G・E・C 2  時不知   作:GREATWHITE

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今回もよろしくお願いします。



第20話 メッセンジャー 中

ノエル

 

座学成績 2・61(5点満点中)

 

運動能力 2・43

 

性格は平和主義。控えめで大人しく、学業、運動、芸術分野全てにおいて特に目につく点はなし。

 

僕を忌憚なく三行で纏めるとこんな感じだ。生い立ちも普通。

「赤ん坊のころに両親がアラガミに襲われ死亡」

他の時代であれば中々のディープな生い立ちと言えるだろうけど事この時代、そしてそのような事情を抱える孤児たちが世界中からより集められた僕の出身擁護施設―マグノリアコンパスに於いて特異な所は無い。

あえて特異な所を抜きだすとすれば物心がつく前に家族を喪ったことで「喪失」の実感がない事―だろうか。しかし僕以外にもそんな子が全く居ないわけでもない。「特異」と言っても「多数には入らない」程度。

 

要するに特筆する所がない。我ながら「自分に言わせても他人に言わせても評価をしにくいタイプ」というしょうもない自負がある。

 

けどそんな僕を選んでくれた存在がいた。

 

家族を知らない僕にとって初めて出来た「家族」―「ハイド」だ。

まさかこんな凡百な僕が施設の最大出資者、創設者一族のひとり、レア・クラウディウスの目に留まるなんて。家族になれるなんて。

 

そしてこんな僕を…選んでくれた神機があるなんて。

 

「…おめでとうノエル。貴方はその神機に選ばれました」

 

平凡で何の取り柄も無い僕に与えられた神機が何の抵抗も無く僕を受け入れてくれた時、そしてそれを掲げた僕を満足そうに見て微笑んだ後、少し憂いを含めたママの顔が忘れられない。その時の言葉が忘れられない。既に適性が認められ、「ハイド」に所属していた他の三人を後ろに従えてママは僕にこう言った。

 

「ノエル?これから貴方にはきっと色んな試練が降りかかるでしょう。しかし貴方は一人では無い。これから貴方と共に戦ってくれる仲間がここに居る。当然私もいる。だから貴方の力を私達に貸してはくれないかしら…?」

 

「っ…!!はい!!」

 

僕は愚直なほどまっすぐ素直に頷いた。断る選択肢など生まれようがなかった。

 

凡百な僕を必要としてくれた人、そして神機。同時家族も出来たあの日。

間違いなく僕の人生最良の日だった。見た事も無い両親が与えてくれた適性に心から感謝した。

 

僕は初めて「生きがい」を得た。予想だにしない急展開で人々を守る正義の味方になった。

 

あの日僕はゴッドイーターになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノエルに適合した神機は純粋なバランス型。

第三世代型ショート、アサルト、シールドであった。血の特性は現時点では判明していない。結構に偏った彼以外の『ハイド』の三人の神機の特性を発揮させると同時、各々の欠点を補完して尚、癖の強い性格の三人をフォローするという大役だ。

生まれ持った運動能力、地頭双方お世辞にもいいとは言えないノエルは寝る間も惜しんで鍛練、知識を吸収した。彼の唯一の得意分野―というか趣味は機械工学であった為、神機の整備、機構に関する講義は特に彼にとって楽しく、慣れない鍛練の疲れも忘れさせていい相乗効果を生んでいた。

 

そして厳しくも充実した毎日の終わりは自分を選んでくれた神機と一緒に整備室で眠ることであった。訓練、指導してくれた上官、果ては上官に泣きつかれたレアや『レイス』に何度咎められたか解らないが彼はそれを止める事は出来なかった。

 

適合した神機、そして初めて出来た家族に報いる為、ノエルは必死だった。一日も早く神機使いとして一人前になりたかった。

 

 

―しかし

 

 

悲しいことであるが何事もやはり「適性」という物は存在するのだ。

 

確かにノエルは神機に適合した。神機に適合した事によって尊敬していたマグノリア・コンパス創設者一族の長女―レア・クラウディウスに見初められ、彼女を長とした「ハイド」に配属、結果生まれて初めての「家族」を得た。自分が生まれて初めて「特別」とされ、求められた事―それをモチベーションに厳しい鍛練に耐え、学習、研究を向上心を持って真っ直ぐ取組み、臨む事も出来た。

 

充実、好循環の連鎖だ。特に問題は無い様に思える。

 

否。実際に問題は無い。むしろ「ノエルは神機に適合した者」として必要な物は全て持ち合わせていたと言える。確かに遺伝的適性、興味、知的好奇心、貢献意欲、向上心をノエルは持っていた。

 

しかしそれによって得たもの、培った物を行使しなければならない「場」はあそこだ。弱肉強食の単純明快な戦場。アラガミが闊歩し、人を、町を、世界をも喰らおうとしてる地獄だ。

神機使いとしての適性、必要な知識、技術、鍛練全てをこなし一定のレベルに達したノエルに足りない物があった。

 

それは生まれ持った、または成長の過程で手に入れた「殺意、戦意、闘争心」である。「競争心」と言ってもいい。

 

目の前のさっきまで息をしていたもの、動いていたものを何の感慨も無く踏みにじれ、何の感動も無くただ己の利を得る為に葬れるある種の「諦観」だ。

確かにノエルは理解していた。神機使いの仕事を。己の研鑽、鍛練の意味を。それは間違いない。後はそれを何のためらいも無く実戦で公使出来るかだ。ただ指一本を動かす―トリガーを引くようなほんの小さな行動であるがそれを的確に引ける引けないかで喰う喰われるが全くのあべこべになるこの世界を渡るには彼は少々ずれた所を歩いていた。

 

生来リグのように攻撃的でも無く、アナンのように嗜虐的でもない。結局この時代のGEという職業柄何よりも先立つものが形は違えど純粋な戦闘本能である。

幸か不幸かこの時代は弱肉強食が明快で原始的だ。自分の身の回りに振りかかる理不尽なほどの暴力が常に日常茶飯事である為の緊張は一部例外はあるにしろやはり攻撃的な人間を生みやすい。

アラガミという単純明快な絶対悪に対抗する為の人類全体の「怨念」と言っても過言ではない感情の「適性」がノエルには足りなかった。

 

家族が殺された事実がありながら幼すぎた故に記憶と実感が無く、比較的平凡な能力ゆえにマグノリア・コンパス内で繰り広げられる「競争」にも巻き込まれることは無かった平和主義の彼には。

 

 

結果彼は初陣―

 

初めて遭遇したアラガミに何ら抵抗できなかった。明確な敵意、殺意を目の前に固まった。戦術、体術、技術一通り収めたはずの彼の体と頭は頑なに動こうとしなかった。

 

明確に。

 

彼は「闘争」に向いていなかった。

 

 

少し話を脱線をするがスポーツで例えると解りやすい。

経験や覚えはないだろうか?ある特定のスポーツを始めたばかりの練習、研究を熱心に行い、向上心もある人間がなぜか実戦では思う様に動けない、勝てないというありふれた光景。真摯に取り組んでいるはずの人間が勝利という結果を必ずしも得るとは限らないという光景だ。

 

結局スポーツというのは技術、研鑽もさることながら最終的には「気持ち、意思、思い」が結果に影響する。前時代的だなと思うかもしれないが結局はここだ。

精神と体は引き離せない。「結果を出す」という意志が肉体を操作するのだ。つまり研鑽で積み重ねた最適で最善の行動を肉体が選び取るのには結局その「気持ち」が必要になってくる。

 

「研鑽」はつまるところ勝つ為の「体力、技術、知識」を培う行為だ。最終目標の勝利に辿り着く為のあくまで「歩き方」であり、勝利を決定づける物ではない。

「歩き方」を学んでも、最終目的地が解らない人間は迷走する。そして負けて初めて気付くのだ。研鑽の本当の意味を。

 

一応フォローをしておくと決して勝敗を抜きにしてただ純粋に物事に夢中になり、没頭する人間を悪いと言っているわけではない。実際に研鑽を怠らないのだから体力、技術、知識は身に付くし、何よりも研鑽を怠らなかったのに実戦で発揮できなかった、若しくは負けた悔しさは何も努力しなかった者の比では無い。結果より勝利を明確に意識しだすようになり、欠けていた戦意、闘争心、競争心―勝利への意思が生まれる。「失敗」を糧に己の目標を再認識し、更に研鑽し、物事に取り組み、そういう人間は在る時を境に一気に化ける可能性を秘めている。

 

 

話を戻すとノエルはそういう意味で大器晩成型だった。

 

平凡であり、平凡を自覚する故に研鑽を怠らない精神に後は明確な戦意、勝利への意思が芽生えるのを待つだけの有望な苗であった。

 

 

…ノエルは生まれる時代を間違えたのかもしれない。

 

 

この時代にGEが行っているのは明確で単純な「実戦」だ。スポーツ―「試合」とは違う。当然負けて次があるとは限らない。根本にある勝利への意思、相手への殺意、攻撃意欲を持っておらず、己の認識の「ずれ」を理解した時には「墓の中」もざらだ。

そういう意味で今現在生きているノエルは幸運であるとも言える。

しかしその代償は大きかった。

 

 

彼は自分を選んでくれた、そして生まれて初めての「家族」と引き合わせてくれたかけがえのない適合神機を―…大破させてしまった。

 

神機も生き物である。大抵のパーツは換装する事によって生体部分は再生し、継続的運用は出来るが人間で言う心臓で在り、脳の部分であるコアCNSを破壊された場合、神機はその生涯を終える。

 

 

ノエルは実戦初日に「元」ゴッドイーターになった。

 

 

その任務を終えた夜、重傷の体を引きずって医務室を抜け出し、駆けこんだ神機整備室で最早遺体(ボディ)のみとなった神機を前に後悔、自責の念、憤り、そしてようやく出来た「家族」を繋いでくれた神機を喪った落胆で崩れ落ちそうな心と体をようやく支え、立ちつくすことしかできなかった。

 

レアはそんな彼を責めずこう言ってくれた。

 

「貴方が無事でよかった」

 

と。

 

しかし彼女自身も落胆の色は隠せない。ようやく見つかった貴重なバランサータイプの第三世代型神機使い。そしてその神機使い―ノエルが何事も真面目で真摯に取り組む少年であっただけに期待が大きく、それが早々に喪われた落差に陰るレア―「母親」の姿に親の期待に応えられなかった子供がどれほど惨めであるかをノエルは思い知る。まさか両親が居なかった自分がこんな想いをする事になろうとは夢にも思わなかった。

 

 

結果『ハイド』は急遽バランサーのノエルなしの部隊編成を余儀なくされ、『レイス』の神機に急造のバックラー、アサルト銃身が装着された。アナンが後日「付け焼き刃」と言い切るほどの性能であるが背に腹は代えられない。更にノエルの自責の念は募る。

しかし、『レイス』も性格上ノエルを決して責めない。いっそリグのようにはっきりと罵倒してもらえた方が楽かもしれないと何度も思った。ノエルが使えなくなった事で一番被害をこうむった彼女にそうしてもらえれば自分が『ハイド』を心置きなく抜けられるのに、と自分勝手なことを考えた時もあった。

しかしレアも『レイス』も彼を責めず、変わらず『ハイド』にノエルを置いてくれた。そんな彼女達に感謝しながらも心を立て直す事が出来ず、初めて出来た家族の中で早々に役目を失ったノエルは失意の日々を送った。

 

そんな日々の折り、まるで謀ったようなタイミングであった。レアが新たな第三世代適合者を見つけたのは。

現段階で既に第三世代型神機に適合し、実戦も経験しているゴッドイーター。おまけにあの激戦地区―極東支部を生き抜いている男

 

―榎葉 山女である。

 

しかし彼は現極東支部第一部隊隊長で在る人間だ。そんなキャリアの人間を存在しない部隊に極秘裏に招き入れるなど流石のレアにも難しい。真っ当な方法では到底無理だ。あくまで「真っ当な方法」では、だ。

 

レアに後日、ノエル達は彼をこの『ハイド』に強引に招き入れる方法を聞かされた。共に闘う仲間になる以上、彼がここに来る経緯を知っておいてもらいたいとの判断から開示したということだが少々ノエルには酷な内容である。

当然ノエルは更に自責の念に押し潰されそうになった。エノハの最愛の人を人質にして連れ去る様な方法で強引にここに招き入れる事に。そしてこんな方法をレアにとらせてしまう事も歯痒くて仕方なかった。

 

―僕のせいだ。リグの言うとおりだ。のろまでグズな僕のせいでママも、『レイス』も、まだ顔も見たことが無いその人も巻き込み、迷惑をかけてしまった。だからせめて―

 

同時ノエルは悲壮な決意をする。自分のできる事をしようと。確かに大切な神機は喪ったが神機の技術関連の知識は趣味を兼ねて必要以上に彼は積んでいた。よって彼の出した答えはシンプル。

 

神機整備士になることであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了お疲れさまでした。

ノエルは実はこの「ハイド」の4人の中で一番初めに出来たキャラクターであり、元々原案では「ハイド」自体レア、ノエルの二人だけでした。そのノエルを役目を分散させたのがリグ、アナン、『レイス』の様な感じです。その為か急造で作った他の3人の設定に比べ、書くことが多くて結局上・中・下の3部になってしまいました。

よろしければまたお付き合いください。それでは。





おまけ

ノエルは気付いている。自分のこれからする行為が完全に「自分の為」である事を。

神機を大破させた自責、自分がここ「ハイド」にまだ居てもいいはっきりとした理由、そして自分がなせなかった役目を埋める為に『レイス』、そしてこれからここに訪れるエノハにせめてもの罪滅ぼしをする為に。

ようやく出来た「家族」の中で居場所を喪わない為、自分が成せなかった役目を替わりに負う者への罪の意識を少しでも和らげるためだ。

どれだけ綺麗な理由を並べた所で詰まる所は誰よりも己を守りたかったのだ。

そうでもそうしないとノエルは自分を立て直せない。自己の均整を保つことが出来ない。生まれつき平和主義―一方で事無かれ主義で大きな壁にぶつかった事の無かった少年の挫折は彼を至極単純な行為に走らせた。

ノエルはそうやって小さな体と傷つき、自責と自己嫌悪で落胆した心を奮い立たせ、前に進んだ。いや、少しでも前に進んでいると思いたかった。

彼の手痛い失敗、挫折は彼の中に「殺意、戦意、闘争心」より前にあるさらに根本的な万人不変、万物不変の理(ことわり)をはっきりと自覚させ、優先させた。

自己存在意義の確立―「自己保存」である。
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