世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ? 作:あばばばば
十六夜と燈火が手を繋いだまま先へと進む中、とうとう耐えきれなくなった耀が行動に出た。
「やっぱり私も」
燈火の空いているもう片方の手を握ったのだ。
「よ、耀?」
「十六夜ばっかりずるい。私も燈火と手を繋ぎたかった」
素直にそう言われては反論できない燈火は、耀の要望を受け入れ、片手は彼女に預ける。
左側に十六夜。右側に耀。
と、仲良さげな光景を見せられた飛鳥は出遅れたことを大いに悔やんだとか。
「もうどこも空いてないじゃない……」
肩を落とした飛鳥は、腹いせにジンの頭を潰しかけていたことはこの際置いておこう。前を歩く三人はジンのことを気にせず、白亜の宮殿の最上階につくまで笑顔を崩さなかった。
宮殿の最奥までやってきた"ノーネーム"一同は、扉の前で一度立ち止まった。
「扉を開ける手間なく、そのまま入れると思ってたんだけどな」
十六夜が構造に不満を漏らす。
「あら、中が丸見えなんていやよ」
すると、今度は飛鳥が十六夜の不満に自分の意見をぶつける。
そんなものか? とお互いに視線が絡み合う。
しばらくくだらないことで睨みあっていた二人だが、ふと、十六夜が視線を外した。
珍しいこともあるものだと思っていた飛鳥だが、次に十六夜が声をかけたのは燈火だった。
「どう思う、燈火。ここに扉は必要だと思うか?」
飛鳥も、彼女が答えるのなら異論はないようで、答えるのを待つようだ。
問われた燈火は、意味がわからないといった表情をしていたが、扉をじっと眺めながら十分な時間をかけて考え込む。
「扉……」
やがて声に出したその答えは、
「ない方がきれい、かも?」
扉をなくす方針が、"ノーネーム"一同の中で決定した瞬間だった。
「ヤハハ、燈火は扉を消すことをご所望らしいぜ、お嬢様」
「そうみたいね」
「異論なし」
問題児三人が同調を示し、変態が待つであろう扉の先を見据える。
「ちょ、ちょっとみなさん!?」
ジンは嫌な予感がして止めに入ろうとするが、すでに遅い。
十六夜は拳を握り、扉の前に立つ。
「燈火。ちょっと待ってろ? いますぐこの扉、ぶっ壊してやるからな」
「ん、わかった」
「ですから、みなさんちょっとは穏便にですね!」
ジンの静止なぞ、やはり問題児に届くことはなく――。
「さあ、攻略にいくぞ、おら」
「いくぞおらー」
十六夜、耀の悪ノリの結果、扉に十六夜の拳がふるわれた。
あっけなく破壊された扉は中で待つルイオスへと直撃。変態の妄想はそこで途切れる。
立っていなければ巻き込まれることもなかっただろうに。
ゲーム開始直後にこの部屋に来ていた黒ウサギは、哀れなルイオスにわずかながら同情した。
(あの方々に関わった人たちの末路なのですよ……)
じゃっかんの涙が目じりに浮かんでいたのは、きっと気のせいではないだろう。
中で起きたことを一切知らない問題児一行は、天井のない闘技場に似た部屋を眺め、燈火と感想を言い合っていた。
楽しそうな光景を見て、がまんできなかった黒ウサギはルイオスをほったらかしそちらに混ざる。
「おい! ここまでくるだけならまだいいけど、扉をぶち壊して入ってくる奴があるか!」
直撃したと思わしき額をさすりながら立ち上がったルイオスは、開口一番、主犯格と決定づけた十六夜へと叫ぶ。
「なあ燈火、どうだ? 気になるなら今度遺跡でも見にいくか」
「連れて行ってくれる?」
「ああ。白夜叉に訊けば適当な場所を教えてくれるだろ」
「……楽しみ」
しかし、十六夜と燈火は当然として、たぶん誰もルイオスの話を聞いていないだろう。
かつてここまでこけにされたことがあっただろうか?
ゲームマスターにも関わらず、眼前にその存在たる自分がいてこの無視っぷり。
正直なところ、殴らずにはいられないところだ。だが、この部屋までたどり着いたプレイヤーにあいさつもなしに襲い掛かってはゲームマスターとしても失格だろうと思いなおしたルイオスは、もう一度声を張り上げる。
「ふん、まったく使えない奴らだ。全員上に上げるなんて、どれだけバカげたことになってるのかわかってるのかよ! 今回の一件でまとめて粛清しないと!」
「――ところで燈火さんはあとどれほど衣装を持っているのですか?」
「えっと、まだ半分くらい残ってると思う」
黒ウサギの質問に答えると、横から耀が声をかける。
「どんなのがあるの?」
「あ、それ私も気になるわ」
「俺もだ」
飛鳥と十六夜も気になっていたらしく、衣装の話は続く。
「……想像に任せる」
「おいおい、想像に任せたら大変なことになるぞ。主に黒ウサギが」
「そうだね。どれだけきわどい衣装を想像することになるか……」
「黒ウサギだものね」
「ああ。なんたって、普段からエロエロな衣装に身を包んでいる黒ウサギが想像する衣装っつったらそれはもう――」
「なんで黒ウサギばっかりぃ!」
どこからか取り出したハリセンが一閃。
問題児三人の頭をはたく。
だがこれは前にも一度あったパターン。問題児はこの程度では止まらない。
「また燈火だけ仲間外れか」
「かわいそうに。燈火さん、もうこれで二度目ね。いったいなにがお気に召さないのかしら、黒ウサギは」
十六夜と飛鳥がいつかのように悲しそうな目で燈火の頭をなでる。
「え? ちょっとみなさま、それはもう通用しないので――」
「燈火、黒ウサギがあなたを嫌っていても、私たちは燈火の味方だからね」
そこに耀も加わり、燈火へと抱き着く。見間違いならいいのだが、耀はなんだか満足気なうえ、興奮状態に近い息遣いをしていた。
とはいっても、見た目仲のいい四人組に見えなくもない。問題なのは、それが一人が仲間外れにされている現場であることくらいだ。
むしょうに仲のいいところを見せられた黒ウサギはうずうずを抑えられず、ハリセンを捨てて四人へと突っ込んでいった。
「ああもう! どうして黒ウサギだけ仲間はずれにしようとするのですか!」
そう、外されていたのは黒ウサギだった。なんとか輪に入れたようで、ジンも見守るように暖かい笑顔を浮かべている。
まあ、予想通り誰も聞いていなかったルイオスである。
「いい加減にしろよおまえら!!」
さすがの変態もここまでの放置プレイには耐えきれず、落ちていた扉の破片を投げつける。
飛来する破片を受け止めた十六夜は、この日初めてルイオスへと視線を向けた。
瞬間――。
「ふざけんなよ」
握りこんだ破片をルイオスへと投げ戻す。
第三宇宙速度をたたき出し。
盛大に音を上げて宙を舞ったルイオスは、幾度も転がりながら十六夜たちとは反対側の壁へと激突する。
「くっ、なんだあいつは! というかもうこのゲーム続けたくないんだけど!?」
「そういうなよ。これからたっぷりとつきあってもらうぜ」
愚痴るルイオスに語りかけた十六夜は、楽しむつもりだろう。飛鳥と耀、ジンを下がらせた。
「ったく。だったらもっと早くに僕の話を聞けよ!」
「燈火に物投げつける野郎の話なんて聞くかよ。危ないだろうが」
「なっ!? あれはだなぁ」
「いいから、とっとと始めようぜ」
会話を早々に切り上げる十六夜に、戦闘で鬱憤を晴らすと誓ったルイオスは膝まで覆ったロングブーツから光り輝く翼を展開し、空へ舞う。
「いまいち納得いかないけど、なにはともあれ、ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう。…………あれ? この台詞を言うのって初めてかも」
それは騎士たちが優秀だったからだ。今回のように全員が壁に目を向けて立ち並ぶ光景は二度と起こらないだろう。
「ま、あんたもあの光景を見たら納得するだろうさ」
「フン。名無し風情を僕の前に来させた時点でダメだね。たとえどんな状況だろうとも、ね」
二人が視線をかわし、互いに戦闘へと入る態勢に入る。
「さて、燈火。当然あいつは"アルゴールの魔王"を出してくるはずだ。あっちの変態は任せる」
「わかった」
十六夜に頼まれた燈火は一歩前に出て、ルイオスと対峙する。
「なになに? キミが僕の相手をしてくれるの? なら、ちょっといまのうちに従順になるように調教してあげるよ!」
とたんにやる気を出したルイオスに、全員から冷えた視線が集中する。
「やりたければそうするといい。でも、忠告。生半可な気持ちで向かってくるならあなた――消えちゃうよ」
普段の燈火と比べて好戦的な発言がうかがえたのち、変化は起きた。
金属のような、布のような、不思議な素材で構成されたドレスも確かに目を引く。
そこから広がった光のスカートも、気を失うほど綺麗だった。
肩に腰に絡みつくように煙るは、長い緋色の髪。だが、先端から徐々に、闇色へとグラデーションがかかっていく。
凛とルイオスを見上げるは、なんとも形容しがたい不思議な色を映す双眸。
尋常ではなく。
暴力的なまでに美しい。
その少女は、右手に巨大な剣を握り、そして。
覚悟するように、剣を真横に薙いだ――。