G・E・C 2  時不知   作:GREATWHITE

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クリムゾン・タイド 2

機械的な音を上げ、左腕の刃を展開する。そしてふわりと片足踏切で熾帝―ルフス・カリギュラはゆっくりと舞い上がる。その高度に合わせ、未確認アラガミ―赤斑(アカマダラ)は前腕二つの先端についた頭部で熾帝を見上げる。

 

空想上の絵巻、竜虎が相見える構図の如き光景が今、不釣り合いとも言える朽果てたかつて世界最大の都市にて展開される。

 

 

一定の高度に達した熾帝の上昇が止まる。同時に赤斑の視線の上昇も止まり、辺りは奇妙な静けさに包まれる。熾帝の背に負われたブースターが発する放出音、その真下で周囲に円形に広がる烈風が瓦礫やチリを巻き上げる。

 

この静寂に終止符をもたらす引き金は

 

 

ズオッ!!

 

 

熾帝のハナっから容赦なし、全開の蒼いブースターが放つ爆発音の如き放出音であった。時同じくして赤斑もまるでその轟音に怯む事なく、地面を巨大な後ろ脚で深々と抉り巨体を高速で射ち出す。互いの距離は一瞬で肉迫。呼吸を感じ取れるぐらいのゼロ距離にまで両者、間合い内への侵入を許す。

 

紅い体色を持つと言う共通点とは他にこの二体、奇しくも主要な武器、攻撃手段に似通った所がある。

 

 

二刀流だ。

 

 

 

ガィン!!

 

熾帝の先程ディアウス・ピターをあっさりと両断した渾身の左腕斬撃を完璧なタイミングで展開した両刃で受け流し、尚も

 

ガッ!!ガィン!!

 

右の返し手、再び左腕の斬りおろしを二つの頭部の喉元から吐き出した様な炎刃でクロスブロックしながら赤斑は熾帝の強烈な先制攻撃に応戦、徐々に後退しつつも

 

ブオッ!!

 

熾帝の斬撃の合間を突いて最短距離を走る精密な突きを割り込ませる。しかしこれ程の巨体が二体ゼロ距離で、おまけに互いの斬撃、刺突のリーチ、速度、手数共に異常であるにも拘らず

 

ガッガガガガガッ!!

 

今のところ辺りに響くのは軽快な鍔迫り合いの音だけである。湿った耳障りな肉が切れ、裂ける音は未だに発されていない―つまりオープニングヒットが未だ生まれていないのだ。

対峙した両者互いにこれ程巨大でありながら、その動きは高等技術の応酬、緻密で針を通す様な精密作業の繰り返しである。

 

両者の斬撃、刺突の踏み込みの度に地面が割れ、周囲に構成された信号機や、看板、木々等在りとあらゆる物が余計な破壊音を立てることなく、鋭利に切断されていく。

対峙した当の両者は未だ互いに無傷で在りながら巻き添えを喰らう彼等周囲数十メートルの空間は全くの侵入不可領域である。侵した際は即問答無用で細切れにされる程の密度の応酬は―長くは続かなかった。

 

 

キィン!!

 

 

その一つの衝突音を皮切りに一旦辺りが静寂に包まれる。小休止にも思われるその沈黙はその実、重厚な新しい駆け引きが生まれて居た瞬間であった。

 

 

ぎりぎりぎりぎり…

 

 

互いの渾身の斬撃の接触は奇跡的な拮抗を生み、両者を一旦静止させる。熾帝の左腕刃と赤斑の左腕炎刃が接触し、互いの刃先が火花を伴いつつ擦れ合い、微動だにしない。それらの接触範囲等ほんの僅かな物であるがそこに内包される衝突エネルギー、この奇跡的な拮抗の為に費やされる両者の持続消費エネルギーは馬鹿にならない。

しかし、

 

「競り負けた方が致命的なスキを作る」。

 

それを両者理解しているゆえに譲らない。そんな両者の意地の張り合いが生んだ停滞状況を―

 

 

ピシッ

 

 

ぐしゃあ

 

 

 

 

 

両者が再三踏み砕いたメインストリートの地面の崩落が割り込む形で打破する。対峙する者同士の力が拮抗すれば拮抗するほど周囲の環境や状況の変化、それに即時対応できるか否かが争点となる。ことこのように建物や障害物が乱立する市街地ではイレギュラーが起きた際にどう対応するかがカギだ。

 

今回の地面の崩落による状況変化を両者共に「仕切り直し」がベストと判断したようだ。

 

ぐりん!ゴッ!!

 

ばっ!

 

 

両者機敏かつ器用に身を滑らせ、赤斑は後方宙返り、熾帝は身を翻してブースターを解放、バックステップする。

 

ただし

 

「仕切り直し」と言ってもあくまで地上でのゼロ距離肉弾戦を一旦回避しただけの事である。互いの距離を離す際も既に展開は動いている。

 

 

すぅっ…

 

 

 

ガァツ!!

 

 

 

カリギュラはバックステップと同時虚空を吸い上げ、瞬時に氷結。巨大な氷球を宙を舞う赤斑目がけ、撃ち放つ。

 

 

 

…嫌な奴だ。

 

 

 

赤斑は内心苦々しくそう呈した。何故なら「ここ」でも考える事が一緒で在ったからだ。絶対的な強者同士が相対する上で互いの戦略や判断が被る事などザラにある。

赤斑に今生まれたのは自分に匹敵する強者への最大級の賛辞と同時の同族嫌悪に似た複雑な心境であった。

 

 

 

すぅっ…

 

 

ゴアッ!!

 

 

赤斑もまた巨大な金色に輝く灼熱の火球を左腕の頭部から発射、瞬く間に熾帝の放った氷球と接触、大爆発が起きる。両者の丁度中間距離の空中で爆裂したその衝撃破で周囲のビルのガラスが一斉に砕け散る。

 

その猛烈な爆風、光、周囲に砕け散ったガラスによる乱反射、余波が高速で後退する両者にも易々と追いつき、視界を眩ませる。

 

二刀流、そして氷球と火球。

 

...またか

 

―そう言いたくなるほどの互いの共通点に熾帝もまた内心辟易していた。彼自身絶対の自信を持つ接近戦を互角で済まされ、離脱の際の追い打ちも今防がれた。氷球も赤斑が迎え撃った火球によってあっさりと相殺された事もまたカンに触る。

 

ザザザザッ!!

 

ブースターを止め、右手をついたてに後方へ滑りながら熾帝が苛立たしげに人間臭い動作で着地する。空中前方のもうもうとする噴煙に包まれる氷球、火球の衝突、相殺地点を見据え、次の一手を思案する。

しかし、次に己の目に映った光景に熾帝のその思案は中断する他無かった。

 

 

…!?

 

 

ブォッ!!

 

 

噴煙を切り裂き、予想だにしない二つ目の金色の火球が熾帝の目前に迫っていたからだ。

 

 

相殺できなかった?撃ち負けた?

 

...いや違う。

 

 

 

切り裂かれた噴煙の先で未だ宙を舞う赤斑の双腕、つまり双頭は火球放出後に口から漏れる煙を「共に」噛み砕いていた。してやったりで微笑んでいるように。熾帝の氷球を相殺させた後、残った右腕の頭からもう一つの火球を時間差で放っていたのである。

 

…成程。確かに両者は似た者同士だ。体色、戦法、武器に至るまで。

でも決して同じではない。戦力が嫌になるほど拮抗していようが、戦法が似通っていようが飽くまで彼らは別種である。

 

 

…面白い!!

 

 

カキン...

 

虚をつかれた形となった熾帝であるが迫る火球に怯まず真っ向から向かい合い、左腕片刃を展開。

 

...フィン!

 

達人の居合いのごとく振り抜き、火球を真っ二つに切り裂いた。中央から二つに切り裂かれた火球はそれぞれ、熾帝の背後にて着弾。赤黒い爆炎、爆塵を放つ大爆発が再び起こる。

 

ブォッ!!

 

火球に直接接触した結果、自らの左腕片刃に燃え移った金色の炎を振り払い、赤い魔人の如く熾帝は背後で燃え盛る金色の業火を全く意に介する事なく前方にて着地しようとする赤斑だけを見ていた。赤斑も自らの「変則」、「変化」に苦もなく対応した熾帝から眼を離さない。

 

スッ…

 

赤斑はその巨体に似つかわしくない柔らかい優雅な着地姿勢で再び熾帝と対峙。本当の「仕切り直し」がようやく今訪れる。

 

 

 

…グルル

 

 

 

シャぁ…

 

 

 

 

 

両者の現在の距離は彼らの体長から鑑みれば中間距離に値する。かといってどちらかが踏み込めばコンマ単位秒後には超近接戦になるほどの機動力を両者は持ち備えている。しかし両者は

 

....バチチチチチチ!!!

 

熾帝は両掌に巨大な高電圧の電球体を形成。対する赤斑は双頭にオーラの如く業火を纏う。一定距離を保っての撃ち合いを選んだのである。

 

しかし―次の瞬間の光景に熾帝は防戦を判断せざるを得なかった。

赤斑の双頭から放たれたのは予想通り火球であった。おまけに先程と比較すると遥かに小さいもの。威力も相当に劣るであろう。

 

但し

 

 

ゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

 

それが目の前で瞬間に赤斑の双頭より十数発放たれたとすれば全く話は別である。

 

……!!

 

 

ズオッ!!

 

熾帝は雷球を両掌に携えたまま、背部ブースターを全開にして後退、背中が地面に擦れそうな程の超低空飛行を開始。そんな彼に容赦なく数十発に既に数を増やし、尚も立て続けに赤斑の双頭から放たれ続ける小型の火球が追い縋り―

 

ガガガガガガガガっ!!!!!

 

まるでクラスター爆弾の様に断続的、無数の小爆発、そしてナパーム弾の如く業火が両者が対峙していた通りを席巻。炎の津波となって低空飛行の熾帝を飲み込まんと迫る。熾帝は全開のブースターで天駆け、上昇して爆炎が届かない安全地帯までの飛翔を試みるが上昇のタイミングと上昇角度を誤れば爆炎と爆風に追い付かれ直撃を受ける。よって今はトップスピードで高度を徐々にあげていく他ない。赤黒い爆炎の中、鮮やかで軽快な蒼白い光を放つ一点が追い縋る炎を今―

 

ブォッ!!

 

寸での所で振り切り、上空高く舞い上がる。そして安心する暇もなく背後の完全なる破壊の光景を眼下に見下ろした。

 

 

……!!

 

 

空中で佇みながら熾帝は真っ赤な溶岩の様な業火に包まれた通りを見下ろす。アレに巻き込まれていたらさしもの彼でも大ダメージは免れなかっただろう。彼の危機回避能力、咄嗟の判断力、戦闘のカンはまさしく天才的であった。

 

―しかし

 

 

相手もまた怪物。

 

 

 

ブォッ!!

 

 

 

眼下で燃え盛る業火を切り裂き、両腕を広げ、突きぬけて来た業火を不死鳥の如く纏って飛翔した赤斑がホバリング中の熾帝の眼前に接近、

 

 

ギュルン!!

 

 

双刃を前方に突きつけ、水中のクロコダイルの様に回転しながら炎のドリルと化して熾帝を捉える。

 

 

…!!

 

 

さしもの熾帝も驚愕の眼前の光景に眼を見開き、逡巡。

 

 

ドゴッ!!

 

 

回避する事も出来ず、直撃を受けた。熾帝は赤斑に押されるまま空中で後退。両者衝突の勢いのまま数百メートルほど空中を飛翔する。それを受け止めたのがかつての摩天楼のシンボル。高さ400メートルの巨大建造物―エンパイア・ステート・ビル。その側面に深紅の二大両雄が火の玉の如く突っ込む。

 

 

強烈な赤斑のチャージを喰らった側の熾帝の体はこの巨大建造物に激突しながらも尚も勢いを止める事が出来ず、衝突地点から逆側にまで貫通する。一方赤斑は衝突した地点に上半身を突っ込んでいた。

 

赤斑のフルチャージはまさしく先手―オープニングヒットを取ったとその光景を見れば誰もが疑わないだろう。

 

―しかし

 

 

ふらぁ…

 

 

あまりに意外な光景が摩天楼の上空、高度400m近い地点で展開される。強烈な先制の一撃を見舞った側に見えた赤斑の体がまるで支えを失った様に後ろ向きに堕ちていっているのだ。

 

一方―

 

ズオッ!

 

 

ビルを貫通するほどの一撃を見舞われながらも熾帝は空中ですぐさまブースターを解放し、再び飛翔。この巨大建造物の頭頂部に達し、先端の電波塔を勝者が振りかざす旗の如く掴み、その紅く細長い身体をまるで蛇の様にぎゅるりと巻きつかせ、堕ちていく赤斑の姿を見据えながら―

 

 

 

グッ…

 

 

オオオオオァアアアアアアアアアアア!!!!!

 

 

摩天楼の王の如き咆哮を上げた。

 

 

この戦い、意外にもオープニングヒットを果たしたのは傍から見れば終始圧されていた熾帝の方であった。

 

 

先程の衝突の際、熾帝は眼前に迫る赤斑の双刃に両掌をかざした。つまり高電圧の電球体を纏ったままである。それに双刃ごと接触した赤斑に否応なくその全身に超電圧が迸る事になる。接触後、赤斑の体は放電によってほぼマヒした状態であった。赤斑のフルチャージの衝突エネルギーをまともに受け止めた熾帝側の衝撃も決して低い物ではないがビルを勢いのまま貫通するほどの後退に割り振った背部ブースト噴射で波紋のように体を突き抜ける衝撃エネルギーを最大限に緩和。結果、現在摩天楼最大の高みに立つ熾帝と地に堕ちていく赤斑という全く以て対照的な両者の光景が展開されているのである。

 

 

…!

 

 

 

クルン

 

 

ドスン!!

 

 

 

地に衝突直前でようやく体のマヒ状態から解放された赤斑が猫のように身を翻し着地する。身体の自由が未だ利かない状態での今回の着地は少々優雅さに欠けた地響きと、砂塵を巻き上げる。

コンディションはまだ万全とは言えないが今はそんな事を言っていられない。なぜなら―

 

ふらぁ…

 

摩天楼最大の高みからまるでスキューバーダイビングのバックロールエントリーの様に、背面からふわりと飛び降りた熾帝が

 

ズオッ!!

 

背部ブースターを最大にして直下降してきたからだ。同時必殺の左腕刃を展開して真っ逆さまに向かってくる。対する赤斑は―

 

ドスン!!

 

 

跳躍。そしてあろうことか赤斑はビル側面、垂直の壁に「着地」。そして

 

 

ドドドドドッ!!

 

そのまま走り出す。

 

二十メートル近い巨体が垂直の壁を走るという異様な光景が展開される。距離は四百メートル。しかしこの向かい合い接近する巨大な両雄にとっては一瞬の距離である。

 

再び両者は肉迫。互いの必殺の一撃の交差―

 

 

とはならない。

 

 

 

ビシュっ!!!

 

 

熾帝の渾身の斬撃が空を切る。直前眼前の赤斑が垂直の足場を蹴り、跳び上がっていたからだ。赤斑は解っていた。現在万全でないまだ麻痺の残るこの体では近接戦では分が悪いと。よって受け太刀を避けた形だ。

 

 

現在、接近してムダの無い攻撃の差し合いでは分が悪い。ならばスキはでかくとも渾身の一撃を喰らわせればいい―

 

 

グググッ…

 

 

 

赤斑は空中で上体をネジの様に目一杯捻り、今度は右腕の炎刃を展開する。対する渾身の一撃を振り抜いた直後の熾帝故、カウンターは流石にとれそうにないが

 

 

…振りがでかい。誰がもらうか。

 

 

とでも言いたげに現在の赤斑の攻撃の予備動作に然したる脅威を熾帝は感じていなかった。実際に―

 

 

ビシュッ!!!

 

 

放たれた赤斑の渾身の大振りの斬撃は鎌鼬のような空圧に灼熱の炎を纏った一閃であった。確かに恐ろしい一撃で在るが当たらなければ大したことは無い。

 

…ぐりん!

 

熾帝は強固でありながら同時蛇の様に柔軟な肢体を最低限の動きを以て翻し、易々とその空斬刃を回避する。

残るのは大振り故にスキだらけになった目の前の赤斑に手痛いペナルティを与えてやるのみだ。熾帝は両手刃を展開し背部ブースターを放出方向を転換、反撃の体勢は整った。後は実行するのみ―そう考えていた。

 

 

キィンッ…

 

 

その背後で響く軽快な切断音を耳にするまでは。

 

 

…そう言えば。

 

今背後に何があった?

 

確か…

 

 

 

 

 

……!!!!

 

 

 

 

ズズズズズッ…

 

 

 

 

 

摩天楼最大であった熾帝の背後の巨大建造物は2073年の現在―「半世紀以上ぶり」にその座から転落する事ととなる。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!

 

 

…!!!

 

 

 

ドゴッ!

 

 

 

赤斑の一閃はビルを綺麗に水平に切断し、それによってずり落ちた上階部分に背中から熾帝は押しつぶされ、破片と砂塵を巻き上げ共に墜落、轟音と共に辺り一面を灰色の砂塵がもうもうと立ちこめる中を赤斑は今度は悠々と落下し、眼下の灰色の砂塵の雲海に消える。

 

 

 

 

 

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