G・E・C 2  時不知   作:GREATWHITE

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今回もよろしくお願いいたします。


第12話 半端者 下

凍りついたライブハウス内でエノハの言葉の意味を頭の中で吟味し、咀嚼し、噛み砕くと同時にリグの心音は跳ね上がっていく。

 

ハイドを出ていくのか。

 

死ぬのか。

 

レアを、ママを殺すのか。

 

―何言ってんだコイツ・・?バカじゃないのか?・・・イカれてる。

 

「リグ」

 

びくっ!

 

正気を疑う相手が放つ割にはうすら寒い程、氷の様な冷静さと冷徹さを兼ね備えた口調のエノハの言葉に混乱するリグに言葉は無い。

 

「・・君は俺の命を軽んじた。君が全くの何の覚悟も持っていなかった一方的なさっきの『遊び』はその実俺の命がかかっていた。一方で君は完全な安全圏に居つつ、その上で俺を『別に死んでも構わない』程度の気楽さで行った戯れで安易な取引までして君は負けた。その『意味』を吟味しないでな。・・見合った代償は支払ってもらう」

 

こつこつとエノハは絶句のリグに歩み寄る。

 

「さっき言った様に俺は君を『部下』としてはいらない。自分の優位を確立した土俵で大した覚悟も無く安易に他人の命を踏みにじったりする様な奴―そういう奴は決まって面倒を引き起こす。それは同時周りに居る人間も危険に晒す。何と言っても覚悟の無い奴はいざという時・・リグ?今の君みたいな状態になる」

 

 

 

―いざ過酷で究極の選択を迫られるとどうしていいか解らない。

 

 

 

「君を追い込んだのはリグ・・君自身だ。結果君は今迫られている。自分の居場所を無くすか。自分が死ぬか。自分にとって大事な人間を犠牲にするかのな。さぁ選べ」

 

「ぐっ!!てめっ・・・!」

リグは少し反抗的な目をエノハに向けるが

 

「・・・・」

 

「・・・!」

 

場数が違った。

P-66偏食因子を追加し、状態が小康状態に落ち着いたエノハの無言の圧力にリグは怯む。確実に先程の両者の様に圧倒的な力の差は無い。ただでさえ先程は圧倒的に有利な状況でエノハに出し抜かれたのだ。その事実が現在、今も尚地力に関してでは上であろうリグに完全なる敗北感を植え付けた。リグは閉口するしかない。

 

 

「・・遅かれ早かれ今のままの君ではいずれこうなっただろうな?覚悟も無く、ただ己の力に溺れてそれを横暴に振り回して暴走し、仲間を危険にさらし、傷つけ、挙句死なせ、そして最後に君も死ぬ。それが少し早くなっただけだ。君のせいで被る他者の犠牲と迷惑が最小限で済んでよかったと思って安心して失せろリグ。出来るならレアはまだ殺して欲しくない。明確に今の所『いらない』のは君だけなんでね」

 

エノハの容赦ない言葉であった。リグはうなだれ、涙目になりながら歯を喰いしばってわなわなと震えていた。

 

「返事を聞いてないぞ?リグ・・答えろ。ダンマリは許さない。君は無意識のうちに選んでいたんだ。取り返しのつかない取引を何の自覚も無しにな。それを今はっきりと自覚しろ」

 

「うっ・・・」

 

「早く選べ!!!リグ!!」

 

「んぐっ・・!」

 

 

 

 

 

―・・・ふぅっ。これぐらいでいいか・・・。

 

 

 

 

 

「・・・!」

エノハは先程リグから奪った帽子をぼすりと俯いたままの少年の頭に乗せる。

 

 

 

「『命を軽く扱う』のと・・『命を賭ける』のとは全く違うぞ。自分を安く扱うなリグ。自暴自棄になるな。そして敵対する相手を軽んじるな。こっちが攻撃すると言う事は攻撃される、殺されるリスクを常に孕んでいるということ。その覚悟を常に忘れないでくれ。・・生き残る為にな」

 

 

「生き残る」そこを強調しつつ振り返り、リグを除く他の3人にも声をかける。

 

 

 

「とりあえず・・俺の基本方針はそれで、ということで。『甘い』と感じるかもしれないが俺のGEの師匠筋の人がその方針でね。そのおかげで俺も生き残れてる。これから先も常に通用するかは解らないけど・・その為の最大限の努力は惜しまないつもりだ。

まぁ・・実際話まだ新しい神機に適合もしていない半端者でそんな奴にリーダーをいきなり任せるって言われたら当然不安、不満、心配もあるだろう。その意味で考えればリグの行動や態度も解らないわけじゃない・・」

 

項垂れるリグをちらりと見る。先程の様に咎めるような視線はせず、少し疲れた様な苦い笑顔を向けてエノハはもう一度他の三人に視線を戻し、

 

「まぁ・・とりあえずは俺に付いてきてくれないか?」

 

最後にこう言った。

 

「ふむん・・・まぁエノハさん怒らすと怖そうなのでとりあえず付いていきます・・とりあえずよろしく!エノハさん?」

 

アナンはリグへのエノハの容赦ない言動に少々ひきつっている。

「や、やべぇ次は自分もこうなるかも」という表情をしていた。自身も結構「覚悟」とは程遠い快楽主義、趣味を持った嗜好を持つが同時に日和見主義でもあるアナンは素直に従った。

 

「解りました」

 

ノエルは彼らしく素直に短く端的に返す。

 

「・・・」

 

『レイス』は黙ったままだった。

 

 

その数秒後

 

「・・ううん」

 

ようやくレアが目を覚ました。起きぬけの頭を重そうに左手で抱えて薄く目を開く。

 

「レアママ・・大丈夫?」

 

「ええ・・大丈夫よ。有難う『レイス』。・・・」

 

レアは目の前の光景を泣き黒子のついた右目で無言で覗く。散乱した壊れた座イス、照明を一つ失ってやや薄暗く、真新しい床の穴が空いたなど何ともひどい有様になったライブハウス内で項垂れるリグとエノハと他三人の立ち位置から状況と空気を把握し、少し悲しそうな顔をしてエノハを見る。

 

「・・色々あったみたいね。迷惑をかけて本当にごめんなさい!」

 

レアは自責の念で頭を抱えながら痛々しく細く整えられた眉をひそめた。「こうなる」可能性は念頭に入れていた。

 

―恐らく「こうなる」ことを解ってて私の中に居る「あの子」は眠ったのね・・。

全く・・・「あの子」は「我」ながら悪戯っ子だ。

 

 

いざそう言う状況に陥った時、エノハを庇う役目が自分の何よりも役目だったのだが・・情けない話だ。日々の業務、研究と目が回る多忙さで疲れ果て、「あの子」に役目を譲った自分の軽率さをレアは恥じる。しかし遅まきながらも「自分の役目は果たさないと」と、レアは大きく息を吐いてつかつかと歩き出す。

途中空の注射器を持ったノエルに「有難う」と一言声をかけながら微笑んで軽く肩を叩いて通過し、レアは尚も歩みを止めない。歩く先はエノハと・・リグの所だ。

 

 

「・・コラ!リグ!!言ったでしょ!?エノハさんにちょっかい出したら私が許しませんって!」

 

「ご、御免。・・レアママ・・」

 

最早「悪ガキ」というより子供になったリグは少々脅えた眼をして素直に謝る。外で無駄に威勢のいい少年は意外に母親に弱い場合が多い。

 

「許しません!今日は夕御飯抜きです!反省しなさい!」

 

レアはこう見えて家庭的だ。母親を早くに亡くしたクラウディウス一家で多忙な父親のジェフサ・クラウディウスに替わって家事全般を切り盛りしていた。

貴族である以上クラウディウス家には使用人、執事も当然何人か居たが任せきりにする事は無く、少女時代のレアは率先してその知識、技術を吸収し、少しでも多忙な父の役に立ちたいと背伸びする母性に溢れた少女であった。

お転婆で負けず嫌い、そして何よりも父親が大好きだった所もその一助となったであろう。故にこの「ハイド」でもレアと彼ら四人の関係は「上司と部下」ではなく、「母親と子供」の様な感じである。

 

元々クラウディウス家が出資している児童養護施設―マグノリア・コンパスはこの時代有り触れた「アラガミによって親を亡くした孤児」、または「何らかの理由で親元を離れた子供達」で構成されている。親への執着が人一倍強い年頃に様々な理由で親から引き離された少年少女達にとって自分達に安心できる寝床と暖かい食事を与えてくれるクラウディウス一家の人間は慕われている。

 

ここに居る「ハイド」の四人もまたその施設から選ばれた子供たちなのだ。おまけに彼らはその一家の主であるレアから秘密裏に直接教育、世話をされているのだから当然レアに対する執着心は強い。「ママ」と呼ばれているのがその証拠だ。

 

まぁ言わば今回連れてこられたエノハは「バツイチの子持ちの母親」が後から連れて来た母親の交際相手のような微妙な立場である。複雑な心境になるのは自然と言える。

 

リグはその微妙な感情を押し隠さず、言葉と行動で示してきた。が、他の三人にも少なからずそのような感情はあったのであろう。ノエル以外の二人がリグの行為をある意味許容していたのがその証拠だ。

母親離れするかしないかの曖昧でぐらついた瀬戸際の難しい年頃の少年少女たちの中にいきなり取り落とされたエノハは気の毒としか言いようがない。

 

―年齢的には兄弟ぐらいの差なのに・・。

 

―俺だって好きな子居るのに・・。

 

とエノハは愚痴りたくなるが。

 

 

「・・・!!・・・!?・・!・・・・!!!

 

「・・・」

 

しばらくのレアのお説教に完全に叩きつぶされたリグが更に項垂れているのを尻目にレアは踵を返してエノハに振り返り・・

 

「まぁ・・いろいろと・・本当に迷惑をかけるかもしれないけど・・よろしくお願いします。エノハ君・・」

また更に申し訳なさそうにレアはエノハに深々と頭を下げた。その後―

 

「エノハ君。とりあえず診察するからこっちに来て頂戴。上着を脱いで横になって」

 

博士、研究者としての表情に一瞬で切り替えたレアの姿があった。

 

 

しかしアナンはぼそぼそと

 

「ほぉほぉ・・中々色々と妄想が捗るセリフですなぁ・・白衣の美人と上半身裸の青年―何か間違いあってもおかしくないんとちゃいます?」

 

「・・やめようよ。そういうの」

 

「・・やれやれ」

 

「・・ぐすっ」(←リグ)

 

 

一時間後―

エノハの状態が完全に安定化した事が判明したと同時にレアはほっと溜息をつき、

 

「とりあえず夕食にしましょう。数々の非礼の御詫びに私が腕を振るうわ・・。『レイス』・・手伝って?」

 

「はい」

 

「それにしても本当に危ない状況だったわ・・もう少しP-66偏食因子の摂取が遅かったらと考えると・・。・・。リグは明日の朝食も抜きにしましょう・・・!」

 

「レア博士・・もういいですよ。流石に可哀そうです」

 

上着を羽織りながらエノハはそう言った。

 

「初対面の人にまともに自己紹介もできない子なんてこんな扱いで十分です!」

 

結構容赦ない性格らしい。まぁ「厳しいが慕われている」という点では彼女は中々優秀な母親だ。

 

「ははは」

 

エノハは苦笑いした。その苦笑いを見てレアはまた申し訳なさそうな顔を一瞬した後、しっかりとした蒼い目でエノハを見据え、

 

「・・・『レイス』」

 

「はい」

 

「アナン」

 

「は~いっ」

 

「ノエル」

 

「はい?」

 

「・・リグ」

 

「・・」

 

「いらっしゃい・・四人とも。私の可愛い子供達」

 

 

レアの両隣に左に『レイス』、右にアナン、その二人の隣にノエル・・視線を逸らしたリグが順にエノハの前に並ぶ。レアは両隣りの少女二人の背中に手を添え、

 

 

「改めて・・エノハさんに自己紹介なさい。四人とも」

 

 

まず

 

「アナンです。年は花の15歳。対応神機は~~~まだヒミツ❤です。衛生兵で主な役目は回復と・・・ちょっとした特技を持ってます。んふふ♪」

 

次に

 

「ノエルです。アナンと同じく15歳です。僕は・・」

 

「・・?」

 

「・・僕は『ハイド』専任の整備士をしています。どうぞよろ―

 

「『今』は・・だろ」

リグが自分の紹介をおざなりにして割り込んできた。

 

「・・っ!!リグっ!!」

またこれだ。リグがこういう風に割り込んだ時、この少年は時折この表情をする。素直で真面目そうな顔を酷く歪めて。その表情の正体はまだエノハには解らない。

 

 

「リグ・・いい加減になさい。・・ノエル?続けなさい」

 

「・・はい。よろしくお願いします!!エノハさん!」

 

「・・」

レアに諫められ、不満そうにまた唇を尖らせてリグはそっぽ向く。

 

「ホラ・・リグも」

 

「・・リグ。14。ガンナーだ。対応神機は・・・今度見せて驚かせてやるよ」

 

最後に初めて会った時の様な不敵な笑みを浮かべてそう言った。

何をするにも「尖らないといけない」という病気にでもかかっているのだろうか?この少年は。

 

そして最後に

 

「私は『レイス』。16歳。対応神機は新型特殊神機―ヴァリアントサイズ。主な役目は遊撃、陽動、特攻。この部隊では副隊長として貴方をサポートします。・・よろしく。エノハさん」

 

 

満足そうに「子供達」の自己紹介を見届けた後、レアは母親の様な慈愛あふれる微笑みで首をかしげるような会釈をしてエノハを見、

 

 

 

「改めて・・『ハイド』にようこそ。エノハ君。歓迎するわ」

 

 

 

 

「・・エノハ ヤマメだ。まだ神機にも対応していない未熟者、半端者だが付いてきて来てくれると嬉しい。どうかよろしく頼むよ」

 

 

フェンリル極致化技術開発局所属隠密部隊―対特殊変異アラガミ討伐部隊「ハイド」。

 

部隊長―榎葉山女着任。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで・・一つ聞いてもいいかな?エノハさん」

 

『レイス』が口を開く。

「・・何?」

 

「一応偽名が『サクラ』って話なんだけど・・それって極東の名前でファミリーネームでしょ?・・女性名ならある程度ファーストネームでも普通と言えるけど、エノハさんみたいに男性なら基本ファミリーネームが自然の様に感じるけど」

 

「・・よく知ってるな・・その通りだ」

 

「だから一応聞くけど・・ファーストネームは決めてるの?」

 

ぎく

 

「・・あ、ああ」

 

「教えといてくれるかな」

 

「・・マジ?」

 

「ということは決めてるんだ?本名名乗れないんでしょ?」

 

「その・・」

 

「?」

 

 

 

「マ、マスオ」

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

「マスオだ!『サクラ マスオ』!!」

 

 

―・・えぇ~~~~っ

 

 

恥ずかしそうに言い切ったエノハを除く五人全員が目が点になる。その名前の意外性と響きに。しかし何だその・・日曜日の夕方に誰しもを憂鬱そうにさせそうな6時、6時半に並びそうな名前のラインナップは。

 

「・・マスオ」

 

「マスオ」

 

「マッスオ?」

 

「マスオさん・・・」

 

 

「もう少しマシなネーミングはネェのかよ・・・マスオサンよぉ・・」

 

 

大不評。

 

 

「うるせぇ!!ここに来るまでに色々ゴタゴタがあってその時に急造で思い付いた名前なんだよ!!!ほっとけ!!許してくれ!!見逃してくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了お疲れさまでした。

エノハの偽名の「サクラ」ですが読み方、発音としては苗字―「佐倉」とか「咲良」などに近い物になります。

いやぁなんとどうでもいい話だ!


OIL OIL OIL.






おまけ


エノハが『ハイド』の少年少女達と邂逅を果たしたその日の深夜。

エノハはライブハウスより更に奥にある地下施設に来ていた。

周りには物々しい圧迫感のある武骨で味気のない黄土色の壁、強力なアラガミ装甲壁に囲まれた部屋。
そこには別室でモニターする為の監視カメラ、そして・・今から行う行為が万が一上首尾に終わらなければ即処分を行う為の毒ガスの通気口が無数に黒く丸い口を広げている。

「・・・」

思い出す。極東で初めてあの部屋に入った時の記憶を。実際はそれ程昔の事ではないが遥か遠い昔の事の様に感じる。

『落ち着いて』

スピーカーより声が響く。レアの声であった。

『緊張する事は無いわ。・・貴方は既に選ばれ、仲間に認められてこの場に居るんだもの。悪い結果が出るはずが・・ないわ』

正直。

確率はかなり微妙なのだろう。レアのスピーカーから響く声はエノハを安心させようとして居ながらも同時に自分に大丈夫だ、自信を持てと言い聞かせている様な感情を隠しきれていない。

エノハの目の前で鎮座する台の上で無数の天井からのコードが取り付けられた巨大なケースが機器の作動音と共に天井に上がっていく。
同時その中に在る・・否、「居る」存在は照明の光を吸って眩いほどの光を放つ。

白銀の光。

その光が止むと同時刀身があらわになった。

ショートとロングのちょうど中間ほどの長さの剣形態、巨大なマグナムの様な大口径のブラスト銃形態、機械的にデザインされたシールド。

全てにおいて銀色一色に染まった溜息が出るほど美しい神機で在った。

『その子が貴方の新しい神機―スモルトよ』

「・・スモルト」

『きっと貴方を気に入ってくれるわ。・・心の準備ができたら手をかざして。効果があるか解らないけど・・祈らせてもらうわ』


―・・貴方に祝福があらん事を。




モニター室


監視カメラの集音マイクから響く形容しがたい機械音が肉を引き裂く音と絶叫が共鳴し、祈る様に目を背けるレアの後ろで瞬きもせず、「有事の際」の介錯役として同席していた『レイス』がただ無言でその音、その光景を聞いていた。

―大丈夫だよ。ママ。

この人はこんなとこで終わるような人じゃない。私の勘がそう言ってる。




同時刻

エノハは激痛の奔流の中で確かに聞いた。

言葉では無い。

感情として曖昧なエノハにしか伝わらない





「ようこそ」


「お前を待っていた」




さぁ―――の始まりだ。







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