G・E・C 2  時不知   作:GREATWHITE

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第17話 生殺与奪 上

「~~~♪」

 

耳の下位までの髪を揺らしながら「赤毛のアナン」はとことこ駆け付けた三人の元へ鼻歌と共にリズムよく歩いてくる。先程までの凶暴なほどの無邪気さは形を潜めていた。

彼女はかつて仕出かした「失敗」の教訓上切り替えが早い。普段は掴み所のない天真爛漫さの中に押し隠した本性―無邪気かつ凶暴な嗜虐心を押しとどめる自制心を持つ。そこがアナンの恐ろしい所でもあるが。

 

「…。お疲れ様。アナン。成程。君の力はそんな感じか」

 

「そゆことです。びっくりした?驚いた?褒めて褒めて」

 

「うん。アナンちゃんすごいぞ~。えら~い」

 

「わは。力の籠もらない適当なお褒めの言葉サンクス!サー!!」

 

「…で。効果範囲はどれくらい?」

 

「そしてこの急速冷凍!!…そうだね~アラガミの種類とか個体によってまちまちだけど必須前提条件としては『私からも目標のアラガミからもお互いが視界に入っている距離』って感じかな」

 

「…」

―…。アナンの「干渉」をアラガミが認識できる距離、といったところか。

 

詰まる所「交戦状態時」限定ということだ。リグの敵に知覚される前の暗殺、奇襲向きの能力とは対照的である。

 

「近付けば近付くほど成功率は上がるよ~。まぁ一部の基本的に単独行動、群れずに一匹で行動するアラガミには使えないけど協力して狩りをする連中、乱戦の際は任しといて♪あ。縄張り争いしている最中のアラガミとかにも容赦なく私を放り込んでね?煽って煽って煽りまくって両者撤退なしの消耗戦、見事な殲滅戦にしてみせるよ~」

 

「…まぁ無理はしないでくれ。充分に驚かせてもらったから今度からはその力の発動の際は俺の許可をとること。君の力の特性上アラガミが複数いる事が前提だから危険な事は変わりない」

 

「は~い❤エノハさん私の事心配してくれてるんだ~やっさし~」

 

複数のアラガミは個別に分散させ、各個撃破が基本のGE戦闘に置いて嬉々として乱戦中に突っ込んでいくスタイルの彼女は相当に危なっかしい。

 

「ただでさえ君の神機は盾形態しかない。単独行動は絶対とらない事」

 

「了解しました~」

 

そのエノハの言葉の言外に「常にアナンから目を離すな」というメッセージを『レイス』、リグは受け取り、『レイス』はしっかりとエノハを見据え無言で「了解」。リグは面倒くさそうに「…了解」と頭を掻きながら言葉無く態度でそう意思表示する。

 

そう。

 

アナンに単独行動はさせてはいけない。エノハの予測は正しい。彼女は結果よりも過程を楽しむタイプだ。茶目っけや悪戯っけを失わない。それ故抜けた所が出来る。

 

…こんな風に。

 

 

『…エノハさん!!』

 

ノエルの緊急性に疑いの余地ない無線からの声にエノハは振り返る。崖下に広がるアラガミ達の血だまりの中、霧散していこうとしている彼らの亡骸の中の一つが明らかに消えていた。

 

―ぬかった…!!!

 

戦闘警戒を解いていたエノハは自分の不手際に唇をかむ。エノハは平静を装っていたがやはり目の当たりにしたアナンの能力と隠し持った狂気に対する動揺が少なからずあったようだ。

体液を滴り落としながら怒りの形相で自ら同胞を殺した直後のアラガミ―コンゴウ堕天種が四人の前に躍り出、空中で全身から真空のカマイタチを全方位に発散した。

 

ピィン!!

 

切り裂くような鋭く、高い風の音が辺りに響き渡り、その真空刃は周囲数十メートル範囲内の岩壁、木をズタズタに切り裂いていく。

 

 

「…!無事か!!…っ!?」

 

開いた盾形態で真空刃を防ぎ、その風圧を受けて射程外に逃れて着地したと同時、エノハはすぐに周囲を確認、同時に眉を歪めた。この状況に置いてコンゴウの奇襲の真空刃を咄嗟に防げない人間はただ一人。このメンツの中で唯一盾形態を持たない―

 

「ぐっ…」

 

リグだ。

 

「リグ!!」

 

「…大丈夫だよ」

 

真空刃によって切り刻まれた右足をだらりと垂らしながらリグは強がった。持ち前の瞬発力で真空刃の範囲外に逃れ、深刻なダメージは避けたものの、その際蹴り出したリグの瞬発力の要の右足が唯一範囲内にとどまっていたのだ。

 

「…アナン!」

 

真空刃の爆心地から何時の間にか一番遠い距離に居るノーダメージの『レイス』の咎める様な口調がアナンを射抜く。

 

「あっははゴメン。片方が堕天種ってこと忘れてた…。そりゃあ原種より強いよね…」

 

「相討ち」は実は「勝たせる事」、「負けさせる事」よりも難しい。基本は対峙した両者で勝ち残ったどちらかが直前の戦闘によって消耗した所を元気いっぱいの第三者が突くと言うのが常である。そこを「調節」して双方とも最悪でも戦闘不能の状態にするのがアナンの役目でも在るのだが…堕天種は現在瀕死の状態だが活動は可能―一番危険な手負いの獣状態。

 

「…アンタ後でお仕置きね」

 

「うぇ。で、でも『レイス』の能力まだエノハさんに見てもらって無かったじゃん!!だから丁度いいじゃん!!」

 

困った笑顔を無表情で冷静に怒る『レイス』に向けてそう言ったアナンに

 

ドゴン!!

 

「うひゃあっ!!」

 

怒り狂ったコンゴウの右拳がアナンの眼前の地面に突き刺さる。彼のターゲットは当然今までのヘイト値が積み重なったアナンだ。

 

「うぇ~ん助けてぇ!『レイス』ぅ!!」

 

「アンタが責任持って暫く相手なさい」

同僚。冷血。鎌を持った死神っぽい姿をした『レイス』の姿が今のアナンには限りなく本物に見えた。

 

「うう…わかったよう」

 

「アナン!!」

 

重傷を負ったリグを抱えながらエノハがアナンに声をかける。

 

「は、はい!?エノハさん!?」

 

―ひょっとして助けてくれるの!?さっすがたいちょ!

 

「そのお仕置き俺も後で参加で!」

 

「うぅ~~っこの世には神も仏もいねぇのかぁ~~~」

上司にも見捨てられる。

 

「アナン!!テメェ覚えてろよ。後でギッシギッシに泣かすからな!!」

 

手負いのリグも割り込む。中指を「〇U〇K!!」にしながら。

 

「ギッシギッシに泣かすなんてイヤ~ン❤リグのH❤」

 

なんだかんだ言いながらも相当アナンが楽しそうでリグはさらにイラつく。

 

「…ぎぬぬぬにぬい!!」

 

「…ドンマイ。リグ。これ以上言ってもあの子喜ぶだけだわ」

 

『レイス』が諦め顔でコンゴウを引き離したアナンを見送りつつ、リグに歩み寄る。

 

「はぁ…ま。仕方ない。…エノハさん?アナンの言うとおり丁度いい機会だから私の力今見せるね。リグ?傷見せて。今治したげるから」

 

「・・『治す』?君の『能力』はひょっとして治療系か!?助かった!!」

エノハも喜ぶ。癖とアクの強い能力の前二人と違ってようやくまともそうな能力が来て内心エノハは嬉しい。

 

―くぅ…普通の部下がこれほど嬉しいなんて。

 

しかし

 

「よかったな!リグ!?……!?」

 

「……」

 

リグが無言で小刻みに震えている。僅かだがカチカチと歯の奥が鳴っているのも傍に居るエノハには聞き取れた。

 

「どうした!?寒いのか!?しっかりしろ!リグ!!」

しかし、そんなエノハの励ましの声は今のリグには届いていなかった。

 

「レ、『レイス』…ほ、ホントにやるの?い、いいよ。ボ、ボキ(僕)には回復錠あるし、さ?」

 

リグがキャラ崩壊を起こすほど確実に脅えている。壊れている。そんなリグにいつもの冷静な口調で『レイス』は

 

「…大丈夫。痛くはしない…とは言い難いけどさ」

 

と、微妙な言い回しで返した途端

 

「うわぁあああ!!止めてくれ!!帰る!僕お家帰る!!」

 

「お、落ちつけ!リグ!!」

 

まるで予防接種直前の幼子のようにリグはジタバタともがく。

 

「う、動くなって!!足怪我してんだから!!お前!」

 

「離してくれよ!!」

 

「往生際が悪いよリグ…私の能力の紹介の為に犠牲になりなさい。…エノハさん?リグをしっかり抑えといて」

 

「…わ、わかった」

 

―ぎ、犠牲…!?

 

「離せぇ!くそ!力強い!!コイツ!!」

 

もがくリグをエノハが抑え、『レイス』がおもむろに患部であるリグの右足を見据えながら姿勢を落とす。彼女はじっとリグの患部を見る。真空刃による深い裂傷が無数に入り、赤黒い血液の下には一部うっすらと白い骨が見えるほどのズタズタの重傷だ。裂傷同士の間隔も狭く、密集している為縫合も難しい。「足」という機能としては最早死んでいる。食料品店の鮮肉コーナーに並んだ鳥モモ肉と大差ない。

 

そのリグの足を白い指先で抑えつつ『レイス』は

 

「・・『ここいら』が適当かな」

そう呟き―

 

 

 

…カプッ

 

 

 

 

噛みついた。

 

「―――!!????」

 

 

「――――!!!!!」

 

リグの声にならない叫び声が辺りに響く。

 

 

「エノハさ~ん!これが『レイス』の能力だよ!」

 

リグの足に噛みつき、口を塞がれて説明が出来ない『レイス』と説明どころではないリグ、リグの惨状を前にして耳を塞いでいるであろうインカム先のノエルの替わりにコンゴウと交戦中のアナンが片手間に説明をする。

 

「アナン!?レイスは今一体何をやってんだ!!??」

 

「見た目の通りだよ~?噛みつい…(ぎゃああああああああっいてぇええええ!!!←リグ)」

 

「ほ。とっ!(キンッ!ガイン!!ゴアアアアアっ!!←アナンがコンゴウの攻撃を防ぎ、コンゴウが怒り狂っている音)『レイス』はね?怪我をした所の部分の肉を食べる事によってその部分の体組織を『レイス』の体の中で再組成して患部に戻し、その部分を組み直…(うぎゃああ!!死ぬぅうううう!!!←リグ)」

 

「ととっ。ほい!ていっ!(キシャアッ!ガルルル!!←盾でコンゴウのオラクル刃を受け流し、反射させたのがコンゴウを直撃、コンゴウ更に怒り狂う)」

 

「おお…アナン…君の盾そんな使い方が在るのか」

 

「へへ~ん。凄いっしょ?私の能力はあくまで内包していた負の感情を少しずつ煽る程度の物だからさ?まず『切欠』が必要なんだ。『エロス』を使って相手の攻撃をはじいたり、受け流したりした攻撃を別のアラガミに視覚外からぶつけたりしていかにも『君を攻撃したのはあいつだよ!』っていう状況を作るの。そして少しずつ少しずつ注意を私自身から味方のアラガミに向けていくわけ」

 

「・・成程。疑心暗鬼を生むわけだ。(いてぇえええ。治った!治ったからもう!!『レイス』!!もうやめてくれ!!死ぬ!死ぬって!!)」

 

ガガッ

『…エノハさん…『レイス』の治療終わりまし…(うぎゃああ)…まだみたいですね…終わったら言ってください』

ブチっ

 

「…」

 

―ノエル…ひどい。

 

「ほい、ほいっ!!あ。話戻すね?『レイス』のその治療のいい所は回復錠と違って患者の負担が凄く少ない所!回復錠、解放状態による再生は体の自然治癒、自己再生能力をフル回転、爆発的な回復速度増加をさせて傷口をむりくり塞ぐわけだから当然体の負担は大きい。ただでさえ傷つき、消耗した体にその負担を強いるわけだからね。でも『レイス』の能力は患者自身の替わりに『レイス』が再組成の負担をする形になる。患者は再生のための体の負担無しに恩恵だけ受け取ることができるってわけ♪」

 

―成程…だが…

 

「『負担が少ない』?『恩恵だけ受け取る』?これが…!?」

 

「うぎゃああああああ!!うわ~ん!!痛い!痛いよ!!」

 

「あ~もううっさいなリグ!?男の子でしょ!?女の子が喋っている時は男の子は静かにするものよ!!」

 

ガガッ

『終わりました!?もう終わりましたよね!?(うわぁあああ)…』

ブチッ

 

キシャアっ!!グオアアアアアアアアッ!!!

 

「たぁっ!!とおっ!!」

 

キンっ!ガイン!!

 

「イタいよぉおおおおお!!!!!」

 

「カプッ…もぐもぐ…もくもく」

 

 

 

「…」

 

―なんてカオスかつシュールな光景だよ…。

 

先程までとまた違ったこの地獄絵図は『レイス』の治療が終了する一分間の間エノハの目の前で展開された。

 

 

 

 

一分後

 

「ぷっ…!よっし完了…」

 

口の中のリグの血液を吐きだし『レイス』はべっとりと付いた口の周りの血を拭う。先程まで『レイス』の銀髪に覆い隠されていたリグの患部がエノハの視界に映り、同時にエノハは驚愕で目を見開く。裂傷が所狭しと斑状に浮かんでいたリグの右足の傷が逆再生しているみたいに小さくなり、二秒後には跡形も無く消えた。

 

「すげぇ…」

エノハは心からの感嘆を隠す事が出来ない。

 

「回復錠を連続で服用したり、解放状態の回復力に任せてると時間が経つ毎にどんどん体に重しを足されていってる様な感覚…覚えあるでしょ?エノハさん?」

 

「…ああ。特に解放状態が切れた時の倦怠感はヤバイ。解放時に受けたダメージも夢から覚めたみたいに直撃してくる」

 

「私のこの血の力ならそれを最低限にする手助けができるよ。…どうやら物凄く痛いらしい所を我慢さえしてもらえばホラ…リグももう完治…」

 

「…完治はいいんですがどうやら気絶しているみたいなんですがね。レイスさん」

 

「…」

 

「…」

 

「ま。こういう事もあるよ」

 

「…(がび~ん)」

 

―意外と天然系か……!?

 

エノハはとりあえず彼女の世話になる様なケガは出来る限り負わない様にしようと決心した。

 

 

 

 

 




読了お疲れさまでした。

おまけ

「さて、と」

『レイス』はリグの治療を終え、「力」を使った事によってやや消耗した事を隠さない所作でゆっくりと立ち上がる。彼女が目を向けた視線の先にはアナンとコンゴウ堕天の攻防が続いていた。そこへ一歩踏み出すと同時

「…レイス。リグを頼む。後は俺が引き受けるから君も休んでろ」

エノハが『レイス』を制止しつつ肩をとる。

しかし

「そうしたいのは山々なんだけど…正直さっきアナンが言ったとおりホント『丁度いい』んだよね。だから私が行くよ。今日はそういう任務なんだから」

「…?君達の力を見せてもらう任務ってこと?それはもう達したからもういいと思うんだけど…」

「まだ…だよ?…ふふん」

そう言って初めて『レイス』がエノハにほほ笑みかけたと同時


「アナン!」

『レイス』がそう叫びながらエノハの制止を振り切って跳躍。向かう先は当然アナン、そして討伐対象のコンゴウ堕天だ。

「お。終わった?待ってましたぁ~!と、いうワケであとはシクヨロ~」

アナンも『レイス』に向かって飛び出す。背後には未だ健在のコンゴウ堕天が尚も追いすがり、視界の先ですれ違う少女二人を捉えつつ、近付いてくる側の少女―『レイス』に
目標を切り替え、襲いかかってきた。

「レイス!?くっ!」

追いすがろうとするエノハに

「ちょっと待ったぁ~~~~~」
と言いながらアナンが飛び込み、エノハの肩に両腕を回してぐるりと一回転しエノハの背後に立って楽しそうにエノハの重心を彼の背中側に傾かせ、走り寄るのを制止する。

「うわっと!!コラ!アナン!!」

「まーまーエノハさん?大人しく見てるの。私と一緒にね❤」
ゴロゴロと子猫のようにアナンはエノハの首周りに纏わりつく。

「見るって…何を!?」

「簡単だよ。『レイス』の力を見るの」

愉快そうに緩めたエメラルドの瞳でじとりと悪戯にエノハを横見し、次にエノハの肩に顎を乗せ、彼と同じ高さの目線にしてアナンは指差した。迫るコンゴウに一直線で接近していくレイスの後ろ姿を。

「能力を…?」

「そそそ。だって『レイス』は私達の中で唯一―




「…カリス。いくよ?」






―二つの血の力を持ったコだから」


完全な回復、治癒、命を繋ぎ、分け与える力。
そしてこれからエノハに見せるもう一つの力は―

完全なる『トドメ』専門。相手を「絶殺」する血の力。

傷ついたものを癒し生を与えながらも、一方で無慈悲に命を奪う真逆の性質の力を持つのがあの『レイス』という少女だ。

その力の名は現存、そして後々に現れる全ての血の力の中で唯一の四文字。「2×2」。



「生殺与奪」。









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