう」

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