世界に嫌われた少女も異世界に来るそうですよ?   作:あばばばば

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そろそろ燈火の相手を決めていくころなのだろうか。
え? イジャヨイ=シャン? 確かにちょっと彼といい場面ばかりを書きすぎただろうか……。百合絡みもそろそろ欲しいところなのか。そうですか。
ちなみに燈火はこれで『とうか』です。念のため。


サウザンドアイズですよ

 十六夜に背負われている燈火は、いままでの人たちとまるで自分の扱いが違う十六夜と黒ウサギとは、なんだかうまくやっていけそうな気がしていた。

 えらく久々に味わった安心感のためか、力が抜ける。

「っと、なんだ、眠いのか? これから"世界の果て"に行こうってときに」

 もたれかかってきた燈火に十六夜が問う。

「ごめん……。そうじゃなくて、なんだろう。安心、しちゃったから、かな……」

「安心、ですか?」

 黒ウサギが不思議そうに燈火を見つめる。

「うん、安心。私、世界中が敵だったから……。だから、こうして普通にお話できることも、側に人がいてくれることも、なんだか嬉しくて」

 それ以上、言葉は続かなかった。

「燈火さん……」

 うっすらと涙を浮かべた燈火の頭を、黒ウサギが優しく撫でる。

「ごめん。だいじょうぶだから」

(少しばかりコミュニケーションに難があるやもと思っていましたが、そうでもなさそうですね)

 自分の考えが甘いものであったことを悟った黒ウサギは、燈火に対する認識を改めることになった。

「嬉しいのはいいが、もう結構時間が経ってるはずだ。そろそろ行こうぜ」

 十六夜が燈火を背負ったまま動き出す。まるで、このしんみりした空気を破るように。

「それはいいのですが、十六夜さんはなぜ"世界の果て"を見てみたいのです?」

「黒ウサギはどうしてだと思う?」

 黒ウサギは考えたふりをしながら回答する。

「やっぱり、面白そうだからでしょうか?」

「半分正解。なら、俺はどうして面白いと感じたんだろうな?」

「へ? そ、そうですね……」

「探究心?」

 黒ウサギの代わりに答えた燈火に、十六夜は笑みを浮かべた。

「まあ、近いな」

 十六夜は川辺を突き進みながら話す。

「簡潔に言うと"ロマンがあるから"だな。俺のいた世界は先人さまがロマンというロマンを掘りつくしてて、俺の趣向にあうものがほとんど残ってなかったんだよ。だからここじゃない世界なら、俺並みに凄いものがあるかもしれないと思ったのさ。だからつまり"世界の果て"を見に行くのは、生きていくのに必要な感動を補充しに来たってところかな」

(付け足すなら、感動を忘れかけてる奴のためでもあるんだが、まあこれはいい)

「な、なるほど。十六夜さんはロマンのあるものを見て感動したいのですね」

「ああ。感動に素直に生きるのは、快楽主義者の基本だぜ? それに、今回はまだ無理かもしれねえが、感動を再確認させたいってのもある」

「はい?」

 わからないならいい。十六夜はそう返して先へと進んだ。

 そのまま進みながら、ときに燈火もわからない話をして、絶景を楽しむポイントを探しては燈火に見せて周った。

 いつしかの自分と、自分を多くの場所へと連れて行ってくれた女性のことを思い出しながら。

 誤算なのは、始終笑顔でいた燈火を、黒ウサギがかわいいかわいいと愛で続けたせいで、景色が一部台無しになったことだろう。

 この一件は黒ウサギの額にでこピンを数十回叩き込むことでなかったことにしたのはここだけの話だ。

「ま、こんなデタラメな世界に呼び出してくれたんだ。そのぶんの働きはしてやる。けど他二人の説得には応じないからな。騙すも誑かすも構わないが、後腐れないように頼むぜ。同じチームでやっていくなら尚更な」

「……はい」

 そう。彼らは同じコミュニティで戦っていく仲間なのだ。相手が問題児だからといって利用するような真似をしては得られる信用も得られなくなってしまう。

 新たな同士である彼らには失礼極まりない話である。

(初めからちゃんと説明すればよかったな……。ジン坊ちゃん、だいじょうぶでしょうか)

 黒ウサギは心の中で深く反省した。

 

 

 

 

 日が暮れたころに噴水広場で集合したのだが、ジンたちから話を聞いた黒ウサギは怒っていた。

 

それはもう、ウサ耳がかわいくウサウサしている余裕もないほどに。

「どういうこと?」

 事態を呑み込めていない燈火が十六夜に質問する。

「なんでも明日お嬢さまたち三人がケンカするんだとさ」

 さも自分たちは関係ないといった様子で、ジン、飛鳥、耀の三人のケンカだと言い切った。

「聞いているのですか三人とも!」

 説教はまだ続いているのだが、

「「「ムシャクシャしてやった。いまは反省しています」」」

「黙らっしゃい!!」

 誰が言い出したのか、まるで口裏を合わせていたかのような言い訳に激怒する。ウサ耳も逆立っていた。

 しかし、三人の姿勢をただ責めるだけなのも、と思い黒ウサギは諦めたように頷いた。

「まあ仕方ないです。"フォレス・ガロ"程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 フン、と鼻を鳴らす二人。

「だ、ダメですよ! 御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

「そういうことじゃねえよく黒ウサギ」

 十六夜が真剣な顔をする。

「いいか? このケンカはコイツらが売った。そして奴らが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

「あら、わかっているじゃない」

「……。ああもう、好きにしてください」

 丸一日振り回され続けて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力なぞ残っていない。

 

 

 その後、コミュニティへ帰る前に行くところがあるということで、ジンとは一度別れた。

 なんでも、燈火たち四人のギフトの鑑定のため、"サウザンドアイズ"という超大型商業コミュニティに向かうとのこと。

 道中、十六夜、飛鳥、耀の三人は興味深そうに街並みを眺めていた。

 商店へ向かうペリペッド通りは石造りで整備されており、脇を埋める街路樹は桃色の花を散らしていた。

「桜の木……ではないわよね? 花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずないもの」

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合いの入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

「……? いまは秋だったと思う」

 ん? っと噛みあわない三人のうち二人。事情の知らない飛鳥と耀は、燈火へと話を持っていった。

「夜鈴さんはどうだったのかしら」

「燈火、秋だったよね」

「えっと……」

 これには困った。部屋から出ないように空調完備されていた空間にいたせいか、窓から外を眺める意外に季節の判断方法を持たない燈火にとって、それは正直まるでわからない質問だった。

(だいたい、部屋があった場所だって世界のどこにあったのか知らないし……。雪は降ってなかったから冬じゃないはずだけど)

 ゆっくりと、ゆっくりと答えを紡ごうとする。

「ごめんなさい……。私、季節がどうとか、わからないようにされてたから……。冬ではない、としかわからない」

 申し訳なさそうに目を伏せる燈火に対し、二人は不思議そうな顔をした。

 実は、すでに燈火から話を聞いていた黒ウサギには事情が呑み込めており、助け舟として説明役に回った。

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」

 十六夜がパラレルワールドか? と考えていると、黒ウサギの足が止まる。

 どうやら店に着いたらしい。商店の旗には、蒼い生地に互いが向かいあう二人の女神像が記されている。あれが、"サウザンドアイズ"の旗なのだろう。

 日も暮れてきて、看板を下げる女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを、

「まっ」

「待ったなしです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 かける事は出来なかった。

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

「ま、全くです! 閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

「出禁!? これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」

 アレコレと喚く黒ウサギに、店員は冷めたような眼と侮蔑を込めた声で対応する。

「なるほど、"箱庭の貴族"であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 喚いていた黒ウサギが言葉に詰まる。代わりに十六夜が名乗る。

「俺達は"ノーネーム"ってコミュニティなんだが」

「ほほう。ではどこの"ノーネーム"様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 力のある商店であるがこそ、信用できない客を扱うリスクは冒さない。

 "名"と"旗"が無い影響がこの状況でも出てきているのだ。

 黒ウサギは心の底から悔しそうな顔をして、小声で呟いた。

「その……あの………私達に、旗はありません」

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ! 久しぶりだ黒ウサギィィィィ!」

 黒ウサギは店内から爆走してきた着物姿の白髪の少女に抱きつかれ、少女と共にクルクルクルクルクと空中四回転半ひねりして浅い水路まで吹き飛んだ。

 十六夜と燈火は眼を丸くし、店員は痛そうな頭を抱えた、

「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか? なんなら俺も別バージョンで是非」

「ありません」

「なんなら有料でも」

「やりません」

「ならあんたでもいいから」

「やりたくありません」

「そこをなんとか」

「なりません」

「十六夜があれをやられたら私死んじゃう……」

 真剣な表情の十六夜に、真剣な表情でキッパリ言い切る女性店員。そして一人死の危機に瀕している燈火。三人は割とマジだった。

 三人が真剣に話している間、黒ウサギに強襲した白髪の少女は黒ウサギの胸に顔を埋めてなすり付けていた。

「し、白夜叉様!? どうして貴女がこんな下層に!?」

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろに! フフ、フホホフホホ! ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 スリスリスリスリ。

「し、白夜叉様! ちょ、ちょっと離れてください!」

 白夜叉と呼ばれた少女を無理やり剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつける。

 くるくると縦回転した少女を、十六夜は足で受け止めた。

「てい」

「ゴハァ! お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

「夜鈴燈火。十六夜、受け止めるんじゃなくて蹴ればよかった」

「普通に手で受け止めんか!!」

 一連の流れの中で呆気にとられていた飛鳥は、思い出したように白夜叉に話しかける。

「貴女はこの店の人?」

「おお、そうだとも。この"サウザンドアイズ"の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 白夜叉は指をわしゃわしゃと動かして飛鳥に迫ろうとするが、

「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」

 何処までも冷静な声で女性店員に釘を刺され、動きを止めた。

「うう………まさか私まで濡れる事になるなんて」

 濡れた服やスカートを絞りながら黒ウサギが戻ってきた。

「因果応報……かな」

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たということは………遂に黒ウサギが私のペットに」

「なりません! どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

 ウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。

 何処まで本気かわからない白夜叉は笑って店に招く。

「まあいい。話があるなら店内で聞こう」

「いのですか?」

「よいよい。"ノーネーム"だとわかっていながら名を尋ねる性悪店員に対する侘びだ」

 む、っと拗ねるような顔をする女性店員。彼女にしてみればルールを守っただけなのだから気を悪くするのは仕方のないことだろう。

「………わかりました、どうぞ」

 五人は、やはり女性店員に睨まれながら暖簾をくぐった。

 

 




まだ燈火さんまるで能力使ってないというか背負われてるだけですけどもう少しこのままでお付き合いください。
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