上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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第九十話 夜風の中から

 貧乏揺すりが止まらない。身体が疲労を感じている。

 先程まで軍議で笑顔を振り撒いて魚津城はもうすぐで落ちると偽りを言っておいた疲れである。

 本当は激しい抵抗と先の急襲戦による敵の攻撃と同士討ちによってまともに戦える兵の数は既に二万と七、八千にまで減っている。

 力が駄目なら策で行くべきだが、自尊心の高い彼が七分の一の敵に策を弄するということなどする選択肢が頭にある訳がなかった。

 先日もそのようなことを進言した畠山義慶を滅多うちにして完全に黙らせた。生きているが、この戦で復帰することは不可能だろう。

 今は病気を患ったということで後陣に引っ込んでもらっている。

 

「富樫様、密偵が敵に異変があったとお目通りを願っています」

「すぐに通せ」

 

 どんな小さなことでも良いから攻略へのきっかけが欲しかった時に何という間の良さ。普段の柔らかい笑みを浮かべながら間者を待つ。

 

「申し上げます。魚津城の兵が徐々に撤退しております」

「・・・・・・真か?」

 

 疑うのは無理もない。魚津城の将兵は大軍の一向一揆勢に対して僅か数千の数で善戦を続けていることは嫌でも認めざるを得ない。

 訝しげに見る晴貞に黙って間者は頷く。その者に反応せずに晴貞は陣幕を出て魚津城を眺める。

 しかし、今は夜。魚津城には松明が星のように輝いて風によってたなびいている。

 

「本当にいないのか?」

「はい、少々松明の数が昨夜よりも多くなっていたが故に城に近付いて調べました」

 

 さすがに城内には警戒が強過ぎて入れなかったそうだが、それでも十分だ。晴貞は気付かれないように薄く笑う。やはり念を入れて畿内の優秀な忍や間者を雇って正解だった。

 どうやら上杉軍は悟られないように少しずつ撤退を開始して夜明けには完全に魚津城から天神山城に撤退するようにしているらしい。

 敵には今日も徹底的に攻撃を与え続けた。最近は先の戦での被害を受けた影響で夜の攻撃は控えていたが、どうやらそれが思わぬ僥倖をもたらしたらしい。

 だが、晴貞も馬鹿ではない。戻ろうとした足を止めて敵の策ではないかと考えた。

 しかし、間者が聞いた話では援軍のことは魚津城の城兵は知らないらしい。つまりは一向一揆勢の包囲が未だに厚い為に外の情報が入ってこないのだ。

 最近は向こうがよく夜襲をしてくるのはそういうことなのだろう。援軍の見込みが無いと悟り、こちらの士気を下げて隙を見て撤退しようという腹なのだろう。

 そうと決まれば黙ってはいられない。すぐに陣幕に諸将を集めるように晴貞は命じるが、間者が答える代わりにおずおずと訪ねてくる。

 

「某が加賀にいた際、敵国の間者と見られる商人や旅人が数人おりました。かなりの手練れです。かれらを抱えているにもかかわらず、魚津城内に情報が・・・・・・」

 

 それ以上言おうとする間者の喉元に晴貞の刀が刺さるか刺さらないかのところで止まっている。

 

「間者ごときが大将の俺に物申す気か?」

 

 誰にも見せることのない怒気を孕んだ殺気を持って間者を睨み付ける。すると間者は驚きと共に頭を下げて謝罪する。 

 しかし、その謝罪の声が晴貞の耳に入ることはなかった。

 

「要済みだ・・・・・・」

 

 その声と共に間者の首がごとりと地上に落ち、どさりと身体が続けて倒れた。

 この間者は京からの借り物、万が一この者が自身の隠れた性格を本願寺に言ったりなどしたらそれこそ援助が断ち切られ、破門となってしまう。

 恐れるのは自分の野望への光が絶えること。それ以外はどうでもよい。

 

「すまないが、この狼藉者もどこかに捨ててきてくれ」

 

 近くにいた兵は無言で何事もなかったかのように首と胴体を片付ける。死体など所詮はごみのようなものだと見向きもせずに晴貞はもう一人の兵に将達を叩き起こすように命じた。

 

 

 

 

 一刻後に晴貞は畠山義隆を率いて隊が粛々と出陣した。月がほぼ新月に近い、輝きがあるかないかの天候で、夜襲には絶好の好機である。

 わざわざ総大将自ら出て来たのは一応は自ら出ることで士気を盛り上げると銘打っているが、功を全て自分のものにするという強欲者の真髄の為である。

 現場の指揮は義隆に任せておいて後は夜襲の大将として自分を立てるように義隆に迫ればそれで終わりである。

 晴貞も魚津城の重要性はよく知っていた。魚津城は松倉城の支城だが、室町時代に守護畠山氏の守護職椎名氏により築かれた。椎名氏は松倉城を居城としいるが、北陸道の押えとして築いたもので、つまりは魚津城を取れば越中から越後に進む為の進軍路が開かれる。

 それ故に上杉は斎藤朝信という宿老を置いた。魚津城の中にいる兵は一千程度と少ないが、もし攻めあがろうとすればその背後から謙信が二万の精鋭を率いて襲い掛かってくるのは日を見るより明らかであった。

 晴貞も馬鹿ではない。自分の兵を贔屓目で見ても謙信が率いる将兵よりも弱いことは分かっていた。

 だからこそ最も嫌なものの一つである我慢というものを続けて時を待った。 

 だが、時を待つ程、加賀一向一揆勢の状勢は徐々に不利になっていた。

 突然、京から上杉家が本願寺に加賀一向一揆勢の破門を要請する弾劾状を無礼を承知で幕府に提出し、幕府を経由して本願寺に査定を迫ったという密告が来た。

 本願寺の顕如は加賀一向一揆勢をあくまでも浄土真宗を世に広める為の国家であって野心の為の国家と考えていない。

 もちろん本願寺は晴貞の狂気を知っていたが、当時の富樫が行っていた一向一揆勢の弾圧を防ぐのと晴貞の野心が利害の一致を生んだ為に危ない橋を渡ったのだ。

 もし、本願寺が晴貞の狂気が一向一揆勢の信仰ではなく、晴貞自身への崇拝の為で歯止めのかからないところまでになったと知れば、そのような輩と国に支援することは意味が無いと判断して本当に破門しかねない。

 だからこそ今しか時が無いのだ。期日が迫っている以上、何としてでも上杉を越中から追い出し、越後を手中に収めなくてはならない。

 幸いにも上杉軍の将兵の多くが東北の背後を固める為に出立している。

 魚津城に慌てて入った三千の兵を率いる者達も上杉古参の将ではない。故に、魚津城は簡単に落ちる筈だった。

 しかし、平城の魚津城は朝信の手によって様々な改築が行われ、兵もよく城を守り、さらに奇襲によって大きな犠牲を被った。

 ただでさえ嫌な空気を追い出そうとした出陣だったのにさらに嫌な空気を入れてしまった。

 自尊心と強欲の感情を踏みにじられたような気分になった晴貞は戦の最中であるにもかかわらず酒と女で苛々を誤魔化すしかなかった。

 さらに敵の援軍が迫ってきている。この状況を打開する為にするべき手段を考えていた時のことであった。

 武田軍の川中島侵攻。

 だが、それでも魚津城が落ちるとは限らない。さらに上杉の援軍が来なくなったということにも繋がらない。

 だが、この日の夜にもたらされたのは魚津城自体に関係するものであった。

 魚津城から上杉が撤退。

 これは晴貞にとって正に天佑であった。魚津城を重要視するのは一向一揆勢も上杉も同じである。

 しかし、上杉は場所よりも命を選んだ。晴貞の猜疑心は彼の身体をくすぐったが、それ以上に強い欲望が彼のくすぐられたもどかしささえも紛らわす強い劇薬を与えた。

 北陸だ。北陸道を一向一揆勢が支配し、越後への道が開かれて北陸の覇者となる自分の野望の第一歩が完成する。

 そして、謙信達、上杉の女傑らを侍らせ、その力を持って上杉が支配している東北一帯も纏めて手中に収める。そうなれば、東北の女傑らも我が物に出来、本願寺の支援など必要ではなくなり、東日本を完全に掌握することも夢ではない。

 ふつふつと沸きだつ野望の煮え湯は今まさに妄執の中で完全に沸騰している。

 気付けば魚津城の対一向一揆勢用に築かれた大手虎口の目の前に来ていた。

 にやりと誰も気付かないように笑うと晴貞は急いで門を破壊するように指示を出して、自身は敵が気付いた時の為に矢が当たらない所まで下がる。

 決して声を出さずに門に突撃をかける音だけが響く。それに気付いた魚津城の上杉軍の殿らしい部隊が矢や石を落として抗戦するが、いきなりの襲撃による混乱と元々少なかった兵がさらに少なくなった影響からか犠牲など城攻めで出る被害のそれと変わりない。

 今か今かと待っていると晴貞の目の前で一際大きな音が聞こえた。

 

「突っ込めー! 敵を全て殺してしまえー!」

 

 晴貞の号令に兵が一斉に攻め上がって行く。

 これこそが晴貞が思い描いていた本来の姿だ。上杉を異端として祭り上げて徹底的に一向一揆の敵と見なさせて為す術もなく排除されていく。

 この素晴らしい惨状こそが晴貞が考えていた理想であり、自らの残虐な心を満たしてくれる光景であった。

 酒でもあればこれを肴に一杯やりたい。そのような考えが芽生えた時だった。

 何故か月明かりが邪魔になってきた。空を見上げると相も変わらず指で触れてしまえば簡単に折れてしまいそうな月が懸命に地上へ明かりを灯そうとしている。

 ところが、現実はそうではなかった。月は雲の中に姿を隠し、真っ暗と言っても過言ではない。

 ならば晴貞が感じた月明かりに似たものとは何なのか。答えは魚津城の中にあった。

 悲鳴が聞こえ、炎が上がる。それを見た瞬間に晴貞の顔色が変わった。

 

「馬鹿者! 誰が城に火を点けろと命じた!? 早く消せ! 早くしろ!」

 

 魚津城は上杉にも一向一揆勢にも必要な城。燃やして良いものではない。

 慌てて晴貞は魚津城に近付いて「早く火を消せ!」と大声で同じことを言い続ける。しかし、一度点いた火はなかなか消えない。

 苦虫を潰したような顔に変わりながら晴貞は恨みがましく魚津城を睨み付けた。

 このような仕掛けによってまた進軍を止めなければならないことに無性に腹が立った。全て上杉のせいだ。あの正義を掲げた偽善者にやられた。否、今回は謙信はいない。否、謙信に魅せられたという馬鹿な連中も同じだ。

 ここにいても怒りをぶつける場所も無い。ならばと晴貞は魚津城に踏み込んだ。まだ上杉軍は残っている。悲鳴が上杉軍のものだと分かりきっているが、その者達を斬り殺す。そうしなければ腹の虫が収まらない。

 彼が見た光景はおびただしく転がる屍。戦場故に当然のことである。しかし、問題は屍の数ではない。どちらの屍が転がっているのかというのが問題だった。

 転がっている旗印は『竹に雀』や毘沙門天の『毘』ではない。富樫の『八曜紋』であった。

 落とし穴と見られる穴には竹槍が仕込んであり、そこに釘差しのように無残な死体が口を広げ、眼を剥き出しにして生きているような苦しい表情を浮かべている。

 晴貞が悟った時、周りが火で明るくなっているが、魚津城が燃えるようには燃えていない。いかにも燃えているように錯覚させられたのだ。

 再び周りを見ると矢で射られた者達が倒れている。当たらなかったのは奇跡と言うべきだろう。

 

「・・・・・・・・・・・・今晩は、富樫殿」 

 

 振り返ると見覚えのある大柄な男が立っている。何か言っていたようだが、聞き返すことも面倒だ。

 その後ろには明らかに剛の者と思わせる姿勢と覇気を持った女性。こちらも見覚えがあった。

 

「一度お会いしたのに覚えてもくれないとは、富樫殿は薄情者ですねぇ」

 

 ここが戦場であるのを忘れたかのような落ち着いた物言いで男がまるで決め付けたように言ってくる。実際、晴貞も二人に見覚えがあっても名前を覚えてはいなかった。

 何も答えずに晴貞が二人を見ていると男はやれやれと首を何度か横に振ると薄く笑った。

 

「だから、気付かなかったのですね。敵に内通者がいると」

「何? どういうことだ!?」 

 

 敵に聞くなど愚かなことである。とはいえ、彼の自尊心の中に誰も自分の配下になった者は決して裏切らせることはしないという自負があった。

 

「どういうこと? 馬鹿だな、そのまんまの意味だよ」

 

 先程浮かべた笑みなどなかったように怒りの表情が彼のどす黒い雰囲気をさらけ出した。

 この時、晴貞は彼は謙信のような人物ではなく、自分のような人物であると悟った。あのような黒い雰囲気を簡単に出せるのは悪人でしかない。

 晴貞は周りで一向一揆勢の兵が立て続けに斬られているにもかかわらず、そんなことを気にする彼ではない。

 この中でも悠然と出来る故に、話す相手も自分のような者故に、彼も普段の皮を被ることはせず、剥ぎ取った顔を出した。

 

「教えてくれたって良いだろう? お前も俺と同じ人間なんだからさぁ・・・・・・っ!?」

 

 言い終わるのとほぼ同時に後ろにいた女性の怒気が一気に膨れ上がり、晴貞の余裕がその気に吸い込まれていくように他者から見れば感じる。

 それは一番の当事者にである晴貞が一番よく知っている。 

 少しでも動けばあっという間に間合いを詰められて斬り殺されそうだ。そもそもその行動を動かされないように足が何もない地面に埋め込まれていきそうである。しかし、それは未遂に終わる。

 侮辱された筈の男がその女性を首を軽く横に振って止めるように促すと女性の殺気は少しばかり和らいだ。代わりに女性からは不満の言葉が出てきた。

 

「何故に逃がすのじゃ!?」

「別に逃がしはしませんよ。ただ、もう少しばかり生かしておいた方があれに随分と良いものを見せることが出来ます」

 

 まるでその言葉が合図であったかのように一向一揆勢の二人の兵が晴貞の下に駆け込んで来た。

 

「申し上げます。敵が我らが軍の退路を塞ぎました!」

「申し上げます。味方本陣から炎が上がっております!」

 

 聞いた瞬間に晴貞が起こしたのは絶句でもなく、絶望に浸る表情でもない。肩を震わせて悲嘆や絶望からは百八十度逆にあるもの。

 

「くくく、はーっはっはっは!」

 

 理性を支えていた柱を崩壊させてただ本性である狂気を出して踊るように笑いを上げるのみ。

 地獄を楽しみ、全てを享楽に捉え、欲望の極みを理想とする男の悪魔の笑い声は天高く舞い上がり、穏やかで気紛れな秋の夜風さえも巻き込んでいるかのようにただ笑いに取り憑かれていた。

 

 

 

 全ては博打だった。

 敢えて分かり易いように松明を多く灯して一千の兵を城外に出した。

 普通の将であれば攻めてくることを躊躇った筈だ。しかし、相手は普通の将ではない。

 本性を間近で見たことはもちろん上杉の面々は無い。しかし、情報は入っていた。

 尾山御坊に入るのはいくら軒猿でも生きて帰ることは難しい。それを承知で龍兵衛は段蔵に多額の金を積ませて頼み込んだ。

 その甲斐もあって軒猿の中でも精鋭中の精鋭が持ち帰った情報は様々な晴貞への推測を確信へと変えた。

 晴貞という人物を考えて間違いなくこの一進一退の勝負を決さない状況では魚津城を早く落とそうと苛々が募っている。

 だが、上杉軍が攻めて行けば先のようにはいかないだろう。陣形を変えて万が一に備えているのがよく分かる。

 故に散発的な夜襲を仕掛けて消耗戦に持ち込んだが、魚津城の堅牢さを考えるとそろそろ限界も近いと誰もが思っていた。

 その中で龍兵衛が手を挙げた。

 

「戦場が城の外と決まっている訳ではありません。敵に攻めさせれば良いのです」

 

 魚津城は限界で、撤退するように見せれば晴貞は餌に釣られて走る駄馬のようにかぶりつこうとするだろう。

 何度も言うが、上杉軍の面々は晴貞の本性を間近で見たことは無い。しかし、段蔵達が命を賭けて掴み、自信を持って伝えた情報を疑う余地はなかった。

 魚津城に落とし穴を仕掛けて、城内に敵が入り込んだ時にそれに嵌まったのを見計らって一斉に周りから襲い掛かる。

 城の城門を敢えて閉めておけば一向一揆勢には一千の兵が出て行ったのが本当の撤退であると見せかける為。

 敵を誘い込み、広い城外よりも狭い城内で一気に包囲殲滅を計る。簡単でよく使われる策だが、その為のお膳立てにはかなり苦労した。

 平成の祭りで使うような大きな松明を城内に敵が入り込んだ際、火を点けて誰か大物が城内に入ってくれることを望んだ。

 火という餌にかかったのは龍兵衛が予想した畠山七人衆という予想を遙か斜め上を行った。

 

「一向一揆の総大将様は間抜けだなぁ、ちょっとの火であたふたと城内にやって来るなんて。今晩は、富樫殿」

 

 嬉しさを隠すのに精一杯だった。それ故に敢えて聞かれたら相手が激怒しそうな言葉を小さめに掛けた。

 龍兵衛に襲い掛かってきても後ろで控えている景資が代わりに立ち向かってくれる。

 城門付近で後ろから現れる敵に立ち向かうように命じたのは城主の斎藤朝信であった。

 軍議の中で第二の伏兵を出す時は本隊が来る以上、朝信の方が適任であると言おうとした瞬間に朝信はさらっと言ってくれた。

 

「では、敵後詰の制圧は龍兵衛に任せるとしよう」

「無茶ぶりの極みだ・・・・・・」

「そう言うな、景資も付けるし心配なかろう」

「いや、言いたいのはそこではなくて・・・・・・」

「私は先に皆と戦い、敵の戦意を挫く。後詰をどこまで誘い込むかの判断は龍兵衛の方が良かろう」

 

「自分はあまり戦力にはなりませんのでやはり戦術も武勇も十分な斎藤殿が第二の伏兵の指揮を執るべきです」という台詞が出せない。

 要は「自分も鬱憤が溜まっている。暴れたいから指揮をやれ」と言っているのだ。

 体裁の良いこととは何とでも言えるものであると溜め息を吐きながらも朝信の屁理屈を覆すことで戦前に体力を持っていかれないようにする為に渋々頭を下げた。

 何故なら、龍兵衛は晴貞という人物がその場に来ることを密かに期待していたからである。

 

 

 そして今、朝信や蓼沼泰重達が率いる第一の伏兵によって斬り倒された者達の真ん中で龍兵衛と景資は狂気を狂気と思わせず、むしろその姿でなければ不自然だと思わせる白髪の青年の本性を素面で、敵で、初めて見る者となった。

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