世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ?   作:あばばばば

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疑問はされど解消されず

 変化は劇的だった。

 燈火と耀の足元は虚無に呑まれ、ヤミの向こうには流線型の世界が数多に巡っていた。その世界のひとつに、箱庭に来た日に鷲獅子と戦った舞台があった。

(そっか。これは白夜叉の……)

 ならば、危険な状態ではない。燈火だっていることを思い出した耀は、流れに身を任せた。

 一方の燈火は、ジャックの様子の変化と、この世界を巡るような感覚を気にしているように見える。

 そわそわ、そわそわと、落ち着かないように体が揺れる。

 直後、激しいプリズムを迸らせながら、星の果てに投げ出された。

 二人が着地したのは、樹木の上だった。

 だが、耀は異変を感じ取ったようで。

「この樹……ううん、地面だけじゃない。此処、樹の根に囲まれた場所?」

 そう。上下左右、その全てが巨大な樹の根に囲まれている大空洞だった。樹の幹が根だと理解できたのは、耀の強力な嗅覚が、土の匂いを嗅ぎ取ったからだ。

「樹の中なんだ……落ち着く場所で、いいかも」

 周りを見渡した燈火は、リラックスした様子でそうこぼした。

「燈火は、こういう場所が好きなの?」

「ん、嫌いじゃない。ゆっくり眠れそうな場所は、好き」

「そっか」

 十六夜たち問題児は知らないことだが、燈火は安眠を求める節がある。木漏れ日の下や、今回のような樹木などは、燈火にとって絶好のお昼寝スポットなのだろう。

「あらあらそりゃどうも教えてくれてありがとよ。そっか、ここは根の中なのね!」

「…………ねえ、燈火」

「なに?」

「今度、二人でお昼寝しようか」

「……しよう。ゆっくり、ぐっすり寝よう」

 燈火のことをまたひとつ知れた耀は、さらにお誘いまでできた! と内心で拳を握った。

 アーシャに対して挑発行動をしたわけではないが、完全なる無視である。

 言葉を聞いた後で反応されなかったのなら、まだわかる。わかりたくはないが、納得はできた。だが、言葉すら耳に届かずこちらの存在をないものとするとは、あんまりではないか!

 アーシャの中で、ふつふつと怒りが湧いていく。

「ところで燈火――」

「ちょっとは話に入ってこいよー!!」

「……うるさい。燈火との話の邪魔をしないでほしい」

「………………こんのぉ!」

 どうあっても自分と話す気がないとわかったアーシャは、横に立つジャック・オー・ランタンと共に臨戦態勢に入るが、耀はそれを小声で制す。

「まだゲームは始まってない」

「そういえば、勝利条件も敗北条件も提示されていないね」

「うん。これだと、ゲームとして成立しないから」

 耀と燈火の言い分に正当性を感じたアーシャは、臨戦態勢を解き、二人のように大空洞を見回してぼやく。

「しっかし、さすがは星霊さまねー。私ら木っ端悪魔とは比べものにならねえわ。こんなヘンテコなゲーム版まで持ってるんだもん」

「それは……多分、違う」

「ああん?」

 耀は声には応えず首だけ振る。彼女たちが白夜叉に呼び込まれたのはこれが二度目だ。

 前回の経験に加え、寸前に行われていた招待状のやり取り。

 そして何より、体感温度の低さが、この舞台に対してひとつの仮説を浮上させていた。

(外に出れば詳しいことがわかると思うんだけどな……と、)

 突如、耀とアーシャの間に亀裂が走る。

 亀裂んお中から出てきたのは、輝く羊皮紙を持った黒ウサギだった。

 ホストマスターによって作成された”契約書類”を振りかざした黒ウサギは、書面の内容を淡々と読み上げる。

 

『ギフトゲーム名”アンダーウッドの迷路”

・勝利条件 一、プレイヤーが大樹の根の迷路より野外に出る

      二、対戦プレイヤーのギフトを破壊

      三、対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合(降参含む)

 

・敗北条件 一、対戦プレイヤーが勝利条件をひとつ満たした場合

      二、上記の勝利条件を満たせなくなった場合 』

 

「――”審判権限”の名において。以上が両者不可侵であることを、御旗の下に契ります。御二人とも、どうか誇りある戦いを。此処に、ゲームの開始を宣言します」

 黒ウサギの宣誓が終わるやいなや、それが開始のコールとなった瞬間、アーシャの目の前にいた二人の少女は、姿を消した。

 否。先にある通路に向け、疾走していったのだ。

「は……?」

 さきほどの一件もあるので、先手は譲ってやろうと思っていたアーシャも、これには驚いた。

「えー……ちょっと、なにそれ…………!?」

 アーシャが正気に戻れたのは、隣にいるジャック・オー・ランタンが自分の肩を叩いた時だった。

「っと、いけないいけない。にしても、とことんバカにしてくれるってわけかよ! 先手を譲ってやろうとしてるこっちの気も知らないで。あったまくんだよ! 行くぞジャック! 樹の根の迷路で人間狩りだ!」

「YAHOHOHOhoho〜!」

 怒髪天が衝くががごとくツインテールを逆立てて猛追するアーシャ。耀は背中を向け、燈火は追ってくる相手を確認しながら、通路を思わしき根の隙間を登っていく。

「地の利は私たちにある! 焼き払え、ジャック!」

「YAッFUUUUUUUuuuuuuuuu!!」

 左手をかざすアーシャ。ジャックの右手に掲げられたランタンとカボチャ頭から溢れた悪魔の業火は、瞬く間に樹の根を焼き払って二人を襲う。

 しかし、耀は最小限の風を起こし、炎を誘導して避けた。

 そして燈火は――。

「<刻々帝(ザフキエル)>――【七の弾(ザイン)】」

 何事かを呟いたのち、目の前まで迫っていた業火は、反応することもなく、まるで、その場で時間が止まってしまったかのように停止していた。

 赤と黒のドレスを纏った、左右不均等に結われた、先端に行くほど黒くグラデーションのかかった髪と、時計の文字盤が刻まれた左目に目のいく少女。

 なにより目を引くのは、彼女の背後に佇む巨大な時計。燈火の身の丈の倍はあろうかという、巨大な文字盤。そして、それぞれ細緻な装飾の施された古代の歩兵銃と短銃が、彼女の両手に握られていた。

「うそ……」

 実を言うと、このとき耀は、燈火ならば必ず切り抜けると信じていた。だが、方法は想像とはまるで違っていて。

 そして、燈火の表情を見て、初めて、違和感を覚えた一瞬でもあった。

(燈火、なにを苦しそうに……)

 歯を食いしばり、目を逸らす少女に、疑問が浮かぶ。だが、いま追求している余裕はないのだ。

 だが、たとえそうであっても。ゲームの最中であっても気にするほどに、燈火の表情は歪んでいた――。

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