カーネイジが面白い。これ発射予備動作中に射角と目標変えられたら化けるぞ…。
さて…新章スタート。よろしければお付き合いを。
欧州第二支部外部居住区より約三百キロ程離れた地に建設されたサテライト支部―「通称サテライトB」と呼ばれる支部がある。
一般のフェンリル管理下の住人には公開されていないサテライト支部であり、フェンリル支部の中でもその存在を知る者は非常に限られる。
その「知る者」は主に「持つ者」。貴族、フェンリル上層部の高官クラスが殆どだ。それには理由がある。
サンクチュアリ―
言い換えると「聖域」と呼ばれる特殊な地域―そこに建設された特殊な貴族、高官の一族、親族の為に建設されたサテライト支部だからだ。
世界の各地で存在が確認されているそのサンクチュアリ―「聖域」と呼ぶに相応しい理由はとてもシンプルである。
人類の天敵であるアラガミが異常なほどに出現しにくい地域―それが「サンクチュアリ」なのだ。
それが何故なのかは実は明確には解ってない。地理的条件、天候や気象、アラガミの餌などの科学的要因なのか、はたまた「霊的」な地、不浄な物達が入れない「神」に選ばれた地である等の民間伝承、オカルトクラスの科学的根拠に乏しい説などが入り乱れているが未だに結論は出ていない。ただ実際にそういう地域が存在しているのは紛れもない事実である。確実に世界各地にスポット的に実在が確認され、極秘裡に研究、調査もすすんでいる。
何にしろ発生から半世紀以上人類の存在を脅かし続けているアラガミが極端に発生しにくい土地となればこの上ない魅力的な地である。それ故この情報はほとんど公開されていない。
その地「サンクチュアリ」―この時代に於いて超最高の優良物件に住む者は限られた、選ばれた者のみにする為だ。ほんの一部の特権階級が住む事を許された地ー「聖域」に建てられたサテライト支部
前述したサテライトBもその一つであった。
そのサテライトBが先日
完全に音信不通となった。
フェンリル高官、貴族連中のその親族、家族達が住まう住居だ。当然のこと調査隊は出される。アラガミ研究者、科学者、そしてそれを護衛する軍部、そして当然の如くGEも帯同した豪華絢爛な調査隊が派遣される。
―しかし、
「……?」
現地に訪れた彼等は残されたその地の奇妙な光景に目を点にするしかなかった。
サテライト支部が「音信不通」となれば当然フェンリル関係者はアラガミによって襲撃されて支部が壊滅したとまずは考える。
所詮「サンクチュアリ」と呼ばれていてもアラガミが全く出現しないと保証された地では無い。前述したように未だそのような地域が何故存在しているのか明確な根拠が確立されていない状態だ。あくまで「安全性が比較的高い可能性のある地域」程度のものである。実際の所、世界各地に幾つか点在するサンクチュアリの中でも「等級」は存在しており、人が移り住んでからそれを追う様にアラガミが頻繁に出現するようになったと報告される「エセ」聖域も数知れない。その点で考えるならばこのサテライトBもまたその類の物と当初は判断された。
しかし懸念点はある。件のサテライトBの「等級」はサンクチュアリの中でも中の上、実際にその周囲に現れるアラガミの数は非常に少なく、そしていざという時の保険として当然アラガミ装甲壁も兼備されている。装甲壁のアップデートも頻繁に行われていたし、護衛役、治安維持を目的とした軍人、GEも駐在していた。突然のアラガミの襲撃にもある程度の対応、最悪でも救難信号を出せるくらいの備えがあり、安全性は下手な外部居住区より遥かに高かった。
そんな支部が「SOS」も出さずに突然音信不通になる事を訝しげに思いながら現地を訪れた調査隊一行は目の前の光景に更に首を傾げた。
貴族社会の中でも中堅以上の階級を持つ人間が住まう洒脱な街並みは一切損なわれておらず、装甲壁も故障や損壊の様子も無く完全に機能し支部を保護していた。古きよきレンガ造りの欧風の通りを談笑しながら歩く人々や騒ぐ子供達の姿が今にも目に浮かびそうな光景だ。
全く以て平和そのものの街並み。ただそこからぽっかりと住人の姿だけが消えている。
点在する真新しい施設や家屋に入ると更に訪れた調査隊達の混乱は加速する。
鍵も掛けられていない家屋、荒らされた形跡のない室内には飲みかけのコーヒー、調理中の食べ物、出しっぱなしのシャワー、干されたままの洗濯物―
ありとあらゆる人間の生活の痕跡が克明に残されているのだ。ただそれを営むサテライト住人の姿だけが無い。
訪れた調査隊はこう判断する。
これはアラガミの襲撃では無いと考えられる。人為的なものの疑いが強い。住民自体が作為的に行った集団失踪か第三者の営利目的の大量誘拐の可能性があると判断し、本部に報告された。
住民たちの大半が高所得世帯であったことからその判断はある程度妥当とされ、何らかの犯行声明や身代金要求等の「動き」があるまで待機という結論に至り、その日の内に調査隊の捜索は打ち切られた。戻った調査隊が現地より持ち帰った捜査資料、写真を基にアラガミ対策では無く、住民、その家族、公私含めた交友関係、人間関係の洗い出しからフェンリル統治に敵対する人為的組織のテロ行為を視野にいれた捜査本部を設立する事が閣議で決定した次の日のことであった―
現地で駐留していた調査隊24名全員もまた音信不通になった。
「おおう…なんかぶるっと来る話だねぇ…」
縮こまる様に身をわざとらしく強張らせながら赤髪の少女―アナンはそう呟いた。
「そんな薄着で来るからだよ。だから散々支給されたあの防寒ジャケット持ってこいって言ったのに…」
呆れ顔で腰に手を添えた銀髪の美少女―「レイス」はこの寒空の中在りえないぐらい軽装のアナンに悪態と白い吐息を伴った溜息をつく。
「やーよ。オシャレはガマンってゆーでしょ!!そもそもあのジャケットダサすぎんのよ。せめてカラバリぐらい用意しろって~の」
全く悪びれる様子も無く赤毛の少女は縮こまらせた体をふんぞり返る様にえへんとのけぞらせたが、すぐに「へっくしょ~い!」という色気のない間抜けな声を出して再びぶるぶる縮こまる。
「うわ~ん。エノハざ~~んわだぢをあっためでぇ~~~?」
「…そこは自己発電で頼む」
ばっと全くの背後の死角から飛びかかるアナンをひらりとかわした青年―エノハは前だけを見据えていた。その真横に銀髪の少女「レイス」が並び、エノハと同じ方向を見据え、相変わらず口数少なめに最低限の言葉の数で隣に並んだエノハにこう呟いた。
「…静かだね」
「…光景だけで見たら幻想的で趣があると言えるんだが…経緯が経緯だけに不気味が過ぎるな」
早朝。霧が立ち込める「その地」に三人は訪れていた。
かつて聖域―「サンクチュアリ」と呼ばれ、件の事件以降完全に捜査は保留、現存のまま放置されているサテライト支部―通称サテライトB。
「ぐずっ…なんか…」
シリアスモードのエノハ、「レイス」に遅れて鼻をぐずりながらアナンが前に出る。
朝もやに包まれ、静かな。人が居なくなって日が浅い集落はまだ「廃墟」と呼ぶには時期尚早な感がある。人の営みの気配を未だ奇妙に残した誰もいない小綺麗な街並みを眺め、アナンは続けてこう呟く。
「幽霊船…いや船じゃないし…幽霊屋敷?…ん~~違うね。名付けて『幽霊サテライト支部』ってか?う~ん。この時代ならでは~~。いや~~時代は変わるねぇ?ミステリー、怪談の類の話すらも」
「…」
「…」
相も変わらず彼女らしいおふざけ、砕けた口調だが今度はエノハと「レイス」二人はアナンを窘めない。二人とも同じ心象をこの場所に抱いたからだ。
まさにここは幽霊サテライト支部ー現代の神隠しの街。
からりと近くの一軒家に設置された風見鶏が回る。と、その音を契機にエノハが足を踏み出し無言のまま歩き出す。「レイス」も隙のない足取りでそれに続き、アナンは体をゆらゆら揺らしながらキョロキョロ周りを見回しながら殿を務めた。
住民総数三十ニ世帯百二十九名。およびその調査隊二十四名。その全員が痕跡すら残さず忽然と消えたサンクチュアリ―通称サテライトBを今回、極秘、秘密裏に派遣されたエノハ、アナン、そして「レイス」のGE特殊部隊「ハイド」の三名が現地入り。これより調査を開始する。
「へ、へ、へ、へっくしょ~~~い」
「…」
「…」
「…ずびばべん」
エノハ、「レイス」の咎める様な視線がアナンに突き刺さった時であった。
「!」
三人の背後でガタリと物音をたち、反射的に三人が振り向く。そこには住居に面した側道に置かれた集荷物を配送する為のものであろう軽トラック。その後部から僅かに顔を半分だけで覗きこむように、しかし刺すような視線が三人を突き刺す。
無言のまま警戒と猜疑心を惜しみなくつぎ込んだ蒼白い左瞳―しかしその形は鋭角では無く、まん丸形よく整っており、半分だけ覗く顎まで延ばされたおかっぱ頭の美しい金髪を持ち、身なりもととのった本来であれば「愛らしい」と言って差し支え無いような少女であった。
「...」
現れたエノハ達三人の姿を一人一人、覗かせた小さな左目で映し取る様に確認すると直ぐに半身を隠れ蓑にしていた軽トラックの方向へその小さな体を隠し、姿が見えなくなった。
「あっ!待って!」
「…!」
「女の子ぉ!?」
三人もすぐにその後を追い、車の背後に達したが車の背後には家屋と家屋の間、大人が半身になってようやく一人通れる様な通路とすら呼べない狭い隙間があり、どうやら少女はここを通って一目散に逃げたらしい。
「おお~~~生き残りが居たぞ!殺…」
キッ
「レイス」の突き刺すような瞳が再びアナンを射抜く。
「ころっ…転がる様に逃げていったぞ~~!!さ、探して保護しないとね~~」
苦しい取り繕いをしたアナンの言葉に「レイス」が反応する前に
「レイス」
通路を覗き込みながらエノハが低い口調で言葉を差しこむ。
「はい」
「あの子。確か住民のデータに在ったと思う。詳細覚えてるか」
「はい。名前はルーティ・パリストン。年齢は8歳。フェンリル第二欧州支部第六製薬開発室の室長ガリウス・パリストンの御息女です」
「レイス」は淀みなくそう言いきった。
「レイス」は現地を訪れる前にこの案件に関する資料を彼女自身常備している携帯端末に頼ることなくすべて頭の中にインプットしている。
「この通路の先がどこに繋がっているか解るか?」
「…うん。問題無く追跡は可能」
「任せていいか?あの子のこと。どうやら相当警戒してるみたいだったしあまり人数かけて追っかけても良くないだろう」
「…了解」
その「レイス」の言葉には了解しながらも言外に「…私?」というニュアンスがあった。エノハもその感情をくみ取る。
「…アナンは駄目だ。『殺せ』とかアホ言うから更に怯えさせる」
―おお!?さらっと流したようでちゃんと聞いてるぅ~~!?ひぃ~~っエノハさん恐ろしや!
「先ずは優しく声をかけて落ち着かせてなんとか無事に保護してくれ。ここで一体何があったかを知っている大事な証人の前に一人の女の子として丁寧にな。…何があったかわからないがあの一目散に逃げてく様子だと相当怖い思いをしたんだろうし」
「…」
「レイス」はちらりと少女が通ったであろう通路を見る。エノハは確かに大柄とは言えないが男だ。小柄な少女が逃げ惑う場所を縫って追いかけていくのであれば確かに自分が適任であろうと自覚する。
「OK…やってみる。エノハさん達二人は引き続き他の場所の捜索をお願い」
言い切らない内に「レイス」は細くしなやかな体で細い通路を縫う様に走り、少女の追跡を開始。それを見届けたエノハは当初の予定通りのルートの先での合流を「レイス」の背中に告げ、アナンを引き連れ歩き出した。
…別れたな?