上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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季節の変わり目に風邪をひいた自分は布団の中でこれを投稿します。
前々からあっためておいたやつです。そろそろ新宿で行われる歌舞伎町祭り、楽しみです。


幕間 祭り

 春日山の普請が佳境を向かえた頃、一度に冬の寒さと一向一揆という二つの地獄と田植え後に強行した南東北征伐の後に上杉家に待っていたのは涼しい快適な夏。

 

「の、筈なんだけど・・・・・・」

 

 毎年恒例となり始めている上杉・伊達の人々の夏バテに龍兵衛は半ば呆れている。仕事を終えた夕方の軍師の部屋にはぐでーっとした面々が約数名。言うまでもなく龍兵衛以外の面々である。

 

「皆さんもう少し気張って下さいよ」

「お前が元気すぎるんだよ!」

 

 机に突っ伏したままで颯馬が牙をむく。他の面々も彼を睨むが、龍兵衛は気にしないで肩をすくめる。他に言っても変わらないと思った龍兵衛は官兵衛に目を向ける。

 

「孝さんは畿内の夏を経験しているんですからもっとしゃんと・・・・・・」

「変わんないよ!!」

「・・・・・・してくださいとは言えないけど、もういいや」

 

 日本海側が環境的に夏の暑さは結構な暑さになるとは知っていたが、照りつける太陽の下で白球を追い掛けていた龍兵衛にとっては普通よりも涼しいのだ。

 半分以上呆れながらも龍兵衛は一番軽い官兵衛の首根っこをひっつかんで持ち上げる。

 しかし、官兵衛は抗う力無く手足はだらんと垂れ下がっている。

 それを見た龍兵衛はつまらなそうにポンと捨てた。すると官兵衛は「ぐえ!?」と良い反応をしてくれる。ここからを龍兵衛は期待したが、すぐに床に伸びるように倒れてしまったままで後が続かない。

 それを見て兼続が「仮にも師匠である人に何やっているんだ!?」と生き返ったが、別段それ以上詰め寄ることはしない。元からこの師弟関係はこうだと知っているからだ。

 官兵衛で遊んでもつまらないと察した龍兵衛は一人、部屋にある水壺から水を柄杓で取り出して飲む。

 

「さて、今日はもう終いにして・・・・・・あとはよろしくお願いしますね」

「待て、少し聞きたいことがある。ちょっと歩きながらで良いから構わないか?」

 

 立ち上がって出て行こうとする龍兵衛を颯馬は呼び止める。颯馬の表情に何かを感じ取った龍兵衛は頷くと共に廊下に出た。そして、辺りを気にしながら龍兵衛が颯馬に耳打ちを始めた。

 

「弥太郎殿から報告があった。どうやら間者の拠点はバラバラで、それぞれが何らかの仕事に付いているようだ」

「間者としてはありきたりのやり方か。まさか鍛冶屋に入っていないだろうな?」

 

 鉄砲製造の情報は他国に流さすことは絶対にならない機密情報である。知っているのは謙信以下、限られた重臣のみだ。

 

「あそこは段蔵達が昼夜問わず見張っている。兵達も選ばれた者ばかりだ。問題ないだろう」

「おい、報告ってそれだけか?」

 

「まさか」と龍兵衛はニヤリと策士らしく笑い、颯馬を手招きして弥太郎の部屋に共に向かった。

 事前に来ると連絡していたので弥太郎は部屋にいた。どうやら鍛練を終えたばかりらしく汗がまだ完全にひいていない。

 

「間者達の集合場所が把握出来た。城下の一つの貸家のようだ」

「なるほど、たしかにそれなら怪しまれないですね」

 

 治安の向上によって夜の城下もかなりの賑わいを見せている。逆に言えば人は人を見つけにくい状況が出来上がっているというわけだ。

 

「私が精鋭を選んでおいた。兼続と長重にも声を掛けてある。今夜早速といきたいのだが、どうだ?」

 

『善は急げ』という。迷わず二人は頷き、策を練り合って、三人は謙信の下に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 夜が深く感じるのはこの日が新月だからだろう。普段は夜も盛況な筈の春日山の城下はこの月明かりが無いせいか、今日はまばらである。

 満月の夜と違って周りは暗く、不気味な静寂が広がる。夜襲に最も適すると言われているが、密談の時にもやはりそれは同じこと。

 目が慣れてきてようやく見えるという真っ暗闇の中を一人の人間がこそこそと周りを気にしつつとある家に入っていった。

 そして、そこから少しばかり離れた所で数人の人影がある。そこに一人の長身の女性が加わった。

 

「もうそろそろ時間だな」

 

 弥太郎が前もって草を放ち、いつ頃間者達が集まるのかは把握している。間者が集まるという小さな貸家の周辺には彼女が直々に選んだ兵達が控えている。

 ここにいるのは長重と龍兵衛・颯馬、さらに兼続といった面々である。先程、兼続は部屋に残るふりをして二人の会話を誰かが聞いていないか監視していた。

 

「集まると向こうに明かりがともる。それを合図にして私と長重が最初に入り、後からお前たちが続いてくれ」

 

 弥太郎が手早く指示を出すと無言で四人は頷き、じりじりと間者達に気付かれないように包囲を詰めていった。

 そして、さらに十分程度経った時、ぽっとほのかに新月の代わりのような小さな明かりが灯った。

 

「行くぞ」

「了解」

 

 弥太郎の合図で長重が扉をぶち破る。当然見張りもいたのだが、長重に続いて入ってきた弥太郎が即座に斬られた。

 

「颯馬はここで逃げる者を捕らえろ。兼続と龍兵衛は裏へ回れ」

「「「はっ!!」」」

 

 三人は軍師とは思えない素早い動きで指示された通りに動き出す。弥太郎と長重が家の入り込むと明かりの灯っていた場所に走り出す。先程扉を破った音が聞こえていたのか案の定部屋の前には数人の人間が刀を構えていた。

 みずぼらしい格好をした者、商家の人らしい格好をした者。様々な格好をしている者が集まっているのを見るとやはり怪しむなというのが無理というもの。

 

「貴様は、小島弥太郎!?」

「ほう、私の名を知るか。これはなかなかに収穫がありそうだな」

 

 自身が知る大物が突然現れて思わず口を滑らせた間者に視線を合わせ、弥太郎は迷わず斬り捨てれば長重も周りの圧倒していく。

 

「全員、殺していいのか?」

「構わない。この者達は小物。親玉は中にいる」

 

 長重は頷く代わりに部屋に押し入る。しかし、長重も半ば予想はしていた通りもぬけの殻であった。

 その後ろから弥太郎が残った者達を斬り終え、返り血を浴びた顔を隠さずに入ってきた。二人は頷き合うと長重は表に、弥太郎は裏へと向かった。

 結果的に中にいた三人が表で一人、裏で二人捕らえられた。

 兵達がその家の死体を処理し、血を洗い流して痕跡を無くしている間に颯馬と龍兵衛、兼続が三人をそれぞれで尋問していると兼続が調べていた間者が吐いた。

 

「雇われたのは本願寺、実際にはおそらく富樫でしょう」

 

 その後、龍兵衛が調べていた間者も自身が富樫に雇われたと白状した。

 

「大方予想通りだったな」

「と言いますと?」

 

 兼続の疑問に弥太郎は「あくまで推測だがな」と前置きを入れて、この騒動の最中で気になっていたことを語り出す。

 武田にしろ、北条にしろ素破は有能な者達ばかりである。相手は上杉の軒猿。情報戦であればかなりの精鋭を派遣する筈で、情報網が広いとはいえ弥太郎のところに引っ掛かるようなへまはまずしない。

 段蔵のところにも無論、情報は届いているだろうが、仮に手厳しい相手であれば蛇の道は蛇、こういったことは弥太郎達武将が出向かずに段蔵率いる軒猿が出向いた方が適任である。しかし、段蔵はこれよりも自分は越中の動向を調べるのが先であるとして弥太郎に頼んだ。

 とるに足らない相手と見ての判断だが、その予想は大当たりであった。有能な間者であればこんな早く口は割らない。さらに言えばこんなにあっさり捕まらない。

 龍兵衛と兼続にも先程の争いで思うところがあったのか二人で頷き合って納得した。

 最終的に、最後まで口を割らずに颯馬に何も言わなかった間者が一番上の人物であると判明したためにその間者を城に連れ帰って詳しく事情を聞くことにした。

 

「考えれば、たしかに手応えのある相手はいなかったな」

「ほう、軍師である颯馬がそう言うのか。よほど越中は人手が足りないと見える」

 

 越中の西を統治していた椎名康胤と、さらに行動を共にした寺島職定は死亡。職定の娘である盛徳と越中の東を治めていた神保長職は上杉に保護されている。

 東西の支配者とその有力家臣がいなければ次の越中の支配者を巡って対立や内乱が起こるのは必然だった。

 越中は土地が荒廃し、民達は一向宗に頼るか、越後上杉を頼って逃げるしかない。しかし、そうはならなかった。

 加賀の富樫晴貞が越中に侵攻し、領地としたのである。晴貞は畠山義慶に越中を与えて、その名代として能登は義慶の家臣、温井総宗が取り仕切っているらしい。仮に情報が確かなら義慶は明らかに晴貞に屈したということになる。

 傀儡とはいえ能登の大名たる義慶を勝手に晴貞が扱って彼を傀儡にしていた張本人で、晴貞と懇意にしている総宗を能登に置いたということは退路を絶って彼を防波堤としているというのは簡単に分かる話だ。

 五人の頭では同じ思考が回っていたのか溜め息が五重奏になって出てきた。

 

 

 

 終わってみれば尋問と貸家の整理に時間が掛かってしまい春日山に戻ってきたのは早朝になってしまった。 

 ほぼ徹夜であったにもかかわらず、五人と配下の兵達は疲れを見せず、領民達を心配させないように別々に帰還した。

 

「今日も暑いな」

 

 弥太郎が手でパタパタと扇ぐような仕草を見せる。

 

「そうですか?」

「お前はもういい。そろそろ夏至ですからね」

 

 ばっさり斬り捨てられた龍兵衛は放っておく。颯馬の言う通り夏至の日が近付いている。それに合わせたかのように城下ではあちこちで蝉の鳴く声が聞こえ始めていた。

 だが、龍兵衛にはそれが不審な点に思えた。

 

「それにしても今年は蝉が多いですね。城だとあまり、というかさっぱりですから」

「そういえば、聞かないな」

 

 弥太郎も同調する。たしかに春日山城内では全く声が聞こえない。疑問に思いながら兼続が何か思い付いたように悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「小島殿はとうとう蝉にも嫌われるようになりましたか」 

「なっ、ま、まさか、それはない。ないはず・・・・・・」

 

 普段世話を焼いている仕返しとだと言わんばかりに珍しく兼続から痛いところを突かれ、弥太郎は動揺してしまう。それが引き金となって四人からしばらく散々にからかわれた。

 弥太郎が凹みながらも謙信への報告を終えて五人は城の中を歩いていくと蝉の鳴き声が聞こえてきた。

 

「弥太郎殿は行かない方が良いだろ」

 

 長重がその方向に行こうとする弥太郎をからかうように諫めるが、弥太郎が聞く耳を持つ筈がなく、ずんずんと進んで行ってしまう。

 動物のことになると冗談を真に受けるものだから弥太郎も面白いところがある。四人はそう思いながら後に付いて行くと蝉が朝を告げる鶏のように鳴いていた。

 夏の風物詩の一つでもある蝉が鳴いているのを見ると夏至が近くなっているのを感じる。

 五人はしばらく蝉を眺めていたが、その時は突然やってきた。

 物凄い速さで何かが蝉を捕まえたと思うとその場でしゃくしゃくと蝉を食べてしまったのだ。

 しかし、龍兵衛以外の四人はその光景に目を向けずに龍兵衛に目を向ける。

 

「龍兵衛、原因はあれだぞ」

「いや、弥太郎殿、そう自分を睨まれても・・・・・・」

 

 見れば、誰もが知っている龍兵衛の三毛猫が蝉を食べている。

 弥太郎が鋭く睨んでくるのを誤魔化すように明後日の方向を向いて頭をかくしかない。

 

「餌はちゃんとやっているんですけどね」

「あれは狩りとでも言うのか?」

「たまに鼠を自分の所に持ってきますし」

 

 猫が蝉を淘汰しているのは分かったが、これは理不尽である。ペットの失態は飼い主の責任であるが、甲斐性まで直せというのは無理がある。

 

「失礼、逃げます!」

「待て!! 逃げるな!!」

「「朝から騒がしい!!」」

「お前らもな」

 

 何はともあれ内憂の一つは無くなったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 実際に夏至の日が暑いとは限らない。そもそも夏至とは一年の間で最も日の出ている時間帯が長いことをいうのだからそれが最も暑くなるとは直接結び付くものではないのだ。

 だが、今年は例外で例年よりも暑さの到来が早くなっている。

 

「(収穫の時期が早まるかもしれないな。下手をすれば冷害が起きる。いざという時の為に準備しておかないと)」

 

 間者を捕らえた翌朝、久々に農家の様子を見ている龍兵衛だが、そこに加わるのではなく、ただ腕を組んで眺めているだけで手伝おうとはしない。

 明確な目的もなくやってきているだけで元々手伝おうとしていた訳ではない。

 だが、どうでもいいと思っていたところに思いがけない収穫を得たのも事実で、今年の農政への対策を考えながら龍兵衛は本来の目的を果たすべく別の方向に戻って行った。

 龍兵衛が目的のことを終えて帰ってくるとそれを見計らったように外から声が聞こえてきた。

 

「おーい、龍兵衛」

「颯馬か? 入っていいぞ」

 

 入ってきた颯馬は安心したように息を吐くと先程からずっと探していたと伝えてきた。

 自分は外に用事があってどうしても席を外さないといけなかったと言うと詫びを入れながら颯馬は龍兵衛が勧めるままに座る。

 

「で、用事っていうのは?」

「ああ、その・・・・・・」

「今夜の祭り」

「分かっているんなら言わせるなよ」

「顔が少し赤いから面白くて」

 

 慌ててぺたぺたと頬を叩く颯馬もまた悪戯心をくすぐっていく。笑いながら口を手で抑えているとその分颯馬が慌ててくれるのだ。

 

「まぁ、これぐらいにしておいて、ほどほどにしないと周りにバレるぞ(もう遅いけど)」

「あ、ああ、分かっている。それで、祭りに謙信様が行くらしくてな」

「? ・・・・・・ああ、なるほどな」

 

 一瞬疑問符が頭に浮かんだが、納得した。

 夏至に合わせて祭りを行うのは欧米のとある国であろうと日ノ本であろうと変わらないものである。

 不穏分子の一部が取り払われたことで未だ完全に安心できる状態ではないが、それくらい足を延ばすのは良いだろう。

 仕方ないなと肩をすくめると颯馬はありがたいと口に出さなかったが、一緒に来てくれるようにと立ち上がった。

 

「(本当に隠しているつもりなのか?)」

 

 先程、注意したのに行動がこれでは駄目というしかない。頭を抱えたくなる気持ちを抑えて龍兵衛は颯馬の後ろに付いて行った。

 その後、龍兵衛は謙信にどういうような化粧をすればいいのか教え終わるとそそくさと出て行ってしまった。

 何故なら二人が出すラブラブの雰囲気に耐えきれなくなったのである。

 

「さ、謙信様と颯馬が今どんな雰囲気になっているのか聞こうか?」

「なに付いて来てるんですか?」

 

 部屋を出た瞬間に弥太郎が背後に忍び寄ってきた。こうなると驚くというよりも呆れる。

 

「興味とはいくつになっても尽きないものでな」

「それはもっと年を取ってから言う台詞です」

「嬉しいな、私はまだまだ若く見えるのか」

「遊んでますね・・・・・・はぁ、取り敢えず質問の答えは見ていられない程のいちゃつきっぷりでした」

 

 投げやりに言い放つ龍兵衛は心底嫌そうな表情が浮かべた。

 

『変装しても謙信様はお綺麗です』

『ははは、世辞はよせ、おかしくないか気になっているのだ』

『そんなことはありませんよ・・・・・・』

 

 落語の要領で喜怒哀楽たっぷりに表現している龍兵衛だが、そこから先に入ろうとした途端に弥太郎は手で制した。

 

「あーもういい。要は蚊帳の外だったのだな?」

「ええ、もーそれは呆れる程に」

 

 兼続などは二度とあんなことに巻き込まれたくないという叫びが口から出てくるかもしれない。

 

「まぁ、私も準備していたが、仕方ない。今回は留守番だな」

「行く気だったんですか?」

「もちろん。兼続には内緒だぞ」

 

 子供のように口元に人差し指を立てる弥太郎は少し冗談めいているようにも見える。しかし、派手好きな一面もある弥太郎にとっては本当にがっかりしているのだろう。

 案の定、からかうような雰囲気を解くと本当に残念そうな表情に変わった。

 

「景勝様は大丈夫ですよね?」

 

 さすがに謙信・景勝、二人揃っていませんは問題である。弥太郎も分からないが、おそらく行かないだろうと考えていた。

 

「普通は親が子に譲るものだがな」

「愛という欲望のままに謙信様が動く以外の想像が出来ません」

「同感だ」

 

 

 

 

 

 

 夏の暑さがある中でも老若男女問わず祭りは盛り上がってなんぼである。

 

「見るからに凄いな」

「ああ、それほど城下が平穏無事である証拠だな」

「はぁ、颯馬はここでも軍師としての目を向けているのか」

 

 息抜きは必要であるが、ほどほどにしなければ足元を掬われる。どうしても颯馬は謙信の代わりに気を張ってしまうのだ。

 やれやれと思いながらも謙信は颯馬とさらに進んでいくと突然背後に殺気を感じた。

 

「上杉謙信、天城颯馬、何故にかような場所に?」

 

 二人は驚いた。バレないと自信ありげに言っていた龍兵衛が変装をさせているのにすぐにバレてしまった。

 まさか、間者の残党か。そう思いながら二人が警戒しながら振り返ると見慣れた人物が二人。

 

「びっくりした?」

「お前かよ!」

 

 慶次だった。その隣には景勝がいる。クスクスと笑って悪戯の成功を喜び合う二人に対して、謙信と颯馬は背筋の凍るような思いをした為にじとっとした目で二人を見ている。

 慶次がまあまあと宥め、四人はそのまま一緒に歩いて櫓の見えるところに向かった。

 時間が掛かってしまい、夜になってきているが、気にしない。今頃は兼続や景家が「謙信様と景勝様がいない!?」と言っている頃だろう。そして、それを弥太郎達が止めているだろう。最後は四人が纏めて兼続の説教を受けるだろう。

 展開が見えてしまって慶次は見えてしまってどうやって逃げようか思考をめぐらしていた。

 櫓近くに来ると、そこでは城下の力自慢が太鼓を叩いている。吹き出している汗を拭う間もないまま、続けていたが、突如として止めてしまった。

 どうしたのかと慶次が近くにいた人に訪ねるとこれから面白いことが始まるらしい。

 

「面白いことねぇ。水原さんでも出てくるのかしら?」

「それはないだろう。出掛ける時に水原さんを見たし」

 

 なにが出てくるのか確信もない想像を話していると周りから一斉に拍手が起きた。四人が驚いて櫓を見ると主催者らしき男性が上がり、これから祭りを盛り上げる余興を行うと言って降りてしまった。

 周りはそのまま拍手を続けていて、なにがなんだか分からないままの四人が逆に浮いているように見える。

 困惑している四人をよそに櫓に大柄な男性が上がってきた。それは四人をますます困惑させてしまった。

 

「龍兵衛?」

 

 景勝の呟きはかき消されたが、他の三人も同じようなことを思っている。

 あの黒や灰色を基調とした服を着る龍兵衛が白と青の服を身にまとっている。普段は大衆の前で声を出さない龍兵衛が堂々と櫓の上に立っている。

 

「はい、皆さん注目!!」

『そうだ!!』

 

 それはそのまま始まった。

 

「本日は夏至である!!」

『そうだ!!』

「今日こうして祭りが出来るのは、春日山城下町の皆さん! 皆さんのおかげでこうして皆さんが盛り上げてくれたからである!!」

『そうだ!!』

「それはそうと、自分はこの町にたいへん思い入れがある!!」

『そうだ!!』

「最初は町が大き過ぎて一刻ぐらい迷子になった!!」

『そうだ!!』

「しかし、町の美味しいお酒、美味しい料理、そして・・・・・・以下同文!!」

『そうだ!!』

 

 龍兵衛はちょっとウケたので嬉しそうな顔をしている。

 

「今日はその恩返しだ! 思いっきり盛り上がっていこう!!」

『そうだ!!』

「もっと盛り上がっていこうか!!」

『そうだ!!!!』

 

 一回一回に拳を挙げて答える一体感もさることながら、基本的に道からは外れない龍兵衛の崩壊ぶりに三人はポカーンとしている。

 唯一乗り遅れながらも乗っていた慶次は続けて両手で手拍子を指揮する龍兵衛に「傾いているわぁ」と目を輝かせている。

 我に返った三人は慶次も一緒に櫓から降りてきた龍兵衛を待ち構えるべく人混みをかき分けてずんずんと前に進んだ。

 四人が龍兵衛を見た時は既に着替えていていつもの龍兵衛に戻っていた。しかし、服装だけが元に戻っても先程の余韻が残っているのか顔は赤くなっている。

 

「ありがとうございました。河田様のおかげでかなり盛り上がっていますよ」

「いやいや、楽しかったので結構でした」

 

 笑顔で主催者に答えると龍兵衛は早く帰らないと謙信様達に怪しまれると笑っていたが、その近くに当人がいたのを見てしまい。

 すとんと表情が無表情になった。そこから身体をあちこちに動かして動揺を隠せない様子になると次は顔を恥ずかしさで赤くしている。

 

「何でいるんですか?」

「駄目か?」

「いえ、別に・・・・・・(夜遅いからもういないと思っていたんだけど)」

「なかなか、傾いていたわねぇ」

「やっぱり見ていたんですか?」

「(コクコク)」

「はっきり言ってお前らしくない」

「ガーン」

 

 無情な謙信の宣告にがっくりとしゃがみこんで「もう嫌だ・・・・・・」とぶつぶつと落ち込んでしまった。

 慶次が結構良かったわよと言わなかったらもうしばらくは凹んでいただろう。だが、慶次は龍兵衛のパフォーマンスで忘れていたことがあった。

 城に戻ると般若顔の閻魔が五人を見下ろすように待っていた。

 

「お帰りなさいませ、謙信様? 景勝様? そして、護衛の任ご苦労。では早速・・・・・・皆様、祭りは楽しめましたか?」

 

 帰った五人は仁王立ちで待っていた兼続に夜通しの説教を受けて翌日皆からからかわれるのは別の話である。

 

「先日の祭りで龍兵衛殿が傾いていたと前田殿が言っていたのですが、何があったのです?」

「水原さんの前でも言えないものは言えません・・・・・・」

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