世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ?   作:あばばばば

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今回はなぜか彼を登場させてしまったんですよね。


否定するのは変わらないそうですよ?

 刀を低めに構えた男は、十六夜の振るう拳を寸前まで引きつけ、下から斬り落とそうと刃を引く。

「チッ」

 やむなく、地を蹴り後方に下がる。

「んだよ。あんだけ派手に殴ってくれたからどれだけ強いかと思ったら」

 男は深い溜息をつき、十六夜を見る。

 その瞳には、確かにつまらないと浮かんでいた。

「溜息をつかれたのは久々だなおい」

 数度目の攻防を終えた十六夜は、不意の一撃以来のらりくらりとやり過ごされていると感じていた。

 最初こそ、持ち前の力に圧倒されているようであった男も、いまは速度にもなれたのか、楽々とかわしていく。

 それだけならいいのだが、時折カウンター気味に柄で側頭部を叩きに来たり、本命である刃を首元へと持ってくるのだ。

(力任せに足元から崩してみるか?)

 正面から崩すのは面倒かと思い始めた十六夜は、拳を下に向ける。

 が、振り下ろした先には男の持つ刀の柄が待ち受けていた。

「なっ!?」

「動きが単調なんだよ。止めるのも避けるのも簡単ってな」

 拳と柄がぶつかり合い、余波により、周囲の建造物にヒビを入れていく。

「……力はあっても実戦経験の少ないただの子供に変わりなし、か。やっぱつまらね――ぐっ!?」

 徐々に。

 徐々にだが、十六夜の拳が柄を押し始める。

「俺を評価するにはちょっと時間が足りないんじゃねえか?」

 正面から、楽しそうな声が聞こえてくる。男の耳に十六夜の声が届くころ。

 男の手から刀が弾かれ、十六夜の拳は足元の地面へと突き刺さる。

「クソッ、まさかここまでかよ!」

 即座の行動力で、身体を反転させ力の限り地面を蹴る。が、それは悪手だった。

「おいおい、どうしたぁ! 余裕がなくなってきてるぜ!」

 足場を崩した十六夜は、焦って決定的な隙を見せた男の顔面に向け、再び拳を引き絞る。

 殺気――。

 自分が敵に回した金髪の少年から感じたそれに反応してしまった男は、判断を反射的に、逃げるための体勢から、守るための体勢へと固めてしまったのだ。

 逃げることも、守ることも半端にしてしまった男は、悟った。

 この一撃は確実に自分の命を刈り取れる一撃であることを。

(こりゃ、喧嘩売る相手を間違えたな。残念だが、この状態でこいつは殺せねえ。あーあ、こんなところでこの一手は打ちたくなかったんだが)

 十六夜の拳が眼前まで迫ったとき、男は暴力的な笑みを浮かべた。

 だが、構うことなく振り切った拳は、宙を切った。

「消えた……?」

 ジンを巻き込ませまいと、彼を連れて避難していた黒ウサギは、状況を見てつぶやく。

 ずると、彼女の背後で着地するような音が鳴った。

 振り返ると、さきほどまで十六夜と戦っていたはずの男が片膝をついていた。わずかにだが、右腕に裂傷がうかがえる。

「だークソッ! "ノーネーム"ってのは雑魚の集まりじゃなかったのかよ! んだよあの金髪!」

 傷にはまったく目も向けず、気にした様子もない。

 だが、十六夜に対してはそれなりに思うところもあるらしい。

「あなたはいったい……」

「ん? おお、さっきのウサギじゃん。少年はせっかちで怒りっぽいからあんたでいいわ。あの化け物の近況を教えろよ」

「はい!?」

「こっちに来てから何人殺した? もしくは土地ごと滅ぼした? なあおい、答えろよ。本当はあいつといるのが怖いんだろ? あんな奴なんて早く消えてほしいよなぁ?」

 まだ続くだろう、この耳障りな声を止めるべく、ギフトカードに手を伸ばした黒ウサギが、しかし。

 男の背後に映った人影を察し、数歩後ろへと下がった。

「あ? なに後退してんだよ! まだまだ質問に答えて貰うから待ってろって」

「いいえ。質問の答えはすべて決まっています」

 さらに一歩、下がる。

 意味のわからない動作に、男がつられて一歩踏み出した直後。

「答えはNoです。燈火さんは、私たちの大事な仲間ですから」

 黒ウサギが答えたのとほぼ同時に、男は顔面から、地面へ埋まった。答えが聞こえたかは怪しいところだ。

「不愉快なんだよ、てめえの言葉。俺たちがあいつを嫌うことはないし、裏切ることもない。それはお嬢様や春日部たちも同意見だろうぜ」

 男を地面に突き刺した十六夜は、すっきりしたと言わんばかりの表情をして、哀れな男の横を通り過ぎる。

「十六夜さん!」

「おう、黒ウサギ。悪くなかったぜ、おまえの誘い。さすがは箱庭の貴族(エ――」

「なにを言うおつもりですか!」

 スパーン。軽快な音が鳴り、十六夜の口をすんでのところで止める。

「まったく、やってくれたよ本当に。これだからあの化け物に関わる連中は嫌いなんだ」

 男の声が――埋まったままの地面から聞こえてくる。

 なんというか、言葉のわりに緊張感のまるでない光景だ。

 十六夜と黒ウサギも顔を見合わせ、微妙な表情を浮かべている。

「なあ、無事なら無事で、そこから出てきたらどうだ?」

 それまでは待ってやるからと十六夜に言われるも、男からの返事はない。

 不審に思い男に近づくと、地面の中から、十六夜の首筋へと刀が飛び出る。

「よっと」

 難なくかわすと、十六夜の手を真似るように地面が割れ、男が再び十六夜と向かい合う。

「不意打ちばかりしやがって。様子見のつもりがだったんだがな、こっちは。あの化け物の話も聞けねえし、損な役回りだぜ」

「あいつは言ってたぞ」

「化け物のことか? 世界の破壊者がなにを言うってんだよ」

 燈火と出会った日。

 彼女は確かに言ったのだ。自分を否定されようとも、それでも。

「世界が好きだったからってな。だから壊さねえって言ってたんだよ」

「だからどうした! 事実として、あいつが化け物であることに変わりはない! いいか、よぉく聞いておけ。あいつはすでに、俺たちの暮らす世界を壊してんだよ」

 刀に炎が燈る。

「なあ、金髪くん。おまえも自分の暮らす世界が破壊されれば、あいつが化け物だと思うだろうさ。たとえ、どんな理由があり、どれだけ親しい仲だったとしても、必ずな」

「……おまえ、まさか」

「おしゃべりはここまでだな。それとも、訊きたいことでもあるか?」

 考える時間が欲しいのか、それともただの気まぐれか。

 男は十六夜に尋ねる。

「なら、ひとつだけ質問してやるよ」

「なにかな?」

「おまえは燈火のなんだ?」

 質問を聞き終えた男の最初の反応は、沈黙だった。いや、より詳しく言うのなら、非常につまらなそうにしているのだ。

 だが、しばらく時間が経つと、諦めたように口を開いた。

「監視役。もしくは世話係。あるいは――化け物を殺すように命令された暗殺者。以後よろしく、金髪くん。あの化け物さまが死んだら仲良くしようぜ。そっちのウサギもな」

 男は明るく微笑みながら、二人に話しかける。

 まるで、燈火が死ねば全員が手を取りあえると信じているかのように。

「何度か斬ってやったけど、どうせ傷なんて回復しちまうんだよなぁ。いつになったら平和は訪れるんですかね? こう、スパっと化け物の命を刈り取れるようなモンがあればいいんだけどさ」

「もういい」

「ん? そうかい。あいつの現状を知るために来たってのに、散々な目に遭ったぜちくしょう。でもまあ、収穫もあったな。アレを殺すには、絶望に染め上げるのが一番だと思えたからね」

 ここに来る前の燈火たちの会話を思い出しながら、男は語る。

 結局、黒い少女が誰かはわからなかったが、どうでもいいことだ。最後にたった一人を消せるのならば、結果は変わらない。

 そう、変わらない。

 変われる者などいない。どれだけ人に囲まれようと、変わったと言おうと、それを認めるか否定するかを判断するのは周囲の連中なのだ。

「化け物は化け物。人間は人間。誰かが区別をつけねえといけないのさ。たとえばだが、金髪くん」

 呼びかけるころには、男の姿が溶けるようにその場から消えていく。

「――おまえ、この光景を見ても、こいつが化け物じゃないと言い切れるか?」

 男が再び現れたのは、緋色の髪を持つ少女の真後ろ。

「燈火……!?」

「燈火さん! 離れて!」

「え?」

 オーフィスと話し終えた燈火は、騒ぎの先に十六夜たちがいると考え、近辺まで来ていた。いや、来てしまっていた。

 それも、白いワンピースに身を包んだ状態で。

「久しぶりだな、化け物。また殺しに来てやったぜ? 今度はきっちり殺し尽くしてやるよ」

 一閃。

 男の持つ刀が、燈火を背後から斬り裂く。

「――ぁ」

 小さな、本当に小さな声を発して、燈火はその場に倒れこむ。

「燈火!」

 男の眼前に到達した十六夜は、燈火に向けられた二度目の斬撃を拳で払うと、走ってきた際に拾っておいた小石を男に向け投げつける。

「はっや!?」

 至近距離からだというのに、驚きながらも小石を切り捨てる。

 だが、どう見てもその距離が不利と見たのか、後退し距離を稼ぐ。

「おい、燈火! 燈火!」

 彼女を抱き起すと、すでに衣装が変わっていた。

 着ていたワンピースは白い和装へと。袖は半ばから揺らめく火焔に変化している。天女の羽衣のごとく身体に絡みついた炎熱の帯。そして、側頭部より伸びた、二本の無機的な角。

 間違いない。

 ガルドとのギフトゲームで見せたものだ。

 十六夜が確認した瞬間、燈火に刻まれた一筋の切り傷から焔が噴き出した。

「これは――」

 焔が収まると、傷も、流れ出た血すら、一切がなくなっていた。

 数瞬前まで負っていた傷は、見る影もない。

「……また、あなた?」

 いま攻撃を受けたのが十六夜たちの錯覚だったかのように燈火は立ち上がり、男へ視線を向ける。

「ほら、やっぱりな。やっぱりおまえは死なない。見たろ、金髪くん。そいつは文字通りの化け物。人じゃない。ならばなぜ、仲良くできる?」

「燈火、おまえだいじょうぶなのか?」

「ん、平気。痛いけど、治るから。それに、もう慣れてる…………。こんなの、元の世界じゃ毎日あった時期もあったから……」

 悲しそうに瞳を閉じる彼女の姿は、とてもではないが平気そうに見えない。

(こんなときの励まし方、あいつに訊いとくべきだったな)

 いま亡き女性のことを思い出しながら、ぐしゃぐしゃと燈火の頭を撫でる十六夜。彼にはこれくらいのことしか思いつかなかったのだろうか。

「なぁに無視しちゃってくれてんだよ。化け物といちゃいちゃ、いちゃいちゃと! おまえは永遠に絶望してろよ破壊者! なにも変われない奴が、人と慣れあってんじゃねえよ!」

 怒りを露わにした男は、刀に再び炎を燈すと、燈火へ向け突貫する。

「させるかよ!」

 駆け出し、男を迎え撃とうとする十六夜だが、男の姿が霞み、燈火の真正面へと出現した。

(空間移動か!? いや、なにか違うが、まずい!)

 男の能力に気づき始めた十六夜だが、すでに遅い。

 黒ウサギがいまさら動き出しても、間に合うことはない。

 治るからいいのではない。治るからこそ、痛みに慣れさせてはいけないと、十六夜はわかっていた。このままでは、いつか必ず燈火は間違いを起こす。回復に頼り、自身を犠牲にするときがやってくる。

 だからこそ、彼女のことを知ったいまだから守りたいのに。

 振り下ろされる刀は、燈火の頭上へと迫り、そして――。

 

 

「……痛く、ない?」

 傷つくことを覚悟して目を閉じていた燈火は、いつまでたっても斬られる感覚が襲ってこないことに疑問を持ち目を開く。

 不自然な位置で、とでも言えばいいのか。

 自分に迫っていたはずの刀は、遥か手前。それも、なぜか斜めに傾いて止まっていた。

「ヤホホ、騒がしいから見に来てみれば。これはとんだ場面に遭遇したものです」

 陽気な声が聞こえる方向を見ると、人の頭の十倍はあろうかという巨大なカボチャが、男の持つ刀を、腕ごと掴み、無理やりに方向を変えていた。

「子供に手を出したのは、これが初めてか?」

 陽気な声は鳴りを潜め、冷え切った、されど怒気に染まった声が男に向けられる。

「はあ、あんたも邪魔する口? ゲストはお呼びじゃねーですけど。ってか、俺がこいつを何度殺しに来たところで、あんたには関係なくない?」

「純粋そのものに見える少女を傷つけて、あなたの良心はまるで痛まないと?」

「当然。そいつは殺されてあたりまえの存在なんだよ。子供だから? 少女だから? んなこと知るか。世界に否定されるべき奴に、良心がなんだってぇ!?」

「そうか。おまえは、一番やっちゃいけねえことをしたいようだな!」

 瞬間。カボチャ頭から業火が噴き出した。

 

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