G・E・C 2  時不知   作:GREATWHITE

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クリムゾン・タイド 3

ボフッ

 

粉塵が舞い上がる灰色の雲海へ「着水」した未確認アラガミ―赤斑はかつて摩天楼のシンボルであった巨大建造物の残骸の上へ「着底」。

 

 

双頭各々の眼を金色にサーチライトのように光らせて未だ粉塵によって包まれ、薄暗い周囲を見回す。視覚は元より、嗅覚、聴覚、そして勘。絶対的強者である己の探索能力をフル動員した最大級警戒状態である。

 

確かに先程の赤斑一連の攻撃は意外性を含め、強烈な攻撃ではあった。しかし到底―

 

 

ビシュン!!

 

 

「己に比類する怪物があの程度でくたばる訳がない」

 

そんな赤斑の確信を裏付けるように彼の足元から発された快音により、原形はどうにか留めていた墜落した巨大建造物上階部分は豆腐の様に容易く細切れになる。

 

 

その直前に攻撃の気配を超反射で反応していた赤斑は既に地を蹴っており、空中から先程まで自分が立っていた場所―巨大建造物の残骸の上に幾重にも走るその鮮やかな切り口の剣閃を見送っていた。

 

 

ズオッ!

 

切り刻まれた残骸を空中に吹き飛ばし、鮮やかな蒼白い巨大な翼の様に象られた発光現象と共に猛烈な烈風が周囲数百メートルに舞っていた粉塵を瞬時に吹き飛ばし、その光景を引き起こした存在の姿を露わにする。

 

 

……

 

 

紅蓮の甲冑を纏った騎士、熾帝―ルフス・カリギュラ健在。

否。健在どころか全くのノーダメージである。重さ数万トンの巨大建造物の崩壊に巻き込まれながらも彼の鋼体はかすり傷一つ負っていない。しかし―

 

……ギリッ!!

 

熾帝は確かに今苛立っていた。歯軋りする様に唸りながら己を墜落させ、埋もれさせ、在ろうことかその上に着地―つまり踏みつけた下手人を探す。そして―

 

 

頭上の巨大建造物の残骸の上で無言のまま佇む赤斑を確認と同時の―

 

 

グッ……

 

 

オオオオオオオオアアアアアアアァアアア!!!!!

 

 

 

活性化。

 

 

 

ドォン!!!

 

 

ブースターの放出の際の衝撃破だけで背後にある鋼鉄の残骸を粉々に吹き飛ばすほどの烈風、同時の爆音を巻き上げ、熾帝は再び飛翔。瞬時に綺麗に切り取られた巨大建造物の中腹地点―現在のこのビルの頂上にて佇む赤斑に肉迫。

 

 

キィン!キィンッ!!!

 

 

二つの軽快な音が辺りに響いたと同時

 

 

ゴゴゴゴゴッ!!

 

 

まるで達磨落としの様にこの摩天楼で一番高かったはずの建物が中腹辺りから更に切り落とされ、更にその順位を落としていく。

 

ズゴゴゴゴゴゴッ!!

 

そんな熾帝のコンビネーション斬撃を回避した赤斑は落下し、その四本足をビルの側面で引き摺りながら減速しつつ着地。しかし頭上では熾帝によって切り裂かれたこのビルの中腹の「階層」が二つずつ降り注ぐ。が―

 

 

ゴアッ!!

 

 

起き上がる際の亀の首の様に上空に向けて双頭各々から火球を同時二発発射。

 

 

 

ズアッ!!!

 

 

 

堕ちて来た巨大ビルの階層二つは彼の頭上で爆発。その熱波と破片が渾身の二発の斬撃を躱され、空中で背後を振り返った熾帝に突き刺さる。

 

 

…!!

 

 

人間臭く眼を庇うような動作をし、爆風と熱波を受け流した熾帝が次に見た光景は自分に背を向け、四本足で摩天楼の市街を駆けていく赤斑の後ろ姿であった。当然熾帝は―

 

ズオッ!!

 

ブースターを解放。追跡を開始する。

 

 

 

 

 

まるで迷路の様に入り組んだマンハッタン市街地を密林の障害物を物ともせず高速で駆け抜けるジャガー、豹等のネコ科動物の様に赤斑は駆け抜けていく。その巨体からは想像もつかない程繊細で柔らかい動きだ。自分の力を誇示する為に辺りを踏みならしていたかつてのこの地の王―ディアウス・ピターの様に余計な足音や破壊音も立てない。

派手さは無い。が、その速度はかつての王の優に二倍に達し、尚もその速度を上げている。

 

対峙する敵から背を向ける姿で在りながらもそれは美し過ぎる逃走の姿であった。

 

 

軽快な烈風を伴いながら紅い風はマンハッタン市街を駆け抜ける。

 

 

その背後から―

 

 

これまた空中をまるでイルカや魚の様に滑らかに建物、看板等無数に乱立するこの地の障害物の合間を縫いながらも高速で泳ぐように飛翔し、赤斑を低空飛行で追跡する熾帝の姿が在った。

 

 

すぅっ…

 

 

ゴッ!!ガァツ!!

 

 

高速で市街地を四本足で駆け抜ける赤斑の背中目がけ、氷球を口内より一定の合間で立てつづけに何発も発射する。

そのホーミング軌道を描いて的確に追跡してくる氷球を跳躍、急激なブレーキ、逆に加速による緩急、時に急激な方向転換、時に乱立する建物、障害物を器用に使って赤斑は立て続けに氷球を回避し、熾帝に的を絞らせない。「四足歩行」、そして「生物」だからこそできる柔軟で型に囚われない鮮やかな回避行動である。

 

かと言ってこのままでは逃げるだけで反撃が出来ない。赤斑は逃走しながらも「待っていた」。熾帝の強烈な攻撃をいなしながら反撃の出来そうな「地形」が目の前に現れるのを。

 

そして

 

 

 

…見つけた。

 

 

 

そこはかつての「世界の交差点」―タイムズ・スクエア。

 

 

成功か失敗か。

 

栄光か破滅か。

 

 

奇しくもこの二大両雄が足を踏み入れた地はそのいわくつきの世界の中心。世界の分岐点。

 

この通りは前時代、年越しのカウントダウンの際等に利用された中心にそびえ立つビルボードを中心にしてY字の進行方向分岐がされている。

 

その二つの分岐点の手前に赤斑は差し掛かる。赤斑がどちらの道を選ぶのか熾帝が背後にて注視していたその時であった。

 

 

カキン!

 

 

まるで翼を広げる様に赤斑は双頭の両刃を展開、

 

 

ビシュッ!

 

 

 

それを左右同時真横に向け、振り放った。先程エンパイア・ステート・ビルを中腹より真っ二つにした空斬刃が左右双方向に放たれ、両サイドの建物をほぼ根の部分から両断する。エンパイア・ステート・ビルに比べれば両サイドの建物は遥かに高さの低い建築物。

とは言えかつては世界の名だたる企業が自社アピールの為に広告看板や掲示板を所狭しと掲載した建物が立ち並んでいるのである。前のめりに倒れ、崩壊すれば優に通りを席巻、遮断するほどの大きさは在る。

 

それが赤斑を追跡していた熾帝の前方、左右双方向から降ってくるのだ。

 

やってくれる…!

 

先程押し潰された苦い経験を持つゆえに当然熾帝は進行を止めざるをえず、ブースターを逆噴射、左右の建造物の崩壊によって再び粉塵と散乱する瓦礫によって視界不良に陥るのを眼前で敢え無く見送った。同時思考を熾帝はフル回転させる。

 

 

「果たして逃走した赤斑はどちらの道、分岐を選んだのか?」

 

 

 

 

否。

 

 

 

赤斑はどちらも選んではいなかった。

 

 

敢えて言うならば。

 

 

 

 

 

その「真ん中」を行った。

 

 

 

 

 

…!!!

 

 

 

熾帝の視界が拓け、彼の双眸に映った物は通りを二つに分断する中央のビルボードに無数の黒い穴が左右方向に規則正しく上空に向かって配列されている光景であった。

 

赤斑は分岐されたどちらの道も選ばず、第三の分岐を自ら作って歩んだのだ。

 

分岐点中央にそびえ立つビルボードを足場に垂直に駆けあがり、後転。今―

 

 

フィイイイイッ…

 

 

軽快な風切り音を発し、背後に居た熾帝の丁度真上に達し、反応の遅れていた熾帝がようやく上を見上げた時には眼前に二つの炎刃で彼を串刺し、地上に突きたてんと真っ逆さまの体勢のままの赤斑が迫っていた。

 

 

…!!

 

 

ザスッ!!!

 

 

ガァアアアアアア!!

 

 

熾帝の悲痛とも言える叫び声が辺りに木霊する。

 

 

 

 

 

 

……!?

 

 

なんて反応速度だ。

 

 

赤斑は苦虫を噛んでいた。これ程完璧なタイミングで上空から不意を突いたと言うのに真っ逆さまの姿勢で突き立てた彼の双刃の手応えは浅い。右炎刃に至っては完全に器用に身を翻され、回避されている。左炎刃も直前までは確実に熾帝の中心部分、ブースター乃至、熾帝の背部を貫く直撃軌道であったはずだが刃先がようやく掠める程度にまで回避された。

 

…コレはマズイ。

 

現在の自分の姿勢では次の回避行動が大幅に遅れる。手痛い反撃を覚悟していた赤斑であったが―

 

 

 

ガァアアアア!!!!

 

 

 

意外にも熾帝からは悲痛なほどの叫び声が響き、一行に反撃が来なかった。

この好機を見逃すはず無く赤斑は身を翻して跳躍。熾帝から一旦距離を離す。

 

この儲けものの意外な幸運に赤斑は安堵しながらも、何故か拭いきれない不安感と凶兆も感じとりながらじりりと熾帝を警戒しつつ、周回行動を開始する。

 

確かに手応えは浅かったはず、しかし何故ここまで大袈裟と言えるほどの反応を熾帝が示すのかを知る必要はあると赤斑は観察を始めた。そして

 

 

…成程。

 

 

 

赤斑は合点がいった。

 

 

彼の僅かに手応えがあった左炎刃―それが掠めた先がこの熾帝の右肩に突き刺さった奇妙な物体である事を今理解した。確かに掠めた程度ではあったが彼の右肩口に深々と突き刺さったその奇妙な物体は熾帝の内部を抉り、激痛と共にかつて「何者か」に不覚を取ったと言う深手をありありと彼の中で心身共に目覚めさせたのだ。

 

激痛とトラウマの如き屈辱の記憶のフラッシュバック―それが熾帝に身体ダメージ以上の深手を与えたのである。

 

 

そしてそれは。

 

 

赤斑にとって不幸なアクシデントだった。

 

 

 

右肩を抑えつつ、無言で佇んでいた熾帝が

 

 

ピィン!!!

 

 

紅い軌跡を伴った眼光を上げ、赤斑を睨んだと思った次の瞬間―

 

 

ドガガガガガガガッガガガ!!!!

 

 

赤斑ほどのアラガミが全く反応できない速度で接近してきた熾帝によって赤斑は数百メートルも吹き飛ばされ、ビル群を十棟以上なぎ倒しながらかつて「マンハッタンのオアシス」と呼ばれた広大な公園―セントラルパークまで吹き飛ばされた。

 

これは最早「オラクル細胞の活性化」という「現象」だけでは説明のつかない圧倒的な力の上昇だ。

 

 

進化の突端、頂点に立った生物が強い自我、意志を持った故に達した感情の爆発と同時の爆発的な戦闘力の増幅である。

 

ピィン…

 

吹き飛んだ赤斑の体が巻き上げた粉塵の中で再び紅い軌跡が走り、次の瞬間粉塵を切り裂き、軽く音速を超えた速度で市街地を轟音と衝撃波でなぎ倒しながら飛翔する熾帝の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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