世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ? 作:あばばばば
名前すら出てきてないのに言動ひとつでなんといことか。
まあいいか、あいつは仕方ないね。
何年ぶりだろうか?
初めて自分の願いの正体に触れたとき以来のような気がする。実際はどうであったか覚えていないが、たぶん間違いない。
燈火は自分の中でそう答えを出した。
目の前の黒い少女の頬に触れ、そこにいることを改めて実感すると、嬉しそうに笑みを見せる。
対して、燈火に好き勝手にさせている黒い少女はと言うと、
「……」
特になにかを言うわけでもなく、無表情で燈火を見つめていた。
「どうか、した……?」
その顔を見て取れたのだろう。燈火が不安そうに訊いてくる。
なぜなら、現在浮かべている無表情が、本当の意味でなににおいても動じていない状態だったからだ。
「あの、オー……」
「いまは、楽しい?」
彼女の言葉に重ねるように、黒い少女は質問する。
「え? ――楽しいなんて訊かれても、わからない。ねえ、楽しいってなに……?」
「我も、その感情は知らない。感じたことのないモノは、言葉にできない」
燈火は、この少女であれば『楽しみ』とはどういったことかを理解できると思っていた。質問の内容には一瞬戸惑ってしまったが、逆に答えを得るいい機会になると、そう思っていたのに。
「あなたでも、わからないことがあるんだね」
「我、すべてを収めた者ではない。燈火と同じように、半端」
同じ。
だが、変わり始めている。
(燈火の心、いままでとどこか違う……)
過去に自分が与えた加護。まだ一度として発動した様子はない。つまり、力によるものではなく、他に所以するはず。
黒い少女は、燈火の変化を感じ取り、それが無理やりによるものでないことまでを把握する。
「半端だけど、いい方向に転がりそう」
「なに?」
ポツリと漏れた言葉は拾えず、燈火は訊き返すも、黒い少女はなんでもない、と首を横に振った。
「知らない感情は、教えてもらわない。体験して、知るべき」
かつての自分がそうであったから。
心の中だけで、黒い少女は付け足した。
もう遠い過去の話だ。ひとつの目的のため、周りに言われるがままに力を与えていたころ。世界に二匹しかいない龍たちが、その仲間が、自分を変えてくれた。
彼らと過ごすうちに、多くの感情を、人との関わりを持った。だから、たまにはウソをつくこともある。
楽しいとはなんなのか、黒い少女はよく知っていた。なにせ、周りが騒がしく、問題ごとも尽きないからだ。彼らといた時間は、本当に退屈しなかった。
だからこそ、燈火にも誰かの言葉でなく、楽しむことを実感してほしい。
(我も、随分と変わった)
いったい、いつからここまで考えて行動するようになったのか。おかしなものだ、と笑みをこぼす。
「どうかしたの?」
「燈火の成長が嬉しかった。変われたと言ってくれたこと、嬉しい」
黒い少女は、自分より背の高い燈火の頭を、背伸びをしながら撫でる。ここだけ抜き取ると、姉が妹に褒められているようである。
一通り話して満足したのか、少女は燈火から距離を取った。
「我、来れてよかった。燈火、いまの仲間を大事にして」
片目を瞑り、次いでひとつ、あいさつ代わりに指を鳴らす。
変わらない仕草に、別れが近いことを悟る。
「もう、行っちゃうの?」
「我、本来ならここにはいない存在。――今日は様子見。また、来ることもある」
「本当?」
「ウソは言っていない。だからそれまでに、楽しいがなにかを知ること」
一方的に言葉を残し、黒い少女はその場から姿を消した。
数年ぶりの会話は、十分にも満たない時間で終わってしまったことになる。
だというのに、燈火の顔には残念や後悔などといった感情は見当たらなかった。彼女は彼女なりに、わずかな時間でも会えたことだけで満足しているようだ。
「約束の話、あの子に伝えてね」
少女が最後に立っていた場所を見つめながら、燈火はつぶやく。
「あなたの妹さんとの約束、破っちゃってごめんなさい……オーフィス」
すでに消えてしまった女の子の名を呼ぶ。その声は、辺りに吹いた風によってかき消された。
一方、黒ウサギとのゲームがひと段落し、さらには魔王襲来の報せを白夜叉より聞かされた帰り道。
渋々といった様子であったが、"ノーネーム"が魔王のゲームの攻略に協力することまでは取り付けた。さらに言えば、魔王を倒してしまっても問題ないと許しは出ている。
箱庭に来て早々、魔王のゲームに挑めるとは、願ってもない。
十六夜は楽しそうに笑うが、ともに帰り道を歩く黒ウサギとジンは緊張した面持ちをしている。
「どうして十六夜さんはいつもいつも、強敵が相手となると楽しそうなのですか……」
同士の安全を考える黒ウサギは、突っ走りがちな十六夜が危険な目に遭わないかと心配なのだ。相手は魔王。いくら十六夜が強いと言っても、相手が魔王ともなれば易々と勝たせてもらえるはずがない。
だからこそ、彼にはもう少し考えた上での行動を取ってほしいと願うのだ。
「……」
普段ならウサ耳のひとつでも掴んでいるはずの十六夜が、黒ウサギの言葉に反応せず、前を進む。
「どうかしたのですか?」
不思議に思った彼女は十六夜に問いかけるが、やはり返事はない。
新手のいじり方かと警戒するも、いつになってもそのあとがあるわけでもなかった。
では、なぜ――?
ジンと顔を合わせ、互いにわけがわからない、と手を上げる。
これなら反応するか! と二人同時に十六夜に視線を向けるが、無反応。
「もう! なんで無視するんですか!」
耐えきれなくなった黒ウサギが十六夜の肩を掴むと、舌打ちが返ってきた。やっと反応があったことに喜ぶ黒ウサギだが、冷静に考えると決して喜んでいい反応ではない。
それがわかっているジンは、曖昧な表情をしている。
「ったく、もう少しで向こうから接触してくるかと思っていたんだがな」
「はい?」
「つけられてたんだよ。なんだ、わからなかったのか?」
「「……っ!?」」
十六夜の言葉を理解した瞬間、険しい顔をする黒ウサギとジン。
「いや、待て。どうやらいきなり仕掛けて来たりはしないみたいだ」
二人の肩に手を置くのと同時。三人から離れた位置にある建物の影から、一人の男が姿を現す。
「なんだ、気づいてたのか」
「ハッ、気づいてくださいと言ってるようにしか感じなかったぜ?」
「そうかい、そうかい。なら、次はもうちょい頑張ってみるかね」
次があるかは別だが、と続ける。
(俺たちを倒せるだけの実力があるのか、それとも次ってのは、なにか情報的な話か? まさか白夜叉側の奴じゃねえだろうし……)
眼前の男の正体を探り出した十六夜は、注意深く言動を観察する。
「おーおー、怖いなぁ。んな警戒しなくてもなにもしねえよ、御三人」
「よく言うぜ。そういう奴に限って、後々現場を滅茶苦茶にかき乱してくるんだからよ」
十六夜の発言に、ピクリと男が反応した。
「まあ、間違っちゃいないかな。ときにあんたら、あいつとつるんでるんだってな?」
「あいつ?」
思い当たる人物が一人いるが、あえてその名を口には出さなかった。
黒ウサギとジンも同じようだ。
一気に警戒度を上げ、男を睨む。
「んだよ、俺は敵じゃねえっつーの。むしろおまえらを救ってやろうとさえ思ってる善良な市民さまだぜ?」
「善良な一般市民は自分をさま付けしねーよ」
「そもそも怪しすぎます」
間髪入れずに放ってくる言葉を聞き、こりゃ参ったね、と溜息がひとつ入る。
「ってもなぁ、俺がウソを言ってるわけじゃねえんだわ。だいたい、おまえらはあいつの正体を知った上で一緒にいるわけじゃないんだろ?」
「さっきからあいつって言われても誰かわからねえよ」
十中八九、思い浮かべる少女と同じなのだろうが、これで退けば儲け物。退かなくてもそれでいい。
三人の視線を集める中、男は静かにその名を口にした。
「夜鈴燈火。世界の災厄を受け入れる覚悟が、キミたちにはあるのかな?」
嗤う。
腰まで届く、無造作に伸びた髪を風になびかせながら、目の前の男は燈火を災厄呼ばわりした。
「おい、いまなんて言った?」
十六夜の声が、とたんに冷えていく。これまでの相手を挑発し、適当に流すだけのときとは明らかに違った。
「先程の発言、謝罪していただくのですよ!」
黒ウサギも、髪が緋色へと変わり、明確な敵意を向ける。
「彼女は僕らの同士です! どこのどなたか知りませんが、取り消してもらいます!」
最後はジンまでもが、男に向かい声を発した。
呆れた様子で三人の反応を眺めていた男は、やれやれ、とまた溜息をついた。
「おまえら正気かよ? あいつを仲間だなんて思ってるのなら、早めに考えを改めるべきだな。なんてったって、あいつ化け物じゃん? しかも世界を壊しちまうような最低最悪の奴だぜ!? それを守るて、アッハハハハハハハハ! 笑わすなよ」
大声で、それものけ反りながら笑ったかと思うと、笑みを消して冷徹な面を見せる。
「どれだけ変わったってんだよ。いまも昔も、あの化け物が世界の破壊者であることに変わりはない。世界はな、あいつを殺せと言ってるんだよ。あれは世界の害虫だってな。だから俺があいつをぶ――ッ!?」
台詞を言い終える前に、男が近くにあった建物の壁を突き破り、さらに何軒もの店を破壊しながら吹き飛んでいく。
「……悪いな、黒ウサギ。今回ばかりは手加減とか、期待すんなよ」
男を殴り飛ばしたであろう本人――十六夜が、黒ウサギに話しかける。
ハリセンが来るかとも思ったが、そんなことはなく、彼女は笑顔で答えた。
「YES! 今回は思いっきりでいいのですよ、十六夜さん! 彼には温厚な黒ウサギも少々――いえ、かなり頭に来ました」
「僕もです! あとのことはすべて白夜叉さまに投げるので、彼を頼みます!」
ジンがさらっと責任を押し付けた。そもそも押し付けられるのだろうか?
などと疑問に思っていると、吹っ飛んでいった男が戻ってきた。
「やれやれ。無駄な争いは相手が勝手に死んでくだけだから好きじゃないんだけど、不意打ちされるってのも癪だから、おまえも殺すわ。後悔すんなよ?」
「おまえ、燈火の知り合いか? そもそも誰だよ」
「スルーは悲しいけど、まあそうだな。あの化け物とは何度か会ったことがある程度の知り合いだ」
虚空から刀を抜きだした男は、その切っ先を十六夜に向ける。
「俺のことが知りたいなら、ちょっとつきあえよ。最近の化け物の話でもしながらさあ!」
男の顔が歪む。不気味に笑った顔は、燈火とオーフィスの会話を盗み聞きしていた男のものと、よく似ていた。
さて、いろいろ出てきた今回です。
次回から物語は加速していく的な展開ではないのでご安心を。これ以上は作者がパンクします……。
ここ数話は少し読みにくいかと思いますが、おつき合いください。
ちなみに、いつも酷いことになっているサブタイですが、今回は感想があれだったから仕方ないよね! あと、別に燈火は胸が好きとかないから!