G・E・C 2  時不知   作:GREATWHITE

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今回もよろしくお願いします。

意外な原作サブキャラが登場します。需要がゼロに近いキャラだがそこがイイ。

よろしければお付き合いを。


第19話 メッセンジャー 上

見惚れた。

 

そのあまりにも鮮やか過ぎる手付きに。

とても半月以上神機にまともに触れる事のなかった、出来なかった整備士の手腕とは思えない。その光景を見守っていた人達、そして周りに居る整備士も声が出ない。

 

熟練の整備士。その中でも「彼女」がさらに抜きん出て秀でた整備士である事に疑いの余地は無かった。

まるでピアノでも奏でるみたいに手元に在る神機を解体、調律し、「その」神機を穏やかな眠りにつかせた。最後に彼女が心から愛おしそうな顔で

 

「…おかえり」

 

と呟いた顔を僕は忘れる事が出来ない。

あまりに鮮やかな手際の余韻だけをその光景を見ていた全員に残し、手渡された紅い腕輪を持って友人らしき女性の肩を借りながら彼女はその場を後にした。

そうでもしないと真っ直ぐも歩けない程視界が、そして心が、世界が歪んでいたんだろう。

 

その背中を見送りながら僕の心はかきむしられる。自責の念に苛まれる。

 

―ごめんなさい。

 

そう彼女に告げたくなる。

 

今彼女をここまで追い込んだのは。

 

そして彼女から「あの人」を引き離してしまったのは他でもない。

…僕のせいなのだから。

 

―楠 リッカさん。

 

本当にごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

「…オン君…レオン君?」

 

「…?」

 

「大丈夫かい?」

 

「…レオ…ン…?…はっ!?」

 

「おかしな子だなぁ。君は『レオン』君だろう?」

 

そう言ってレオン―僕ノエルの現在の偽名で在る名を呼び、人懐っこそうな垂れ目を緩ませ、微笑みかける男の人に背筋を伸ばして挨拶する。

 

「す、すすすいません。ちょっとぼ~っとしてて!」

 

―いけない!今僕は「ノエル」じゃ無く「レオン」なんだ…集中、集中。

 

僕の内心のそんな焦りを目の前の男の人は和らげるように微笑む。面倒見のいい人なのだろう。休憩ブースのベンチで座り込み、視線を床に落として暗い表情をしていた僕を心から気遣ってくれて明るい声をかけてくれたのだ。

 

「くすくす…まぁ目の前であれだけの物を見させてもらえたらそりゃあぼ~っとしたくなる気持ち解ります。はぁ~自分の未熟さを思い知らされる。精進せねば!って感じでしたよねぇ」

 

「真壁さんも…ですか」

 

「『テルオミ』でいいですよ。レオン君?良ければちょっとご一緒にお話しませんか?同じ研修仲間の整備士として」

 

柔和な笑みと年下であろう僕にも敬意を込めた口調に緊張が和らぎ、僕は素直に頷いた。

 

「よかった。ここじゃなんですからカフェテラスにでも移動しましょう」

 

「解りました。テルオミさん」

 

 

 

『ハイド』専属整備士ノエル。

 

フェンリル極東支部―通称アナグラに整備士としての研修。同時

 

…極秘任務中。

 

 

極東支部―カフェテラス

 

 

「整備士としてのインターン、座学と色々こなして整備士として自分なりに実力をつけた自負は在ったのですが…思いあがりでしたね。あれほどの技術を見せられては。流石は激戦地の極東を最前線で支えられている方なだけあります」

 

「…全くだ」

カフェテラスの座椅子が窮屈に思えるほど大きく、浅黒い肌に屈強な体格をした男の人が太い腕を組みながらうんうんと頷き、テルオミさんの意見に同調する。

この人はダミアン・ロドリゴさん。

この人も僕と一緒にこの極東支部に整備士としての研修という形でこの極東を訪れている。歳は38歳と一回り以上年上の人だけど気さくで陽気、同時に落ち着いた大人の方非常に話しやすい雰囲気を作ってくれた。

 

「正直言うと俺も女が主任整備士をしているという点、おまけに現在休職中って話を聞いてどこか懐疑的な所があったのだが…」

 

「はい。僕も今回の研修では恐らく直接ご指導を頂けない事を残念に思う反面、ダミアンさんと同じような考えをどこかに持っていたと思います。でも今では二人してコテンパン…お互い未熟者ですねぇ…あははは」

 

「ははは。いや全くだ」

 

人懐っこそうな笑顔を限界まで歪めて自省するテルオミさんに向かってダミアンさんも同調するように頷きながら笑った。二人とも自分の技術、知識、積み重ねた今までの研鑽に自信、自負もある故に同時にそれでも足りぬ己の未熟さに苦笑いしている。

 

「この年齢になっても学ぶことはまだまだあると学んだ。それだけでもこの支部に研修に来た甲斐が在る!滞在中出来る限りの知識、技術を吸収!勉強させてもらうぜ!!…暑苦しいオッサンですまないがよろしく頼むな?テルオミ!レオン!!」

 

がっしりと屈強な右腕の拳を一回り以上年下である二人に向け、ダミアンさんは豪快に笑う。

 

「はい!よろしくお願いします」

 

その浅黒く、頑丈そうな拳にテルオミさんも拳をつけ、

 

「こちらこそお願いします」

 

僕もそれに続く。

歳も育った国も環境もキャリアも全く違う僕達だけど神機整備士として、そして今日垣間見た世界最高峰の技術に対する心からの賛辞、憧れ、そして己の未熟さを痛感した事を共有した時点で僕らにはどこか通じ合うものがあった。

 

そして僕は。

 

ダミアンさんの右手首についている「在る物」をじっと見る。

 

「…」

 

「…ん?どうしたレオン?」

 

ダミアンさんも気付く。

 

「あ。いえ。何でも」

 

「…これか?」

 

ダミアンさんは大人の態度で自分の右腕に着いたそれを僕に見せる。自慢げでは無い。しかし―誇らしげだ。

 

「…」

 

「…俺の勲章だ」

 

ダミアンさんは元ゴッドイーターだ。

 

彼の黒く太い右手首には封印処理を施された腕輪が今でもつけられている。この人は現在は整備士見習い、元ゴッドイーターという経歴を持っている。

退役した今も若手GE育成に励むと同時、年々変化、多様化する神機に合わせ複雑化する戦略に自らの指導に錯誤が出ない様に最近整備部に配属を希望した熱心な勉強家なのだ。GEという過酷な仕事を務めあげ、今も尚後進の為に出来る事を模索し考え続けている。

 

「ここに居る支部の連中に比べれば大した戦績も上げていないがそれでもコレは俺の誇りだ」

 

「…そうですか」

 

―…。

 

「…?」

 

黙り込んだ僕をダミアンさんはほんの少し怪訝そうに見る。

 

「…ダミアンさん?」

 

「!何だテルオミ?」

 

「お聞きしたい事があります。とても大事な話です」

 

「…なんだろうか」

 

「あ。僕席外しましょうか…?」

 

「いいやレオン君…君も無関係じゃない話だ。君にもお聞きしたい事なんです」

 

いきなりテルオミさんがいつもの飄々とした態度から一変し、真剣極まりない顔だ。

ヤバイ。僕何か勘付かれただろうか。

 

「確かダミアンさんのGEとしての着任期間は2059年から2067年でしたよね…?しかし実は適性が判明し、適合神機が見つかるまで約五年の間神機の輸送班、部品調達、資材回収班に配属されていた為、正式なフェンリル入隊は2054年ですね?」

 

「…よく知っているな。相違ないぜ」

 

「これからご一緒に仕事をする方の経歴ぐらい知っておくのは当然です。一応研修生の中では及ばずながら代表の立場ですから」

 

どくん。

 

まずい。僕の偽の経歴に何か不備が在ったのかも。もしそれをここで言及されたら…僕はヤバイ。誤魔化しきれる自信が無いぞ。

 

「…では本題に入ります」

 

「…」

 

「…ごくっ」

 

動揺と緊張を抑えきれない。ダミアンさんも真剣な表情だ。

ああ。僕は「また」何か失敗したのかな?

 

 

ドンっ!!

 

テーブルの上に重々しい音が響き、僕は体が思わずびくつき、目を閉じる。

しばしの沈黙が訪れた。

 

「…?」

ゆっくりと目を開ける。すると視界が開ける前に声が響いた。ダミアンさんの声であった。

 

「何だこれは?」

 

 

「真壁テルオミ監修!「2050年代の愛しきレトロタイプの神機カタログ」です!!!さぁ穴が出来、血が出るまで語って頂きますよ!!ダミアンさん!!未成熟でまだまだ発展途上の青い果実達をナマかつリアルタイムで関わった方のお話!!あぁ~~~っ!極東に配属されてよかったぁ~~❤」

 

 

「…」

 

「…」

 

パララパ~~

 

…女の人に不自由しない男の人ってこうなるのだろうか。

 

 

―しかし

 

 

便乗せざるを得ない!!

 

 

「いいだろう!!語ってやるぞ!!さぁ何が聞きたいんだ!?」

 

「そうこなくては!!ダミアンさん!!ではまずは2050年代後期の現在廃番のこのシリーズの神機について聞かせてください!!」

 

「おお。目の付けどころがいいな!初めてシユウ種のコアを採用して当時数を増やしていたヴァジュラ種討伐に戦果をあげた神機だな!?」

 

「はい!このシリーズを先駆に神機のフォルムは劇的に進化を遂げた…。コレを雛型に今の神機の洗練された数々の魅惑の『ナぁイスばでぃ~』が生まれたのです。…その中で『彼女達』は歴史の陰にひっそり埋もれた悲しくも美しい傑作シリーズなんです!!ああ~この事を共に語り合える人がいるなんて、なんて僕は幸せなんだ!!」

 

「テルオミさん!!2060年代カタログはありますか!?」

 

どんっ!

 

「きゃ~っ!!厚さが2050年代の倍はあるわ~~」

 

「…当然だよレオン君?この頃からハンマー、チャージスピアの開発が始まり、既製の神機達もより一層のマイナーチェンジを余儀なくされた過渡期の神機達だ!!数も爆発的に増えた上に「とあるつて」でお蔵入りになった神機の設計図まで極秘に入手してあるんだから当然こうなりますよ!!」

 

「うわぁあああ!?各支部最重要機密事項である新型神機のプロトタイプの設計図なんて!?テルオミさん!?よく今生きてますね!?」

 

「ふふふ…何度怖そうな黒服のオジサン達に尾行されたか知れないですよ。部屋に帰宅したら家具の配置が変わってるなんて日常茶飯事でした…。でもね!?僕はやった!やりましたよ!!愛する神機達の為ならば…」

 

「その咎僕達も共に背負います!!」

 

「有難うございます!!僕はいい同僚を持てて幸せです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

そんな三人の光景をじっと一人遠目で無言で見つめている少女がいた。

 

「はいヒバリちゃん。二人分のおべんと」

 

「…。あ。有難うございます。おばさん」

 

少女―ヒバリはラウンジの給仕係がテイクアウトの為に包んでくれた弁当袋を礼を言いながら受け取る。受け取ったヒバリの掌には温かい感触。ビニールの袋の隙間から僅かに香る匂いもいい。

食材が量も種類も限られているこのご時世の中で最大限の工夫をし、出来る限り美味しい食事をアナグラ職員達に提供してくれるのがこの女性だ。「おふくろ」の味には定評がある。

 

彼女自身に子供はいないが七歳になる姪がいるらしい。最近その子に料理を教えてくれと散々せがまれ、基本に立ち返って教えた結果、彼女はさらに料理の腕を上げた。

 

「で。何だいあの子達は?騒がしいね。それに見ない顔だ」

 

給仕係の女性はカウンターで頬杖をつきながら呆れたように三人を眺める。ヒバリは苦笑しながら

 

「先日アナグラに派遣された整備士の候補生の方々ですよ。あの様子を見ると早速意気投合しているみたいですね。同じ職業を志す者同士通じ合う物が在ったのでしょうか」

 

「ふ~~ん。年齢、国籍、肌の色もバッラバラ…だけど中々いい光景だね。少々うるさくてかなんけど」

 

「ええそうですね」

 

「…あの三人見ていると思いだすね」

 

「…」

 

「…どうだいリッカちゃんの様子は」

 

「…一時期より随分と落ち着いてきました。今は戻ってきたエノハさんの腕輪を抱いて眠っています。起きたら食事を摂ってくれるといいのですが。さっきの神機の整備で相当疲れたでしょうし…」

 

「いたたまれないねぇ」

 

「…ええ。自分の不甲斐なさ、無力さを思い知るばかりです」

 

「アンタも根詰め過ぎるんじゃないよ。リッカちゃんと同様におばちゃんアンタも心配なんだから」

 

「…はい」

 

その三人の姿はヒバリと給仕係の女性に思い出させる。

向かい合い、夢中で語り合うリッカとエノハ。かつての二人の姿を。

このラウンジは後日―大幅な改装と拡張工事が決定されている。この場所で当り前だったあの二人の光景を見る事はもう

 

―ない。

 

 




読了お疲れさまでした。

先日今更ですが時間がかちあったのでGEのアニメを見ました。第三話でした。

…おお。思ったより「戦い」してる。ただ主人公の神機のデザインはどうにかならんものか。あの配色とオモチャみたいな見た目は一体…?

ウロヴォロスが飛んでて、それをおびき寄せる為にヘリを自動操縦に変えてデコイにする、とか中々面白い。全然原作より面白い様な気がします。
んでウロヴォロスさ~ん。飛べるんですか貴方~?早く言って下さいよ。羽アリとかの昆虫の習性絡めたネタとか凄い出来そうなのに…。


おまけ


熱い神機話を気が済むまで語り合い、僕ら三人はその日を終えました。
自分に託された極秘任務を忘れてしまうぐらい楽しく、そして世界最高峰の整備技術を魅せつけられた初日を終え、僕はダミアンさんに送られながら自分にあてがわれた部屋に戻りました。

「じゃあ。また明日な。レオン?今日は楽しかったぜ」

「こちらこそですダミアンさん。明日からまたよろしくお願いします!」

おう、と陽気な声と笑顔で踵を返し、のっしのっしと大きな背中を揺らしてダミアンさんが帰っていく姿を僕は見守っていました。するとダミアンさんはその視線に気づいたらしく、振り返り

「……?レオン」

「は、はい?」

「お前何か他に俺に聞きたい事でもあるんじゃないのか?」

「え、いえ、その…」

「…こいつのことだろう?」

ダミアンさんは太い右腕に巻かれた紅い腕輪を掲げ、優しい目をして僕に語りかける。

「俺ははっきり言ってGEとしては大したことは無かった。だからお前の質問や聞きたい事にはっきりと応えてやれるかどうかは解らん。しかし伊達に年季はくってない自負はあるぜ」

「じゃあ一つ…非礼を承知でお聞きしていいですか?」

「おう何でも聞け」

「なんでGEとして働けなくなってもGEと関わろうとするんですか…?」

「…」

「元GEで在籍期間満了となればフェンリルの年金、公共サービス、あらゆる面で優遇措置は強いはず。ただでさえダミアンさんは僕達の時代と比べてずっと犠牲の多い時代を生き抜いてきた方です。余程の苦労、苦悩があったはずなのに…なのにそれから解放され、比較的安全な場所でゆっくりと次の人生を考える事が出来るのになぜ…また一からわざわざ戦いの最前線へ出ようと思ったんですか?」


「…ああ。そんなことか」

「いや、そんなことって」

「シンプルだぞ。そんなにふけ込むほど俺は歳くってねぇ。まだまだ知りたい事やりたい事はあるんだよ。それに」

「…それに?」

「お前らみたいないい若い奴がいるからな。整備士にもGEにも当然、他にもいろんな奴がいる。人生は人との出会いこそ最大の宝。全てを賭けて会いに行くに値する奴等がまだまだこの世にはたくさんいる確信が俺にはある。そんな奴等が俺の知らない所で苦しんでたり、もしくは死にかけてたりしたら嫌だろう?そんな奴等と出逢う為、助けになる為にこのデカイ体と空っぽの頭、重ねた年季と経験があると俺は思って俺はひたすら動くのさ。守りに入るにゃまだまだ早いぜ」

ダミアンさんは一切淀むことなく豪快にそう言いきり、

「答えになったかは解らねぇがまた聞きたい事があったら遠慮なく言え。…レオン。どうやらお前結構な秘密主義みたいだしな」

「…」
―バレてら。流石年の功。

「伊達に歳は食ってねぇぜ。それじゃお休み。レオン」

いきなり最初に全部聞こうとせず、しかし「いずれは全て吐いてもらうぜ」的なニュアンスを残してダミアンさんは去って行きました。

すいません。ダミアンさん。その願いはかなえてあげられそうにありません。

僕は。

この「レオン」という少年は。

この「研修」を終え、欧州イタリア支部に正式に配属、移送中にアラガミに襲われ、死亡する―そういう筋書きになっています。

だから僕の秘密を貴方に打ち明ける事は決してないでしょう。


僕が元々。

貴方と同じ。



…ゴッドイーターであった事を。


















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