肉迫したコンゴウ堕天の何の捻りも無い近接攻撃が逆に『レイス』の装備したヴァリアントサイズの優位性を殺す。繰り出される拳撃は雑なドアスイングだが威力はGEすらもまともに喰らえば体構造を破壊され、戦闘続行困難な痛手を負う。
おまけに手負いでなりふり構わず攻撃する窮鼠―窮猿は目の前の黒一色に染まった黒猫っぽい少女に反撃の機会を与えない。
しかし少女は眼前を通過していく拳の切っ先と巨大ゆえに生じる風切り音と突風を受けて表情も変えず、オリーブ色の瞳を宿す眼球は的確な方向へ迷いなく動き、瞬きすらしない。同時獰猛で俊敏、剣呑なかつてのヤマネコのように痩身でしなやかな肢体を駆使、柔軟に翻してコンゴウに的を絞らせない。
…!!
ヒュウっ!
「…!」
痺れを切らし、コンゴウはもう一度背部器官を暴走させ、真空刃を周囲に発生させる予備動作、姿勢をとる。はっきり言って手負いの体に酷が過ぎる。自分の繰り出す技の反動で破裂しそうな上体を何とか維持し、コンゴウはとっておきを解放。
パァン!!
弾ける様な空気の音が再び発生し、真空刃がコンゴウの円周を薙ぎ払う。
「…」
そのコンゴウの渾身の一撃を無感動かつ無表情に眺め、『レイス』はバックステップ。しかし先程のリグと同様である。この攻撃はワンステップで範囲外に逃れられるほどその攻撃範囲は狭くない。コンゴウの捨て身の攻撃は功を奏すかと思われた。が。
周囲一帯を再び薙ぎ払い、土煙と周囲に在った木がズタズタにされた状態で舞い落ちる中、なんとか反動に耐えきった上体を起こしてコンゴウは見回す。
先日彼を急襲してきた欧州第二支部のGE二人をこの技で迎え撃った際は血の雨が彼に降り注いだが今回はその様子は無い。
しかし流石に即死はしていないだろうが目標は攻撃範囲内に確実に居たはずだ。浅からぬダメージは負ったはず―
――!?
コンゴウは驚愕に目を見開いた。
「……」
相も変わらず澄まし顔。纏わりつく砂塵を掃いながらコンゴウを見据え、地に突き刺さっていたサイズの先端を引き抜いて再び肩に負う。
全くの無傷、着衣にも破損は無い。当然だ。今彼女は完全にコンゴウの先程の攻撃範囲外で佇んでいるのだから。
「…さっきもレイスが無傷だったのはこういうことか」
「そゆことです」
困惑するコンゴウを尻目に一部始終を見ていたエノハ、アナンの二人がそう呟いた。
先程『レイス』はバックステップと同時、サイズの特殊咬刃形態を展開、コンゴウの方向から真逆の方向へ目一杯延ばした先で先端を地面に突き刺し、同時に咬刃形態を解除。自らの体を牽引、一気に範囲外に逃れたのである。
ここでエノハに疑問が生じた。
何故彼女は盾形態を使わないのか。その疑問に聡いアナンはすぐ気付き、彼が尋ねる前に口を開く。
「元々『レイス』の神機の『カリス』には盾も銃も無かったの。私らの神機と一緒で少々……いや、か~なりひねくれた機構の神機でさ」
「そうなのか?」
盾だけの神機が在るぐらいだ。エノハはもう何が来ても驚かない。人は馴れる物である。
「エノハさんがここに来る前にまぁ『ちょっとした事』があってね~?戦略上仕方なく『レイス』の神機に急遽急造の盾、バックラーと銃、アサルト銃身をママがつけることになったの」
「…。『ちょっとした事』って?」
「…ま。それは追々で」
「?」
「でも俗に言う「付け焼き刃」ってやつでね?性能はそっち方面に特化した私の盾『エロス』、リグの銃の『ケルベロス』に比べたら性能がま~るでオモチャ。モデルガンとマジチャカ位の差がある。だから『レイス』も実戦では盾形態、銃形態共にほぼ使わない。盾なし、銃なしの頃の戦い方があのコの性にもあってるんでしょ。だから―」
「…まだ…『もう少し』かな…」
『レイス』はそう呟いて神機を掲げ、腰だめの姿勢、細く長い脚をしっかりと地面に根を下ろす様に踏みしめ、柔軟な体をネジを巻くようにぎりぎりと限界までしならせる。
「―『削るよ』。カリス」
ぎゅるん。
同時再び『レイス』は咬刃形態を展開、円周一帯を薙ぐ。先程はコレを使って敵の攻撃の範囲外に逃れたということは即ち―現在の『レイス』の立ち位置はヴァリアントサイズの攻撃範囲内ということだ。
その長大な攻撃範囲はコンゴウの周囲攻撃を遥か凌ぐ。
…!!!!
赤黒く変色した巨大な鎌の切っ先が瞬時にコンゴウの目の前に達し、彼の脇腹を掠める。しかしその痛みに悶絶する暇も無い。直ぐに鋭い風切り音と共に鎌の返し手が襲ってくる。嫌になるほど執拗かつ陰湿な攻撃だ。
ぐ、グガッ!!
両腕で顔を覆い防御するが、元々満身創痍の体に更にじりじりとダメージが蓄積されていく。反撃の糸口がつかめない。彼にはこの新しい未知の神機に対抗する経験が圧倒的に足りず、攻撃手段がほぼ無い。故に今は亀のように耐え、彼を構成するオラクル細胞と共にそのダメージを記憶、学習する他ないが…『レイス』もそれは面白くない。当然勝負を決めに来た。
ザスっ
…!!!
弱点の頭部を覆っていたコンゴウの右腕に咬刃形態の鎌の先端が突き刺さっている。再三の攻撃によって外殻を削られた右腕は既に結合崩壊を起こし、剣戟の侵入を許すほどオラクル結合が劣化していた。それを楔に『レイス』は咬刃形態を解除。
解除と同時に元の大きさに戻ろうとするサイズに引かれ、『レイス』の体は一気に完全な防御姿勢のコンゴウに接近。
「…!」
「―ああいう風にヴァリアントサイズの特性を使って攻撃、接近、離脱、回避をほぼ一形態のみで賄う…アレが『レイス』の戦い方だよ」
「はっ!!」
ぐしゃあ!!
『レイス』は接近の勢いそのままにコンゴウの右腕に突き刺さったサイズの先端を長い脚で踏みつけ、更に刃を喰い込ませる。その形容しがたい激痛にコンゴウが泣き叫ぶ様な悲鳴を上げるがそれだけでは終わらない。
『レイス』は突き刺さった通常形態でも優に自分の身長以上の長さのある鎌に細いその肢体を絡みつかせ全体重をかけ―
ぐりん!
回転。コンゴウの右腕を軸に鎌の刃で自分の体ごと「周回」。コンゴウの右腕はぼとりと断裂。傷口から勢いよく噴き出したコンゴウの体液を浴びながら少女は尚も瞬きもしない。
どろり
深紅の体液を頭に浴び、銀髪が紅く染まり、顔の上部まで伝って来たそれによって視界が紅く染まろうとその美しいオリーブの瞳は閉じることなく獲物を、そして次の処断の為の自らの行動を見据えている。リグとは全く異質の容赦、加減の無さである。どちらかと言えばエノハに近い。
相手を殺すことへの疑問、戸惑い。あるいは嗜虐、快楽を差し挟むことなくただ敵を屠る為の行動を行える怜悧、冷徹、冷酷さだ。
その全てを切り裂くような彼女の渦に巻き込まれ、切り刻まれた満身創痍のコンゴウは最早自分の状態を気遣う必要など無くなった。ただ反射的に
ヒュウウウウウウッ!!!
再び空気を背部器官に今度は限界まで収束、圧縮、凝縮。己の今出来る最大の攻撃、最早「自爆」と言って差し支えない程の攻撃の予備動作をコンゴウは始める。
―……!!!
その凶兆は安全圏にいたエノハが念のため、気絶したリグを連れて更に距離を離そうと思えるほどのものであった。
が、後ろの〇〇〇爺の様にエノハにしがみつく赤毛少女は相も変わらず「だ~いじょうぶだって」とでも言いたげにずしりと居座っている。
同様にその二人に比べれば遥かに超危険地帯に居座る銀髪の少女―『レイス』もまた動かない。
ただそこで初めて少女は少し表情を崩した。少し憐れむような表情で在る。
―悪いね。
アンタの体は。
もう限界。
ぶしゃあっ!!!!
その現象は「ファンブル」と呼ばれている。
度重なる神機による攻撃を受け、オラクル細胞結合が弱まった瀕死かそれに近い状態のアラガミが現状の許容を超えた強力な攻撃をする際に自分の体に生じる反動で弾けるようにして破裂、体液を噴き出しながら崩れ落ちる現象だ。
GEにとって勝利を意識する瞬間とも言える現象だが逆に言えば自分の許容を超えた無茶な攻撃をしてくるほど我を失ったアラガミということだ。保身を考えていない手負いの獣―当然危険性は高い。実際この現象を目の当たりにして気が緩んで死亡するGEは多い。帰投間際に殉職、再起不能の大怪我を負うケースの発生の原因の一つとなっている。扱い方、受け取り方を間違えると非常に危険な現象だ。ここで緩むか、逆に引き締めるのかで生死をわける。
しかし、この部隊「ハイド」にとって、否『レイス』が居る「ハイド」にとってこの現象の捉え方は少々異なる。対峙したアラガミがこの現象を起こした「瞬間」―勝利が確定する。
それが『レイス』の血の力―「生殺与奪」のもう一つの力が「トドメ専門」と呼ばれる所以。
―…発動。
目の前でトマトが握りつぶされたように体のあちこちから体液をぶちまけるコンゴウの体から力が抜け、力無く頭を垂れる。直前に放った最後の渾身の攻撃が失敗した反動のせいだろう。しかし。それだけではない。
無駄になったエネルギー以上の物が自分の体から尚も過剰に失われていく感覚がコンゴウを包み、その違和感を探る為にコンゴウは顔を上げ、同時にその光景に息を呑んだ。
―…!!???
ズズズッ…
結合が緩み、霧散した自らのオラクル細胞が吸い取られていく。目の前の少女が掲げた神機―カリスによって。
そしてその赤黒い刀身が更に禍々しく色づき、光り、巨大になっていく光景であった。
『レイス』の神機―カリスには大好物が在る。
後天的に生まれた「男好き」を遥かに上回る根源的欲求が。アラガミが死に瀕した直前に漏れだす限界まで結合の弱まったオラクル細胞群。即ちそれは叩いて、捻って、潰した新鮮なミンチ肉だ。それは時に手を加えないそのままの素材よりも味わい深いことがある。それを食す事が「カリス」にとって最高の高次欲求である。
そしてそもそも食事と言う行為は食事によって手に入れたエネルギーを何らかの形で己の生存行動に反映させる為の前戯、儀式の様なもの。
それを同時に成立させるのがこの「カリス」という神機だ。「食事」という行為。そしてその行為によって得たものを即「行動」に反映させる。
その「行動」とは言うまでも無く「絶殺」。最高の食事をさせてくれた「食材」に感謝の意を込めて―
皆殺しにするのだ。
『レイス』の「生殺与奪」のもう一つの力は神機と主一体の刑の執行。死期の近い存在を「迎え」に来たまさに死神の如くの能力である。
断頭台に立っている満身創痍のコンゴウに最早抵抗の術は無い。
咬刃形態を遥か凌ぐ巨大さ、太さ、そして禍々しさを持った神機「カリス」の一閃には。
音が無い。
何の抵抗も無く、物質を透過―両断するからだ。オラクル細胞とて例外ではない。
振り抜かれた一閃はコンゴウの頭部。そして前方五十メートル、前方45度の扇形の範囲を鮮やかに真一文字に切り取った。
「…」
刀身に纏った赤黒いオーラを霧散化させ、通常形態に戻った神機―カリスを片手で軽々と円を描いて回し、肩に負う。
細く、長い手足と華奢な肩幅を持つまだ十代半ばすぎの少女らしい後ろ姿だ。
しかしその圧倒的な自分の力の。…暴力の象徴である眼前のまるで風景画を鋏で何の感慨もなく四角四面に切り取ったような光景に彼女は何を思っているのだろうか。
切り取られたキャンバスの前で唯一残った黒の少女は無言のままゆっくりと振り返り、美しい銀髪に纏わりついた紅い血液を目を閉じながら軽く頭を振って払う。
ぱさりと乱れた前髪が薄く開いたオリーブ色の目に覆いかぶさる。そこにわずかな憂いと陰りを感じさせる。が、次の瞬間いつも通りしっかりとエノハ達を見据えると同時の美しくアクの無い端正な顔立ちの少女は―
相も変わらず。
表情に乏しい。
読了お疲れさまでした。
最近ネタ探しにGEの関連サイトを色々見ていた所、GE2のメインキャラで在る「ナナ」の代名詞「おでんパン」を何故か「お〇ん〇ン」と伏字にしているのを見つけ、「なんでわざわざ…?」と訝しげに思ったが意味に気付いた時、考えた奴の才能に嫉妬した。
これだとGE2公式サイトのナナのキャラクター紹介ページのセリフが偉い事になる。
「緊急事態!私のおでんパンがどっかいった!!」
が
「緊急事態!私のお〇ん〇ンがどっかいった!!」
になる。
…そりゃ緊急事態だわ。