G・E・C 2  時不知   作:GREATWHITE

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第3話 取り戻さなければならないもの

すぅ・・

 

虚空を深く吸い込む。

熱砂の渇いた外気は「それ」の内部で一瞬のうちに冷却され、水滴化、凝固、氷結。全く真逆の性質となって再び日の目を浴びる。

慈悲なき太陽に照らされ蒼い光帯を伴い―

 

ガアツ!!!

 

熾帝―ルフス・カリギュラの口内から通過した地点の空気を氷結させ、蒼い帯を引きながら高速で氷球が通過していく。

 

「っ!!」

 

空中でのけぞりつつ掠めた巨大な氷球の冷気は回避したエノハから滴り落ちた汗、血液を一瞬にして凝固させる。直撃即凍傷、あるいは凍死の氷球が立て続けに熾帝の口から放たれる。

掻い潜りつつ何とか斬撃を繰り出したとしても熾帝が両腕に展開した硬質の両刃で捌かれ、決定打に至らず、纏わりつかれるのを嫌がった熾帝の・・

 

ズズッ

 

―!ブースターが発光・・!

 

ズオッ!!!

 

円周状一帯を冷気のオーラで薙ぎ払う絶対領域を敷かれ、接近が捗らず距離を離した瞬間に氷球が立て続けに飛んでくる。

牽制のその攻撃で距離を離されたかと思えば突然反応するのがやっとな両刃を構えての強烈な斬撃、突進、滑空攻撃を繰り出してくる。頭部のダメージ、砂漠の熱気にあてられたエノハの意識では捕食タイミングの選定すらままならない。

 

しかし、それを差し引いてもこの怪物は。この個体は。

 

―・・間違いなく単体では俺が戦ったアラガミの中でも三本の指に入る。

 

エノハにそう確信させるほどの強敵であった。それもエノハ一人で戦った相手としては間違いなく最強の個体だ。

複数のアラガミ相手に取り囲まれても切りぬける、もしくは殲滅する手腕、経験を併せ持つ百戦錬磨のエノハも「個」としての極致に達したこのアラガミ相手には防戦一方であった。

 

「逃げる」事は常に考え、その機会を伺っているが何せここは見渡す限りの砂漠である。遮蔽物や障害物、隠れ蓑になる様なものは存在しないうえ、この機動力が異常の熾帝相手ではただ「逃げる」だけでは一瞬で追いつかれる。

おまけに最初の怪我の分と熱砂の砂漠による消耗がエノハの体を少しずつ蝕んでいく。

有体に言うとジリ貧。元気いっぱいの熾帝の攻撃がいずれエノハを捉える事になるであろう。

しかしその中でも

 

「・・・」

エノハには一発逆転の秘策があった。

 

・・・

 

熾帝もまたその意図に本能的に勘付いている。類稀なる戦闘センス、本能を併せ持つ怪物は敵対する相手の目をじっと見ていた。

交戦しながらも恐ろしく冷ややかな、しかしその奥に氷をも溶かす激情の炎を宿すエノハの目を。

消耗しながらも苛烈な己の攻撃に徐々に反応し、対応してくるこの相手に熾帝は思う。

 

・・コイツは同族だ。

 

「戦闘の中に身を置き、闘い、喰らうことで自分のアイデンティティーを確立する者」

 

 

熾帝は

 

 

 

間違って「は」いない。

 

 

しかし

 

 

 

「ズレ」はある。

 

 

その「ズレ」が

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・

 

 

やって来た。熾帝の背後から。

 

 

 

「・・・・!!」

 

 

・・・・!?

 

 

ブオオオオッ!!!

 

 

「・・・・!!!!積荷の兄ちゃ~~~ん!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

トレーラーのハンドルを今は助手席で必死につかまりながら泣きべそ顔の若造から奪い、ハンドルを握った禿げ頭、しかしナイスミドルは突進してきた。

 

 

「おじさ・・・頭領!!!!」

 

 

 

 

 

五分前・・

 

 

「敗走中」のトレーラー内にて

 

 

 

「おいマハ!!車を戻せ!!積荷を!兄ちゃんを回収しに行くぞ!!!!」

 

「いいい嫌っすよ!!!!あんな・・あんなバケモノ相手がいるとこに戻るなんて俺は!!」

 

運転席で前のめりになり、震える手でハンドルを握るマハの姿には車両を、自分を必死に今は一ミリでも前に進めたい一心であることが伺える。

 

「だ、第一あいつらと闘えるってことは・・そいつ・・『そういうこと』でしょ!?だ、だったらそいつがあのバケモンどもと戦うのなんて当り前じゃないですか!!」

 

そう。それ故にゴッドイーターである彼らにはいくつもの特権が与えられている。実際にそれを笠に着てふんぞり返る連中も少なくない。マハの言い分は決して間違ってはいない。

 

間違って「は」。

 

「・・ああ。そうだ。あの兄ちゃんは確かに・・。・・ゴッドイーターだ。神機も持っていたからな」

 

「なら!!・・・っ!?」

 

頭領は一気に弱気な部下―マハに詰め寄り、その襟袖を掴み真っ正面から怒りの形相で若造を睨みつける。

 

「だがな!その前にあの兄ちゃんは俺らに託された『積荷』だ!!運び屋が『積荷』見捨ててどうすんだよ!?あの兄ちゃんはお前の言う『当り前』の事をやって俺らを守ってくれたんだ!!なのに俺ら運び屋が『当り前』の事を出来ずに仕事を放り出して逃げてみろ!!俺らは最早『運び屋』じゃ無くなるんだよ!!」

 

「・・・」

 

「お前もプロならプロなりにあの兄ちゃんの行為に対して自分の仕事できっちり返せ。それが嫌なら運び屋やめて車から今すぐ降りろ。俺は兄ちゃんを迎えに行く。帰りにお前を拾ってやる。『積荷』としてな。お前に支払われる今回の報酬が運び賃だ。安心しろ。『釣り』はちゃんと返してやる。それ持って失せろ」

 

襟袖を乱雑に振り払って頭領はそう言い捨てた。

 

シュンとしたマハは尚もハンドルを握りつつ弱々しく前を見据えながら

 

「・・勘弁して下さいよ・・俺が死んだらおふくろと妹はどうなるんすか・・俺の稼ぎアテにしてるんすよ・・?」

 

「・・それも『同じ』だ」

 

「・・・?」

 

「積荷とはいえ人だ・・あの兄ちゃんにだって待ってる人がいる。『運ばれる』ってことはそれを待ってる人間がいるってことだ」

 

「・・・」

 

「ええい!!どけ!!!俺が運転する!!お前を下ろす時間すら惜しい!!!てめぇはこっちで座ってろ!!!!」

 

とうとう頭領は痺れを切らした。プロは無駄な時間を過ごす事を殊更に嫌う。

 

「え!?うわっ!!?危ないですって!!ちょちょっ!!」

 

砂しぶきを巻き上げて左右にトレーラーはぶれながらグネグネと蛇行を繰り返し、

 

プシューッ

 

ある一定の距離を走行した後止まった。

砂漠が静寂に包まれたその数秒後。

 

 

ズズズズズ

 

「・・・・・」

 

「・・。もがもが・・おやっさん・・・」

 

助手席に部下―マハを押しつけながらいつもはガソリンの消費を抑えるため安全運転を心掛ける頭領がアクセルをベタ踏みの状態で阿修羅のごとく佇んでいた。

トレーラーの重みと停止したことでずっぷり砂に埋まった車輪はもどかしい空回りを十数回転続けた後に軽快に脱出。

同時目的地ニュードバイから全く真逆の方向に向かってトレーラーは方向転換。

 

目指すは「積荷」の回収。

 

そして

 

己の誇りの回収。

 

 

 

 

そして五分後―現在。

頭領は己の誇りを見据えた。捉えた。後は義理を成すだけ。己の仕事を果たすのみ。

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

 

 

ガァッ!!!

 

思いがけず戻ってきた全く以て興味を無くした、己にとって価値を無くした物体―トレーラーを熾帝もまた見据え、当然の行動に出る。

人間が纏わりついた羽虫を掃う様なもの。未練も無いのに戻ってきたかつて落とした一円玉を眺める様なもの。

しかし同時に悦楽の時間を邪魔する無粋な輩だ。僅かでも怒りの焔は上がり、それを熾帝は絶対零度の凶刃に変換する。

 

すぅっ

 

「・・・ぐっ!」

 

「ひぃいいいいいい!!!」

 

トレーラーの運転席二人の顔が蒼白く照らし出される。まばゆい光を携えた紅い竜の口内が蒼白く染まり、照らし出された運び屋二人の顔を何とも病的な顔色に染める。

不吉で不気味な蒼―まさしく死の色。

しかし、それでも前を見据えて歯を喰いしばる者の姿を目の当たりにして、己の為に駆け付けてくれた雄姿を前にしてこの男が黙っているはずが無かった。

 

ガコン・・

 

エノハは確かにいなされてはいた。しかし切りつける中で最低限の「回収」は済んでいた。

それはオラクル。弾頭には不十分でもインパルスエッジを放つぐらいのそれは補充出来ていた。

 

・・・!

 

腰だめの姿勢で構えたエノハが突きつける銃身の奥が光っているのを横目で見届けながらも自分の落ち度をフォローする時間は熾帝には無かった。

 

ドゴン!

紅い竜の顎がエノハの砲身からでたエネルギー波によって跳ね上がると同時に遅ればせながら氷球が熾帝の口内から射出される。

ヒュン!

それは瞬く間にトレーラーまでの距離を埋め・・

「・・・っ!!!」

助手席の窓に押しつけられたマハの真横二メートルを通過していった。その冷気に一気に助手席の窓が凍る。同時にマハの顔も恐怖で凍りついた。

そんな部下の恐怖もどこ吹く風、最大のピンチを乗り切ったハンドルを握った頭領はおもむろに・・

 

―今だ!

 

ガコンっ!

強引にサイドブレーキを引いた。

 

ズザザザザザザザアザザッ

猛スピードから急激なストップをかけられた巨大な車体は反動を殺しきれず横滑りする。巨大な車体は今熱砂を円状に巻き上げながらスピンターンし、向きを百八十度変えて後部のコンテナを半円状に振りかざす。

エノハのインパルスエッジによって怯んだ熾帝が前を見据えるとそこには遠心力一杯の横殴りのコンテナが砂を巻き上げながら今まさに自分を捉えようとしている光景であった。

 

・・・!!

 

ゴッ!!

脇腹を強引にコンテナで殴られ、流石の巨体も体勢を維持できず吹っ飛ばされる。熾帝は生まれて初めて横に倒されざるを得なかった。

 

・・・!・・・!?

 

肉体的なダメージはゼロでもショックと驚きがでかく、流石の凶暴な熾帝もすぐに体勢を立て直すに至らない。

しかし一方、一矢を報いた人間側もまた窮地に陥っていた。勢いのつき過ぎた車体は片側の車輪を浮かせながら転倒寸前であったからだ。

 

「うおおおおおおお!!!」

 

「ひぃいいいいい!!」

 

ここでの転倒ですべては元の木阿弥になる。いや、むしろトレーラーを失って完全なお荷物の二人が出来上がることによってより状況が悪化する。それだけは避けたい所だが車体は既に横転コースであった。

 

「くっそおおおおおぉおおお!!」

 

「ひ~っ」

 

二人の叫び空しくコンテナの重みに引かれ、今正にトレーラーが転倒しようとする刹那。

 

 

「ぐっ・・・!!」

ガンっ!!

 

未だ遠心力が残っており、決して軽い衝撃では無いコンテナにエノハは体当たり。同時に―

 

ドゴン!!

 

傾いている方向の地面へインパルスエッジを噴射。巻きあがる砂を浴びながらももう一発放ち、車体の傾きを強引に矯正する。

荒療治は・・

 

ドスン!!

 

吉と出た。浮いていた片側の車輪が正規の位置へ「着地」する。再び砂を巻き上げる光景が素晴らしい。

「・・・・ほっ・・・!」

思わず安堵で頭領は一息つきそうになる。が、

 

 

「GO――――――!!!!!!!」

 

「・・・!!!!」

 

 

後部コンテナの方向から声が響く。その声に再び頭領は我を取り戻し、引いたサイドブレーキを落としてアクセルを目一杯踏み込む。

 

ブォオオオオオオオ!!

 

「っと・・!!」

コンテナの角を左手で掴んだエノハの体が真横に浮くほどの急発車であった。

 

―っ・・・・しゃああああああぁあぁああ!!!!!!

 

頭領は今積み荷を・・・今己の誇りを取り戻した事を確信する。

 

「飛ばすぞ兄ちゃん!!!!」

 

「はい!!!」

 

右サイドのミラーに映るぶらさがっていた積荷の青年が無事にコンテナの上に軽快に上がっていったのを見届け、安堵と共に「これからだ」と頭領は気を引き締める。

 

「・・・。で」

 

「・・・」

 

「お前はいつまでビビってんだマハ!!!」

 

「いや・・その・・」

 

「あ!?」

 

「なんか・・顔が張り付いて離れないんすよね・・・窓から・・・」

 

「・・・は!?」

 

熾帝の氷球が掠め、急速に冷やされた窓は氷結し、その窓に押しつけられたマハの顔はべったりと引っ付いていた。

 

「~~~~~っ!!!お前一体何しに来たんだよ!?」

 

「おやっさ~ん・・そんな事言われたって・・・」

 

・・・その背後にて―

 

・・・!!・・・!!

 

熾帝は巨体を立て直していたが直ぐにトレーラーを追おうとしなかった。まるで何かを噛みしめるように四つんばいになって頭を伏せ、拳を握りしめている。

初めて地面に横倒しにされるという屈辱を受け、極上の獲物を掠め取られ、おまけに倒れた拍子に右肩に突き刺さった楔―神機が少し喰い込んだ事による激痛によって熾帝の怒りは振りきれんばかりになっていた。

 

・・・!!グ・・・オアアアアアァアアアアア・・!!

 

今熾帝―怒りを引き金に活性化。強靭な足腰で砂を巻き上げ、走り出す。

 

 

ドドドドドっ・・スッ・・

 

けたたましいほどの地響きと荒々しい砂塵は熾帝が六歩目を踏み出した後にパタリと消える。それは両足踏切で巨体がまるで羽毛の様にふわりと空中に跳ね上がったからだ。頑強さと柔軟性を兼ね備えた肢体がふわりと浮き、同時に

 

ズオッ!!!

 

再び蒼白い光を背部のブースターに纏い、高速で紅い竜は天翔ける。

この竜もまた取り戻さなければならないものを追う。

 

熱砂の逃走劇。未だ幕を閉じず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「で。兄ちゃん・・・」

「・・・?」

コンテナの上で神機の先端を突き立てて門番の様に座り、少しでも体力の回復を図っているエノハに運転を再びマハに譲った頭領が話しかける。

遠くより空を裂く音が聞こえた。解ってはいたが奴は自分達の追跡を諦めてはいない。むしろ己の誇りを傷つけられた奴がこのまま黙っているはずが無い。

「勝ち目はあるのか・・?」
単刀直入の質問にエノハも簡潔に応える。

「正直勝ち目は薄いです。・・・戦闘力がケタ違いです。『今』の俺・・そして俺達だけじゃ厳しいですね・・」

「おいおい・・俺『ら』を入れるんじゃねぇよ。第一俺らは足手纏い以外何でもねーだろ」

「・・。その『足手纏い』がいなきゃ俺は今でも右も左も解らない砂漠の真ん中でアイツとジリ貧バトルです」

「・・・」

「・・。俺は基本自分一人で勝った事はありません。いつも誰か仲間と一緒でしたから。今も一緒です」

「・・へ」

「・・・でも」

「・・?」

「仲間が多いに越した事は無いです。『もう一人』・・ちょっと協力を仰いでみようと思います」

「・・もう一人?おいおいマハの事か?アイツは運転ぐらいしか能がねぇぞ。ま。俺も大差ねぇがな?ははは」

「いえ・・。・・・っ!」

「・・もう来たのかい」


ズオオオオオ・・・

軽快な飛行音と共に紅い竜が再びエノハの視界に映る。
こちらを再び捕捉し、一定の距離を保つ熾帝をエノハはじっと見つめていた。
しかしその眼は今はあの圧倒的な存在感を放つ熾帝を映していない。

「・・・・」

今その眼に移しているのはその肩に突き刺さった楔―白い刀身に赤みを帯びた神機であった。

あの熾帝―攻撃力、機動力、頭脳、正に完璧と言える個の極致に達したあの新種個体を唯一貶しめる物体。
持ち主がいない状態でも未だ刺さり続け、確実に熾帝を蝕み続けているあろうあの神機。

明らかに。

何らかの意識、意志が備わっている事に疑いの余地は無い。
スッとエノハはそれを指差し、ニッと笑ってこう呟いた。


「・・・敵の敵は・・味方かもしれないでしょ?」









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