世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ? 作:あばばばば
二週間ほど空きましたが、更新ですよ。
また、時間を見て続きを書いていきますのでよろしくお願いします。
巨大なカボチャが雰囲気を一変した瞬間、男は惜しむことさえ考えず、空間を跳んだ。
再び姿を現したのは、全員を見渡せる高い建物の上だった。
「ったく、あんた一番危ないぜ?」
「……」
「反応なしか。あーあ、ちょっとしたあいさつのつもりが、揃いも揃って化け物を守るかねぇ。あんたらは特に関係ないから、できれば斬りたくないんだけど」
男は刀を回しながら、周囲に散らばる十六夜、燈火、黒ウサギを、順に目で追う。
最後に、自分を止めたカボチャへと視線を移し、ひとつ笑った。
「あんたらが手を貸してくれたなら、俺の世界も救えたのかもなぁ……。ホント、神さまってのは都合よくできてるよ」
「なんの話だ?」
十六夜が問うも、男は特に反応らしき反応を示さなかった。
まるで、ここではないどこか遠い場所を見るように。
「カボチャと遊ぶには、ちょいとしんどいみたいだ。仕方ないから、また今度にしてもらおうか」
「逃すとでも思っているのか?」
「怖い怖い。でも、あんたらに俺は捕まえられないって」
仕掛けてきた当初より倍の人数に囲まれながらも余裕の表情を崩さない男は、そこでひとつの違和感に気付いた。
十六夜の隣に立つ燈火の、その衣装。傷を治すためのものではなく、いつか見た、特徴的な帽子。
「おい、化け物……おまえ、いつの間に!」
隣にいるはずの十六夜を確認したのち、確実に、焦りの表情が浮かぶ。
「いつの間に天使を!」
男が叫ぶのと同時。
燈火の側にいたはずの十六夜が、コミカルな音を立てて弾けた。そして——問いの答えは、すぐ後ろから放たれる。
「おまえが偉そうに、あいつを化け物呼ばわりしているときだ」
「クソッ、おまえ——ガッ!?」
背後の気配を察した瞬間には、男の体は宙に投げ出されていた。
「ヤホホ、お見事。これは手を出す必要がなさそうだ」
カボチャが表情を緩め、男を殴り飛ばした十六夜に、楽しそうに笑いかける。
先ほど見せた憤怒がウソであったかのように、穏やかに。
「いや、こっちこそ助かった。こいつに痛みに慣れてはほしくないからな」
建物から降りてきた十六夜は、燈火の頭に手を置きながら、カボチャへと話す。
「いえ、助けになったのならなによりです」
軽快に笑うカボチャを眺めながら、十六夜は燈火に後ろを向くように促す。
普段の白いワンピース姿に戻った燈火が背を向けると、斬られた箇所の傷はやはり消えていた。
「……心配はないか」
「本人に痛みが残っていなければ、この場はだいじょうぶでしょう」
納得したように頷き合った十六夜とカボチャは、燈火の様子を気にかけていただけらしい。
一応のところ、保護者としての自覚がないわけでもない十六夜は、少々過保護になっているのかもしれない。
「よくやってくれたな、燈火。目配せだけでしてほしいことがわかってもらえるとは思ってもなかったわ」
「たぶん、十六夜だから、だと思う……」
「へえ? それはそういう意味だ?」
若干嬉しそうに見える十六夜が訊くと、燈火は頭を抱えながら、わからないと返した。
どうしても、名前のつけられない感情が湧き出てくる。
まだ、自分で答えを出すには、彼女は気持ちを理解しきれていないのだ。
「にしても、あいつは何者だ?」
「えっと……私の世界の、人で……監視してた人?」
「言ってたことに間違いはなしか。だとしても、おまえを狙うのはやっぱり、そういうことでいいんだな?」
「…………」
訊いても返答がないことを疑問に思い、燈火に目線を向けると、服の端を握ったまま俯いていた。
「悪い。責めているわけじゃなくてだな」
十六夜がしゃがむと、燈火が一歩下がった。
まただ。
ペルセウス戦の後と同じように、彼女の中で変化が起き始めている。
それがいいことであるのかの判断は、彼女にも、十六夜にも判断できない。
「燈火? おい、別に怒ってないぞ? それより、まだ終わったわけじゃないから、側から離れるな」
「……怖く、ならないの?」
「おまえのことをか? ハッ、うちにおまえを怖がる奴が、まして、嫌う奴がいるはずないって言っただろ」
「ごめん、なさい……疑うことなんて、ひとつもなかったのに」
俯いていた顔を上げ、十六夜へと向ける。
「んだよ、そんな顔できるようになったなんて聞いてないぞ?」
途端、上から声が響いた。
「なあ化け物。そこの金髪くんがおまえを変えようとしてるのか? それとも、おまえが変わるためのダシにでもしてるわけ?」
見上げると、浮遊した状態の男が、燈火たちを見下ろしていた。
服の所々が破れていたり、頰が腫れているが、目立った損傷は見られない。
(おいおい、さっきのは確実に決まってたはずだろ)
その様子に、十六夜も多少なりとも動揺しているらしい。
「さって、不意打ち大好きな金髪くん。キミに関しては、もう特に怒ってないよ。そもそもキミは関係ないしね。同じ人間同士、仲良くしていきたいとさえ思ってる。どうかな?」
「話を聞く限り、相手が人であれば、おまえは危害を加えないって言ってないか?」
「ん? ああ、その通りだけど。人間は邪魔してこなきゃ相手にしないし、邪魔してきてもある程度で抑えようとは思ってる。だから、もう金髪くんに対して怒りはねえよ」
「だったら、燈火に対しても態度を改めたらどうだ?」
もしかしたらと思いつつも、心のどこかで諦めがついてる状態で訊く。
結果はやはりと言ったところで、男の目つきが険しいものに変わった。
「できねえよ。いや、もうできないってのが、きっと正しいんだろうけどさ。いいかい、金髪くん。どれだけ身近にいる人間だろうと、許せないことだってあるんだよ。なあ、燈火?」
「…………」
「やっぱり応えはしないか。おまえは変わらないよ。あの日からずっと、変わらない。変わろうとするなら、精々気をつけることだな」
「なに?」
男は何度目かになるため息をつく。
「すでに、何度か見てるんじゃないか? そいつの服装や、髪の色が変わるところをさ。あんなもんじゃないぞ、こっちの世界でふるわれた力は。きっと、おまえたちの想像を超えてるよ。なんてったって、一瞬の間に世界が滅ぶんだからな」
口を切ったのか、確認するような仕草を見せる男は、燈火の力がどれほどのものかを説明していく。
「覚悟だけは、しておけ。今後も化け物と関わるようであれば、いずれ、必ずおまえたちと決別する日が来るってことを。なんてったって、そいつの本性はいま――チッ、もうそろそろか」
何事かを思い出し、遠くを見つめる。
「名残惜しいが、時間切れだ。急増のもんじゃいけねえわ」
男の姿が霞み始め、その体が透けていく。
「おまえは一度だけ、確かに変わった。化け物となった日のこと、忘れないことだな。おまえが変わるってことは、また世界が崩壊することに等しいからな。それでも変わるってなら、そのときは化け物の存在を、人の俺が否定してやるよ。今日は消せなかったけど、またそのうち来るから」
「私は変わる。まだ、まだ変われてないかもしれないけど、絶対に変わる。世界を壊すだけの存在には、なったりしない」
「……どうせ、また壊すだけだろ」
「違う」
「違わない。化け物に変わろうとする感情なんてない」
「……わかっては、くれないの?」
「やれないな。おまえはもう、消えるのを待つだけの存在だと気付いた方がいいだろう」
燈火に向けていた目線を十六夜へと移し、
「俺は東魏。東魏慎也ってもんだ。化け物がいなくなった世界で、一緒に楽しくやってこうぜ、金髪くん。じゃあまたな」
当初と比べ、やけに砕けた印象を強めた、慎也と名乗った男は、再会を誓ってその身を消した。
燈火が消えた世界を語りながら。
この場に、彼の意見を肯定する者は一人としていない。
「……私は、もうあなたたちを傷つけたくないだけのに。もう、怖いのは嫌だ…………否定されるのは、嫌だよ……こんな力、引き受けなければよかった」
ポツリと、消えそうな声で漏れた本音は、十六夜の耳に届くことはなかった。
はい、ごめんなさい。
中途半端に終わらせて申し訳ない、保護者さま方!
でもですね、慎也くんはそのうち必要になるのですよ。だから今回だけは生かしてやってください!