世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ?   作:あばばばば

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決着です

 燈火が剣を振った瞬間。

 ルイオスの頭上をなにかが通過したように見えた。

「はあ!?」

 ルイオスが叫び声を上げながら、勢いよくうしろを振り返る。

 すると、宮殿の一部が横に一閃、斬り裂かれていた。ただの一振り。別段力を込めたわけでもなければ、特別な能力が発動したわけでもない。

 そう。普通に剣を振っただけ。その剣圧のみで、建物の一部をきれいに消し去ってしまった。

「あっ……。えっと、ごめんなさい?」

 現状を理解した燈火は、とりあえず形だけでも謝る選択をとった。

「いいんだ。これは俺たちとあいつの決闘だぜ、燈火。ここがいくら壊れようと、俺たちの知ったことじゃない」

「ん、わかった」

 十六夜の言葉を素直に信じてしまった彼女は、ひとつ頷いてなぜか剣をもう一度。今度は縦に振った。

「お、おいおいおい! 危ないだろ!?」

 またしてもルイオスにめがけて振るわれた剣の一撃は、しかし。

 ルイオスの真横を通過していった剣圧は、宮殿に追加のダメージを与える。先程とは違って、今回は宮殿がわずかに揺れた。確実にダメージが蓄積されているようだ。

(なるほど。燈火が世界から隔離されるわけだ。考えなしにこんな一撃を放たれてたら世界がもたないか。けど、しょせんあいつを受け入れる覚悟のない世界だったことに変わりはねえ)

 燈火の姿を眺めながら、十六夜はどこか冷静に考えをまとめていた。

 目の前で剣を振るう少女は、やはり強そうには見えず、儚く消えてしまいそうな女の子でしかない。

 では、なぜこんな力を身に宿しているのか。

 十六夜はふと、そんな疑問を浮かべる。

 自分もバカみたいな力を宿しているのだが、燈火はあまりにその力を使い慣れている印象を受けた。これまでも、そして今回も。初めからどんな能力を有しているのかを知っていたように行動をしているのだ。

(こいつは調べてみる必要があるかもな。天使顕現……。そして白夜叉があえて触れなかっただろう"無限"。俺ですら聞いたこともない伝承でも関係しているのか、それとも――いや、まずは白夜叉あたりにでも聞いてみるか)

 このとき、十六夜はひとつの事実を忘れていた。

 燈火について白夜叉に話を訊きに行く。それも、彼女のギフトについてを。

 箱庭に来てすぐのこと。白夜叉は確かにこう言ったのだ。

『おんしのその"天使顕現"とやらがどのようなものか一目見させてくれればよい』

 この一言がなにを示していたのか、十六夜は後日、俄然やる気を出すとともに知ることになる。

 が、いまはゲームの最中。

 頭を切り替えた十六夜は、煙が立ち込める視界の先を見据える。

「二度のダメージでここまで揺れるって、設計にミスでもあったんじゃないか?」

 宮殿の損傷具合を確かめ、空中から落ちてきたルイオスに話しかける。

「ああ、僕もそう思うよ。だけどな! こっちはおまえたちがゲームマスターを無視して話している間、攻撃せずに待っててやったんだぞ!? なのになんだこの仕打ちは!」

 もっともである。だが、十六夜に効果があるわけなく。

「ハッ、甘いこと言ってんなよ。倒せるときに倒す。それが普通だろ? まあ、もっともあのとき奇襲してきたとしても、俺が止めたけどな」

「この……やっぱりわざと無視してたのか!」

「当然」

 十六夜がキッパリ言うと、後方から飛鳥たちが続く。

「なにをいまさら言ってるのよ」 

「当然のことをいまさら……」

「えっと、みなさんいつもこんな感じなので」

「問題児さま方に関わったのが運のつきです」

 燈火を除く全員からこの言われよう。普段なら止める側であるジンでさえ問題児側についてしまった。

 哀れルイオス。

 私室でゲームの状況を眺めていた白夜叉は、そんなことを思ったと後に語った。

「くそ! ここまでふざけたゲームいままで一度としてなかったぞ……。徹底的に、徹底的に叩き潰してやる! 二度とゲームをする気も起きないほどになぁ!」

 再び空中に舞い上がったルイオスは、"ゴーゴンの首"の紋が入ったギフトカードから、光とともに燃え盛る炎の弓を取り出した。

「……炎の弓? ペルセウスの武器で戦うつもりはない、ということでしょうか?」

「当然。空が飛べるのになんで同じ土俵で戦わなきゃいけないのさ」

 小ばかにするように天を舞うルイオスだが、燈火の一言に動きを止めることになる。

「なら、私は地上から斬撃であなたを斬り落とす。だいじょうぶ、運がよければ軽傷で済むから。……たぶん」

 焦ったのだろう。さっき見せられた一撃を個人で防ぐ術をルイオスはまだ持っていない。

 なにかをされる前に、首にかかったチョーカーを外し、付属している装飾を掲げた。

 剣を振るおうとする燈火を十六夜が手で制し、待ったをかける。

「これからだ。俺が楽しみにしてたのはあいつじゃない。だから、少しだけ待ってくれ」

「十六夜が言うなら」

 このとき、ルイオスは心底ホッとしたとか。

 余裕のできたせいか、冷静さを取り戻していく。

 二人は呑気に待っているが、黒ウサギは焦り始めていた。

 もしも彼女の予想通りなら、ルイオスの持つギフトはギリシャ神話の神々に匹敵するほど凶悪なギフトだろう。

「十六夜さん、燈火さん! いますぐ倒してください! このままでは……」

 声が聞こえているはずの距離でありながら、十六夜と燈火は返事を返すこともなく、ただじっと待っていた。黒ウサギの心配も焦りも、感じていないように。

「さあ、見せてやる。キミたちじゃ決して敵わない存在というものを!」

 ルイオスの掲げたギフトが光り始める。

 十六夜はとっさに構えた。

 下がっている仲間たちを確認しながらも、いつでも戦えるよう臨戦態勢を崩さない。

 一方、燈火は構えることをせず、ただ立つだけであった。

 やがて、光が一層強くなり、ルイオスは獰猛な表情で叫んだ。

「目覚めろ――"アルゴールの魔王"!!」

 光は褐色に染まり、六人の視界を染めていく。

 白亜の宮殿に共鳴するかのような甲高い女の声が響き渡った。

「ra……Ra、GEEEEEEYAAAAAAaaaaaaaa!!」

 それは最早、人の言語野で理解できる叫びではなかった。

 冒頭こそ謳うような声であったが、それさえも中枢を狂わせるほどの不協和音だ。

 現れた女は身体中に拘束具と捕縛用にベルトを巻いており、女性とは思えない乱れた灰色の髪を逆立たせ叫び続ける。女は両腕を拘束するベルトを引きちぎり、半身を反らせてさらなる絶叫を上げた。黒ウサギは堪らずウサ耳を塞ぐ。

「ra、GYAAAAAaaaaaaa!」

「な、なんて絶叫を」

「耳が、痛い……」

「あの拘束具なら燈火の姿の方が似合――避けろ、黒ウサギ!」

 えっ、硬直する黒ウサギ。

 十六夜が走り出すが、距離を取っていたことが仇になる。

 空から巨大な岩塊が山のように落下してきたのだ。

「クソッ、間に合うか!?」

 珍しく焦る彼だが、背後では燈火が地面に踵を突き立てていた。

 瞬間、そこから巨大な剣が収められていた玉座が現出する。

 即座に手に持つ剣を捨て、玉座の背もたれから新たな剣を引き抜いた。

「<鏖殺公(サンダルフォン)>――【最後の剣】(ハルヴァンヘレヴ)!」

 刹那、燈火が足を置いていた玉座に亀裂が走り、バラバラに砕け散った。

 そして玉座の破片が燈火の握った剣にまとわりつき、そのシルエットをさらに大きなものに変えていく。

 全長十メートル以上はあろうかという、長大に過ぎる剣。

 しかし、燈火はそれを軽々と振りかぶると、落ちてくる岩塊に向かって振り下ろした。

 刀身の光が一層強いものになり、一瞬にして光は延長線上にある目標へと向かっていく。

 次の瞬間、凄まじい爆発があたりを襲った。

「なっ……」

「――ウソ、だろ」

 十六夜以外の全員が戦慄に染まった声を上げる。

 それはそうだろう。燈火はただの一撃で、岩塊を消し飛ばしただけでなく、遥か上空。ギフトゲームのために用意されたこの世界の空までをふたつに割っていたのだ。

 世界の破壊。先程までの一撃とは差がありすぎる。

 だが、なによりアルゴールが叫ぶことをやめ、明確な敵意を燈火に向けだした。

 危険信号。

 いまアルゴールが感じているモノの正体を、殺意にも並ぶ敵意により誤魔化した魔王は、主人の命令を静かに待つ。

 全員の思考が止まる中、十六夜だけは初めて燈火を背負ったときの会話を思い出していた。

「なるほど。力だけなら春日部たちより上ってのは本当らしいな」

 一人つぶやいた彼は、本来の力を知って満足気だ。

(あとは通常時に襲われないかだけ気をつけさせないとな。いや、守ればいいのか?)

 などと考えているうちに、黒ウサギたちの硬直が解ける。

「っ、いますぐあいつを消せ、アルゴール!」

 危険度を理解したルイオスは、すぐさま燈火へとアルゴールを差し向ける。

 命令を受けたアルゴールも、瞳を危険な色に光らせ、燈火へと迫っていく。それを許さない者がいるとも知らずに。

 星霊・アルゴール。白夜叉と同じ、星霊の悪魔。

 ひとつの星の名を背負う大悪魔。箱庭最強種の一角、"星霊"がペルセウスの切り札だった。

(クソッ、本来ならここで、いやあ、飛べない人間って不便だよねえ。落下してくる雲も避けられないんだから。的なことを言ってやるつもりだったのに! 僕の格好がつかないじゃないか!)

 ルイオスの闘志は、内心かなり高まっていた。妄想していたころがウソのようにである。

「御チビ。春日部とお嬢様と一緒にもっと下がってろ。この先、守ってやる余裕はなさそうだ」

「すいません……本当に、なにも出来ず」

「別にいいさ。それより、例の件は覚えているか?」

 アルゴールが迫る中、ジンにだけ聞こえる距離で内緒話をするように続ける。

「目論見が外れたな。レティシアが戻ってくることで魔王に対抗するつもりだったんだろ? どうする、例の作戦は止めておくか?」

 元・魔王であるレティシアだが、肝心の彼女は魂を削られ、多くのギフトを失っていた。魔王に対抗するのも、いまでは危うい。

 うまくいかなくなったことを再確認するジン。

 だが、彼は時間をかけることもなく、答えを出した。

「十六夜さん。僕らにはまだ貴方がいます。燈火さんだっています。この先、多くの魔王を倒さなければなりません。もし、先の未来に希望があるというのなら、貴方たちしかいない。この舞台で、僕たちに希望の光を示してください」

 ジンの真っ直ぐな瞳と返事に、十六夜は高らかな哄笑で返した。

「希望ね。悪くねえ。OK、よく見てな御チビ」

 最後にぐしゃぐしゃと髪を撫でてから、走り出す。

「さて、とりあえずそいつに触れれるなんて思うなよ!」

 燈火に手を伸ばしたアルゴールは、横から跳んできた十六夜に蹴られ、その巨体ごと数メートル先へと吹き飛ばされる。

「あれくらいなら、なんとかなったのに」

「最初に言っただろ? あいつは俺の相手だ」

「そっか。でも、ありがとう」

 十六夜の本心がなんとなくわかるようになってきた燈火は、お礼を言う。

 それには応えず、十六夜はルイオスへと向く。

「あの程度か? おまえの切り札ってやつは」

「名無し風情が。起きろアルゴール!」

 甲高い声を上げて起き上がったアルゴールは、またも燈火へと襲いかかる。

「燈火。おまえはあっちを頼む」

 ルイオスを指さす。

「うん。十六夜も気をつけて」

「ああ。精々楽しんでくるさ。おまえも、変にためらうなよ」

「……わかってる」

 十六夜がアルゴールと組み合い始めると、燈火は一歩前に出た。

「本当に僕の相手をするんだ? いいよ、やってあげるよ!」

 縦横無尽に動き回り、攪乱するルイオス。

 十分に動いたと判断した彼は、燈火の背後から炎の矢を撃ち出す。

「ごめんね。私、もうこの力を使わないわけにはいかないの。だから、ごめんなさい。あなたとの約束、守れそうにない」

 ボソボソとなにごとかを言ったのち、炎の矢は燈火に触れる寸前で剣に払われ霧散する。

「ちっ、やっぱ効かないか」

 ルイオスはムダを悟り、炎の弓の代わりに"星霊殺し"のギフトを新たに付与された鎌のギフト・ハルパーをギフトカードから取り出す。

 二人から少し距離を取った場所では、最強の問題児が笑声を上げながら星霊を殴り倒していた。

 獰猛な笑顔で、転がったアルゴールの腹を幾度も踏みつける。十六夜の足踏みはそれだけで闘技場全体に亀裂を発生させ、白亜の宮殿を砕くほどの力があった。

「急がないと宮殿が持ちそうにないな。どうにかしないと――」

 焦る気持ちを落ち着けるルイオスだが、すでに決着はつこうとしていた。

 視線の先。

 燈火が剣を振り上げ、そこで止めた。

 彼女の周囲に黒い輝きを放つ光の粒のようなものがいくつも生まれ、剣の刃に吸い寄せられるように収束していく。

 なんの説明がなくとも、わかる。

 あれは渾身の力を込めた一撃だった。

「ちくしょう……アルゴール! 宮殿の悪魔化を許可する! 奴らを殺せ!」

「RaAAaaa! LaAAAA!!」

 十六夜の足から逃れたアルゴールは、謳うような不協和音を響かせる。とたんに白亜の宮殿は黒く染まり、壁は生き物のように脈を打つ。宮殿全域にまで広がった黒い染みから、蛇の形を模した石柱が数多に襲う。

 十六夜は避けながら、思い出したようにつぶやく。

「ああ、そういえばゴーゴンにはそんなのもあったな」

 ゴーゴンには様々な魔獣を生み出した伝説があった。

「これ以上は僕が危険だ。この宮殿はアルゴールの力で生まれた新たな怪物だ! 貴様たちにはもはや足場ひとつ許されていない! 貴様らの相手は魔王とその宮殿の怪物そのもの! このギフトゲームの舞台に、貴様らの逃げ場はないものと知れッ!!」

 ルイオスの絶叫と、魔王の謳うような不協和音。

 嫌悪感を抱いた少女は、迷うことなく行動に移した。

「気持ち悪いの、嫌……」

 渾身の一撃を、ルイオス相手ではなく宮殿そのものにぶつけた。直後に、宮殿全体が震え、闘技場が崩壊する。瓦礫が下の階を巻き込み、三階まで落下した。

「わ、わわ!」

「ジン坊ちゃん!」

「飛鳥、こっち」

「ええ!」

 崩壊に巻き込まれそうになったジンと飛鳥を、黒ウサギと耀が受け止める。翼を持つルイオスは上空に逃げていたが、それが間違いだった。

 燈火の放った一撃は闘技場を破壊するだけに留まらず、余波によって外の景観を変えてしまうほど。

 筒抜けになった上空では逃げ場もなく、余波に巻き込まれたルイオスは遥か上空までその身を舞わせた。

「やってくれたな。俺の役目を取られた気分だ」

「ごめん、なさい……」

 平気で立っていた十六夜は、残った闘技場の足場で燈火と話していた。彼女がやらなければ、この問題児さまが間違いなく壊していたに違いない。

「謝る必要はないけどな。おまえがやりたいようにやったんだ。ならいいんじゃねえの? たまにはこんなふうにした方がいいに決まってる」

 燈火の髪を優しく撫でながら、落ちてきたルイオスを見下す。

「おい、ゲームマスター。これでネタ切れってわけじゃないよな?」

「…………」

 十六夜に背を向けるルイオスは、手だけで少し待ての合図を出す。

 やがて苦しそうな音が聞こえたかと思うと、平気そうな面をしたルイオスは立ち上がり、十六夜をにらんだ。

「十六夜、なんで待ってたの?」

「んー? まあ、気にしてやるな」

 十六夜は気づいていた。

 ルイオスの足元。そこにキラキラ加工をしなければ放送できないような物があることを。

 余波で巻き上げられたルイオスは凄まじい速度で打ち上げられ、そして回転させられて落ちてきたのだろう。ルイオスがただの人間ではなく、丈夫な存在であっても、酔わない道理がないのだ。

 ルイオスは屈辱で顔をゆがませていた。まさかここまで一方的な展開になるとは考えてもいなかったのだろう。しばし悔しそうに表情を歪めていたルイオスは、スッと真顔に戻る。そして極め付け凶悪な笑顔を浮かべ、

「もういい。終わらせろ、アルゴール」

 石化のギフトを解放した。

 不協和音とともに、褐色の光を放つ。

 数日前に見た、石化の光だ。これこそアルゴールの本領たるギフト。すべてを褐色の光で包み、灰色の星へと変えていく星霊の力。

 飛鳥たちを無視して向かう先は、十六夜と燈火。

 

「――……カッ。ゲームマスターが、いまさら狡いことしてんじゃねえ!!」

「<鏖殺公>……!」

 

 十六夜は褐色の光を踏みつぶし、燈火は剣を振り抜いた。

 すると、その刀身に光が溢れ、燈火の太刀筋に沿うように、斬撃がターゲット目がけて飛んでいく。

 褐色の光と激突した斬撃は、光を切り裂くだけにとどまらず、奥にいるアルゴールへと命中する。

「GYAAAAAAaaaaaa!!」

 本物の悲鳴を上げたアルゴールはその場で崩れ落ちた。

 十六夜、燈火の一撃によって、褐色の光だけでなく切り札まで失ったルイオスは地に膝をついた。

「バカ、な……」

「星霊のギフトを無効化――いえ、破壊した!?」

「あり得ません! あれだけの身体能力を持ちながら、ギフトを破壊するなんて!」

 この箱庭において、恩恵を無効化する恩恵は決して珍しい物ではない。だが、それは肉体とは別に顕現している物に限る。

 十六夜のように、天地を砕く恩恵と、恩恵を砕く力が両立していることはあり得ないはずなのだ。

 と、とても真面目な話をしている隣で、飛鳥と耀は燈火について興奮した様子で話していた。

「すごいわ、燈火さん! 普段とはまるで違うじゃない!」

「うん! かわいい燈火も好きだけど、かっこいい燈火も悪くない!」

 はしゃぐ様子は微笑ましいのだが、目だけは獲物を狙う獣のそれになっていた。

(百合か)

 そんな様子を眺めた十六夜は、そう思ったとか。

「さあ、続けようぜゲームマスター。星霊の力はそんなもんじゃないだろ?」

 倒れたアルゴールに視線をやりながら、挑発する十六夜。だが、ルイオスにはすでにその気はない。

 そのことを悟った黒ウサギが溜息交じりに割って入る。

「残念ですが、これ以上のものは出てこないと思いますよ?」

「なに? まだあっちの魔王様は進化したりできないのかよ。なんかあるだろ?」

「アルゴールが拘束具に繋がれて現れた時点で察するべきでした。……ルイオス様は、星霊を支配するには未熟すぎるのです」

「っ!?」

 ルイオスの瞳に憤怒が宿るのを、十六夜は見逃さなかった。

「ハッ、しょせんは元・魔王様。長所が破られれば打つ手なしか。ああ、そうだ。もしこのままゲームで負けたら……お前たちの旗印。どうなるかわかっているんだろうな?」

 すでにやる気をなくしかけているルイオスに、そう言い放つ。

「な、なに?」

 不意を突かれたような声を上げるルイオス。それもそうだろう。

 彼らはレティシアを取り戻すためゲームに挑戦したのではなかったか。

「取り戻す奴は後でもいいと言ってくれそうだしな。そんなことより、旗印を盾にして即座にもう一度ゲームを申し込む。そうだな、次はお前たちの名前を頂こうか。二つとも手に入れたら、"ペルセウス"が箱庭で永遠に活動できないように徹底的に貶め続けてやる。徹底的に。徹底的にだ」

「や、やめろ……!」

 消耗しきった状態で二度目のゲームなど、勝ち目なぞ万に一つもない。動ける部下は一人もなく、アルゴールですら敵わない。自分一人残ったとして、どうなる? さらに、向こうにはまだ手の内を明かしていない者が二人もいるときた。

 自分たちはいま、崩壊の危機に立たされているのではないか。

「そうか。嫌か。――ならもう方法はひとつしかないよな? 来いよ、ペルセウス。命がけで俺を楽しませろ」

 獰猛な快楽主義者が、両手を広げてゲームの続行を促す。

 自らが招いた組織の危機に直面したルイオスは、覚悟を決めて叫んだ。

「負けない……負けられない、負けてたまるか! たとえ僕一人になったとしても、この誇りにかけておまえを倒す!!」

 輝く翼が羽ばたく。

 十六夜は燈火を下がらせ、一人前に出た。

 コミュニティのため、敗北覚悟で駆ける英雄を迎え撃つために――。




そろそろ燈火ちゃんの過去にも触れていかねばと思います。
思うだけなのでいつになることやら……。
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