世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ? 作:あばばばば
よくわからないウサギ耳の少女にぶつかられた挙句、押し倒された燈火は、とまどっていた。もとい、頬を赤らめていた。
なぜなら、ぶつかってきた本人である黒ウサギが、ケガがないか心配してまじまじと見つめてくるからである。
(こんなに視られるの、三年ぶり……。むりぃ……)
そう、人と関わることのない三年間を送ってたせいか、直視されることを恥ずかしがっているのだ。
もはや半泣きである。
はたから見たら、黒ウサギが燈火を押し倒して泣かせている図にしかならないことをわかってないのは、当の本人たちくらいのものだろう。
「百合だな」
「百合だね」
十六夜と耀が頷きあう。飛鳥は「百合? 花かしら?」などと首を傾げていた。
しかし、これでは話が続かないと察した十六夜は、黒ウサギを燈火から引っぺがした。
「な、なにをするんですか!?」
「こっちの台詞だ。百合百合しい展開を見てるのも悪くはねえが、俺たちに対しての説明をそろそろしてもらおうと思ってな」
「そ、そうだったのですよ。では、話を――って、なんでまた黒ウサギの素敵耳を引っ張るのですか!?」
「好奇心の為せる業」
「さっきも聞きました!?」
耀が再び動き始めたせいか、先程とまったく同じ光景が再現された。
一人残された燈火は、右脚をさすっていた。
「――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話しを聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」
「いからさっさと進めろ」
半ば本気の涙を瞳に浮かばせながらも、黒ウサギは話を聞いてもらえる状況を作ることに成功した。四人は黒ウサギの前に座り込み、彼女の話を『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾けている。
「それではいいですか、御四人様。定例分で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います! ようこそ"箱庭の世界"へ! 我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚いたしました!」
「ギフトゲーム?」
「そうです! 既に気づいていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその"恩恵"を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」
両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。飛鳥は質問するために挙手した。
「まず初歩的な質問からしていい? 貴方の言う"我々"とは貴方を含めた誰かなの?」
「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある"コミュニティ"に必ず属していただきます♪」
「嫌だね」
「……むり」
十六夜と燈火は即座に否定する。
「属していただきます!」
それには怯まず、黒ウサギは話を続け、
「拒否権を――」
「ぞ、く、し、て、い、た、だ、き、ま、す!!」
それでも食いつく燈火に、黒ウサギは一音一音言い聞かせるかのようにして黙らせ、今度こそ話を続けることに成功した。
「そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの"主催者"が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」
「………。"主催者"って誰?」
「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための――」
これから数分黒ウサギと女子二人の会話が続いた。
「――さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが………よろしいですか?」
「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」
清聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。
「………どういった質問です? ルールですか? ゲームそのものですか?」
「そんなものはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ、世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」
十六夜は視線を黒ウサギから外し、他の三人を見まわし、巨大な天幕によって覆われた都市に向ける。
彼は何もかもを見下すような視線で一言、
「この世界は………面白いか?」
「――――」
他の三人も無言で返事を待つ。燈火は特に興味なさそうに。
彼らを呼んだ手紙にはこう書かれていた。
『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。
それに見合うだけの催し物があるのかどうかこそ、三人にとって一番重要な事だった。
燈火はそれ以前に、なぜ自分なんかを? と疑問を浮かべているのだが。
「――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」
「ジン坊っちゃーン! 新しい方を連れてきましたよー!」
外門前の街道から黒ウサギたちが歩いてくる。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの二人が?」
「はいな、ことらの御四人様が――」
クルリ、と振り返る黒ウサギ。
カチン、と固まる黒ウサギ。
「………え、あれ? もう二人いませんでしたっけ? ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から"俺問題児!"ってオーラを放っている殿方と、緋色の髪のちょっと危なっかしい女の子が」
「ああ、十六夜君と燈火さんのこと? 彼らなら"ちょっと世界の果てを見てくるぜ!"と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」
街道の真ん中で呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて三人に問いただす。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「"止めてくれるなよ"と言われたもの」
「ならどうして教えてくれなかったのですか!?」
「"黒ウサギには言うなよ"と言われたから」
「嘘です、絶対嘘です! 実が面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」
「「うん」」
ガクリ、と前のめりに倒れる。まさか召喚した人材がこんな問題児ばかりだなんて嫌がらせにも程がある。
「なら、どうして燈火さんまで行ってしまったのですか!」
この質問に対し、飛鳥と耀は目を合わせた。
「黒ウサギが押し倒した際に右脚を痛めて歩けなかったところを」
「十六夜君がおぶってやると言って背負っていたからでしょう? つまり黒ウサギのせいで十六夜君の動きに合わせるしかなかったのよ」
倒れているのでそれ以上の反応は黒ウサギからあがらなかった。
見事な連係プレイだった。問題児同士はすでに息が合っているらしい。
改めて言うが、嫌がらせにもほどがある。
燈火が右脚をさすっていたのはそのためなのだが、それにいち早く気づいた十六夜の提案によって背負われいたのだ。
彼女はかなり提案を拒否――ただ首を横に振っていただけ――していたのだが、最終的に十六夜に無理矢理背負われた。
十六夜が何を思って彼女を連れて行ったのかは不明だが、どうにも燈火と言う少女は見ていて不安で仕方がないといった印象を黒ウサギは持っている。
(だいじょうぶでしょうか? なにやら人と一緒にいるのが嫌な素振りがありましたし……)
「た、大変です! "世界の果て"にはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が」
ジンが慌てた様子で口を挟む。
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に"世界の果て"付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」
「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー? ………斬新? チュートリアル中にバットエンドも斬新?」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
ジンは必死に事の重大さを訴えるが、二人は叱られても肩を竦めるだけである。
黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。
「はあ………ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御二人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかった。黒ウサギはどうする?」
「問題児を捕まえに参ります。事のついでに――"箱庭の貴族"と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」
悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある黒い髪を淡い緋色に染めていく。燈火の髪とはまた少し違う、優しい印象の緋色だ。
外門めがけて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張り付くと、
「一刻程で戻ります! 皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能くださいませ!」
黒ウサギは、淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしめた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に三人の視界から消え去っていった。
巻き上がる風から髪の毛を庇う様に押さえていた飛鳥が呟く。
「………。箱庭のウサギは随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが………」
そう、と飛鳥は空返事をする。飛鳥は心配そうにしているジンに向き直り、
「黒ウサギも堪能してくださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。二人の名前は?」
「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」
「春日部耀」
ジンが礼儀正しく自己紹介する。飛鳥と耀はそれに倣って一礼した。
「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
飛鳥はジンの手を取ると、胸を躍らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐる。
その後に続くように、耀がついていった。
よく見たら主人公一言も発してないけど、まあいっか。きっと次回は話すし!
主人公の影がどんどん薄くなっていく……。