実況パワフルプロ野球 -三日月の約束- 作:もす代表取締役社長
俺が部活に顔を出さなくなってから、数日が経った。
俺はその日も部活に参加するつもりはなく、終業のチャイムと同時に校門へ向かっていた。
「友沢先輩」
玄関で靴を履き替えていた時だった。
後ろから声をかけられ振り返った。
「なんだ、久遠か」
そこには久遠ヒカルが立っていた。
「今日も部活には参加しないんですか」
久遠の表情は変わらない。
それは冷めているようにも、怒りに燃えているようにも見えた。
「元々俺は引退した人間だ。俺が毎日行ってもやりづらいだろ」
「あいつらが言ってたこと、気にしてるんですか」
一瞬怯んでしまった。
それでもできるだけ笑顔を作り応える。
「何のことだ?他のやつらが俺の悪口でも言ってたのか?」
俺は弱かった。
現実から目を背け、知らないふりをしてしまった。
後輩に慕われていると勝手に勘違いしていたのだ。
久遠は俺に背を向けた。
「待ってます。少なくとも僕は友沢先輩に憧れていますから」
そのまま久遠は俺の前から去っていった。
その後も俺は部活には出なかった。
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二日後、久遠は再び俺を訪ねてきた。
「何で来ないんですか、友沢先輩」
その目は以前より鋭く俺を見つめていた。
「だから俺は引退した身だぞ。お前らの練習の邪魔しても悪いしな」
「今日も来ないんですか」
俺はそれに応えることなく、「またな」と言い残し、久遠に背を向けた。
この時、俺は間違えたのだ。
久遠に背を向けた、この時。
これも俺の弱さだ。
この時、久遠と向き合う強さがあれば、少しは違う今があったかもしれない。
「先輩!!」
俺は足を止めた。
それでももう一度久遠に向かうことはできなかった。
「明日、一打席の一本勝負をしましょう。僕が投手、先輩が打者です。僕が勝てば、僕に先輩のピッチングを教えてください。もう一度部活に出て、その時に」
「俺が勝ったら?」
「もう先輩に声をかけません」
「ダメだ」
この時の俺の声は酷く無機質だった。
「俺が勝ったら、お前は志望校を変えろ。俺の背中を追うのは終わりだ。お前はもっと強豪に進むべきだ」
久遠は少し躊躇った様だった。
しかし久遠の決断は早かった。
「分かりました。僕が負けたら、僕は月姫ではなく帝王実業を目指します」
俺は応えることなく、その場を去った。
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俺が校門から出た時、そこには蛇島が立っていた。
「やあ友沢君。少し話していきませんか?」
俺はこの時、蛇島を良きチームメイトだと信じきっていた。
俺達の野球部の部長として、チームを引っ張ってくれた。
そして守備の軸として力を発揮し、蛇島の力もあって全国大会まで進むことができた。
俺自身も幾度となく蛇島の守備に助けてもらった。
俺のスライダーは大抵の奴には打たれることがなかった。
仮に打たれても、蛇島の守備を抜けることはほぼなく、失点は殆どしなかった。
チームは俺と蛇島中心に回っていた。
その二人に信頼関係が生まれるのは、自然なことだろう・・・そう思っていた。
俺は蛇島に今までの事を話した。
後輩が俺を良く思っていなかったこと。
久遠のこと。
一本勝負のこと。
それを聞いた蛇島は笑顔で「キャッチボールでもしますか」と言ってくれた。
俺達は河川敷でキャッチボールをした。
「正直、もう部活には行かない方が良いと思っているんだ」
そんな事を言いながら球を放った。
「久遠君は友沢君を尊敬しているんですよ。久遠君のためにも投球の方だけでも参加してあげればいいじゃないですか」
蛇島は親身に聞いてくれていた。
その時はありがたいと思っていた。
「そういえば、何で帝王実業の推薦を断ったんですか。友沢君なら帝王実業でもやっていけるでしょう」
「ああ、帝王実業は推薦といっても金がかかるからな。うちの家庭事情ってやつだよ」
蛇島は俯いた。
「すみません・・・デリカシーのない質問でしたね」
「気にするなよ。俺はそんなに家庭のことは気にしていないしな」
蛇島は顔を上げ笑顔を作った。
「久しぶりにバットでも振りたくなってきました。友沢君、投げてもらっていいですか」
「いいけどキャッチャーはどうするんだよ」
「僕が前に転がすこともできないと思ってるんですか?」
安い挑発なのか冗談なのかは分からなかったが、俺は乗ってやることにした。
「全力で投げるぞ」
「それでお願いします」
それから何球か投げ、蛇島は全て空振り。
その度蛇島がボールを取りに行く。
「そろそろ終わりにしないか」
「最後の一球でお願いします」
「これで最後だからな」
そう言って、俺は投球フォームに入る。
その時、何か嫌な予感が俺の頭を横切った。
だがボールは最早俺の手元からリリースされていた。
ボールは真っ直ぐ蛇島の手元に飛んでいき、キレイにミートした・・・と思われた。
「 ──── っ!!」
俺は言葉にならない呻き声を上げ、倒れていた。
キレイにミートしたと思われた蛇島のスイングは、つまった当たりで、バットを真っ二つにした。
あろうことか、その折れたバットが俺に向かって飛んできたのだ。
バットが当たったのは右肘。
俺は肘を押さえて、ただひたすら痛みと戦うことしかできなかった。
蛇島の声が、足音が聞こえる。
俺を心配し駆けてきているのだろう・・・そう思った。
しかし現実は違う。
俺は蛇島という男の本性を知らなかったのだ。
「大丈夫ですか、友沢君」
「大丈夫さ。気にするな。ただの事故だろ」
俺は蹲りながら、できるだけ平然を装い返答した。
「そうですか。なら良かったです」
俺が顔を上げた時、蛇島は不気味に笑っていた。
俺を見下ろしながら、口角だけで笑っていた。
その直後、蛇島は足を振り上げた。
「お前・・・何をっ」
振り上げられた足は、そのまま俺の右肘へと落ちてきた。
「ぐあああああああぁぁぁ!!」
俺は悲鳴を上げた。
いつからかは分からないが、蛇島の靴はスパイクになっていた。
スパイクで俺の右肘を踏みつけた。
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も。
「チームメイトではなくなる貴方は厄介ですからね。怪我で戦線離脱させてあげますよ。ふふっ」
「腹が立つんですよ。何でお前が帝王実業の推薦をもらって僕はダメなんですか」
「僕が志望している帝王実業を簡単に蹴るとか調子乗るんじゃねえよ」
その時の蛇島は情緒不安定だった。
口調も様々で不気味に笑ったり、怒りで顔が歪んだり、冷酷な表情をしたり。
もう俺の肘は動かなくなっていた。
そこからのことは記憶が曖昧でうまく説明できない。
唯一覚えていることは、医者に言われた言葉。
もう野球はできない────
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「それから俺は野球を辞める決心をして、この高校に入学したんです」
友沢が語り終わった頃、外はすっかり暗くなっていた。
聖たちは部室のあかりも点けずに友沢の話を聞いていた。
「それにしても蛇島って奴のバッティングセンスは半端じゃないわね。バットを折った上に、それをあんたの右肘に当てるなんて。人間技じゃないわよ」
みずきが空気を読まずに口を開いた。
「それは偶然だろう。さすがの蛇島でもそこまでの技はできないさ。でも俺の右肘は狙っていただろうな。元々そのつもりで俺に接触したのだろう」
「その話が本当なら犯罪だろ。なぜお前は誰にも相談しなかった。大人に話せば何らかの対処はされるだろう」
佐賀が聞いた。
「それは信じてもらえないんですよ、先輩。周りの大人は全員蛇島を信頼しています。それに俺を病院に連れて行ったのも他でもない蛇島自身なんですから。『蛇島にやられた』なんて言ったら、俺が悪者扱いですよ。助けてもらったくせに、蛇島を陥れようとしているとかなんとか言われてな。あいつが本性を見せたのは、おそらく俺だけですから」
佐賀は依然として険しい顔をしていた。
だがその真理を読み取ることはできなかった。
「まあ合同練習でも練習試合でもボッコボコにしてやればいいのよ。そうでしょ、友沢」
みずきが暗い空気を吹き飛ばすかのように言い放った。
「その通りだ。珍しく橘と意見が合うな」
佐賀が頷く。
「ちょっと!珍しくってなによ」
部室が瞬時に明るくなった。
みずきが、佐賀が、佐久間が、松尾が、橋元が笑顔を作る。
「たとえ帝王実業が相手だとしても、このメンバーなら負けないだろう。共に勝とう、友沢先輩」
聖の言葉と同時にみずきが聖の肩に腕を回し、にんまり笑った。
続いて佐久間が聖の肩に手を回した。
橋本、松尾と順に肩を組み、円を作る。
「こういうのはあまり好きではないのだがな」と言いながら佐賀が円に加わる。
「ふっ、仕方が無いな。今回はお前たちの言葉に乗せられることにするか」
「勝つぞッ!!!」
「「「「「おーーッス!!」」」」」
「まあその前に部員補給しないとな」
そういえばそうでした。
できるだけ早めの更新頑張ります。
とか言いながら全然できてない状態です。
読んでくれている人が少しでもいることを願って、これからも頑張っていきます。