団体の決勝戦が終わって個人戦が始まるまでの間、清住高校の面々は水族館を見物することにした。

相変わらず咲は道に迷って仲間とはぐれてしまった。

さまよっているうちに、咲は真嘉比高校の銘苅と出会う。


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本編では話題には上がっていても、下の名前も顔もわかっていない真嘉比高校の銘苅さんに焦点を当てて書いてみました。


銘苅さんの道案内

※この話を書いている時点では本編は全国大会の準決勝の段階であるが、

 

決勝戦が終了した後を仮定して書いている。

 

 

 団体戦が終わった後、個人戦まで少し空きがある。

 

久「気分転換に、皆でどこか行きましょうか。」

 

タコス「水族館がいいじぇ。」

 

他に有力な案も無く、一同は水族館に出かけた。

 

和「あれ・・・宮永さんは?」

 

まこ「また迷ったんかのう。」

 

例によって迷子になった咲は半ベソをかきながら、皆の行方を探していた。

 

咲「皆どこに行ったんだろう。。。」

 

やがて少し開けた場所に出てきた。

 

庭の中央に大きな岩が鎮座している。

 

咲は岩の傍に、しゃがんで岩に祈りを捧げている女学生を見つけた。

 

女学生は学校の制服を着ていて、目を閉じて合掌していた。

 

祈るのをやめた女学生は、すっくと立ち上がった後、咲の方を振り返った。

 

咲「おおきな瞳… 吸い込まれそう…」

 

しばらく見つめあった後、女学生は脇に抱えたカバンから「ウィークリー麻雀TODAY」の

 

インターハイ特集号を取り出してページをめくった。

 

女学生「清住高校の…宮永咲さんですね」

 

咲「あ、はい」

 

女学生「真嘉比高校の銘苅です。初めまして」

 

咲「真嘉比高校…」

 

銘苅「団体戦で同じブロックだったけど、自分達は1回戦で敗退したので対戦できなかったさア。

 

対戦していたら、自分は原村選手と打ってたね。」

 

咲「そうですか。ここには一人で来たんですか。」

 

銘苅「一人で。他の人は秋葉原の見物に行ったけど、自分は興味が無くてね。」

 

銘苅「宮永さんは道に迷って、皆とはぐれたんだね。」

 

咲「はい。なぜ分かったんですか。」

 

銘苅「一人で来たのかと聞いたという事は、自分は仲間と一緒に来たと

 

いう事だ。それを察するのは難しくないよ。」

 

咲「なるほど」

 

銘苅は咲の背後の空を見つめた。飛行機雲が二筋、空に平行線を引いていた。

 

銘苅「清澄の皆は長い廊下のあるところ、おそらく海の生き物を紹介する『海遊館』に

 

いるはずよ。案内するから一緒に行きましょう。」

 

咲「なぜ分かるんですか。」

 

銘苅「自分は霊感が強いからね。ご先祖は神女(ノロ)をやってたんだ。」

 

咲「ノロ?」

 

銘苅「琉球王国では、お城勤めの女性が、神様をお祭りする仕事に就いていたんだ。

 

ノロのお告げで王位継承の順番がひっくり返ることがあるくらい、重要な仕事なの。

 

自分たちの所は先祖代々、神ダーリ…神懸りになる人が生まれやすいんだ。」

 

咲「そうですか。さっきは何故岩を拝んでいたんですか?」

 

銘苅「大きな岩はエネルギーの塊さ。ヤマトの人はアレかね、鳥居が立っていない

 

ところは神聖じゃないと思っているのかね。」

 

咲「…よくわかりません。」

 

銘苅「あの岩は自分にとっては特に意味がある。岩の横に説明文があった。

 

あの岩は江戸時代に、この辺に地震と津波があったときに海底から打ち上げられた

 

ものなんだって。つまり、海底からの使者なんだ。」

 

咲「そうですか」

 

銘苅「自分は海の底とか海の向こうにあるといわれているニライカナイから

 

力を得ているんだ。」

 

咲「???」

 

銘苅「…海の向こうの竜神を信仰している、と思ってちょうだい。」

 

………

 

二人が道に沿って歩いていると、やがて三叉路に差し掛かった。

 

銘苅は左右に分かれた道の分岐点に生えている木にチラシが引っかかっているのを見た。

 

銘苅「今日はいろんな高校がここに来ているね。右に行くと宮守女子、左に行くと白糸台と

 

ぶつかるけど、どっちか具合の悪いところある?」

 

咲は過去の暗い思い出が瞬間よぎって少したじろいだ。

 

咲「…白糸台はちょっと苦手で…」

 

銘苅「じゃあ右から行こう」

 

歩きながら、咲は聞いた。

 

咲「なんでそこまで詳しくわかるんですか?」

 

銘苅「言っても納得しないと思うけど。」

 

銘苅「さっきの三叉路の、道の分かれているところに生えている木に、

 

チラシが引っかかっていた。あのチラシはこの水族館の何周年かの

 

記念行事について伝えるものだった。」

 

銘苅「向かって右側に『祝』の文字が見えた。左側にクラッカーか薬玉の

 

開いてる絵が描いてあった。」

 

銘苅「右はイワッテいるから、岩手の宮守女子で、左は白い糸がたなびいているから

 

白糸台、なのさ」

 

咲「そんな、コジツケがひどすぎます。」

 

銘苅「偶然は偶然でつかまえるのさア。」

 

二人が角を曲がると、向こうから宮守女子の面々が歩いてくるのが見えた。

 

トシ「あら、こんな所で」

 

銘苅「お久しぶりです。一回戦ではお世話になりました。」

 

トシ「宮永さんとお知り合い?」

 

銘苅「宮永さんが道に迷っていたので、清澄高校の皆さんの所へ送っていく途中です。」

 

トシ「そう。」

 

銘苅「臼澤さん、一回戦では失礼しました。自分が全然力を出さないから、驚いたでしょう。」

 

塞(確かに、モノクルは全然曇らなかった・・・)

 

塞「何かあったんですか。」

 

銘苅「縁起(ゲン)担ぎに首に巻いているスカーフを、一回戦の時に紛失(なくし)ちゃったのよ。」

 

銘苅「もちろん、体調管理や持物管理も実力の内だから、あれは負けでいいです。」

 

胡桃「その後、見つかったの?」

 

銘苅「見つかりました。…男子の試合に出場した彼氏が勝手に持って行ったので。」

 

白望「何で男子がスカーフを。」

 

銘苅「沖縄にはオナリ神という考えがあってね。女が男を守る力を持っているのよ。

 

旅行の際に、夫とか兄弟に霊力(セヂ)をこめた布を渡して安全を祈願するのさア。

 

だからといって勝手に持って行くなんて非道いよね。」

 

銘苅「ワジったから、…怒ったから、インターハイが終わるまで口を利かないことにした。」

 

豊音「そんな事があったんだー。」

 

銘苅「臼澤さん、個人戦に出ます?」

 

塞「出ます。それと、塞と呼んでいいですよ。」

 

銘苅「スカーフは見つかったので、個人戦は全力を見せてあげますよ。でも塞さん、

 

自分が全力を出したら塞さんの麻雀は危ないよ。」

 

塞「大した自信ね。」

 

銘苅「勝つか負けるかでなくて、命が危ないよ。塞さん他家の和りを防ぐのに、

 

自分の体力を削ってるでしょう。永水との試合ではヘロヘロになっていたし。

 

千里山の園城寺さんのように試合後に倒れるかと思ったよ。」

 

塞「あれが私の麻雀だから。」

 

銘苅はかぶりを振った。

 

銘苅「人間の体からは、人間サイズの力しか出ないよ。永水の人たちに降りてきた力は

 

まだ軽い方だったよ。個人戦はもっと強いのが来るよ。」

 

塞「本人に聞きました。」

 

銘苅「ふーん。それでもあの麻雀を続けるの?」

 

塞「それでも…」

 

銘苅「か細い女子高生の体で、暴れる牛を取り押さえられると思う?

 

無茶だよ無理だよ無謀だよ!」

 

塞「…」

 

銘苅「熊倉先生なら自分の言ってることが誇張でもなんでもないことが分かるはずよ。」

 

熊倉トシは、銘苅の背後に高々とそびえ立つ巨大な顔を見た。

 

トシ(あれは、竜…)

 

銘苅は小さく溜息をついた。

 

銘苅「個人戦では、なるべく早く塞さんと卓を囲みたいね。そうしたら、

 

体力を消耗しないやり方を教えてあげます。つぶれる前に。」

 

塞「…こちらも、楽しみにしています。」

 

銘苅「では、宮永さんを送っていくのでこれで失礼します。個人戦の会場で会いましょうねエ。」

 

エイスリンはスケッチブックに急いで絵を描いて、白望に見せた。

 

女性の後ろに巨大な龍が控えていた。

 

白望は黙ってうなづいた。

 

………

 

咲「銘苅さん、さっきの話ですけど。」

 

銘苅「さっきの何?」

 

咲「体力を消耗する打ち方というのを、あの臼沢さんという人が

 

してたんですか。」

 

銘苅「うん、そうだよ。」

 

咲「先生の指導がありそうなんですけど。」

 

銘苅「熊倉先生は、能力のある人を見つけたり、能力の大きさを

 

図ったりするような、どちらかというと受身の力だから、あまり

 

体力を消耗しないのよ。だから指導しにくいんだ。」

 

咲「そうですか。私の場合はどうですか。」

 

銘苅は咲の方を振り向いた。

 

銘苅「あんたの場合は、体力の心配はあまりいらないよ。そういう打ち方だから。

 

でもあんたの場合は、他に問題があるよね。」

 

咲「何ですか?」

 

銘苅「あんたは何故、白糸台を避けるの? 白糸台にも宮永って人がいるけど、親戚ね?」

 

咲「…姉です。」

 

銘苅「ふーん。」

 

銘苅は咲の顔をしばらく見た後、前を向いて歩き出した。

 

銘苅「お姉さん一人だけで東京に出たの?」

 

咲「母も一緒に。」

 

銘苅「そうか。」

 

水族館の案内板が出ている小広場に出てきた。

 

銘苅「あんたも照選手も、優勝への意欲が薄いところがあるね。」

 

咲「え?」

 

銘苅「同じ試合場に出るものとしては、それを感じるよ。本当の願望と

 

かみ合っていないんじゃないかな。」

 

咲「私の本当の願望ですか…」

 

銘苅「あんたの本当の願望はね、」

 

咲は銘苅の言葉を聞いた途端、泣き崩れた。

 

………

 

激しく泣き出した咲を、銘苅はお手洗いに連れて行った。

 

しばらく時が経った。

 

銘苅「咲さんごめんね。こんなに激しく反応するとは思っていなかったよ。」

 

咲「…いえ、こちらこそ、失礼しました。」

 

銘苅「あまりグズグズもしてられないけどね。ボヤボヤしてると、ここに白糸台の人たちが、、、キタ━━━━ヽ(゚∀゚ )ノ━━━━!!!!」

 

銘苅達が歩いてきた方向から、白糸台のメンバーが歩いてくるのが見えた。

 

咲「ど、どうしましょう。」

 

銘苅「まあナンクルナイサ。」

 

銘苅は手洗い場の水槽の一つに栓をして、水を注いだ。そうして流れている水で手を洗い始めた。

 

やがてお手洗いの中に霧が立ち込めた。

 

銘苅「手が冷たくて申し訳ないけど、後ろからついてきて。」

 

銘苅は手の水分をハンカチでふき取った後、咲の手をつかんで自分の背後に持っていった。

 

そうしてお手洗いの入り口に向かって歩き出した。

 

淡「あれ、このトイレ、霧がかかっている?」

 

菫「誰か出てきた」

 

銘苅「あ、白糸台の皆さん、お久しぶりです。」

 

誠子「この霧は何ですか?」

 

銘苅「誰かタバコでも吸ったかねえ。換気が悪いみたい。急いで出てきました。それじゃ。」

 

照「後ろにいるのは誰? 真嘉比高校の制服じゃないね。」

 

銘苅は溜息をついた。

 

銘苅「見つかったか。血は水よりも濃し、だねエ。」

 

銘苅「清澄高校の宮永咲さんが、道に迷っていたので、仲間の元に送っていく途中でした。」

 

照「咲の眼はなんで赤くなってるの。」

 

銘苅「いつも赤いじゃない。…ええ、確かに自分が泣かせましたよ。自分ですよ。」

 

照「咲に何を言った。」

 

銘苅「あんた達、仲悪いんじゃなかったの?……」

 

銘苅はニッコリ笑った。

 

銘苅「宮永がここに二人いるから下の名前で呼ばせてもらうけど、照さんも咲さんも

 

優勝への意欲が薄いと言ったんだ。」

 

照「二人とも?」

 

銘苅「二人とも本当の願望は他にあって、それが麻雀大会の優勝とうまくかみ合っていない。」

 

銘苅「本当の願望は、妙な表現だけど、『死んだ人に会いたい』だよね?」

 

銘苅「あんた達の家庭の事情については良く知らないんだけど。」

 

咲は銘苅の言葉を聞いて、顔を手で覆った。

 

照は大きく目を見開いたまま、立ち尽くした。

 

銘苅「去年、照さんが優勝したときも心底嬉しそうではなかった。それが何故か不思議に

 

思っていたけど、妹さんを見てたら分かった。」

 

照「咲に何を聞いたんだ。」

 

銘苅「特に何も。ただ、読んだだけ。」

 

銘苅は「ウィークリー麻雀TODAY」のあるページを開いた。

 

銘苅「亡くなった人は、女性で、12,3歳の時。心臓が弱かった。

 

あんた達があの、特殊な戦い方をするようになったのは、その人が

 

なくなってから。だよね?」

 

白糸台のメンバーは、照の反応を見て、銘苅の言ったことがいちいち当たっている

 

らしい事に驚いた。

 

照「…そんな記事があったの。」

 

銘苅「違うよ。パッと開いたページが12ページだった。このページを担当したのは

 

西田記者で、女性だ。記事の下に『何切る』問題があって、『南』をポンしている。

 

『南』は五行で心臓を表す。対面からポンしているから、心臓がへこんでいる。

 

この記事の見出しは、『新たなる戦いの始まり』だ。」

 

照「ただのこじ付けじゃない。」

 

銘苅「そうだよ。偶然は偶然で捕まえるのさア。」

 

一同は次の言葉を待った。

 

銘苅「優勝した人間が心底喜んでくれないと、同じ試合に参加した人間は、

 

アファーナユン…面白くないさア。」

 

銘苅「本当の願望と、大会の優勝を、うまく結び付けてほしいさア。

 

どうすればいいかは、仲間と相談してね。咲さん、あんたもだよ。」

 

咲「あ、はい。」

 

銘苅「それでは清澄高校の皆の所へ急ごう。個人戦の会場で会いましょうねエ。」

 

照は銘苅と咲が見えなくなるまで立ち尽くしていた。

 

………

 

タコス「あ、咲ちゃんだ。おーい。」

 

咲「片岡さん!」

 

まこ「ずいぶん迷ったのう。こちらは?」

 

銘苅「真嘉比高校の銘苅です。初めまして」

 

咲「銘苅さんにここまで送っていただきました。」

 

久「それはそれは。有難うございます。」

 

和「お手数おかけして、申し訳ありません。」

 

銘苅「いや、『道案内』は趣味ですから」

 

銘苅「咲さん、『優勝したい理由』を見つけてね。それでは個人戦の会場で会いましょうねエ。」

 

銘苅は歩きながら考えていた。

 

(あの二人とは、どうやって戦おう……)

 

 


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