世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ? 作:あばばばば
十六夜に背負われながら、燈火はいろいろなことを考えていた。
いろいろと言っても、十六夜とのコミュニケーションをどうとろうか、と言うことなのだが。
たっぷり数分間悩んだすえ、最初に訊いたことは、
「あの、重くない、私……」
答えによっては傷つくことの多い質問だった。
「むしろ軽すぎる。おまえ身長百五十程度だろ? それでこの軽さはちょっと心配するぞ」
「そう……」
しかし十六夜は本心から軽いと思っていたし、特に動きに制限が加わった様子もない。
「ところでおまえ、」
「燈火」
「……夜鈴、」
「燈火」
(名前以外呼ばせない気かよ、仕方ねえ)
「燈火、おまえはどうもあまり強そうに見えねえが、そのあたりはどうなんだ?」
「…………たぶん、あなたを除いた他二人よりは、力だけなら確実に強い」
あまり力は揮いたくないけど、と付け足す。
「ぶつかっただけで足痛めるような奴がねぇ。まあこうしておまえを背負ってるぶん役得ではあるんだが」
ヤハハ、と笑い飛ばす十六夜だが、年の割にいいプロポーションをしている燈火を背負っていて悪い気はしないだろう。
「私、あまり体強くないから。力を使うとき以外は、そのへんの人より弱いの」
この発現から、身体強化の類の能力だろうかと推察し始める十六夜だが、そのうち見る機会があるだろうと詮索はしなかった。
なんとなく、憚られたのだ。
「にしても、意外と話せる奴だったとは驚いた。会話には入ってこねえし、黒ウサギに押し倒されたときは顔真っ赤にさせるだけでやっぱり一言も発さねえし」
「それは……。三年間、誰とも話したこと、なかったから。不愉快だったなら、ごめん」
どうにも、まだ人との距離感を計りかねているらしいことを、燈火自身、よく理解していた。
もちろん、黒ウサギの件はただただ恥ずかしかっただけなのだが。
三年間の溝はまだ深いらしい。
「何かあったのか?」
「…………」
何気なく聞いたはずだったが、燈火の表情は一気に落ち込んだように見えた。
(まずったか? こんなとき、あいつならどう対応してたっけ)
自分にも、世界とはこの程度かと思った時期があったことを思い出しながら、十六夜は駆ける速度を上げた。
何気、面倒見のいい十六夜にとって、燈火と言う少女は、なんとなく放っておける者ではなかったのかもしれない。きっと、本人は否定するだろうけど。
(とりあえず感動するほどの景色を見せることからだな)
少女改正プランを頭の片隅に構築しながら、やはり暗い表情をしている燈火に、比較的どうでもいい話を十六夜は始めた。
内容の中に、燈火の肌の感触や、髪の色がどうたらと本人が恥ずかしがる内容があったせいか、若干暗い表情のとれた燈火は、ボソリと自らのことを呟いた。
「私が願ったのは、人の幸せだった。なのに与えられたこの力は人を傷つけるだけのもの。そして、最後には世界も一緒に巻き込んで破壊する力。この力のせいで、誰とも会えない、隔離された場所で暮らすことを義務つけられてたの」
「んな場所、ぶっ壊せばよかったじゃねえか」
「できないよ。だって、私はそれでも世界が好きだったから……」
そうか、とだけ返事をし、十六夜は燈火の暮らしていた場所に対嫌悪感を抱いた。
見たとこ、十五歳程度の少女に対し、この扱いは許しがたいものだった。世界を好きだと言っていた少女を、世界は否定したのだ。
「なら、せっかく箱庭に来たんだ。今度はここを好きになれよ。黒ウサギに訊いた限りじゃ、おまえがいても問題なさそうだしな」
「私が、力を使っても、だいじょうぶ?」
「平気だろ。なんせ、俺が目いっぱい遊ぶために力を使う予定だ。おまえなんかが使う程度、どうってことないと思うぜ」
燈火たち四人が箱庭世界に呼ばれて初めて、燈火は笑顔を浮かべた。
他人に笑顔を見せたのはいつぶりだろうか? そんなことも思い出せないほど、昔のことだったのかと幾ばくかの驚きもあったが、それ以上に十六夜が自分を肯定してくれるのは嬉しかった。
無意識のうちに、彼に背後から抱きつくほどには。
(へえ。地球で見てきた景色が霞むくらいの価値はあるな)
燈火の笑顔を眺めながら、笑顔も感触も独り占めできた十六夜は中々いいものを見た、と嫌悪感が払拭され上機嫌。
(また見るにはどうしたいいんだか……)
だが、この先もこの笑顔を見ていくにはどうしたものかと考え始めるほどには、彼も本気だった。どうやらお気に召したらしい。らしい多いな! 不確定なことばかりだ。
すっかり忘れていることだが、十六夜と燈火は絶賛逃亡中だったりする。もちろん黒ウサギから。
怒った彼女が二人を発見するのは、十六夜が蛇神を怒らせたころだった。
しかし、黒ウサギが両者の間に割って入るより速く、決着はつくことになる。
蛇神の丈よりも遥かに高く巻き上がった水柱が計三本。
それぞれが生き物のように唸り、蛇のように襲いかかる。
この力こそ、ときに嵐を呼び、ときに生態系さえ崩す、"神格"のギフトを持つ者の力だった。
「十六夜さん!」
黒ウサギが叫ぶが、もう遅い。
竜巻く水柱は川辺を抉り、木々を捻じり、十六夜の体を激流に呑み込む――。
「ハッ、しゃらくせえ!!」
――はずだった。
突如発生した、嵐を超える暴力の渦。
十六夜は腕の一振りで嵐をなぎ払ったのだ。
「嘘!?」
『バカな!?』
驚愕する二つの声。
「ま、中々だったぜ、おまえ」
胸元に飛び込んだ十六夜の蹴りは蛇神の胴体を打ち、その巨躯を空中高く舞い上がらせ、直後川に落下した。その衝撃で川が氾濫し、水で森が浸水する。
またも全身を濡らした十六夜はバツが悪そうに川辺に戻った。
「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだよな黒ウサギ」
「私にも出して」
十六夜のとばっちりか、近くで座って見ていた燈火もびしょ濡れだった。
(ワンピース着てたのが悪かったかな。全身に貼りついて気持ち悪い……)
「ほお」
「ちょ、な、なにしてるんですか!?」
十六夜は感心したように。黒ウサギは慌てて。
双方の合わない表情を、燈火は不思議そうに見ていた。
「えっと……。どうか、したの?」
「どうかしたじゃありません! ちょっとは隠してください!」
黒ウサギが、燈火を十六夜から隠すように引き寄せる。
「わっ……。ま、待って……。足、痛い」
「はわっ! す、すいません! ですけどいまの燈火さんを十六夜さんに見せるわけにはいかないんですよ!」
燈火はなにか思い当たったように、ゆっくりと下へ視線を向ける。
いまの自分の恰好はと問われれば、白地のワンピースだ。
「……」
無言から一転。顔を真っ赤にさせるのは一瞬の出来事だった。
まあ、要するに透けていたのだ。
十六夜の感想は避けるが、たぶん彼の予想より大きかったのではないだろうか。
実際のところ、十六夜が考えていたことは燈火のことではなく、黒ウサギのことだった。
燈火が気にしていることには突っ込まず、代わりに黒ウサギに対し笑みを消した表情で話しかける。
「なあ、黒ウサギ。オマエ、なにか決定的なことをずっと隠しているよな?」
「……なんのことです? 箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームのことも」
「違うな。俺が聞いてるのはオマエ達のこと――いや、核心的な聞き方をするぜ。黒ウサギ達はどうして俺達を呼びだす必要があったんだ?」
意図的に隠していたことを看破された黒ウサギは、諦めるようにして、自分たちのコミュニティの現状を話し出した。
十六夜と、身を隠すように体育座りした燈火は、話に耳を傾け始め、そしてコミュニティの誇りである旗と名、さらに中核となる仲間が一人として残っていないことを知らされた。
「もう崖っぷちだな」
「むしろもう落ちてる?」
「ホントですねー♪」
話ながら現状を噛みしめていた黒ウサギはうなだれるように膝をついた。
「誰が、やったの?」
段々と話すことに慣れてきた燈火が質問する。
「箱庭を襲う最大の天災――"魔王"です。私たちはいつか、魔王から誇りと仲間を取り返したいのです。そのためには、十六夜さん達のような強大な力を持つ人の協力が不可欠なのです! どうかその力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか…………!?」
「魔王から誇りと仲間をねえ。いいな、それ」
「――……は?」
「HA? じゃねえよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ、黒ウサギ。ついでに燈火も協力してくれるってよ」
二人の視線が燈火へと向く。
「……私、いま一人じゃ動けないし、運んでくれる人がいるなら、そこでいい」
「じゃあ決まりだな。濡れてるけど文句言わないなら背負ってやる」
二人とも濡れているので、どちらかが乾こうとどうせ濡れることはわかっている。単に背負ってやると言うのとは違う、彼なりの優しさなのだろうと判断し、燈火は黙って背負われることを選んだ。
「黒ウサギ、さっさとあのヘビを起こしてギフトを貰ってこい。その後は川の終端にある滝と"世界の果て"を見に行くぞ」
「は、はい!」
黒ウサギは嬉しそうに跳躍し、戻ってくるころには、ウッキャーなんて奇声をあげながら戻ってきた。
いいものでも手に入ったのだろう。
それを確認した十六夜は、次は自分と燈火のために、行動を再開した。
三話目にしてサブタイが意味不明になってきました。
そろそろわかりやすいものにしていこう。
感想? メンタル削るものはすでに他の話でもらってるんでこっちは優しくしてください。