世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ?   作:あばばばば

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決勝戦開始です

 十六夜と白夜叉が、燈火についての話をしていた頃。

 燈火と耀は、観客席からは見えない舞台袖で、セコンドについたジンとレティシアより、対戦相手の情報を確認していた。

 この二人、なんだかんだで、決勝の舞台まで駒を進めていたのだ。

「――”ウィル・オ・ウィスプ”に関して、僕が知っていることは以上です。参考になればいいのですが……」

「大丈夫。ケースバイケースで臨機応変に対応するから。ね?」

「ん。なんとかする」

 そう、ジンに返答する耀と燈火。

 会場では、黒ウサギが進行を務めているが、もうすぐ試合開始といった雰囲気になりつつある。

「燈火、大丈夫?」

 耀は昨日の彼女の様子を思い出したのか、燈火に話しかける。

「平気。体調は特に悪くないし、緊張もないよ」

「……そう。わかった」

 耀としては、そっちの意味で聞いたわけではなかったが、本人が平気というのだ。これまで安定した強さを目の当たりにしてきた身としては、今回も問題ないだろうと楽観視してしまうのも無理はない。

 なにしろ、燈火たちは皆、出会って日も浅い。

 お互いに理解しきれていない部分の方が多いのは当然のことであり、つきあっていく中でわかってくる癖というものも、まだ見つけれてはいない。

 ようするに、知り得ない情報を多分に含む限り、仮に問題が起きていたとしても気づけないのだ。

『それでは入場していただきましょう! 第一ゲームのプレイヤー・”ノーネーム”の春日部耀と、”ウィル・オ・ウィスプ”のアーシャ=イグニファトゥスです!』

 舞台の中心で黒ウサギが両手を広げた。

 どうやら、試合を開始するらしい。

 耀は三毛猫をジンに預け、燈火と共に、通路から舞台へ続く道に出る。

 その瞬間、耀の眼前を高速で駆ける火の玉が横切っ――るころには、吹き消されていた。

「えっ……?」

「なに!?」

 同時に、二箇所から声が上がる。

「試合前から、耀に怪我、させないで」

 冷えた声でアーシャに語りかけるのは、燈火だ。

 普段と違うのは、髪の色は先端にかけて橙色へとグラデーションがかかり、瞳の色も、水銀色に変わっているらしい。

 だが、なにより目を惹くのは、やはりその衣装だ。

 暗色の外套を纏い、体の各所を、ベルトのようなもので締め付けている。おまけに両手両足と首に錠が施され、そこから先の引きちぎられた鎖が伸びているときたものだ。まるで途方もない大罪を犯した咎人か――さもなくば、猟奇的な被虐快楽者のような出で立ちである。

 瞬間。

 いつものことながら、耀の足元には赤いたまりができあがっていた。

 もちろん、十六夜と飛鳥の足元にも、同様のものができている。

「い、いつものことながら、なんて破壊力だよ……」

「ええ……まったくだわ」

 バルコニー席にいる問題児二人をノックアウトさせた燈火は、その事実を知ることなく、水銀色の瞳をアーシャへと向け続けている。

 まるで、罪を犯した罪人を裁こうとするように。

 異様なまでのプレッシャーに当てられたのか、アーシャが数歩、後ずさった。

「な、なんだよ! “ノーネーム”のくせに! 素敵に不敵にオモシロオカシク笑ってやろうってときになんで邪魔するのさ! せっかく、そっちの女が尻もちつくと思ってたのに!」

 プレッシャーには負けはしたものの、せめてもの意地か、文句だけは反射的に口を出て行った。

「笑う? そんなことのために、攻撃してきたの?」

「挑発だよ、挑発!」

 燈火にとっては、どちらでも関係なかった。

 試合の中で攻撃されることは仕方のないことだが、それより前に。それも、不意打ちでの形で攻撃されたのでは、最悪当たって怪我をする。

 それは、いまの燈火では許容できる範囲のことではない。

「燈火、ありがとう。でも、大丈夫だから。文句は試合で。ね?」

 耀も、これはまずいと思ったのか、宥めるように彼女に言い聞かせる。どうにも、ここ最近は不安定さが増してきている。

 本人は無自覚かもしれないが、ここ最近見なかったはずの過去の夢まで見ているのだ。

 正常と言い切るには、少しばかり安定さに欠ける。

「ふん。”ノーネーム”のくせに、私たちより先に紹介されるなんて生意気だっつの。私の晴れ舞台の相手にされるだけでも、泣いて喜ぶべきだろ、この名無し!」

 アーシャは腰掛けている火の玉へ合図を送り、火の玉が取り巻く炎陣を振りほどかせる。

 すると、姿を現したのは、轟々と燃えるランプに、実体の無い浅黒い布の服。

 人の頭の十倍はあろうかという巨大なカボチャ頭。

 その姿は、昨日出会った人物によく似ていた。いや。

「昨日のかぼちゃさん!」

 どうやら、本人で間違いなさそうだ。

「へ? あれ……ジャックさんの知り合い……? どうゆう……」

 アーシャはわけがわからないようで、自分の横に立つカボチャのお化けそのものであろうジャック・オー・ランタンと燈火を交互に見て困惑していた。

「あれが、十六夜の言っていたかぼちゃの……」

 耀はすでに騒動の話を聞いていたので、相手の姿を見てもそこまでの驚きはなかったが、まさか、決勝で相対することになるとは思ってもみなかった。

(十六夜がいうには、相当の強さらしいけど)

 立ったまま、まるで動きを見せないジャックを尻目に、燈火の様子を探る耀。

(こ、こっちも動いてない!?)

 燈火は燈火で、ジッとジャックを眺めていた。

 昨日はじっくり見る余裕がなかったせいか、珍しい存在なせいか。どちらにせよ、見てて飽きない部類に入るらしい。

「あ、昨日はありがとうございました」

「……」

 頭を下げ、丁寧にお礼を述べるが、ジャックからの返事はない。

(助けてくれても、いまは敵だからかな?)

 わずかに寂しそうな表情を見せる燈火。

 ジャックはジャックで、アーシャのためにも黙っているのだが、なんだかとても申し訳ない思いになり、口を開きかけては耐えてを繰り返していた。

 ちなみに、この苦労を知っているのは、本人だけだ。

「ど、どうなってるの、これ……」

 この場で唯一、昨日起きた出来事を知らないアーシャは完全に取り残されている。

『あ、アーシャ=イグニファトゥス! 正位置に戻りなさい! あと、コール前の挑発は控えるように!』

 つい成り行きを見守ってしまっていた黒ウサギだが、会場が静かになっていくのに危機を覚えたのか、進行の役割を全うするために、声をかけた。

 燈火と耀は舞台に上がると、円状の舞台をぐるりと見まわし、最後にバルコニーにいる十六夜と飛鳥に小さく手を振った。

 振ったのだが、二人とも振りかえす手に力強さは微塵も感じられなかった。

 なぜかと問われれば、燈火の衣装が白いワンピースに戻っておらず、いまだ出血が続いていたからだ。

 そろそろ危ない領域に到達するかもしれない。

「燈火、そろそろ衣装を元に戻してあげて」

 そんな二人の様子から状態を察したのか、耀が燈火に伝えた。

「わかった。また必要になったら手出すね」

 白いワンピース姿へと戻った燈火は、安堵したように息を吐く。

(よかった。誰も傷つかなかった)

「大した自信だねーオイ。私とジャックを無視して客とホストに尻尾と愛想ふるってか? なに? 私たちに対する挑発ですかそれ?」

「うん」

 先ほどの挑発に挑発で返すあたり、耀も相当の負けず嫌いだ。

 黒ウサギも、ここまでならいいかと判断したらしく、再びマイクを手に取る。

『――それでは第一ゲームの開幕前に、白夜叉さまから舞台に関してご説明があります。ギャラリーの皆さまはどうかご静聴の程を』

 すると、会場からあらゆる喧騒が消え、”主催者”の言葉を聞くために静寂が満ちていく。バルコニーの前に出た白夜叉は、静まり返った会場を見まわし、ひとつ頷く。

「うむ。協力感謝するぞ。私は何分、見ての通りお子様体型なのでな。大きな声を出すのは苦手なのだ。でだ、ゲームの舞台だが…………まずは手元の招待状を見て欲しい。そこにナンバーが書いておらんかの?」

 観客は一斉に招待状を取り出し、手元にない者は慌ててカバンの中を探し、置いてきた者はひたすら悔いていた。

 一喜一憂する観客たちを温かく見つめる白夜叉は、説明を続ける。

 

 

 

「そこに書かれたナンバーが、我々ホストの出身外門“サウザンドアイズ”の三三四五番となっておれば招待状を掲げ、コミュニティの名を叫んでおくれ」

「こ、ここにあります! “アンダーウッド”のコミュニティが三三四五番の招待状を持っています!」

 おおお! っと周囲から歓声が上がる。白夜叉はニコリと笑いかけ、バルコニーから招待状の持ち主である樹霊の少年の前に一瞬の間に降り立っていた。

「ふふ、おめでとう、“アンダーウッド”の樹霊の童よ。後で記念品を送らせてもらおうかの。よろしければおんしのコミュニティの旗印を拝見してもよろしいかな?」

 少年は身に着けていた腕輪を白夜叉に差し出す。しばし旗印を見つめていた白夜叉は微笑んで少年に腕輪を返し、また、瞬時にバルコニーへ戻っていた。

「今しがた、決闘の舞台が決定した。それでは皆の者。お手を拝借」

 白夜叉が両手を前に出す。倣うように、すべての観客が両手を前に出し、白夜叉と共に柏手をひとつ、打ち鳴らす。

 その所作ひとつで――すべての世界が一変した。

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