世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ?   作:あばばばば

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ゲーム開始だそうですよ

 次元の歪みは六人を門前へと追いやり、ギフトゲームへの入口へと誘う。

「姿を見られれば失格か。つまりペルセウスを暗殺しろってことか?」

 背後に建つ白亜の宮殿を見上げ、なんとも楽しそうな声音で十六夜が呟く。その呟きにジンが応える。

「それならルイオスも伝説に倣って睡眠中だということになりますよ。流石にそこまで甘くはないと思います」

「YES。そのルイオスは最奧で待ち構えているはずデス。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスと違い、黒ウサギたちはハデスのギフトを持っておりません。不可視のギフトを持たない黒ウサギたちには綿密な作戦が必要です」

 黒ウサギもジンに賛同し、より詳しく状況を説明してくれる。

 今回のギフトゲームは、ギリシャ神話に出てくるペルセウスの伝説を一部倣ったものだ。

 “契約書類”に書かれたルールを確認しながら、飛鳥が難しい顔で復唱する。

「見つかった者はゲームマスターへの挑戦資格を失ってしまう。同じく私たちのゲームマスターであるジンくんが最奧にたどり着けずに失格の場合、プレイヤー側の敗北。なら、大きくわけて三つの役割分担が必要になるわ」

 飛鳥の隣で耀が頷く。

 本来なら、このギフトゲームは決して一桁単位の構成員で挑むものではない。

 この場での役割分担は必須だというものだ。

「十六夜、姿を見られなければ失格にはならないんだよね?」

 会議を始めた傍で、燈火が十六夜に声をかける。

「そうなるな。だが、役割分担をするなら、囮と露払い、不可視の相手への対処、そしてルイオスの打倒。こんなところか」

「私は?」

 たぶん自分の役割を問うただろうことを察した十六夜は、しばし考えたのちに答えた。

「燈火はお嬢様と一緒に露払いをしてもらって――」

「……もし、全員で最奥まで行けるとしたら?」

 しかし、燈火が先に伝えたかったことを言ってしまい、十六夜が口を閉じる。

 偽りがないことを燈火の瞳から感じ取った彼は、心の中にあった意見を変えた。

「それができるってなら、全員で乗り込むだけだ。お嬢様には面白いことを独り占めするなと怒られたばかりだからな。連れて行けば多少は満足するだろう」

 連れて行けば。

 十六夜はこのとき、飛鳥を戦わせようなどとは思っていなかった。無論、耀にだって譲ってやる気はない。あくまで自分が打倒するべき相手なのだと考えている。

「おい、全員よく聞け」

 そこからの十六夜の行動は早かった。

 作戦を立てている四人の元へ行き、燈火が最奥まで行ける手段を持つことを話し、残りはルイオスの相手へと移行させる。

「あいつ程度なら、俺が相手をすれば終わるだろう」

「そうね。――いいわ、今回は譲ってあげる」

「私も。でも、負けたら許さない」

 問題児三人の中で話が着くが、黒ウサギはやや神妙な顔で不安を口にする。

「せっかく全員でいけるのであれば、皆さんで相手をしてください。油断しているうちに倒さねば、非常に厳しい戦いになると思います」

 五人の目が、一斉に黒ウサギに集中する。

「あの外道、それほどまでに強いの? 前回会ったときはこう、あまりに残念な」

「はい、ルイオスさんご自身はさほど脅威ではありません」

 飛鳥の疑問に、黒ウサギも肯定の色を示す。哀れルイオス……。やはり本人の評価はあまりよろしくないようだ。

「問題は、彼が所有しているギフトなのです。もし黒ウサギの推測が外れていなければ、彼のギフトは――」

「隷属させた元・魔王さま」

「そう、元・魔王の……え?」

 十六夜の突然の補足に、黒ウサギは一瞬言葉を失った。

「もしペルセウスの神話通りなら、ゴーゴンの生首がこの世界にあるはずがない。あれは戦神に献上されているはずだからな。それにもかかわらず、奴らは石化のギフトを使っている。――――星座として招かれたのが、箱庭の”ペルセウス”。ならさしずめ、奴の首にぶら下がってるのは、アルゴルの悪魔ってところか?」

「十六夜さん……まさか、箱庭の星々の秘密に…………?」

 黒ウサギは信じられないものを見る目で首を振りながら問いかける。

「まあな。このまえ星を観測して、答えを掴めた。まあ、機材は白夜叉が貸してくれたし、燈火が思いの外いい頭のつくりをしていてな。調べるのは簡単だったぜ」

 自慢げに笑う彼の背後で、燈火が小さく頷いている。彼女も十六夜から星の説明を聞かされながら隣で観測をしていたので、すでにこの話は知っていただろう。

「もしかして十六夜さんってば、意外に知能派でございます?」

「なにをいまさら。俺は生粋の知能派だぞ。なんたって、鍵のかかった扉だろうと、ドアノブのない扉だろうと、なんだって開けられるからな」

 黒ウサギは本能的に面倒ごとか、それに近しい出来事が起きる気配を感じていた。

 しかし聞かぬわけにもいかず、内心ハラハラしながら問いかける。

「………………参考までに、方法をお聞きしても?」

 十六夜は期待に応えるように扉のまえに移動し、後ろにいる全員に呼びかける。

「開けたら仕掛けるぞ! 燈火は準備を始めておけ」

「……わかった」

 帽子のつばを握り、箒を一度、床に向け打ち付けた。

 すると、燈火の周りが光輝く舞台のように、一瞬の輝きを見せる。

 その、真ん中に。

 光の粒子で縫製されたかと見まごうような煌びやかな衣を纏った少女が立つ。背中にかかる緋色の髪は、先端から艶やかな紫紺へと変わっていく。

 燈火はこれまで、衣装が変わるときはまえの衣装は一部分も残さず、そのすべてが新しいものへと変化していた。だが、今回は魔女を思わせる帽子と杖は消えずに残っている。

 ゆえに、アイドルを連想させるような煌びやかな衣に加え、魔女としての素質を備えたかのようなアンバランスな格好が実現してしまった。

「「「こ、これは!」」」

 燈火の姿を見た飛鳥、耀、黒ウサギは興奮するように彼女の元へと寄っていく。

「なんですかこの魔女っ子アイドル! かわいすぎるのですよ!」

「燈火の髪、生糸みたいになってる」

「他の衣装もあるんじゃないの? 着物姿とか見たいわ!」

 三者三様の感想を述べながらはしゃぐ女性陣に対し、慣れてきたとはいえ、詰め寄られることに慣れていない燈火は、もちろん三人のまえから走り去り、十六夜の方へと逃げていく。

「おいおい、誰もおまえをとって食ったりしねえよ。――ふむ。胸元が開いてるのはいいことだな。それより、その光の衣装は透過させて肌を見せるとかできないのかよ」

「ちょっと脱げば透明な衣装の出来上がりだけど、興味あるの?」

 この質問が女性陣だろうと、十六夜であったとしても、燈火は変わらず同じことを言っていただろう。彼女は基本的に信頼している相手には隠し事をしない性質なのだ。

 まあ、ことここにおいてはオープンエロな十六夜に希望を与えただけに過ぎないのだが……。

「そいつはいいことを聞いたな。っても、なにかする気は流石にないけど。準備はそれで終わりでいいんだな?」

「問題ない。あとは任せて」

「よし、じゃあ始めるぞ」

 燈火を追ってきた女性陣三人と、その後をさらに追ってきたジンに聞こえるように言い、十六夜は改めて扉へと視線を向ける。

「黒ウサギの問いに応えるぞ。こうやって、開けるに決まってんだろッ!」

 わずかな溜めが入ったあと、轟音とともに、白亜の宮殿の門を蹴り破った。

 あまりにひどい光景を見守った燈火は、ゲームが開始したことを確認した瞬間、箒を掲げた。

(念のため持ってきただけのマイクなのに、ここで使うことになるなんて……。持っててよかった)

 心の中だけで安堵しながら、マイクに向けて言う。

「私たちを一切見ないで。みんな、壁に張り付くようにしてゲーム終了までを過ごして」

 一連の動作を見ていた五人は、燈火のしたことがなんであるかがさっぱりわからなかった。説明を求めるように待っていたが、燈火は蹴り破られた扉の奥を指し、みんなに進むように促す。

「もう誰も、私たちを認識しない。あとは最奥に向かうだけ」

「な、なにが起きたんですか!?」

 状況の整理が追いつかず、ジンが叫ぶ。

「見に行けば、わかる?」

 なにかをやらかした当の本人は疑問系で告げた。

 ちらりと視線を十六夜に向けるジンだが、十六夜は行っても問題ないだろうと、彼を無視して先へと進んで行く。

「なるほど。確かにこれは問題ねえわけだ。おチビ、来てもいいぞ。ついでに全員連れてこい」

「は、はい! みなさん、行きましょう」

 扉の奥からの呼び声に、燈火を除く全員が困惑した表情のまま続く。

 そして、十六夜と同じ光景を目の当たりにして、素っ頓狂な声が漏れた。

 仕方のないことだろう。なにせ、宮殿内にいる、見わたせる限りの騎士たちが視線を壁に固定したまま、一切動かないのだ。道は完全に開け、歩を阻むべき敵の姿は壁に張り付く者しかいない。

 ただ、空中にいくつもスピーカーのような物が浮遊していた。

「なにをしたんだ?」

「ちょっと操っただけ。本当は、こんなことするべきじゃなかったんだけど…………」

 十六夜の疑問に答える燈火の手は、わずかに震えていた。

 彼女が優しい少女であることを十六夜は忘れていたわけではない。人を自分の思うままに操るなど、優しい者が最も嫌う行為のひとつであろう。

(無理させちまったってことか。クソッ、情けねぇ)

 十六夜がやや乱暴に燈火の頭を撫で、先に向かい歩き出す。

 燈火はそんな彼の行動にくすりと笑みをこぼし、なにを思ったか彼の手を握る。

「おい、燈火」

 言いたいことがあった気がしたが、彼女の嬉しそうな笑顔を見て、これも有りかと思い直し、手を繋いだまま奥へと向かっていった。

(そうか、声を宮殿中に聞かせるために用意した物だったのか)

 歩く最中、いくつも発見するスピーカーのような物を観察しながら、十六夜はそんなことを考えていた。 

 背後では、女性陣が恨めしそうに十六夜を睨んでいたのだが、それはまた別の話だろう。

 

 

 そのころ、ルイオスは知らなかった。

 ゲームがどうなっているかなど、確認するまでもなかったからだ。

 “ノーネーム”なぞ、ここまでたどり着くことすらできない雑魚の集団だと、そう思い込んでいたし、なにより、このゲームで手に入るウサギと燈火でどう遊ぶかばかりを考え込んでいた。

「はやくあの子に鎖を巻きつけて泣き顔を見たいな。きっと最高の表情が見れるに違いない」

 変態は妄想の世界に入り込む。だが、彼の妄想が現実になることはないと、彼はまだ露にも思っていなかった。だが、いつだって終わりはやってくる。

 敗者を決めるために。

 ルイオスが妄想に耐え切れず興奮し、立ち上がった直後。

 最上階であるこの部屋の扉が、盛大な音を立てて破壊された。

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