G・E・C 2  時不知   作:GREATWHITE

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ハイドいちの問題児 3

高電圧を流され、水温の上昇した海水が霧のように辺りに立ち込める。それが浜風に流されて視界が徐々に開けていく。

先程即死クラスの高電圧が伝い、未だ蒸気を上げている浜辺の上から「ハイド」の三人は忽然と姿を消していた。

 

その遥か内陸側で

 

ザスっ…

 

地に突き刺さっていた鋭利な鎌の先端を抜いて肩に担ぎあげる美しいが表情が幾分乏しい銀髪の少女がいた。

 

「あっはは~~こりゃまるで…『ブレーメンの音楽隊』みたいだね?」

 

銀髪の少女の何故か足下から陽気そうな少女の声がした。

風が吹き、辺りを包んでいた蒸気を洗い流す。銀髪の美少女の足元が露わになり、ようやく現在の状況が判明する。

 

「レイス」は細く長い足を下に居る少女―アナンの肩に絡ませて乗っていた。そしてそのアナンをリグが背負い、そのリグの下にはアナンの神機「エロス」がまるで雪上を滑るソリのように敷かれており、海側から砂の上を引きずられたかのような轍が伸びている。

 

事の顛末はこうだ。

 

先程三人が立っていた足場全体に海水を伝って広がった高電圧の海の上でアナンは咄嗟に自分の神機エロスを展開、同時足元に敷き、それにリグと「レイス」と共に飛び乗ったのだ。接地面に盾を引くことで絶縁体とし、三人の体を流れようとする高圧電流を最小限に抑え、同時一番上に乗った「レイス」は鎌の咬刃形態を安全圏へ延ばして同時に解除。まるで船を牽引するように砂上を移動して真下に広がる電撃の海を航海し、現在彼等の居る安全圏まで逃れたのである。しかし―

 

ぶすっ…

 

命が助かったことは確かだが幾分リグ、そして「レイス」の表情が冴えない。この絵面、そして先程アナンが漏らしたこの状態の「感想」に不満気なのだ。

 

「ブレーメンの音楽隊」

 

誰もが知っている有名なグリム童話であり、大まかに言うと「四匹の動物達が協力し、合体して悪い奴等を脅かし、怖がらせて追っ払う」という痛快ストーリーだが…

 

 

「…私ニワトリ?」

 

一番上の普段は基本無表情の「レイス」が珍しく眉を物凄く嫌そうに歪ませてそう呟く。髪型が「ニワトリのトサカに見えなくもない」とでも言われたら更に不機嫌になって帰ってしまいそうなレベルだ。

 

「わ~い♪私ネコ~❤うにゃあ~~ん❤」

 

替わって上から二番目のアナンがご機嫌そうにそう言って笑う。「配役」に彼女は心から満足しているようだ。

 

「俺は犬か…」

 

リグは一切の不機嫌さを隠さない表情で舌打ちしながらそう言った。今すぐにでも背負ったアナンを振り落としたい気分である。

 

 

…。私ロバかよ…。

 

 

「配役」にご満悦な主―アナンとは対照的に敷かれ、上に乗られ、おまけに電撃の海の上を引き摺られた今回の回避に於いて最大の功労者―神機エロスは損な役回り+与えられた何とも微妙な配役に人知れず涙した。

 

まぁ何にしろ絶体絶命のピンチを全員無傷で凌いだのは間違えの無いことである。

 

―しかし

 

そんな彼等が現在対峙している当の相手は先程の童話「ブレーメンの音楽隊」に登場していた小物の盗人共とは比較にならない相手である。

 

「!」

 

「…もうイヤ」

 

「…ちっ」

 

ずるり…

 

バチバチと放電の青い光を放つ物体が蒸気を裂いて海側よりゆっくりと三人に近づいてくる。

 

フルルルル…

 

自分の体の周囲に迸る雷光によって銀色の体を青く輝かせ、機神は再び三人の前に凶暴そうな風体を現す。同時―

 

「…嘘だろ?」

リグは目を見開く。

 

ズブ……ガコン

 

機神が開いた口の中にあるスモルトの刀身が飲み込まれるように引っ込んでいき、代わりに現在機神の喉もとで光るのはエノハの神機―スモルトの銃形態の巨大なブラスト砲身であった。その先端の砲筒が間もなく光を帯び―

 

ドン!!

 

エノハが何度かトドメにアラガミを爆殺する際に使用していた高威力ブラスト専用弾―ホーミングミサイルの様な弾頭が固まっている三人の元へ容赦なく放たれた。

オラクルの消費量はとりわけ大きいがそれに見合った威力、攻撃範囲を持つ文句なしの危険な弾頭だ。

 

―…!!!!!!

 

瞬時に回避行動以外に選択肢は無いと判断した三人が散り散りに別れた中央でその弾頭は炸裂し、再び轟音と共に大爆発が起きる。その爆風は容赦なく三人を襲う。

 

「っ!」

 

「きゃぁっ!!」

 

「…!!アナン!?」

 

 

鎌を高速移動手段に使える「レイス」、解放中で瞬発力が高いリグと比べ回避能力が格段に低いアナンは出遅れる。結果盾を展開して凌ぐ他ないのだ。当然三者の中で一番容赦ない爆風の被害を被り、体勢が大きく崩れる。

更に悪い事に―機神の狙いは最初からアナンであった。ここまでの戦闘で攻撃はともかく回避、防御、咄嗟の機転と少なからず相手集団の危機を救ってきた彼女を優先的に機神は仕留めにかかる。

 

ガァッ!!

 

巨大な口を開き、アナンを噛み砕こうと機神は跳躍。吹き飛ばされて満足に体勢を立て直せていないアナンに迫る。

 

―…!!にゃっろ~~やっぱり私が狙いか!!

 

「……!!く~~っ!」

 

アナンは衝撃で霞みそうな意識を奮い立たせ、何とか盾を構え、機神の攻撃の直撃の「芯」をずらしたものの

 

ガガガガガガガッ

 

まるでやすりで削られるみたいに機神の側面に生えた鋭い鱗でぞりぞりと盾を削られる。

 

「いやぁっ!!!」

 

弾き飛ばされ、きりもみ状に回転しながら上空へ弾き飛ばされた。

上も下も解らないまま高速回転し満足に受け身を取る事も出来ず、砂浜に叩きつけられた。

 

「…ぐぇっ…?はらららはなニャ…?」

 

形容しがたい奇声を上げて目をぐるぐる回し、酩酊したのちにパタンと大の字で寝転がった。既に再び跳躍し、アナンに覆いかぶさるように大口を広げている機神の真上からの追撃をアナンは回避もガードも出来そうにない。彼女の運命は尽きたかに思えたその時、

 

がッ!!

 

突如アナンに覆いかぶさる様に喰らい付こうとしている空中の機神の左半身に何かが喰らいつく。それは見た目こそ機神とそっくりであるがその色は通常の捕食形態の黒色で在り、また大きさも遥かに小さかった。

 

ドズン!!

 

それでも浮遊中の機神の落下先、軌道を逸らすことぐらいは出来る。

間一髪。アナンに喰らい付こうとした機神の大口は左側頭部に喰らい付いた黒い顎によって逸らされ、投げ飛ばされるみたいに叩きつけられ、喰い付かれたまま砂上に抑えつけられる。

 

「~~~~っ!ぐっ!!」

 

アナンを救ったのはリグとリグの神機―ケルベロスの捕食形態であった。リグは歯を食いしばりながら必死の形相で捕食形態に力を込め、もごもごと黒い顎を動かしながら機神を抑えつける。

 

「おい!アナン!!しっかりしろ!」

 

「…うっ…ごほっ!!えほっ!」

 

アナンは痛々しそうに眉を歪め、落下してしこたま背中を強打した事もあり、呼吸困難を起こしていた。復帰に恐らくまだ数秒かかるだろう。リグはもうしばらく時間を稼ぐために更に捕食形態を喰い込ませる。

 

が。

 

必死で神機ケルベロスの捕食形態で機神を「抑えつけていた」つもりであったリグであったが

 

ぐぐっ…

 

まるで「それで抑えつけているつもりか」と言わんばかりに機神が喰らい付いているリグの神機の黒い顎を物ともせず立ちあがり、まるで水で濡れた犬が体をふるって水滴を振り払うような仕草でリグの神機の捕食形態を強引に振り払おうとする。

リグは神機ごと振り回される前に抑えつけるのを諦め、即座に神機形態を転換。

 

ガコン…

 

近距離銃形態神機―ショットガンにリグは切り替え、機神の生物で言うなら「目」周辺、即頭部に銃身を押し付けた、近距離で最大の威力を発揮するショットガンにとって最大火力を出せるであろう状況、消費するオラクルに見合うだけの十二分な威力を持つ弾頭を惜しげも無く撃つべき理想的な状況だ。

 

「これでも食ってろ!!」

 

ガぁン!!!

 

ショットガンのゼロ距離散弾の猛烈な反動でリグの片腕が弾かれ、同時に機神の体も大きくのけぞった。この弾頭は近接威力だけなら先程機神が脳天に受けたアラガミバレットをも上回る。それがものの見事にクリティカルヒットしたのだ。大抵の敵はこれで勝負は決まる。

 

しかし―

 

「…っ!!」

 

リグは眼前の光景と手応えの無さに眉を歪めた。

 

ぐりん!

 

ゼロ距離散弾で大きくのけぞった機神のアギトが達磨みたいに直ぐ戻ってくる。

 

―…!!やっろ…!!!

 

その側面にはまるで騎士の顔を覆う兜のように銀色の盾が展開され、散弾が直撃した部分から黒い煙を上げているものの、大きな損傷は無い。機神は神機の銃形態だけでなく、盾形態すら行使してリグのとっておきの一撃をとっさに弾いたのだ。機神の異常な反射、反応力、適応力を垣間見せられたうえ、射撃後の強烈な反動と動揺で固まったリグに向け

 

ぐぱぁっ!!

 

機神は大きく口を開き、再び喉元の銃身を展開する。ゼロ距離射撃の「お返し」を見舞うつもりだ。「お返し」と言ってもブラスト銃身に合わせてその弾頭はご丁寧に

 

ボウッ!

 

「放射」であった。ブラスト銃身近接御用達のポピュラーな弾頭だ。

 

「っ!!」

 

上半身を丸ごと消し飛ばされそうなその攻撃を上体を背部に反らせて間一髪リグは躱す。彼のワークキャップのつば先を放射が掠めた事によって煙の焦げ臭い匂いがリグの鼻につく。

 

「ぐっ!!」

 

元々射撃の反動で崩れた体勢から行った咄嗟の回避であった為、解放状態のリグですら体幹を立て直す事が出来ずどすんと尻もちをつく。その彼に容赦なく機神は再び砲身を向ける。先程はリグの上半身を狙って斜め上に打ち上げるような放射であったが今度は撃ちおろすようにに砲身を尻もちをついたリグに向け、狙う。

リグの全身を捉えた照準だ。リグは体勢最悪で回避は不可能、放射を防げる盾を持つアナンは未だ隣で意識が混濁。成す術がない。

 

「……!!」

 

機神の口内の砲筒から漏れる光で顔を照らされ、リグは覚悟し目を逸らした。

 

―くっそ…!!

 

「…諦めが早いって~~~―」

 

―!?

 

「の!!!」

 

ガスン!!!

 

 

その聞き慣れた声にリグは強く閉じていた両目を片目だけ開く。彼の顔を赤く照らし出していた光が消えて視界はクリアだった。

 

「…!!『レイス』!!」

 

リグの目の前に空から降り立った『レイス』が大鎌を振り下ろし、機神の上顎、下顎を貫いて口を強引に閉じさせ、地に縫い付けていた。

 

「悪い子はお口チャック…っ!!!」

 

機神の上顎に突き刺さった鎌に全体重をかけ、「レイス」は

 

「アナン、リグ!!今!!エノハさん引きずり出して!!早く!!!」

 

目線でエノハの足を見据えながら叫ぶ。

 

「…!アナン!!」

 

リグは隣で倒れているアナンに素早く駆け寄り、容赦なく

 

「アナァァァン!!!起きろぉおおおお!!」

 

パパパパパン!!

 

往復ビンタ。

 

「いひゃひゃひゃっ!いひゃいいひゃいいひゃい!!(いたたたっ!いたいいたい

いたい!)!!ちょっ!!痛いっての!」

 

「手伝えっ!!」

 

「へっ…!?お?お?お~~『レイス』!!ナイスですね~~?」

 

アナンは往復びんたを喰らってぱんぱんに腫れた両頬を抑えながら周りを見回して状況を把握し、機神を取り押さえている「レイス」にぐっと親指を立てる。

 

「いいから早くエノハさん助けなさいっ!!」

 

「おっけ!!」

 

既にエノハの足を掴んでいるリグにアナンは駆け寄り、二人がかりでエノハの足を引っぱる。同時に

 

グルィイイイイ!!!

 

口を塞がれた機神は今までになく苦しそうに唸り、上体を蛇のようにくねらせる。機神にとって内部に取り込もうとしているエノハを引っ張られると言う事は内臓を引きずり出される様なものだ。当然激痛に呻く羽目になる。

 

しかし―

 

「…あれっ!?」

 

「ぐっ!?」

 

順調にエノハの足を引っ張り、膝の辺りまで見えた所で突如ぴくりとも動かなくなった。それどころかようやく引きずり出したエノハの足が再び機神の体内へずぶずぶと沈んでいく。機神の生体部分が体内で蠕動(ぜんどう)を起こし、エノハの体を強引に完全に体内に取り込もうとしているのだ。

 

「…!!ちょっ!!何やってんの!!早く引きずり出して!!」

 

いつもは沈着冷静な『レイス』も思わず声を荒げた。

 

「うるせぇ!!こっちだって必死なんだよ!!」

 

「うぇ~~ん!!『うんとこせ!どっこいせ!それでもエノハは抜けません』!!」

 

「アナン!!この期に及んでアンタってコは!!」

 

「私もこれでも必死なんだよぉ~~~」

 

アナンはどういう状況であれ、在る程度お茶らけないと心を保てないタイプである。

これは自分も加勢するべきかと「レイス」は思い始めた。

鎌を咬刃形態にすれば、抑えつけながらでも加勢は可能かもしれないと考えた―

 

矢先であった。

 

 

―……!!?

 

その考えを直ぐに却下するのに一切の躊躇いが生まれない光景が「レイス」のオリーブ色の瞳に映し出されている。

 

ググググッグ…

 

圧力を弱めたつもりはない。むしろ「レイス」は徐々に強めているつもりだがそれでも機神の開口が止まらない。

 

 

大抵の生物の口の構造という物は非常に「噛む」という力が強く出来ている。他の生物を捕食する肉食生物は元より、雑食の人間ですら自分の体重の約五倍ほどの圧力をkg/平方センチメートルあたりにかける事が可能である。前時代の自然界で最高の咬筋力を持つワニに至ってはその圧力は5トン以上と言われている。

 

が。

 

逆に「口を開ける」という力に関してはどの生物でもそこまで高い物ではない。前述のワニですら人間に覆いかぶされられ、上顎と下顎を抑えられれば口を開ける事すら困難になる。「噛む」力と比べて口を「開く」力というのは非常に弱いのだ。

 

 

しかしそんな常識の範疇外の異常な「開口力」を以て機神は細身ながらもGEである少女の強靭な筋力に逆らい、その口を強引にこじ開けようとしていた。

 

「ぐ~~~~っ!!!!!」

 

唇から血が出るほど噛みしめ、機神の開口を阻止しようとする「レイス」であったが…

 

グバッ!!

 

努力むなしく、機神の両顎は拘束から解き放たれ、同時に頭の上に載っている「レイス」を

 

ブン!!!

 

「きゃっ!!!」

 

上顎をふるって空中に放り投げる。

 

「うおっ!」

 

「うわぃ!」

 

その反動によってエノハの足を掴んでいたリグ、アナンの二人も振りほどかれる。二人は敢え無く機神の体内に取り込まれていくエノハの足を見送る他無かった。

 

 

「…くっ!!」

 

空中では「レイス」は四回転ほどした後、姿勢を正して直ぐに着地先に居る機神に目を向け、追撃に対しての備えを整えた。が、

 

「…!!??」

 

既に機神の「追撃」は行われていた。異様な光景に「レイス」は愕然とする。もともと巨大な機神の両顎がまるでアリゲーターガーの口の様に伸び、上下から空中の「レイス」に向けて閉じようとしている直前であった。これでは咬刃形態を延ばして回避する時間すらない。慌てて延ばしたカリスの切っ先が地に達する前に「レイス」は機神に咬みつぶされてしまう。

 

それでもこの状況を打開できる可能性があるのは彼女の神機のカリスだけである。

 

ガィイイイイイン!!

 

容赦なく閉じられた機神の上下からの両顎―最早口内と言っても差し支えない場所で「レイス」はカリスの咬刃形態を展開、上顎にカリスの刃の部分、下顎に柄の部分を突き立て、機神の噛み潰しを間一髪で止めた。しかし、尚も強まる機神の上下からかかる圧力に徐々にカリスは咬刃形態を縮められていく。口内の「レイス」も必死で堪え、咬刃形態を保とうとするが相手はヴァジュラの頭部を噛み潰した化物の咬筋力だ。

 

ぴしっ

 

「……ぐっ…くっ!!」

 

神機を手放して脱出を試みようにも手放した瞬間力の均衡が崩れ、逃れる間もなく神機と一緒に「レイス」は噛み潰されるだろう。よって最終的な結果が変わる事が無くてもこの状態で耐える他ないのだ。死ぬのが恐らく十数秒、下手をすれば数秒の差であろうとも。

 

しかしその僅かな時間差もせっかちな機神は許さなかった。

 

ずるるるるる

 

「え……!!?」

 

口内で必死に堪えながら「レイス」は自分が引き寄せられている事に気付く。嘴のように延ばした形態を機神は元の大きさに戻そうとしているのだ。その行動の本当の意図に「レイス」が気付くのは間もなくである。

 

ずずずず

 

神機を衝立にしながら必死で堪え、身動きの取れない「レイス」の胴を目がけ、機神の喉の奥で神機の剣形態を展開―スモルトの銀色の刀身が輝く。このまま「レイス」を引き寄せ、口内で串刺しにするつもりなのである。

 

「っ……そこ、まで…する…?」

 

「レイス」は呆れ顔でその迫る切っ先を前に考えを巡らすが動く術がない以上、流石に手詰まりであった。

 

「性格最悪だな!!オメ―は!」

 

金色のオーラに身を包んだ少年が自ら口内に入り込み、「レイス」の前へ出る。

 

リグだ。既にその銃身はアサルトに転換されている。

 

「馳走してやるよ!!!!」

 

機神の暗い口内が光で照らされると同時に機神のむき出しの喉に矢継ぎ早に無数のアサルト弾頭が突き刺さる。人間がまるで気管に入ってしまった液体に咳き込むように機神は上体を崩し、「レイス」へのがちがちの拘束が弱まった。

解放された「レイス」を抱え、リグは跳躍、彼等の背後で一瞬遅れて機神の顎は固く閉じられる。苦虫を噛み潰すように悔しそうにぎりぎりと歯噛みし、機神は忌々しそうに逃れた二人を見た。

 

 

「…ありがと」

 

「…おう」

 

「レイス」の珍しい素直な礼に少しはにかんだ様子でリグは目を逸らす。そんな二人が着地すると同時に機神は口を開き、刀身を銃形態に変えて爆破弾頭を撃ち出す、が―

 

「私を忘れちゃいけません」

 

がきんっ……

 

機神が存在を忘れていたアナンが眼前に現れ、射出されたばかりの機神の弾頭を盾で受け止め、盾の上で器用に滑らせて真上に方向を変えさせた。

 

「んべっ!!」

 

アナンは目一杯舌を出してバックステップ。すると瞬時に機神の視界から消えた。「レイス」の咬刃形態が機神の眼前を通過し、それにアナンを乗せて回収したのである。方向を逸らされた弾頭は―

 

…タンッ

 

リグの放った一発の弾頭の銃撃音とほぼ同時に轟音を巻き上げ爆裂。猛烈な爆風を至近距離で機神は浴びる。

 

同時視界を完全に爆煙によって覆われ、機神が動きをしばらく取れなかったと同時、背後から

 

ガスン…

 

音がした。何かが居る。

 

反射的に振り返り、その音に向けて機神は放射弾頭を半円を描いて薙ぎ払う様に放つ。これならば外しようが無い。

 

しかし―

 

ズザザザザ…

 

尚も前方から音が響く。

 

―!?

 

ズボっ!

 

その「音」の正体が爆煙を裂いて機神の眼前に現れた。その正体は赤黒く刀身を光らせた大鎌の切っ先であった。

 

「クリーブファング」

 

「レイス」の神機「ヴァリアントサイズ」の攻撃であり、垂直に切り下ろした咬刃形態の大鎌を一気に手前に引きよせて敵を切り裂く技である。

 

 

ガガガガガッ!!

 

巨大な刃によって機神は頭部をがりがりと削られる。

自分を削っていった刀身を再び振り返りながら敢え無く見送った先には

 

 

「ちっ…貫通出来た顎の先端に比べると本体はやっぱり堅いね」

 

「ま。かといって真っ二つにしちゃったらエノハさんも真っ二つだけどね~~」

 

「物騒な会話だなオイ…」

 

軽口を叩きながら機神から警戒を解かない三人の少年少女の姿があった。

 

 

 

 

 

…正直機神は感心する。思ったより「大した奴ら」だと。

 

取り込んでいる「元主」に比べればまだまだ絶対的な力は持たないものの、創意工夫を凝らし、欠点のあるお互いを補完しあって挑んでくる。

 

 

だから。

 

 

 

もう本気で殺す。

 

 

「遊び」は。

 

 

終わり。

 

 

 

機神は跳躍する。そして再び口を開いた。

 

 

「またあの弾頭!?芸が無いね!?」

 

アナンは待ち構える。再び弾き返す為に。

 

が。

 

 

「…え?うえええええええええええ!!????」

 

 

一発、二発、三発。

 

次々にホーミング軌道を描いて弾頭が迫る。

 

「こっれはさっすがにむ~~りぃ~~リグ!!」

 

リグが弾頭を撃ち返す為に前へ出ようとするが…

 

「…!?」

 

リグが撃ち落とす前に弾頭が三発揃って墜落していき、砂浜に着弾する。

 

「「「…!!」」」

 

同時爆風に備えて三人は身構える。が、

 

 

……

 

弾頭が爆発しない。三人はよく考えるべきだった。あれほどオラクル消費の激しい弾頭をオラクル細胞の補充も無しに三発同時に撃ち出すなど不可能だと言う事を。

その事に三人が気付いた時には既に機神は三人の間合い内に侵入していた。

 

「…!!」

 

反射的にアナンは盾を展開するが間に合わない。強烈なショルダーチャージの様な隙のない突進を機神は仕掛ける。さっきまでの獣くさい強引な暴力とは異なり、妙に洗練された一撃であった。

 

「ぷあっ!!」

 

派手さは無いが無駄のない凝縮された攻撃は威力の分散が生じない。地味だが確実に相手の命を削る攻撃だ。アナンの体は吹き飛ばされ、地上に叩き付けられた体は尚も勢いが止まらず砂上を跳ね回る。

 

「…!!!!アナン!!」

 

反射的に咬刃形態を開いた「レイス」の刃が機神に到達した途端

 

がきぃん!!

 

 

「…!??」

 

止められた。しっかりと両顎でヴァリアントサイズの刃を銜え、機神は「レイス」を睨む。そして「レイス」の神機を銜えたまま

 

「…え?うわっ!!!」

 

神機ごと「レイス」を振り回す…その先にはリグが居た。

 

 

「リグ!!」

 

「!?」

 

ドン

 

眼前に迫っていた「レイス」を避ける事が出来ず、二人は衝突。更に機神は「レイス」をもう一度振り回し、同時に口から神機を離した。「レイス」はリグとの空中衝突の衝撃で悶絶したままはじき飛ばされ、土煙を巻き上げて砂上に叩き付けられた。

 

 

「レ、『レイス』!!」

 

リグは瞬時に「レイス」に駆け寄り、抱き起こす。

 

「しっかりしろ!『レイス』!!」

 

「うっ…バカリグ!敵から目を逸らしてんじゃない、の…!!」

 

「う~~~イタタタタタ…」

 

その二人のやや前から間の抜けた少女の声が響く。

 

 

―え?

 

―?

 

―へ?

 

その状況に三人はお互いを見合い、目を丸くした。バラバラにされたはずのお互いが今何故か固まっている。そして三人中二人はほぼ満足に身動きが取れない。リグも「レイス」を抱きかかえている。

 

そんな三人が一か所に固まっている。こんな偶然―あるわけない。

 

固まったのではなく明らかに「固められた」。一か所に。

 

三人の後方にて放電音。拡がる大海原より更に蒼白い光が三人を照らし出す。

 

大口を開いた機神の喉元のブラスト砲身の先端での巨大な青白い球体を形成、放電させている。波打つ機神の側面の鱗を一杯に開き、最早銀色のハリネズミの様な禍々しい姿の機神は体中を放電させながらその砲筒を三人に向けていた。

 

間違いない。これはアラガミバレット。

 

それもケタ違い過ぎる威力の、だ。

 

Lv4アラガミバレット。

 

機神の体中から迸る放電現象が一気に機神の喉元に収束、凝縮し、暫くすると何か高速に物体が回転するような音が辺りに響き渡る。収束完了の合図。

 

後は撃ち出すだけ。

 

実は非常に扱いの難しい電気エネルギーを全く無駄なく、余すことなく凝縮させた攻撃。

 

 

…レールガンだ。

 

 

 

ジェット機が発進する直前の様な耳をつんざくキィーンという音が止んだと同時であった。

 

 

 

…ピィッ!!!

 

 

今までこの場所で響いていた数々の弾頭、攻撃の爆音、破壊音等と比べると明らかに控えめで、迫力に欠ける音であるがその威力はそれらと比較にならない。

 

その災厄が放たれる直前に三人は既に無言で考えを同じにしていた。

 

アナンは先頭で盾を構え、その体を今はまだ体が言う事を聞かない「レイス」が支える。リグは一番後方で背中を向け、両足を堪えるように踏ん張り、少女二人の体勢が崩れ、アナンの盾の方向がぶれない様に固める。

 

その三位一体の防御を前にして機神は容赦なくとっておきのアラガミバレット―レールガンを放ち、発砲から時間差なくアナンのハート形の盾―「エロス」を射抜く。

 

 

「「「~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!」」」

 

直撃したレールガンをこらえながら、三人の体は20メートルも押され、足元に綺麗に3対の筋をまっすぐ残す。この筋が少しでもぶれていたらこの3人は即蒸発している。

 

レールガンが照射されたのはたった3秒間。しかし彼等の人生で最も長い3秒間が終わりを告げた時―

 

 

 

 

ド…

 

アナンが盾越しの電圧、衝撃によって震える手を見据えながらペタンと膝をつき、後ろに倒れ込みそうになるその体を「レイス」が両手で支えた。

 

「あっはは。私ら生きてるぅ~~?」

 

「…みたいだね」

 

そんな彼女達の凌ぎ切った達成感を台無しにする憂鬱な存在は尚も目の前で健在であった。既に

 

キィィィィン…

 

機神は第二弾の充填、収束を始めていた。本当にコイツ質が悪い。悪夢の様だ。

 

「あ~…くっそ~~こんにゃろ~~」

 

「流石に…これは…キツイね…」

 

満身創痍の彼女達が眼前の光景に辟易する中

 

「っ…!!」

 

三人の中で最もダメージの少ないリグが振り向き様に銃身形態をスナイパーライフルに転換、

 

タァン!!

 

リグの放った狙撃弾は機神の砲筒で収束中の雷球を寸分のズレなく射抜いた。

 

 

……!!

 

 

ドォン!!!!

 

 

収束中に射抜かれた雷球は機神の口元で大爆発、その爆風はブラストの破砕弾頭を遥かに凌ぎ、離れていた「レイス」達三人にも容易に届いて吹き飛ばす。

 

 

ズズズズズ…

 

前方からこの日最大の爆煙が上空高くもくもくと立ち上る中、

 

「うっ…」

 

爆風をまともに受けた満身創痍の体をようやく起こした少女「レイス」は

 

「…リグ!!」

 

アナン、そして自分を守る様に覆いかぶさるうつ伏せの少年の姿を見て意識を取り戻す。

 

「ちょっと!しっかりなさいよ!リグっ!!リグ!!!!」

 

「…うっせぇな。まだ生きてるよ」

 

リグは「レイス」の膝元で僅かに顔を上げ、生意気そうな眼を僅かに開く。

 

「…。ふぅ…」

 

「レイス」はほっと息を吐き、うつ伏せのリグの顔を優しく撫でる。いつもは「恥ずかしいから止めろ」とかいうリグも成すがままだった。なんだかんだ言って彼は「犬」の

才能がある。

 

「私も心配してぇ…『レイス』」

 

アナンもようやく上半身だけ起こして気だるそうに「レイス」の肩に背中を預けてもたれかかった。三人ともどうにか無事なようだ。

 

 

 

当然。

 

 

「奴」も。

 

 

 

キッ……シャアアアアアアアアアア!!!!!

 

 

 

「……!!!」

 

 

 

一筋の爆雷が地上から一気に天に延び、その衝撃で爆煙が一気に切り裂かれる。その中心で体中のあちこちから黒煙を上げながらもバチバチと蒼白い電気を纏いながら姿を現す。

 

グルル…ドルルルルルル!!

 

健在だ。そして怒りを基にした戦意、敵意、殺意に満ち満ちている。白銀の体を更に放電させながら、左右の側面の鱗を更に攻撃的に逆立て、その体積をまるで威嚇するカマキリのように膨れ上がらせている。

 

そして怒りながらも笑う様に耳元まで裂けたような口を開いて再び砲身に雷光を収束させる。

 

 

そんな殺る気満々の機神を前にして

 

「ダメ、だァ。…私もう…腕上がんない…神機持てないよぅ…」

 

愛機を取り落とし、息も絶え絶えにアナンは「レイス」にそう言って更に深くもたれかかる。そんな彼女をしっかりと右手で強く抱き、しっかりと「レイス」は視線だけは前に向けた。

 

「…リグ?アンタは?」

 

「見た目の通り、もう体力もオラクルも底付いてる」

 

「…お疲れ様。少し休んで」

 

「…『しっかりしろ、弱気になるな』とか言わねーのかよ」

 

「アンタは…よっと…充分頑張った」

 

「レイス」その言葉と同時に生意気な弟の様なこの少年を上体だけ起こさせ、左腕を肩に回してしっかりと守る様に抱く。

 

彼女の表情は相も変わらず無愛想だが決意に満ちた眼差しであった。眩く光り輝き、そしてけたたましい収束音を放つ眼前の圧倒的な機神の光景からも目を離さない。

 

「二人とも・・そのままでいいからしっかりと目だけは前に向けて。敵を前にして目を逸らしたまま殺されるなんて癪じゃない?」

 

「…へっ」

 

「『レイス』は意外に暑苦しいよね~~…嫌いじゃないけど」

 

収束音が止まる。

 

照射まであと僅か、不思議な静寂が辺りを包む。耳を澄ますと今までは聞こえてこなかった、耳を傾ける事も無かったこのシチリア島の打ち寄せる波の音、風の音が聞こえる。

 

 

―残念だな。

 

これが聞き納めなんて。

 

 

まぁ最期に聞く「音」にしては悪くなかったかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――「……オイタが過ぎるぞ…このクソ神機……!」

 

 

―…!?

 

 

 

 

ぐしゃあ!!!

 

 

目を逸らさなかった三人の目に映ったのは意外すぎる光景、そして耳に残る音はこのシチリアの趣のある音とは異なり、妙に実際的な彼等の日常の音であった。

 

 

…!!????

 

機神が今正に鉄槌を振りおろそうと言う時、彼の頭が強引に上から踏みつぶされ、口内の雷球を噛み潰したと同時…再び響いた猛烈な爆音と閃光が辺りを包む。

 

再び爆煙に包まれる前方を三人は目を見開いて唖然としていた。

 

 

カ…ハッ…ガっ……!

 

機神は熱と閃光によってやや溶解した口から煙を噴き出しながら苦しそうにのたうつ。そこに追い打ちをかけるように

 

ぐしゃあ!!

 

まるで遠慮も無く不作法にその頭を再び踏みつける何者かの姿があった。踏みつけられた機神はべったりと押し潰されるように頭を垂れる。

 

 

 

 

 

同時竜巻のように大気が渦巻き、噴煙が切り裂かれる。

 

その中心に居るのはぺちゃんこに叩き伏せられた機神と

 

 

 

「鬼神」であった。

 

 

 

 

いつもの穏やかな表情では無く、射殺すような瞳で片足だけで叩き伏せた白銀の機神を睨む。

 

軽快な烈風を迸らせながら白銀のオーラに包まれた青年―

 

榎葉山女。

 

 

 

「…お前がアラガミだろうが、俺の神機だろうがそんなの一切関係ない…」

 

 

ぐりっ

 

更に踏み出した足に力を込め、完全に機神を屈服させる。機神は口を開く事も出来ない。

 

 

「今度俺の仲間を殺そうとしてみろ?…解体(バラ)してアラガミの餌にしてやる」

 

 

ずぼっ

 

キシャアっ!

 

その一言と同時まるで生物から生きたまま背骨を抜きだすみたいに神機の柄を機神の背から抜き取り、同時に神機の刀身に手を添え、機神の生体部分を神機に吸収、回収していく。瞬く間に機神の白銀の体は消え去り、後には再び砂浜を踏みしめたエノハと手元にはいつもの彼の神機―スモルトが残された。

 

 

「ふうっ…こりゃあ問題児だ…」

 

 

白銀のオーラを収束させて一息吐き、エノハはいつもの彼に戻る。いつの間にか夕暮れに差しかかったシチリアの陽の光を浴び、問題児―スモルトの刀身は何事も無かったかのように輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お疲れさまでした。

話を進ませるため、一話あたりの文字数を結構増やそうと思います。よろしければまたお付き合いください。


おまけ

「…!無事か!?」

エノハが神機をようやく鎮め、呆気にとられていた三人に振り返った時であった。


「ぶっ!!」

彼の顔面にハート型の物体が飛来、直撃する。

「お…?おお……!?」

ぼたぼたと鼻血を垂らし、口元を覆い隠しながら驚愕で目を見開いたままエノハは物体が飛んできた方向を見る。そこには息も絶え絶えに投球モーションを終えた段階の満身創痍のアナンが立っていた。

「なっにが…『無事か!?』ですか……!!エノハさん!?私ら殺す気ですか!!?うわ~~ん!死ぬかと思ったんですよ!!!ホントマジでやばかったんですよ!!」

「う…ご、ご…ごべん。アナン…でもじがたながったっでいうが……ぶがごうりょぐでいうが…」

訳「う…ご、ご…ごめん。アナン…でも仕方が無かったっていうか……不可抗力って言うか…」

指の間からも更にとめどなく溢れ出る血を抑えながらエノハはようやくそう言うことしかできない。

「ぐすっぐすっ!!許しません!!覚悟して下さい!!」

アナンは泣き喚きながら神機の暴走に巻き込まれ、命からがら帰ってきた現隊長に惜しげも無くびしっと指を差す。

―標的はアイツだ。殺せ―

「…安心しろよエノハさん。俺は一応識別弾頭使ってやるから。物ぉ~~凄く痛い程度ですむから」

リグは徐にアサルト銃身に弾頭を装填する。

「ま、待てリグ。神機は『人に向けてはいけません』タイプの物だ…。レ、レイス!?頼む!二人を止めてくれ!!」

ガスン!!

懇願したエノハの目の前を大鎌の切っ先が突き刺さる。

「おわっ!」

「…カリス?今日はエノハさんと好きなだけ遊んでいいよ…よかったね~~」

「え。いいの!?」とでも言いたげに彼女の神機―カリスはヒュンヒュンと空を切り裂いて鞭のようにしなる。持ち主は満身創痍でもまだまだ神機は元気いっぱいであった。




この日ほどエノハは人間相手から本気で逃げた日を知らない。










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