世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ?   作:あばばばば

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状況を教えてほしいのですよ?

 心地のいい、けれど急いでいるようなせわしない揺れを感じながら、燈火は目を覚ました。

「ん……?」

 そこは見慣れた自室ではなく、上を向くと、青空が広がっている。

 はて? 自分は寝ている間にどこか知らない場所へと行ってしまうようなことが過去にもあっただろうか? いいや、なかったはずだ。

 であれば、なぜ彼女が目を覚ましたときには外に出ているのか。

 その答えは、揺れにあった。

「十六夜?」

 燈火の知る限り、こんなことをするのは自分と一緒にこの箱庭にやってきた問題児たちくらいのものだ。

 中でも、最も確率の高いだろう人物の名前を呼ぶ。

「燈火、起きた?」

 しかし、返ってきた声は随分とかわいらしいものだった。

 不思議そうに自分の手が置かれている肩を掴むと、十六夜のものより柔らかい。

「……耀?」

「うん。十六夜の方がよかった?」

 現在、どうやら燈火は耀に背負われているらしい。

 十六夜と勘違いされた耀は、わざと悲しそうな顔をして燈火に問いかける。

「だいじょうぶ。十六夜じゃなくても、みんななら平気」

 が、迷うことも、慌てることもなく答える燈火。

 答えを聞いた耀は満足そうにうなずくと、再び前を向いた。

 隣で話を聞いていた飛鳥は、十六夜の元まで歩みを速め、彼に速度を合わせてから話を振る。

「だそうよ、保護者さん?」

「ああ、だそうだな」

 じゃっかんテンションが低くなっている十六夜の姿を、これまた楽しそうに眺める飛鳥。

「十六夜くん、少し目が怖いわよ」

「……」

 指摘に対して、珍しく無言で応える十六夜。彼は燈火と違い、自分でなくてもいいということに少なからず不満がありそうだ。

(らしくねえな。燈火が他の奴とも仲がいいのは悪くないことなんだが)

 後ろを振り返り、なにごとかを楽し気に話す燈火と耀を眺める。

「ところで、なんで私はここに……?」

 その十六夜と目が合った燈火は、彼の気も知らずに無邪気に質問する。

 すると、問題児三人が互いに『あれ? 言ってなかったっけ?』と目線だけで語るが、よく考えたら今朝知ってそれから行動に移したのだから、寝ていた彼女はなにも知っているはずがない。

「燈火さん、みなさんを止めてください!」

「あれ……ジンもいるの?」

 これまで十六夜に引きずられていたジンは、燈火が起きたとわかるやいなや、問題児の行動を制限するために頼み込む。

 が、事情を知らず、問題児三人を無条件で信頼している燈火が止めに入るかと言われれば……。

「止めた方がいいの?」

「もちろんで――」

「いいのよ。燈火さんも楽しめることなんだから、一緒に行きましょう」

 真っ先に答えようとしたジンの口を塞ぎ、代わりに飛鳥が答える。

 耀もうなずき、十六夜が再びジンを引きずり始めた。

「私が行っても、楽しめる場所……?」

 頭上に疑問符を浮かべる燈火は、

(楽しいって、どんな気持ちだったっけ)

 あまりよろしくないことを考えていた。彼女にとって、楽しいなんて感情はないも同然の生活を送っていたのだ。やっと人間らしい感情を取り戻し始めた少女には、このペースは早すぎるらしい。

 前を歩く彼らのように、いつか楽しいとやらをわかるときが来るのか。

 いまの彼女は、新たな不安を感じつつ、やはり問題児たちを止めようとは思わなかった。

 視界の端で、ジンが疲れ切ったように、かつ、すべてを諦めた表情をしたのは、ここだけの話だ。

 ちなみに、聞くことに疲れた燈火は、再び眠りに入った。彼女は基本的に朝に弱い。こうして連れ出されていようと、安心できる仲間の背であれば、こうして寝ていられるのだ。

「ふふっ、かわいい寝顔ね」

「だな」

 耀の肩から覗く、安心しきった寝顔に、問題児たちはたいそう満足したらしい。

「……いざ、よい…………」

 当の本人である彼女も、寝言ながら十六夜の名を呼ぶ。

「あら、よかったわね、十六夜くん?」

「うん、よかった。これで十六夜もご機嫌」

 それを聞き取った女性陣は、彼をおもちゃにでもするように言葉を重ねていく。

「まさか夢の中でも十六夜くんが出てきているなんて」

「これは相当信頼されているに違いない。……ううん、もしかしたら――」

「ええ、そうね。もしかしたらこれは――」

 大仰に身振り手振りでその先に続く言葉を悟らせようとする二人だが、振り向いたころには、十六夜はすでに"サウザンドアイズ"の支店の前まで二人を置いて行ってしまっていた。

 さすがにここまで軽くスルーされたことなぞ初めての二人は、怒ったように走り出し、その後。

 ぶっ飛んで現れた白夜叉に激突し、三人仲良く水路へと吸い込まれていった。

 唯一、燈火だけは空中で十六夜に抱えられ、濡れずに済んだとか。

 かくして、彼らは目的地につながる場所へと辿り着いた。

 

 

 

 次に燈火が起きたとき、話は随分と進んでいた。

「ちょっと待って。その話、まだ長くなる?」

「ん? ん、そうだな。短くともあと一時間はかかるかの?」

「それはまずいかも。……黒ウサギたちに追いつかれる」

 追いつかれる。

 そのキーワードから、燈火は十六夜たちが逃げ回っていた。もしくは似たようなことを始めようとしていたのではないかと推察した。

 確かに、すでに黒ウサギが動き出していれば、一時間もあれば簡単に見つかってしまうだろう。

 同じように考えたジンは咄嗟に立ち上がり、

「白夜叉さま! どうかこのまま――」

「ジンくん、黙りなさい!」

 申し出を口にすることもできず、飛鳥の支配する力によって口を閉ざされた。

「白夜叉! いますぐ北側へ向かってくれ!」

「む、むぅ? 別に構わんが、なにか急用か? というか、内容も聞かず受諾してよいのか?」

 その隙を見逃さず十六夜が促すと、白夜叉は疑問をぶつけるが、しかし。

「構わねえから早く! 事情は追々話すしなにより――そっちの方が面白い! 俺が保証する!」

 間を空けずに答えた言い分に白夜叉は瞳を丸くし、哄笑を上げた。

「そうか。面白いか。いやいや、それは大事だ! ジンには悪いが、面白いならば仕方ないのぅ?」

「……!?……!??」

 白夜叉の悪戯っぽい横顔に、声にならない悲鳴を上げるジン。しかし、もうなにもかもが遅い。

 燈火は目を覚ましたが、状況に頭が追いついていない。どう考えてもここでジンの味方にはなってくれないだろう。

 彼ら一人一人の行動に興味深そうな視線を送りながら、白夜叉は両手を前に出し、パンパンと柏手を打つ。

「ふむ。これでよし。これで御望み通り、北側に着いたぞ」

「「「――……は?」」」

「北側……? それはどこ……」

 ジンを押さえ込んでいた問題児たちからはすっとんきょうな声が。緋色の髪の少女からは疑問の声が同時に上がった。

 北側までの距離、実に980000kmという果てしない長さをこの一瞬で。

「十六夜、どんな状況?」

 立ち上がった燈火は、彼の制服を掴みながらわけのわからない部分を埋めようとする。

「ちょっとした遊び、だな。こっちに来たのにはちゃんと理由があるらしいが、まあいまやるべきことは黒ウサギたちとの鬼ごっこだな。燈火も逃げる準備をしておけよ」

「逃げられるようにしておけばいい?」

「そういうことだ」

 言われると、彼女は首を縦に振り、いつものように衣装を変化させた。

 かわいらしい意匠の施された外套に身を包んだ、小柄な影。

 表情はうかがい知れない。というのも、ウサギ耳のような飾りのついた大きなフードが、彼女の頭をすっぽりと覆い隠していたからだった。

「ほう……ほうほうほうほうほうほう」

 燈火の衣装をじっくり、四方八方から眺める白夜叉はしばし黙り込み、手に持つ扇子をパチンと閉じ、

「買いだな!」

 なんともはっきりとそう口にした。

「いや、売らねえから」

「売らないわよ」

「売るわけがない」

 しかし。十六夜、飛鳥、耀が拒み、白夜叉が冗談だ、と決して冗談では済まされない危険な瞳をしながら言った。

「けど悪くねえ。燈火のイメージにはよく似合ってるんじゃねえか」

 顔を上げる燈火の緋色の髪は、先端から海のような青へと変わっていた。

 なんというか、守ってあげたいという気持ちが湧き上がってくる容姿なのだ。

 儚く消えそうな印象とよく合っている。

 問題児方はと言えば、よくよく見てみると、床に赤い染みがあるが、どうやらそういうことらしい。

 すでにぬぐわれた後だが、効果は抜群のようだ。

 というわけで準備の整った一行は、次の瞬間。燈火の手を取り、期待を胸に店外へと走り出した。

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