世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ?   作:あばばばば

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なぜだろう、十六夜くんのイメージが崩れてきている気がするぞ?


敵襲……あれ?

 十六夜とレティシアのゲームが終わり、五分が経過したころ。

「フッ、やっと直視できるようになってきたぜ」

 足元にこれでもかって量の血が流れているが、十六夜は平然と立ち上がった。

 そして、隣でせわしなく動く燈火へと視線を移動し、改めて衣装を確認すると、またポタポタと血が地面に落ちていった。

「十六夜、大丈夫……?」

 彼を昇天させようとしている当の本人は、十六夜がなにと葛藤しているかなど知らず、むしろ、心配して腕を掴んだまま離そうとしない。

 この行動が打算からくるものであれば、十六夜も感触を素直に楽しめただろう。彼女の衣装に対して、いつも通りオープンエロな言動もしていただろう。しかしどうだ?

(身につけるもんをベルトだけの状態にしたら出血多量で死ぬな。だが、多分それで死ぬのは俺だけじゃないはずだ。春日部はもちろんのこと、お嬢様も必ず……)

 発想はアウトだが、殺人兵器の可能性を見出していた。

 その間、地面に滴る血の量が増加し続けていたのは言うまでもない。

 が、これ以上の出血はたぶんやばい。

 判断を下した十六夜は、努めて真面目に燈火に告げる。

「悪いな、燈火。その姿を解除して普段通りの格好をしていてくれ」

「……わかった。十六夜が言うなら」

 理由はわからなかったが、彼がここまで真面目な表情で言うのだから聞いてあげた方がいいだろうと考えに至った燈火は、すぐさま白地のワンピース姿に戻る。

「助かったぜ。にしても、これで目の保養の心配はなくなったな」

 ふと黒ウサギたちに視線を向けると、黒ウサギは震えていた。

「……やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残っていない」

「っ……!」

 目を背けるレティシア。燈火を連れて二人の側まで歩み寄ってきた十六夜は、つまらなそうに舌打ちした。

「なんだよ。元・魔王様は万全の状態どころか弱りきってたわけか」

 隠すこともなく不満を口にする。

「他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」

「いいえ……魔王がコミュニティから奪ったのは人材であってギフトではありません。武具などの顕現しているギフトと違い、”恩恵”とは様々な神仏や精霊から受けた奇跡、云わば魂の一部。隷属させた相手から合意なしにギフトを奪うことは出来ません」

 それはつまり、レティシアが自らギフトを差し出したということだ。二人の視線を受けて苦虫を噛み潰したような顔で目を逸らすレティシア。黒ウサギも苦い顔で問う。

「レティシア様は鬼種の純血と神格の両方を備えていたため”魔王”と自称するほどの力を持てたはず。今の貴女はかつての十分の一にも満ちません。どうしてこんなことに……!」

「……それは」

 レティシアは言葉を口にしようとして呑み込む仕草を幾度か繰り返す。しかし打ち明けるには至らず、口を閉ざしたまま俯いてしまった。

「お話、長くなるならお屋敷に戻ってからにしよう?」

「だな。燈火もこう言ってるし、そうしようぜ」

「……そう、ですね」

 黒ウサギが頷き、レティシアも提案を受け入れた。

 だが、中庭から屋敷に戻ろうとしたとき。異変が起きたのはそのときだった。

 顔を上げると同時に遠方から褐色の光が四人に差し込み、レティシアはハッとして叫ぶ。

「あの光……ゴーゴンの威光!? まずい、見つかった!」

 焦燥の混じった声と共に、レティシアは光から庇うように三人の前に立ち塞がる。

 光の正体を知る黒ウサギは悲痛の叫びをあげて遠方を睨んだ。

(危険なもの、なのかな……? ならいいよね)

 ぼそりと、誰にも聞こえない声でその名を口にする。

「――<贋造魔女>」

 褐色の光がレティシアに迫る中、燈火から夕日を反射したような眩い光が遠方に向けて放たれた。

 そして、褐色の光がレティシアの眼前まで到達した瞬間、溶けるように消えていく。

「これは……」

 起きた事実に理解が追いつかず、何度も瞬きを繰り返すレティシア。自分は石像になる覚悟もしていたのだが、未然に防がれたということだろうが。

 そういえばと。

 ゴーゴンの威光が迫ってくる直前、後ろから夕日を思わせる眩い光が放たれたことを思い出す。

「まさか!」

 勢いよく振り返ると、そこには特徴的な帽子を被った少女の姿があった。

 つばの広い、先端の折れた円錐。研磨前の原石のようなエメラルドが付いている。

 そう。それはまるで―――おとぎ話の中に出てくる『魔女』を思わせた。

 衣装こそまた違えど、少女は燈火で間違いない。

 しかし、翠玉とも見まごう双眸へと瞳が変わっていた。髪の色も、先端部分が瞳の色と酷似している。

 右手には、先端部が金属か宝石でも散りばめられたように輝く箒のような形状をしたものを握っていた。

「今度は魔女っ子か。燈火も思いの外衣装が豊富だな」

 先ほどに比べて露出も少なく、危なげな印象を受けないためか、十六夜もじっくりと眺めることができた。

「確かに燈火さんの衣装はいろいろあるみたいですけど、なにかしてくださったんですよね!」

 レティシアが無事だったことを嬉しそうに確認した黒ウサギが燈火の手を握って問う。

「う、うん……。遠くの方から翼の生えた靴で空を駆けてくる人たちが見えたから、こどもの容姿に変えたんだけど……。あ、ちょうどあんな感じになるように……」

 燈火を除く三人が、彼女が指差した方向に視線を向けると、身にあまる大きな鎧を必死になって引きずってきた男の子の大群がこちらにゆっくりと近づいてきていた。

「いたぞ! きゅうけつきだ!」

「おい、せきかしてないぞ! どうなってるんだ!?」

「れいののーねーむもいるようだがどうする!?」

「どうするって、こんなじょうたいでどうしろっていうんだ!」

 明らかに敵対心があるように見えるが、十六夜は歯牙にもかけずに燈火と会話していた。

「あいつらが放ったであろう褐色の光が消えたのは、使用者であろうあいつらが突然こどもになっちまって慌てたからかなんかか?」

「……うん。普通なら、突然こどもになったら身につけていたもののサイズが合わなくなってバランスを崩すから」

「なるほどな。ときに、それっておまえにも効果あるのか?」

「こどもになること?」

「ああ、当然そのことだ」

 しばらく考えたのち、

「いけると思う……」

「へえ。なら、今度ちょっとなってみてくれよ」

「……? よくわからないけど、見たいって言うなら考えておく」

「ヤハハ、頼むぜ」

 なんとも緊張感のない会話を聞き、大群で押し寄せてきたこどもたちが騒ぐ。

 黒ウサギは、その中にゴーゴンの首を掲げた旗印を見つける。

「”ペルセウス”!? まずいのですよ、彼らと問題ごとを起こしては!」

「いや、見るからに弱そうで相手すらしたくないんだが」

 問題ごとを好んで起こす十六夜らしからぬ、やる気のない声が漏れる。

「へ? あ、いえ。十六夜さんが一番心配だったので問題ごとを起こさずに済むならいいのですが」

「だが、面白いことは思いついた」

 こんなところに足を運ぶ奴が高い立場にいる者なはずがない。必ず手を引いている奴がいる。そいつを策にはめて潰せるって言うなら、雑魚の相手も悪くない。

 十六夜の思考は、すでに敵である彼らの主に向いていた。

「まあ、おまえらにひとつ言っておくか」

 黒ウサギの横を通り過ぎ、百はいるであろうこどもの軍団に告げる。

「おまえたちをそんな姿にした奴に聞いたんだが、そいつが能力を解かない限り、おまえら一生その姿のままだってよ。この意味、わからないわけじゃないよな?」

 ギャーギャーと喚いていた”ペルセウス”の騎士たちの声がピタリと止む。

「さぁて、おまえらに俺が倒せるって言うなら話は別だが」

 言うが早いか、十六夜は足元に転がる小石を拾ったかと思うと”ペルセウス”の騎士たちへと投げ、地面ごと吹き飛ばした。

 小石は第三次宇宙速度に匹敵する速度を叩き出し、轟音と共に”ペルセウス”の騎士たちの悲鳴すらもかき消したのだ。

「痛い目見る前に、こっちの言うこと聞いた方が利口だと思うぜ」

 すでに痛い目を見ている彼らにはあれだが、十六夜はあくまでこれ以上ひどいことになる前に用件を呑めと言ったのだ。もちろん、この場で彼に並ぶ敵などあらず。

 黒ウサギはやってしまったのですよ……と項垂れ、レティシアは呆然と突っ立ていた。

 燈火はと言うと、この状況には興味を示さず、自身の株る帽子のつばをつまんでは離し、なんとなく暇をつぶしている。

 こんな連中に! と悔しがるように十六夜を睨むが、それも無駄な抵抗だろう。なにより、一生こどもの姿では困る。”ペルセウス”の持つ武具も満足に装備できないだけでなく、力までもが幼少期に戻っているのだ。

「………………わかった。われわれはぜんいんきさまらにしたがおう。だが、やくそくしてほしい。いうことにしたがったら、もとのすがたにもどしてくれるか!?」

 聞きたかった言葉を聞き、十六夜が口の端を緩めた。

「いいぜ。ただし、少しでも誤魔化そうとしたら、その約束もどうなるかってことだけは胆に銘じておけ」

 なにもできずに十六夜のおもちゃにされる”ペルセウス”の騎士たちに、黒ウサギとレティシアは同情の視線を送った。

「なんででしょうか。十六夜さんが悪役に見えてきたのですよ」

「奇遇だな、黒ウサギ」

 二人してため息をつき、しかし、ここまでこちらが有利になるようにことを勧める十六夜に期待を高めたのも事実だ。

 あとは、

「燈火。おまえにも礼を言うべきだろうな。ありがとう」

 隣に座り込み、礼を述べるレティシア。

「……別にいい。私はこの力が好きじゃないけど、私を肯定してくれる人たちを守りたいから」

 いつだったか、自分が力を使うときはすぐに来ると言われたことを思い出す。

(本当に、すぐだった。でも、誰も怖がらないし、認めてくれる……。お礼を言うべきは、きっと私の方だ)

 まだ素直に伝えることは難しいが、きっと、いつか。

 少女は優しい世界に初めて触れることができたことを、この一件が済んだらみんなに伝えようと、心の中で決心した。

「よし。おい黒ウサギ。だいたいの状況は呑み込めた。とりあえずは白夜叉のところに行くぞ。なんでも今日はそこにいるらしいからな」

 愉快だとばかりに笑みを浮かべながら話を聞き終えた十六夜が女性陣の元へ戻って来る。

「あいつらが俺たちコミュニティに対して無礼を働いたことは認めさせた。楽しくなるぞ? 他の連中も呼んでこい」

「あの、どうなされるのですか?」

「は? 決まってるだろ。”ペルセウス”にケンカ売りに行くんだよ」

 




燈火の容姿について気になっている方もいると思うので、挿絵入れようかしら。
まあこちらは要望があったらかな? 白ワンピ以外にもすでにいくつかの霊装纏ってるしそっちも描きますかね。
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