上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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第七十一話改 その先へ 

 慶次はもう少しで三芦城を落とせると考えていた。藤田城で情報の漏洩があったことが分かったものの、数では石川も風前の灯火と言っていい状態となったからだ。

 そう考えると気が楽になってくる。謙信が来たのは脇において援軍が到着したということ。つまり、自分はもう後を別の人に任せられるということである。

 だが、謙信のある台詞に一気に雰囲気が変わった者がいたことを慶次は見逃さなかった。

 

「大内の方も抵抗しているそうだが、景勝が向かった事だし、問題無かろう」

 

 龍兵衛が呆れ返ったような感情を変え、奈落の絶望に落とされたような表情を一瞬したのを慶次は見た。その人物、龍兵衛はすぐに表情を元に戻して皆と談笑を続けた。

 普段は掴み所の無い慶次だが、人を見る目は鋭い。今回はそれが役に立ったようだった。

 

「まぁ、それならばすぐにでも大内を落として、相馬を下せるでしょう」

「そうだろう? 故に私達もしっかりと勝たねばな」

「ただ・・・・・・絶対に前に飛び出したりしないで頂きたい」

 

 しかし、龍兵衛はすぐに謙信にぶっとい釘を差すとここにいる全員から思いっ切り頷かれるような同調を貰いご満悦な表情を浮かべた。

 三芦城の石川晴光は降伏の考えを止めて徹底抗戦の構えを示した。そして、小手森の二の舞になる訳にはいくまいと将兵の親族を避難させるように指示。玉砕覚悟の籠城戦を宣言したことは段蔵によって上杉に知られた。

 これを謙信は好機と考え、弥太郎に命じて密かに避難させたという場所に兵を送り込み、その親族達を捕らえた。

 連れてこられた者達は小手森城のようになると恐れて誰一人として心を落ち着かせていた者はいなかった。中には念仏や題目を唱えたり、恐怖のあまり泣き出す者もいる程である。

 そこに真っ先に入っていったのは謙信であった。謙信は怨みや憎しみの中をつかつかと無言で歩きながら一人の子供の前に立つ。すかさずそこにその母親らしい女性がやってきて大慌てで子供を腕の中に隠した。

 謙信はそれに構わず子供に手を差し伸べる。だが、子供は泣いてその手を強く払った。

 慌てて親らしき女性が腕の中に子供を収め、謙信を鋭く睨む。殺すなら自身を殺せと言わんばかりに謙信から目を離さない。

 駄目だと思った謙信は背中に罵倒雑言を浴びながら早足で去った。

 

「如何でした?」

 

 捕らえた者を収容する場所から出て来た謙信を出迎えたのは弥太郎と龍兵衛の二人だった。

 

「やはり、我らに恐怖を抱いているようだな。さる老人からは『殺すなら早く殺せ』と言われる程だ」

「それでは時間が掛かります。やはり、ここは先に三芦城を落とした方が・・・・・・」

 

 第一にかれらに食べさせる食事の量も考えなければならない。しかし、謙信は首を横に振る。

 

「龍兵衛、それはならん。人の心を掴まずして何が上に立つ者なのだ」

「されど、時は待ってくれませぬ。もし仮に景勝様達が先に大内、相馬を倒したら・・・・・・」

「言いたい事は分かる。しかし、私は私のままのやり方を崩したくないのだ」

 

 揺らぐことはない。謙信は藤田城の将兵に小手森城の事が漏れていることを既に知っている。その上で行うという決意の目を見た龍兵衛は何も言わない。一方で、彼にはこの時間が今後に起こる大きな好機を逃す気がしてならなかった。

 

「心配するな。このことは決して無駄にはならないようにする」

 

 決まった事を覆すことはもうしないで謙信の言葉に龍兵衛はただ頷くしかなかった。しかし、頭では時間を埋める為の策が浮かび上がっていた。

 

「一つだけ自分の我が儘を聞いて頂けないでしょうか?」

  

 その後、謙信が総大将となった上杉軍は三芦城に近い愛宕山に陣を敷いた。その間、謙信は全く攻撃命令を出さずに将兵を慰労する宴を羽目を外さない程度にほぼ毎日行うようになった。

 

「謙信様、少々飲み過ぎでは?」

 

 軽い宴もたけなわになってきたところで盛秀は指摘する。たしかに謙信の飲む量はほどほどと本人は言っているが、端から見ればかなりの量を飲んでいる。

 

「いや、これでも少ない方だぞ、な?」

 

 弥太郎・龍兵衛・義清・慶次という上杉の直臣が四人同時にうんうんと大きく頷いたので「噂に聞いていたがこれほどとは・・・・・・」と諫言どころか逆に盛秀は感心してしまった。

 ちなみに弥太郎はしっかり羽目を外していた。

 

「ふー・・・・・・龍兵衛、お前も飲め~」

「お断りします。弥太郎殿は少し酒を控えて下さい」

「何、聞き捨てならぬ。お前こそ私との一夜・・・・・・」

「分かりました! 飲みましょう!」

 

 脅迫材料を持ち出してきた弥太郎に慌てて取り繕って龍兵衛は難を逃れた。

 だが、慶次はそれに便乗する気にならなかった。その宴の最中も龍兵衛が時折疲れたような溜め息を吐き続けていることが気になっていたのだ。

 しばらくして宴が終わるとすぐに慶次は龍兵衛の下を訪ねて以前から出ている落胆した表情についての訳を単刀直入に聞いた。

 すると彼は「出ていたか・・・・・・」と溜め息を吐きながら先程上手くいった謙信に対する事の余韻を引きずった笑みを引っ込めて、暗い表情になった。

 

「大内が落ちていないのに景勝様が大内討伐の援軍に向かってみろ。小手森の撫で斬りは誰が指示したと大内の面々は捉える?」

 

 龍兵衛が全てを言い終わる前に慶次は目を見開いた。そこまで言われて察することが出来ない阿呆ではない。

 上杉軍の皆が声高に叫ぼうと伊達政宗が自身の指示で行ったと言ったところではたして信じる者がいるだろうか。そして、それは景勝には随分と苦しい思いをさせることに違いない。

 

「大内が落ちていれば話は別だ。でも、謙信様はまだ大内が落ちていないと仰ったし、大内が落ちた情報も入っていない」

「つまり、かっつんに向けられる目は・・・・・・」

「怒り、恨み、侮蔑・・・・・・ありとあらゆる偏見だ・・・・・・」

「そんな・・・・・・」

 

 絶句するのも無理はない。龍兵衛もただ腕を組むばかり。それで何かが変わる訳ではない。もうここにいる以上は景勝の代わりに泥を被るのは不可能だ。仮に兼続あたりが被ったところで全ては総大将である景勝に向けられる。

 

「今はどうしようもない。この辛さを俺達は石川にぶつけていくしかない。そろそろこちらの動きを察して動いてくるだろうからな。しかし・・・・・・」

 

 龍兵衛は腕を組み、唸りながら頭の中で何か考え事を始めた。

 また、人に関わらずに考え込む悪い癖が出たと慶次は思いながら気になるので聞いてみる。

 

「何?」

「謙信様がこのことに気付かない程の御方とお前は思うか?」

 

 思ったよりも簡単に話してきたことに驚きつつ、慶次は首を横に振る。謙信の人を見る目は天下の中でも指折りだろう。また、切れ者でもある彼女が景勝にどのような目が向けられるのか分からない筈が無い。

 

「分からないんだよなぁ・・・・・・」

 

 分かっているのにどうして景勝を出陣させる必要があったのか。慶次にもその真意は掴めず、二人の思考は徐々に泥沼に入って行く。

 

 

 

 

 

 一向に攻めてくる気配のない上杉軍を石川晴光が不審に思い、斥候を放ったところ家臣一同の親族全員が上杉軍にいることが分かったのだ。

 晴光は怒り、直ちにその者達を奪還をするべく出陣を命じた。無論これに反対する者はおらず、城兵達も殆どが上杉軍に進軍した。

 そして、愛宕山に突撃したかれらの目の前に待ち構えていたのは上杉軍ではなく、かれらの親族であった。

 盾にしているとしか思えない残忍な所業、やはりかような事を行えるのは上杉軍の本性は善ではなく悪であるからこそだ。そのような家の当主が関東管領であるとは聞いて呆れる。もはや呆れかえって物も言えない。

 だが、親族が盾になっている以上は突撃を命じれば晴光の方が冷酷であると表明するようなもの。

 待機させて上杉軍の動向を伺うと後ろから誰かが徒歩でやってきた。一人で、その者は見るからに名のある将であった。しかし、晴光はその者に向けて襲い掛かろうとする気にはなれなかった。

 親族の間を縫うようにその者は前に歩いてきた。晴光はここでようやくその者が女性であり、謙信と分かった。

 

「この者達は我らに降った」

 

 唐突かつ単刀直入に言い出した謙信の発言に石川の面々は意味を理解するのに時間が掛かった。しかし、悟った途端にその怒りは衝動となり兵達は感情に駆られ、何人かが飛び出した。

 謙信に斬り掛かろうと刀や槍をかざして突進するもそれを何故か人質となったかれらの親族が許さなかった。

 

「お待ち下さい。謙信様を斬るのは止めて下さい」

 

 一人の老人が前に出る。それと同時に女性を守るように前に前に続けて出て来た。

 石川家臣団の親族達が上杉謙信を守る為に頭を下げている。

 奇怪としか言いようがない。

 兵達もこの光景に誰一人として先程のように怒りに任せに突き動かされる素振りは見せず、親族達の必死の懇願にだらりと武器を下げている。

 既に流れの波は動いている。そして、謙信はもはや石川を取ったのだ。石川家臣の将兵が親族を斬り殺す。

 つまりは赤の他人を斬った上杉軍以下の存在になるか、それとも降伏するか。天秤にかければもう晴光はどうすることも出来ない状況に立たされたことに悟った。

 そして、追い討ちがさらに晴光に掛かる。

 

「申し上げます。三芦城が上杉軍に占拠されました」

 

 涙を流した斥候からの報告に晴光は馬から下りて謙信に向かった。

 一方の謙信は表情を少し緩めながらも油断すること無く、晴光の動きを観察する。出て来た兵に武器を渡すように言われても素直に従い、特に抵抗する素振りは無い。

 それを見ながら謙信は思考を二週間前のことに戻す。

 愛宕山へ先に捕らえた石川の将兵の親族も連れて行き、そこで徹底的にかれらの心を開く事に専念した。

 親族達も当初こそは兵も一緒に様々な将と共にやって来るのを見ていよいよかと念仏の声や合掌する者が後を絶えなかった。

 だが、謙信以下、将兵が食事を与えたり膝を着いて語るなどの努力によって段々と皆が話すようになってきた。

 そしてとうとう、慶次が宴で行う猿真似を披露すると拍手が起こり出す程に石川家臣団の親族は上杉に敵愾心を無くした。 

 だが、それに用した時間は二週間、時間が気になる龍兵衛にとっては貧乏揺すりが止まらなかった。

 それでも彼は上杉軍の勝利の為、自らも積極的に石川家臣団の親族と真摯に接した。そして、上杉軍の主だった将全員がかれらと親しい関係を築いた。

 これが功を奏して石川家を一ヶ月という短い期間で降伏させることに成功した。

 晴光も家臣団も用無しになった親族達と共にこれから小手森のようになると恐々としていたが、親族が上杉の面々と親しげにしているのを見ると共に謙信が自らかれらに向けてこれ以上は石川の人を殺さないと高々に宣言したので安堵の表情を浮かべるに至った。

 しかし、その裏で龍兵衛は一人、謙信にひどく叱られていた。

 

「あのような策、私に二度と進言するな。此度は良かったが、正義を掲げる我ら上杉の家名に関わる恐れもある」

 

 厳しい表情の謙信を前にして龍兵衛は頭を下げるばかり。石川家臣団の親族を盾に降伏を促すという危険な策を進言した彼はその策を謙信から真っ向から反対された。

 弱味に付け込むようなやり口や暗殺というやり方は謙信が最も嫌うもの。

 だが、彼がそれを知っていてあえてその策を進言したのは絶対的な自信があったからに他ならない。いくら危険であっても人の心情は恨みのない家族となれば乱世であるとはいえ複雑怪奇なものに変わる。

 分かりきっていたからこそこの策を強く推した。無論、謙信からの叱責は必至だと知っていた上である。

 

「申し訳ありません。しかし失礼ですが、謙信様は何故に策を取り上げて下さったのです?」

 

 龍兵衛は謙信が反対をすれどもまさか賛成するとは思っていなかった。

 石川にあえて親族達の状態を知らせてそれから使番を走らせておけばそれで石川は降伏すると思っていた。

 仮に戦になった場合は普通に戦えば実力の差を見せることが出来る筈と考えてこの策を使うことは無いだろうと思っていた。

 故に、謙信が了承した訳が理解出来なかった。

 

「戦はなるべく少なくしなければ、民はそれほど苦しむ。ならば、その苦しみを取り除く為にもこの策は最も良い策だと思ったのだ」

 

 民を第一に考える御方だとは分かっていた。そして、龍兵衛もその考えに感銘したからこそこうして上杉に仕えている。

 だが、龍兵衛は悟り、信じられないと目を見開いた。謙信という人物はもう後戻り出来ない程に努力をし、民の為に自身さえも黒くなることを選び始めた。今まで軍師達が庇ってきた皮を自らの手で剥き始めたのだ。

 

「全て・・・・・・定満殿が亡くなったせいですか?」

「濁の真髄を知る者が少なくなった以上、清ばかりを私が求めていては駄目だ。そう思ったまでよ」

「されど、それでは今までの我々の努力が・・・・・・」

「定満が亡くなり荷が重くなった。それが本心ではないか?」

「・・・・・・」

 

 眉間に皺を寄せて龍兵衛は無言で下を向く。額から流れる汗が正解である。定満がいなくなった今濁を以て動けるのは龍兵衛他に官兵衛と颯馬である。時折兼続や他家の景綱、禅棟にも手伝ってもらっているとはいえ、この六人が揃ってでさえも定満へは辿り着くことは出来ないのだ。

 それ程までに定満の存在は大きすぎた。富士の山の如き高さにその辺の小さな山が揃ったところで意味がないのと同じように。

 しかし、謙信を巻き込んでしまったことは軍師達にとって不覚である。官兵衛の誘拐など可愛い方。今回は戦に関わり、今後に関わるものだ。それ以上に謙信が軍師の知らないところでそのようなことをしていたことが最大の失態である。

 考えをまとめるとがっくりうなだれる龍兵衛に謙信はこれまで彼が聞いたことの無いような冷酷な声を発する。

 

「これ以上、私に泥を被せるな」

「・・・・・・御意」

 

 外から季節はずれの寒い風の音が聞こえる。止んだ筈のものが蘇ってきた。

 

「さ・・・・・・話は終わりだ。今後は岩城を相手にしなければならない。ここには弥太郎を置いて石川郡の民を安心させる。幸いにもこの三芦はほぼ無血で開城出来た。義清にはその代わりとして存分に働いてもらう。そなたもそのつもりで策を立てよ」

「承知致しました」

 

 石川を一ヶ月程度で抑えられた事は大きい。岩城からの援軍がそろそろやって来ると思っていた頃合だったこともあって早い石川の降伏は岩城にとって意外なものであるだろう。

 

「(一気に攻め上がるのも良し、未だに大内が落ちていないのを考えて焦らず地道に調略を行うも良しか・・・・・・)」

 

 石川と違い岩城家は常陸平氏の血を汲む名族であり、その子孫が陸奥国南部土着した。飯野平に本城を置き決して強大ではないが、当主重隆の巧みな外交戦略で生き残ってきた。

 しかし、周辺の佐竹や伊達や相馬、蘆名の圧迫を受け続けてきた岩城に救いの手を差し伸べるのも良しと龍兵衛は考えていた。

 

「つまり、我らの傘下に入れる事を告げて完全な無血開城を行うと?」

「御意、今こそ上杉の力を利用する良い機会では御座いませぬか?」

 

 戦を少なくさせることが出来る。これには謙信も二つ返事で承諾してくれた。だが、相馬と岩城は相容れない仲。岩城が降伏すれば相馬は上杉には降伏しない可能性が高い。そうなればますます大内・相馬の抵抗は大きくなるのは必定である。

 

「景勝様には随分と苦労が重なりますね・・・・・・」

「仕方無いだろう。今はこのようなことも戦場で知ってもらわないとな」

 

 何気ないつもりで謙信は言ったのだろう。だが、龍兵衛の耳は聞き逃さなかった。

 

「『このような』とは? 謙信様、まさか・・・・・・」

 

 思わず聞き返してしまった。謙信と景勝の間に家臣である龍兵衛が割り込んで良いものではないと分かっていても、勝手に口が動いてしまっていた。

 しまったという言葉を顔で語っている謙信を見て悟った。先日に慶次と悩み続けて出なかった答えが出た。謙信はわざと景勝をそちらに向けさせたのだ。

 そう分かると龍兵衛の身体は勝手に謙信へ食ってかかる形になっていた。

 

「何故に、景勝様を? あれほど謙信様は景勝様を可愛がっていたのに」

「もはや言い逃れはしない。だが、景勝に真っ当な正義ばかり教えて何になる? 私も人の子、突然どこかで死ぬかもしれないのだぞ。そうなった時に景勝が清のみを理解して濁をきちんと理解していなければ上杉はどうなる?」

「だからと言って、強引にその現場を見せるのは・・・・・・僭越ながら苦言を呈さずにはいられません」

 

 謙信の言い分も分かる。早い訳ではない。景勝をいきなり酷な状況下に送り込むのことに龍兵衛は怒っているのだ。

 

「親の獅子が子供の獅子にすることを知っているか?」

 

 珍しく顔を紅潮し、怒りを露わにする龍兵衛を謙信は宥めるように比較的冷静な声で諭すような口調で語る。

 

「親がわざと子供を崖下に落とすというあれですか?」

「分かっているのなら、私の言いたいことも分かるだろう?」

「もし、上がって来れなかったらどうするのですか?」

「景勝がそこまでやわに見えるのか?」

 

 全ての龍兵衛の問いに謙信は即答し、逆に彼に問い掛ける。

 龍兵衛はこの時、普段の冷静は消え失せ、怒りにほぼ口を任せていた。眉間に皺が寄り、元々つり上がって細めの目はさらに細くなって殺気に近いものも感じる。物言いがはっきりとしだして無礼と言われても文句は言えない。だが、龍兵衛は気にせずに謙信を睨んでくる。

 愛娘である景勝を何の感情も籠もっていない言い方で言われ、さすがの謙信も少々不機嫌になったのか眉間に皺が寄ってきている。

 

「自分は景勝様以外の御方が謙信様の跡を継ぐ事は不可能だと思っております。ですが、僭越ながら竜に獅子の真似事は似合いませぬ。所詮は、ただの猿真似ですから」

 

 しかし、龍兵衛は謙信のその感情を気にせず、はっきりそう言うと一礼して部屋を辞して行った。

 一方の謙信は一人、部屋に残された形になった。しかし、怒りよりも最後に残した龍兵衛の発言が気になり、不思議だという感情の方が強くなっていた。

 

「一体何だったのだ?」

 

 首を傾げるも、答えを知ることは出来ない。今後、龍兵衛に尋ねても決して答えようとしないだろう。

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