世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ?   作:あばばばば

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すれ違い出した問題児

 東魏慎也と名乗る男が去った一同は、妙な緊張感をいまだに感じながらも、戦いが終わったことを実感していた。

「不思議な奴だったな」

「はい? なにがでございますか?」

 十六夜の独り言を拾った黒ウサギは、理解できない、という顔で語りかける。

「俺たちの敵であることは確実なはずなんだが、人にとっての敵ではないって感じがした」

「はあ……十六夜さんも問題児さまですから、共通する部分があるのかもしれませんね」

 答えに期待していなかったのか、黒ウサギを無視した十六夜は、慎也が去るまでは確かにいたはずのカボチャがいないことに気づいた。

「礼は言ったし、別にいいんだが、あいつには少しばかり訊きたいこともあったんだがな」

 颯爽と現れ、霧のように消えていく。

 どこかカボチャらしくない存在だと思いながら、彼を追おうとするのを諦める。

「燈火、おまえはもう大丈夫か?」

 代わりに、今回の一件で最も傷ついたであろう少女へと意識を向ける。

「だいじょうぶ……だと思う。うん、平気」

「そうか。じゃあひとつ教えてやる。その台詞は、大丈夫な奴から出る言葉じゃない」

 決して聞こえていたわけではない。

『……私は、もうあなたたちを傷つけたくないだけのに。もう、怖いのは嫌だ…………否定されるのは、嫌だよ……』

 燈火のこぼした本音。

 十六夜が感じたのは、彼女の不安そうな声音からだ。

 なにを想っているのかなんて知らない。わからない。だが、震えているのはわかる。

 そうしたこと全部を感じて動くのが十六夜という少年なのだろう。

「あいつが言ったことは気にしなくていいってのは無理だろうが、俺たちを頼っていいし、辛くなったら黒ウサギをお嬢さまたちといじってやれ。いや待て。なにか面白いことをするときは俺もちゃんと呼べよ」

「それは、十六夜が楽しみたいだけ?」

「それもある。けどな、おまえはもう少し周りと楽しむことを知った方がいいと思ってな」

 楽しむ。

 まただ。燈火の知らない感情が、また出てこようとする。

 彼女とも話した。そして、彼女にも言われた。

「楽しむって、どういうこと……?」

「はあ……まずそこからだったか。そうだな……お嬢さまとか春日部みたいな奴らのことだな。あそこまで自由奔放でわがままな生き方しているんだから、さぞ楽しい人生送ってることだろうぜ」

 いまはな。と付け足す十六夜の微妙な表情は、自分も含め、本当に楽しいと呼べる日々を手に入れたのが、つい最近であるということを示していた。

 もちろん、それを燈火が察せるわけはないが。

「ねえ、十六夜……」

「なんだ?」

「…………ううん、なんでもない。十六夜はケガ、しなかった?」

「ああ。手加減されてた面もあったしな」

 自分より他人の心配をさせている場合にもいかないのだが、直接言うだけでは、きっとこの少女は理解しない。

 だが、誰よりも傷つき、悲しんでいるはずの燈火は、いったい、痛みをどこへやっているのだろうか。

 十六夜の中で、ひとつの疑問が浮かび上がる。しかし、それが口を出て行くことはなかった。

 十六夜と燈火。

 二人は、互いに言うべきこと、訊くべきことから、あえて目を逸らしたのだ。

 

 

 予期しない乱入者を退けた十六夜たちは、サウザンアイズ旧支店へと帰ってきていた。

 遭遇した慎也についての報告も白夜叉に済ませ、女性陣はまとめて湯殿へと向かっていく。遺された十六夜とジンは、昼間の依頼、そして、燈火を狙った慎也についての意見を述べあっている。

 が、当然、慎也についてはほとんど情報がない。話は徐々に、ジンの好みの女性へと逸れていくのだった。

 

 

 ところ代わり、女性陣はまさに入浴前といったところだ。

 箱庭に来た当初と違い、燈火は人の手を借りずに衣服を脱いでいた。いたのだが、湯殿にはすでに燈火と耀しか残っておらず、誰とは言わないが、騒がしい二人は湯船に突っ込んでいった。金髪の少女は、二人の姿を確認しながら、止めるために先に。

 たぶん、すでに飛鳥が入浴していたからであろう。興奮する駄神を止めるために向かったのだろう。

 そう結論づけた耀は、騒がしい二人に続いて行こうとする燈火を引き止め、ある話を持ち出した。

「耀?」

「えっと、出たいゲームがあって……」

「……うん。あー……頑張って? で合ってるのかな?」

「え? うん、たぶん合ってる。――そうじゃない。燈火にお願いがある」

 普段から人に頼ろうとしない耀と、人と関わるのが下手な燈火では、会話がどうにもよそよそしくなってしまう。

 おそらく話し声が聞こえているであろう白夜叉は、わかっていてあえて放っているのだ。飛鳥と黒ウサギの肌を堪能していたりは絶対にない。そう、絶対に。

 黒ウサギは黒ウサギで、心配性なのか、ケガしてきた飛鳥にかかりっきりで、気付いていないだろう。

 助けのない中で、ぎこちない会話が続く。

 仮に、頼みごとでなければ、耀は普通に接することができていたはずだ。

「私に、お願い……なに?」

 しかし、意外にも燈火は素直に話しを聞いてくれた。まるで、今日あったことを、忘れるように。頭の中で響き続ける彼の言葉を消し去るために。

 おかげで、いつもより柔らかい空気が燈火を包んでいる。闘気がまるで見受けられないのだ。

 その想いを知らない耀は、彼女の雰囲気にほだされるように口を開いた。

「今日のこと、黒ウサギと仲直りするために、勝ちたい」

 だが、これは燈火からしたら、思ってもみない言葉だった。

「サポートとして一人だけ、参加が認められてるの。白夜叉から紹介してもらって――燈火?」

「なんでもない。……だいじょうぶ、出る」

 一瞬。ほんの一瞬だけだったが、燈火の表情に変化が起きたのを、耀の瞳は捉えていた。

「燈火……」

「だいじょうぶだから。安心して、耀。私はいつも通りだよ。……世界を壊したりしないし、誰かを傷つけるためだけの存在じゃないから…………だから、だいじょうぶ」

 それ以上の言葉を聞くことなく、燈火は一人、湯船へと向かった。

 彼女の本心は語られても、拾われることは決してない。

 これまでなら、十六夜が、飛鳥が、耀が、黒ウサギが、誰かが必ず彼女に寄り添っていた。けれど、それは彼女が周りを拒まなかった故だ。

 いま、彼女は明確に、耀の次の言葉を切った。

 この変化がなにを引き起こすのか。否、すでになにかを引き起こし始めているのか。

 まだ誰も、知る由はない。

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