Nanoha×MGS = The Rebrllion =   作:No.20_Blaz

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いよいよ本編の第六話です!

ちょっと長い気もしなくなかったですがようやくの本編……
さぁここからどうなるのやら、あはははははははははははは(白い目)

……では、Nanoha×MGS、スタートです


Sts本編
第六話 「胎動する星々」


 

 

 

 

 

あの一人の少女の記憶を見せよう。

 

 

しかしその少女の記憶は覚えているとは言い難い。

その時の衝撃と苦痛が記憶と共にこびり付いてしまい、邪魔してしまっているのだ。

磨耗してしまった記憶は、再生しようとすると酷い吐き気と頭痛を感じてしまい、とてもではないが全て思い出すことはできない。

思い出すだけでむせ返り、呼吸が不安定となって精神が揺らいでしまう。

それだけショッキングであると言う事か彼女も、彼女の記憶も再生することを拒んだ。

 

もう二度と思い出したくもない記憶だ。

だが、その中でたった一つだけ。彼女の頭の中で邪魔なく再生される記憶がある。

たった数秒とも思えるその記憶は残念ながらいい加減なものだ。

 

覚えているのは黒い影となびく『何か』。

意識が殆どなく、目も霞んでいたのでその影と後ろに映る烈火の炎だけが確かなことだった。

記憶の中。その誰かは、ゆっくりと自分のほうを振り向き

 

 

彼女に何かを言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ル」

 

 

「・・・。」

 

 

「―――――バル」

 

 

「・・・やっぱり、駄目か・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ。試験前から落第に賭けるなんて偉くなったわね、スバル」

 

 

「・・・・・・ほえ?」

 

背筋を凍らせる悪寒が走るのを感じたスバルは、僅かに間を置いて抜けた声で後ろへと振り返る。

驚いたというよりも気まずいという顔で振り返ると、冷たい半目で見る彼女の相棒のティアナの顔がかなり近い距離で映った。

どう見ても彼女の機嫌が斜めであるのは明らかで、気まずい空気と彼女の機嫌にスバルは汗を垂らし、苦笑いで言い訳を言おうとしていた。

 

「・・・ティ、ティア・・・えっと・・・これは・・・その―――」

 

「別にいいのよ?アンタが自爆してくれるのならお望みどおりこの試験を落第してやるわよ?」

 

と言ってさりげなく自分のこめかみにデバイスを構える相棒に、スバルは焦ってしまい思ってもなく、その場で思いついたことを口にしてしまい更に自分の立場を悪化させてしまう。

 

「ち、違うの!!違うんだってティア!!さっきの独り言は・・・そう!!今後の予定が駄目だって―――」

 

「それを遠まわしに「する」って言ってんのよ」

 

「・・・・・・。」

 

墓穴を掘ってしまったスバルはなんとも言えない顔で言い返すことも出来ず、直後に子供がしょげた様に謝り、体で落ち込むという感情を表した。

 

「・・・ゴメン」

 

「―――はぁ・・・なに試験前からガラにも無い事をしてるのかって思ったら・・・アンタがその調子じゃ私の胃に大穴が開くわ・・・」

 

頭を掻き、面倒なと苛立ちを見せる顔で離れるティアナに、スバルは取りあえず苦笑する。言い訳を返す事もできない状態では、本人の答えはこれで十分だと思うしこれが妥当な返しだろう。

現在に至るまで、スバルという人間は彼女ことティアナに敷かれる立場となってしまったのだから。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・はぁぁ・・・」

 

二度の溜息を吐くティアナは、面倒と苛立ちの色を見せているが内心では心配というのを感じていた。ここまで共に進んできた相棒だ。もし仮に彼女が居なくなるのなら、誰が彼女の相棒となるだろうか。

そう思うと、心の底から「否」の文字が浮かび上がる。彼女以外に自分の相棒たる人物は居ない。断言できることを再認し、ティアナは内心の感情を押し殺し、変わらぬ物言いでスバルに問うた。

 

 

「用意、できてる?」

 

「ん?ああ・・・油はさしたし、メンテも十分。来る前にコンディションチェックは二人でしてもらったし・・・特には」

 

「・・・そう。だからって本番でヘマしないでよ。アンタここぞって時に失敗かトラブル起こすんだから」

 

「そ、それって一年前の事でしょ?ティア引きずりすぎ―――」

 

「そのせいで誰が学業順位上げるの苦労したんだっけ?」

 

「―――ティアナさんです」

 

「よろしい」

 

弱みを突かれてしまったスバルは落胆して答え、またも言い返すことは出来なかった。

というよりも彼女にすっかりと弱みの数々を握られてしまった彼女に果たして一度でも逆転した事があっただろうか。

あったとしても軽くかわされるか何かで無意味ではあるのだろう。

 

先行きが不安というよりもその過去の事がぶり返してきたスバルは深い溜息を吐いて。自分の右手につけているグローブ型のデバイスを深くはめ込む。

これが彼女の得物。剣だ槍だ、鎌だには頼らない。己の身体こそが彼女の最大の武器だ。

 

 

「さてと・・・」

 

その隣ではアームドデバイスと呼ばれる武器型のデバイスをいじるティアナが立っており、手には質量兵器と呼ばれている銃のM9を模して作られた銃が握られている。

これは彼女自らが一から作り上げたオリジナルのデバイスで、細部に至るまでその作りこみ、銃本来の機構も施されている。魔力を充填し、使用することで内臓した魔力分パワーを上げるカートリッジシステムも自身が扱いやすいように9mmパラベラム弾を模した物をマガジンに詰め、銃に装填している。

さながら本物の銃ではあるが、一応は許可を取っているので違法にはならないのだ。

 

しかし、そのM9を見て疑問に思ったのかスバルがティアナへと問いを投げた。

 

「アレッ・・・ティア今日は狙撃に撤するって言ってなかった?」

 

「作戦変更。どうやら向こうがコッチの戦歴を知って、試験内容をイジったらしいから」

 

「イジったって・・・これ地上本部公式だよ?まさかおと―――三佐たちが?」

 

「なワケないでしょ。こんな性根が腐った事をするのは本局の連中よ」

 

「うえぇ・・・」

 

嫌そうな表情で答えるティアナに釣られ、スバルも露骨に嫌そうな表情で彼女の答えを聞き、気分を損ねていた。

本来、彼女たちの受ける試験は地上本部のものであるのだが、どうやら本部にコネか伝手がある人物が意図的に改変したのだろう。その為、雰囲気だけでティアナは試験内容が変更されたと読み、スバルにも嫌味を兼ねて伝えたのだ。

 

「ったく・・・何処の狸がやったのよ、殆ど向こうの趣向じゃない・・・」

 

「ってことは空飛ぶの?消費が激しいだろうなぁ・・・」

 

「だーかーらー・・・アンタは・・・その為に私はこうしてコイツ(M9)を調整してたんでしょうが」

 

「あ・・・」

 

「・・・スバルもカートリッジの消費は抑えなさい。こんなのに付き合ってられないわ」

 

「まぁ、こうなりゃヤケクソが一番だもんね・・・」

 

ずれた感覚で話す二人は、その会話が聞こえなくても話している姿を、サーチャーと呼ばれる監視スフィアで確認する二人の人物に、気づきつつも知らないフリ(・・・・・・・・・・・・)をしていた。

 

 

 

「・・・で。あれが例の二人ってわけや」

 

「確かに、ギンガと瓜二つだね・・・私もびっくりしたよ・・・」

 

とあるヘリポートでは離陸の準備を進めているブラックホークが待機し、中では彼女達の様子を投影式のディスプレイで見ているはやてとフェイトの姿があった。

無論、この試験の内容を変更した()とははやての事だ。

本人に聞こえていないのが幸いか、差ほど緊張もしていない様子の二人に画面越しに見る二人は興味を持った目で見つめていた。

 

「今年のドチート新人の中でも特にチートな二人・・・実力はゲンヤさんのお墨付きや」

 

「けど、それってあくまでも訓練での話しでしょ?あまり過信したりするのも二人に悪いんじゃ・・・」

 

「・・・まぁ最初はそうは思うわな。けど、あの二人の実力はマジや」

 

「はやて、幾らなんでもそれは―――」

 

「Aランクの空戦魔導師を五人。一分以内で全滅させるっちゅうゲーム染みた事をやったとしても・・・まだ言うか?」

 

「―――え?」

 

真偽を疑いたい言葉を吐かれたフェイトだが、疑う余地もなかった。言い出した本人の顔が事実であると言っていたのだ。

フェイトもはやてがよくジョークだったり冗談だったりを言うので疑う事も多々あるのだが、この場合だと彼女の表情がその証拠となっていたので疑う事も、言い返すことさえもできなかった。

 

「ウチだって信じられへんって何度も思ったわ。Aランクの空戦といえばそこそこ腕のある魔導師。それを平均五分。その中の最短で一分以内で全滅させたって言われれば、冗談にもならんって・・・けど」

 

「・・・。」

 

「実際の映像を見せられて腰抜かしたわ。戦闘マシーンとか快楽主義とかっていう狂乱舞とかじゃない。確実に敵を倒す。敵に当てるっていう威圧感を持った、本物の奴等―――」

 

「けど・・・あの歳で・・・一体どうして・・・」

 

「知りたいところやけど、そこは教えてくれんかった。ゲンヤさんでもや。向こうからすれば極秘中の極秘らしいからな」

 

「そんな・・・そんな言い訳だったら―――」

 

「人格破錠もいとわんやり方をしている、か?」

 

それもないな、と一笑して蹴るはやてだが、その意見も尤もだと汗をたらして呟いていた。

彼女も最初はフェイトと全く同じ事を考えていたのだろう。それを尽く潰され、見せ付けられた事実。

ありのままの真実にはやては唇を強くかみ締めて味わうほかなかった。

その中でもう一つの不安を抱えながら―――

 

(まぁ・・・前になのはちゃんにも見せたけど、あんま良い印象ももってなさそうやったし、何よりも・・・ちょっとヤバイ感じが見え隠れしてたからなぁ)

 

 

 

 

 

 

 

 

「――作戦は頭に叩き込んだわね。こんな面倒な試験、さっさとパスするわよ」

 

「了解っ。まかせてティア!」

 

口伝えで作戦を伝えたティアナに自信ありげに答えるスバルは笑顔で答える。少々過剰にならないかと心配ではあるが、今では作戦をきっちりとこなしてくれるのでさほどの問題にはならないだろうと思い、笑みをこぼしつつも小さく溜息を吐いた。

 

「・・・ヘマすんじゃないわよ」

 

「大丈夫だって!ティアの作戦はいっつも成功するし!」

 

「そっちじゃなくてアンタの方。怪我でもしたらたまったモンじゃないわ」

 

気に掛けるように言ったが、当の本人は「大丈夫ッ!」とVサインと共に有り余る元気で笑みを見せる。彼女が元気であるのは構わないが、それが災いしないかと心配であるのには変わりは無かった。

 

 

「・・・さて。そろそろ試験時間よ」

 

 

空戦魔導師たちによって試験が変更されていると言う事は恐らく試験官たちも空戦魔導師かその関係者。もしくは彼らの息がかかった者達か。

何故彼らが自分たちの試験を突如変更したのかは疑問として残ったが、兎も角として。ティアナは目の前に浮かび上がった大型の投影ディスプレイに背筋を伸ばして向き合った。

 

『おはよう御座います!受験者さん二名は揃っていますね?』

 

「・・・はい」

 

「はいッ!」

 

『今回は急遽試験内容を変更すると共に試験官も私に変更となりました。突然の事で申し訳ありません・・・』

 

(・・・子供?歳は・・・エリオと変わんないか?)

 

(あれっ・・・あの子どこかで・・・?)

 

『・・・改めまして。今回、お二人の試験についての試験官を勤めさせて頂きます、リィンフォース=ツヴァイ空曹長です!よろしくお願いします!』

 

銀色の髪の少女に戸惑いを覚える二人だが、それぞれ思う事は警戒と疑問。

油断などもう既にしていない。

 

『―――では再度確認を行います。陸戦魔導師のティアナ・ミラー二等陸士』

 

「――はい」

 

『・・・スバル・ナカジマ同二等陸士』

 

「おっ・・・違った、はいッ!」

 

(―――。)

 

『・・・保有ランクはB()・・・今回は、Aランク(・・・)昇格試験で・・・本当に間違いありませんね?』

 

「・・・そちらの情報に間違いがなければ」

 

「――だと、思います」

 

明確に答えないところ、どうやら読まれていたらしい。

リィンの使うディスプレイを通し、始めて彼女達の肉声を聞くはやてとフェイトは互い目を合わせ、冷や汗を垂らす。

声色と表情からして既にバレている。

二人は互いに同じ事を思い、画面へと顔を戻した。

 

「完全にバレてるな、こりゃ・・・」

 

「はやて・・・なんだか怖くなってきた・・・」

 

「いや。そんなオバケとちゃうんやし・・・」

 

 

 

 

 

『あ、あはは・・・り、了解しました・・・』

 

苦笑いで誤魔化すリィンは、助けを請うように画面外の後ろへと振り返り、誰かに承諾か助言を得たのかまた画面の方に顔を振り向けた。

 

『では、今からそちらに今回の試験内容とマップを転送します』

 

 

(・・・誰か後ろに居る?この悪巧みを手伝った奴か・・・)

 

「――ティア」

 

「・・・!」

 

 

《 PON! 》

 

軽い音と共に彼女達のもとに一枚の投影ディスプレイが映し出される。

書かれているのは試験内容について。そして、その試験を行うマップ。ならびに配置されているドローンの種類だ。

 

『いま転送したデータにはマップと試験内容が書かれています。マップにつきましてはこの場で見て覚えていただきます。その後、こちらで自動的に回収しますので』

 

「・・・。」

 

「広いね・・・」

 

『今回の試験内容は下位ランクであるBランクと同様。先ずは、市街地を抜けてそびえ立つビルへ突入。同施設内部に居る救助者ドローンを避けつつ、敵対象ドローンを破壊。最上階にあるドローンを破壊してください。その後、高速道路を抜け、指定されたポイントへと向かえば、無事にゴールです。

制限時間は一時間。

最低でも目標のドローンと指定数のドローンを破壊していただければそれでも合格となります』

 

「一時間・・・」

 

「ふえぇ・・・」

 

 

「い、一時間!?」

 

「なのはちゃん、リィンに時間を短くさせたな・・・」

 

「そんな・・・こんなの、最低でも一時間半はかかるのに・・・!」

 

「露骨に腹いせなところがなのはちゃんらしいというか・・・」

 

どうやら友人はそこまでご立腹なのだろう。

上官に対しての口答え、態度、そして恐らく油断。

大方、少し痛い目にあってもらおうという彼女なりの仕置きのようなものなのだろう。

しかし・・・

 

 

(・・・長いね(・・・)、ティア)

 

(ええ。二十分ありゃ十分。ギンガさんなら、嫌がらせに十八分とか言ってくるでしょうけど・・・甘く見すぎてるって空気と様子で分かるわ)

 

寧ろ易しすぎる。あまりに簡単すぎてしまっている。

念話で会話をする二人はそこまで時間をかける気は無いと最初から思っていたようで、彼女達の感覚からすれば余りにも長い時間、一時間を半日と思ってしまうほどの長さに感じてしまっていた。

 

 

『―――他に質問は?』

 

「――いえ」

 

「特にはありません」

 

『・・・分かりました。今から二分後に試験を始めます・・・危ないと思ったら棄権してくださいね!?それが普通なんですから!!』

 

なにやら心配するようにリィン締めくくるが、ティアナとスバルはなぜあそこまで気にするのかと思い首を傾げていた。

 

「・・・?」

 

「・・・さぁ?」

 

彼女が映っていたディスプレイの場所を指差し、目で尋ねるティアナ。しかしスバルも当然ながらなぜそうなったのか分かる筈もなく、お手上げというポーズで首を横に振る。

元より彼女に聞くのが間違いだったかと思い「そうよね」とティアナはぼやき、試験の行われる場所、廃棄された都市部へと目をやった。

 

 

 

 

 

 

管理局内での魔導師のランクはEからSまで存在し、ランクを上げるためには昇格試験を受けなければいけない。

その試験内容は全ランク一貫して実技試験であり、どちらに所属しているかで試験の難易度も違ってくる。

 

今回、ティアナたちが受ける試験は魔導師ランクAへの昇格試験。

内容は灰都市のビルでターゲットを破壊。その後、高速道路跡を通過しゴールするというもの。内容自体はシンプルなものだが、試験内容は空戦向けにアレンジされ、制限時間も変更されている。

制限時間一時間以内にターゲットを破壊し、ゴールするというポイント形式。

そのポイントが一定値を超していれば合格らしい。

 

 

「ポイント形式って・・・なんだか遊ばれてる感じがするね、ティア」

 

「同感。だから見栄しか張れない連中しかできないのよ、空戦は」

 

しかし、彼女達には実に眠たい話だ。

陸戦魔導師の場合、制限時間、内容ともにこれを軽く上回る条件が課せられる。

例としてなら制限時間は二十分前後。対象ドローンのレベルの上昇などなど。

言い表すなら「合格したければ地面を這い蹲ってでもやれ」というものだ。

 

 

「―――スバル。開始と同時にパターン2。ビルを通過したら私が()を渡すから、それを蒔いていって」

 

「オーケー。ティアはどうするの?」

 

「・・・範囲外(・・・)のドローンを狙撃して先にゴール地点の道路に居るわ。マーカーを付けとくから、蒔き終ったら辿って来なさい」

 

「了解ッ。けど、相手は空戦魔導師だし、ティアも気をつけてね?」

 

「・・・アンタに言われたくないわね」

 

とは言うが、本人もまんざらでもないという顔でスバルの言葉を聞き入れた。

純粋に心配してくれているのだろう。思っている感情が表に出やすい彼女のことだ。目の前に映る表情の殆どが彼女の気持ちをダイレクトに表している。

信頼しているからこそ、思う事を彼女は素直に見せているのだろう。

 

「・・・やれるわね、相棒(スバル)

 

「勿論だよ、相棒(ティア)

 

互いの拳をあわせ、最終確認を終える。

元より準備は出来ている。

 

 

―――さぁ、始めよう。狐たちの舞いを

 

 

 

 

 

 

 

 

試験開始の合図であるランプが消えると同時に、二人は真っ直ぐに走り始める。

スタートダッシュというべきかその元気の良さを窺える。が、スタートダッシュをした瞬間。モニターが観戦していた者達はその行動に戸惑い、驚いていた。

別にたかがスタートダッシュで驚いていたわけではない。

問題は、彼女達がその場(・・・)で走り出したということだ。

 

道がないわけではない。だが、厳密にいうなら、彼女達にとっての道は僅か数歩程度しかなかった。

二人の立つ場所は地面ではなく、五階建ての廃ビルの屋上。

その先には空虚に広がる廃都市があった。

 

「ティアッ!」

 

テンセカンズ(10秒)、タイミングは任せる」

 

「――了解ッ!」

 

刹那。

高揚感に釣られ足に力を込める。興奮と緊張、そして僅かな不安。

しかし彼女達に恐れはない。散々こんな事を経験した。だから大丈夫だ。

恐怖に勝る自信と安心感に身を任せ、二人はまるで海にでも飛び込むかのように屋上の端でタイミングよく蹴り上げた。

 

 

 

 

「ひゃッ―――――ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

 

まるでアトラクションを楽しむかのように飛び降りた二人は重力に引かれ、地面へと落ちていく。いや、彼女達の場合は降りる(・・・)といったほうが良いか。

死を恐れず、降りていく二人。その中で先に変化を見せたのはティアナだ。

今更怖くなったわけではない。彼女もこんな事にはもう慣れている。だからこそ、彼女は場合によっては死に至るというこの状況でも涼しい顔をして冷静さを保っていた。

 

 

 

(魔力生成・・・)

 

落下と共に向かってくる風の中、目を凝らし意識を研ぎ澄ます。

恐怖や興奮を抑え、体内に循環する一つの流れをつかみ取り、それを自分の身体の中心。胸の中心へと集めていく。

段々と熱を帯びていく中心では、そこだけが日光に当たっているかのように熱い。だが、同時になにか柔らかな感覚も感じられる。

 

――まったく、不思議な感覚だ。何度も経験しているがこの感覚にはいつも驚かされる。

 

そんな感想を思いつつ、ある程度集まった熱に力を加える。

といっても実際に手を加えるわけではない。感覚と意識をそのままに熱を変化(・・)させるのだ。

これが彼女が三年の間に習得した技の一つ。

 

 

「生成・・・・・・迷彩、展開ッ!!」

 

体内で変化させた魔力を一気に体内へと放出し、自分に覆い被せる。

瞬時に生成、変化した魔力は布のようにティアナの身体に覆いかぶさっていき、全身を包み込む。

やがて、魔力が身体と一体となった時、彼女の身体は段々と消え始めていった。

 

 

 

「ッ・・・幻術・・・違う・・・」

 

「消えた・・・!?」

 

魔力によって応用された透明魔術(・・)に観戦するはやてとフェイトはそれぞれの表情を見せていた。はやては口元に手をあてて考え込み、フェイトは純粋に驚いたという様子だ。

 

「僅かに魔力が漏れてるってことは・・・魔術の類?」

 

「あんな高度な物を魔術で?そんな事・・・」

 

「うん・・・理論と理屈さえ変わってたら魔術は幾らでもできる。けど、透明化を可能とする魔術なんて、聞いたことないて・・・」

 

これはますます目が離せなくなった。

冷や汗を掻きつつも舌を撒くはやては瞬きすらも自ら禁じ、彼女達の映るモニターに釘付けとなる。一分一秒、その行動に目が離せず、その全てを脳裏に焼き付けようと目を輝かせた。

 

 

 

 

 

ごうっと吹き続ける風の中、(地面)に近づくにつれ心臓の鼓動が速くなる。

本能が告げている警告に耳を傾けるが、一々そんな事に怯えることもない。寧ろそれを元にタイミングを計れると前向きな考えを胸にスバルは笑顔のまま地面を見続けていた。

 

(そろそろかなっ・・・!)

 

心臓の鼓動を時計代わりにスバルは魔力を生成、転換させる。

弾丸のような攻撃でも、鉄壁の守りでもない。

魔力自体に自身を乗せる(・・・)

自分の立つべき道を作り出す。

 

 

 

 

「―――ウィングロードッ!!」

 

 

次の瞬間、スバルの足下から青白い魔力が放出され、それが人一人分の道へと変化する。

ウィングロード。彼女が姉と共に独学で身に付けた魔力道だ。

魔力によって生成されているので防御にも転用が可能。更に、緊急の道を形成したりとその用途は幅広い。

彼女の足下から形成されたウィングロードは螺旋状の急な坂となり、地面まで続く即席の階段になった。と言ってもご丁寧に階段が出来たわけではなく、一本の坂道が内向きに傾いているだけのものだ。

その道にスバルは足を付け、慣れた動きで地面へと滑り降りていく。このままいけば二人とも無事に地面につけるだろうと思いたかったが、スバルはそんな生易しい事を行わず、自分の身だけを考えるかのように自分の足下にだけ道を形成した。

 

つまり、ティアナだけは単身まだ落ちていたのだ。

スバルの形成したウィングロードの中心は人間一人が入れる程度の広さが広がっており、そこに彼女だけが一人落ち続けていた。

このままでは地面に激突して最悪足を折るだろう。

誰もがそんな事を考え、スバルに正気なのかと問いかけたかった。

 

 

 

しかしスバルもそこまで馬鹿ではない。ティアナが一人形成したロードの真ん中を落ちているのには気づいていた。そして、それが自分と彼女が意図的に行ったことであると言う事も、始めからそのつもりで彼女はロードを作り上げたのだ。

何の策もなしに自分の身の安全だけを考えたわけではない。既にスバルはティアナに頼まれたものを地面に用意していた。

 

 

 

「――――――ッ!!」

 

 

彼女が通っていた道が霧のように霧散し一部は本人の魔力として戻っていく。

そして、残った魔力を使い、スバルは彼女の落下地点にあるものを形成していた。

螺旋の中心に作り出されたのはスバルの魔力色で作り上げられた丸い何か。

見た目からすればまるで柔肌のような色と輝きだ。

それをティアナの足下に設置したスバルは小さく笑みを見せる。

 

 

 

「出来上がりッ!!」

 

「ふっ・・・!」

 

刹那。透明化したティアナが丸い魔力の塊に片足をつける。

重力に引っ張られた勢いと彼女の体重が合わさり、丸い塊に衝撃が走る―――

かと思いきや、塊は本当に柔肌のように凹んでいき、彼女の付けた片足を中心に塊の中に一瞬だがティアナは沈んでいった。

これには見ていたはやてもまさか、と驚きを隠せなかった。

 

衝撃を和らげるだけの魔力を形成。それを地面に設置し、彼女の着地時の衝撃を和らげる。

つまり、足下に作られたものは魔力で出来たクッションだ。

そう思ったはやてだが、結論付けるにはまだ早かった。

 

勢いと共に沈んだ体は地面に付く事無く―――

 

 

「いっ・・・けぇ!!!」

 

足を蹴るようにクッションを蹴り上げ、ティアナは再び大空を舞っていったのだ。

 

 

 

「魔力のクッションやなくて・・・トランポリン・・・!」

 

 

 

 

 

「作戦開始・・・!」

 

「らじゃーッ!」

 

 

恐ろしくも感じた二人の笑顔に、画面越しに見ていたはやては笑みを見せる。

焦りと興奮。そして歓喜。

二人の力をこの目で見たいと心の底から欲した。

 

「こんの二人は・・・!」

 

その欲に答えるように、ティアナとスバルは空と地を駆け抜けていった。

 

 

 


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