世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ? 作:あばばばば
燈火と耀がギフトゲームの準備に入っている中、十六夜は、ゲームの舞台を上から見ることのできる”火龍誕生祭”運営本陣営のバルコニー席にて、”ノーネーム”の面々と白夜叉、サンドラたちと眺めていたのだが、不意に、いつぞやの疑問を思い出したのか、白夜叉の隣へと腰掛けた。
「どうかしたのか?」
「ああ。聞ける機会があればぜひとも聞いておきたかったことがあってな」
「余程聞きたいことらしいな。して、その内容は?」
十六夜は、箱庭に来てからの言動を思い出していく。
ペルセウスのギフトゲーム。騎士たちへの対処。レティシアを救ったとき。春日部耀の治療。白夜叉と出会ったとき。
そうして内容を整理していっても、答えには程遠い。
「白夜叉。単刀直入に聞く」
「うむ。少々面白味に欠けるが、まあいいだろ」
「燈火の、あいつのギフトの正体は、なんだ?」
「…………」
「………………」
十六夜の問いが口を出た瞬間、それまで笑みを浮かべていた白夜叉の表情は、真面目なものへと変わった。
「あの娘か。その後の活躍は聞いておるが、いや、しかし……」
「俺はあいつが他人の怪我を治すところ。嵐を起こすに足る力。魔女と言っても過言でない奇術。人を操る声。極め付けは、天を割るほどの威力の剣。多彩なものを見てきたが、あいつの力の正体がさっぱりわからなかった」
白夜叉に詰め寄るようにし、自分の意見を述べていく十六夜。
白夜叉はしばし考えるように目を瞑ると、ため息をひとつ吐き、十六夜へと視線を向けた。
「お主は、燈火のギフトがなんであったか覚えておるか?」
「あ? 当然だ。”天使顕現”に”龍神化”、あとは無限がふたつだろ?」
ふたつほど省略されていたが、それらは確かに、燈火のギフトカードに記されている。
白夜叉もひとつ頷き、続きを話す。
「まあ、無限はさておき、問題は”天使顕現”と”龍神化”。十六夜。お主、これらふたつのギフトを見た覚えはあるか?」
「……”天使顕現”については、見ていると思う。だが、判断はつけられねえ」
「それはなぜだ?」
「燈火の扱うギフトは、どれも違っていた。それらを含めてひとつのものと見るべきかとも思ったんだが、それにしては、あまりに力の方向性がバラバラすぎるんだよ」
思い返してみれば、十六夜の言葉の通り、燈火が振るってきた力は、あまりにまとまりがなく、共通点も見受けられない。
それが、十六夜に答えを与えずにいるのだ。
「ふむ……。わしも長いこと箱庭にいるが、”天使顕現”などというのは初めて見たのでな。あまり詳しいことまではわからん」
「だよな」
箱庭に来た日、白夜叉は、燈火のギフトを見せてくれと言っていた。
彼女でさえ知らないとは。
襲撃してきたあの男であれば、なにか情報を掴んでいそうなのだが、捕まえたところで話すとは思えない。
「結局、自分で調べるしかないわけか」
知らないことを知るのは楽しいことだが、燈火の件に関しては、珍しく答えのみを求めている十六夜。
彼ならば、答えにたどり着くまでの道のりでさえ楽しみに変えてしまいそうなものだが、簡単にはいかないらしい。
「待たんか」
腰を上げた十六夜を引き止めるように、白夜叉が口を開く。
「確かに詳しい部分はわからんが、まるっきり知らないとも言っておらんぞ」
「へえ?」
「そう怖い顔をするな。ちゃんと教えることくらいはする」
十六夜を再び横に座らせると、燈火についての考察を話し始めた。
「まず言っておくが、お主が見てきたものは、一括して”天使顕現”で間違いあるまい。これは消去法になるが、第一に、無限はありえん。ここは省くがな」
「そして、”龍神化”もない。だろ?」
「そこは本来、人が持つはずのないものなんだが……大方、どこかの大バカ者が授けでもしたんじゃろ」
相手が誰かも知らない白夜叉だが、その勘は間違っていなかった。
そうでもしなければ、人が本来持つべき恩恵ではないと、彼女の本能が告げていたからだ。
「ひとつのギフトであらゆる場面を突破することは、たぶん可能なんだと俺は思う。だがな白夜叉。ひとつのギフトが数多の性能を持ち、そのひとつひとつが強大ってのは、ありなのか?」
「なしだと思うか?」
「……」
間髪入れずに返答された十六夜は、しばらく返事ができなかった。
「お主も、小娘どもも、まだ若い。納得のいかないことは数多くあろう。それが少年少女ともなれば、特にな。忘れるな、ここは修羅神仏の集う場だ。人の想像しうることなぞ、すべて現実にある。見えないだけだ」
白夜叉の話しを黙って聞いていた十六夜は、続きを促すように視線を送った。
「”天使顕現”は、何者かの手によって創られたもので間違いない。燈火の扱うギフトは、現在それひとつのみ。他は制御が効かないか、もしくは発動できないか。どうあれ、現状の心配はないはずだ」
「つまり、”天使顕現”にだけは注意しておけってことか?」
「注意しろ、とは言わん」
「じゃあ、どうしろってんだ?」
十六夜の質問に、わずかな間が空く。
「……間違いなければ、燈火が背負うモノは人の身には余る代物だ。何かの拍子に制御ができなくなれば、それこそ、周りすべてを滅ぼすやもしれん。強大な力は、ときに凶悪になる。人が最も脆いのは感情だ。そこを突かれての暴走となれば、真に世界は終わりを告げるのかもしれん」
「感情ねぇ」
そういえば、昨日の燈火の様子は、どこか、普段と違っていたと、十六夜は思い返す。
襲撃を受けたときから。
いや、もっと言えば、言葉を投げかけられてからだ。あの男――東魏慎也に。
『おまえは一度だけ、確かに変わった。化け物となった日のこと、忘れないことだな。おまえが変わるってことは、また世界が崩壊することに等しいからな。それでも変わるってなら、そのときは化け物の存在を、人の俺が否定してやるよ』
彼の言葉は、燈火に届いていたはず。
なのに、彼女は痛みひとつ見せず、むしろこちらの心配をしてきたほどだ。
(どこに痛みを隠しているのか、早めに聞いておいた方が良さそうだな。手遅れになる前に、できるだけ早く)
このまま燈火を放置してしまえば、取り返しのつかないことが起きるのではないかと、十六夜の思考は警鐘を鳴らし続ける。
されど、いまできることはひとつもない。
もしあるとすれば、それは祈ることだろうか。
祈る。
燈火は願い、叶った末に、世界を壊す力を与えられた。
願うことを、十六夜はしなかった。
「燈火の件に関しては、わかりしだい情報を回そう。ククッ、若いうちは、思うままに動けばよい。ここは箱庭。多少無茶をしようと、無謀だろうと、どれだけの力が及ぼうと、皆、笑っているさ」
話は終わりだ、と言い残し、白夜叉は会場へと向かっていった。
直後、大歓声が周りから響き渡る。
どうやら、ゲーム開始は近いらしい。