時をも凍てつかせ、凍らせる氷。
この二つは世界の成り立ちより存在し、何度も鎬を削ってきた。
世界はこの繰り返しで在った。原始、太古の時代より現在もそれが変わる事は無い。
遥かなる昔―「創世」の時。世界はマグマとガスによって覆われた灼熱の大地であった。
それが何億年と続いた所で在る変化が現れる。それによって生じた大量の水蒸気が水を作り、急激に冷やされ、固められたマグマが創世の炎を地に奥深く、コアに押し込めて大地を形作る。
「地」球の誕生である。
誕生以降も生まれたてのこの惑星は幾度となくそのサイクルを繰り返す。
時に地殻変動による火山の噴火。結果大量の水蒸気放出による急激な気温低下―氷河期を引き起こし、時に巨大隕石衝突による巨大な業火によって再び焼き払われ、それによって生じた塵や埃が厚い雲となって太陽光を覆い隠し、再び冷気、氷によって閉ざされた世界に変え、多くの生物を死滅させた。
二つは決して切り離せない。片方が台頭すれば必ずもう片方がそれになり替わる様に台頭する。両者は対存在であり、世界が存在する限り存在し続け、繰り返し続けられる。
高々200万年程度の人間の時代であってもこの摂理が変わる事は無い。
ただそのサイクルが地球上の時間軸で考えれば非常に狭い間隔で引き起こされているというぐらいだ。
戦乱の大火、生み出した核の大火に包まれ、それによって自ら生じさせた歪み、捻れによるお互いの疑心暗鬼の中で冷たい、しかし、凍傷を起こしかねない程の氷の世界のサイクルをヒトは僅か千年にも満たない程度の期間に繰り返している。
そんな灼熱の乾季、厳冬の時代の中でもひっそりと僅かな栄華、繁栄の時代を謳歌し、徐々に衰退し、恐らく最後には滅びる。
この星の歴史からみれば何ら変わりは無い。
時に焼き尽くされ、時に凍りつきながら世界はそれでも回っている。
そして2073年現代。
アラガミの跋扈による大火に包まれた世界は人間を押しやり、原始のよりシンプル―弱肉強食、適者生存、盛者必滅の志向の下ぶつかりあう大火の世界を形成していた。
いずれこの大火―互いを喰いあう相互捕食の先に極寒の時代が訪れる事は明白である。
元々アラガミは一度全てをゼロに戻すと言う基本コンセプトの素生まれた。この世をもう一度リセットする為に存在するはずのアラガミ達―
しかしその中で余りにも抜きん出た者達が居る。
進化の先で世の摂理も、サイクルも全く度外視するほどに強固な「個」を形成した両者はこの日出会った。
奇しくも互いに紅蓮の体色を纏った両者。
彼等の対峙に生産性は無い。
己自身がある意味究極の「生産的行為」とも言える世界のリセット機能、循環機能を持ち備えた細胞―オラクル細胞で構成された身でありながら、進化の突端で彼等は「生産性」という言葉には程遠い行為に及んでいる。
彼等の戦いに目的は無い。意味は無い。自然が創生した破壊、創世、循環、安寧のサイクル、理等度外視。ただ個と個をぶつけ合う行為。
そして彼等の戦いの先には不毛の大地が残るのみだ。非生産的も甚だしい。
しかし―
これこそが今の彼等の存在意義。
全てを賭けるに値する時。
ピィン...
眼光が「六つ」。転生の炎の中で金色に光る。
新たな司令塔―胸部より発生した巨大な頭部に光る眼光が二つ追加され、より攻撃的な形態へと変貌したUNKNOWNアラガミ―赤斑が上空に居る対峙者―熾帝ルフス・カリギュラを見上げる。
…
…
両者威嚇、牽制の咆哮もない。ただ静かに睨みあう。赤斑転生後の「初対面」とはいえ最早無駄に語りあう事もないのだろう。
それ故に勝負は即。
佳境に入る。
マンハッタン島の消滅が確定した瞬間であった。
赤斑がまるで黙りこむように地に向けて三つ首を下げ、熾帝から一旦目を切る。三対の眼が在りながらそのどれ一つも対峙者―熾帝を現在捉えていない。致命的な隙、おまけに睥睨する転生前の自分を絶命させた強者―熾帝に対する最悪の侮辱と言っても過言ではない程の行為である。が、
…
熾帝はその状況を拍子抜けするほどあっさりと受け入れ、未だに空中をホバリングしながら赤斑の様子を伺っている。
「何をしてくるのか」。
熾帝の興味はその一点。そんな彼の好奇心を数秒後に赤斑が見せつけたその「光景」は全く以て裏切らなかった。
かぱぁっ…
新たに生まれた中央の首―第三の頭が徐にゆっくりとその巨大な口を開口。その開口角度は優に百度を超える。同時―
ズズズズズズズ…
放電現象の如く赤斑全身に金色の炎が周囲に迸り、地響きのような音を立てながら急速に周囲の酸素を燃焼、その範囲を加速度的に拡げていく。しかし一見纏った御し切れないほどの高エネルギーを外部に放出、発散する行為に見えたその光景はその実際の所は全く逆の意味あいであった。
これは「徴収」であった。
つい先程熾帝が行った行為と全く同じである。周囲の火気物質、可燃物質をありったけかき集め、体内に徴収、凝縮。その体内に生まれつき持ち合わせた無尽蔵とも思える圧倒的火力とその生産機能をフル活動して結びつけ、極限の増幅、増強を図る。
その徴収範囲は熾帝との激闘によって生じた破壊の爪痕―崩壊したビル群に燻ぶる炎、火の気を吹き消すように吸い込み、更に貪欲に広範囲を席巻、マンハッタン島全域に渡る。
その徴収を終えた時―
シンッ…
かつて前時代、この街で一秒たりとも音が途切れた事等無かったであろう。それはアラガミによって滅ぼされた後も同様だ。ここに移り住んだアラガミ達の跋扈による忙しない喧騒はこの時代に於いても健在であった。
…つい先ほどまでは。
確かに今この地域から音が消えた。同時にまるで時が止まった様な静寂の時間。これは「集束終了」の合図である。
同時に。
「無音」の警鐘でもあった。
残念ながらこの警鐘を聞いた者を。
赤斑は生かして帰す気などない。
ゴボボボオボボボボボッ!!!!!
赤斑、中央の頭部の口内よりまるで吐瀉物の如き紅蓮の獄炎を放出。それは一瞬にしてまるで湧き出た泉の様に円形に拡がっていく。
あっという間にセントラルパークを覆い尽くし、尚もその範囲を摩天楼の巨大ビル群の隙間を縫って拡がっていく。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!!
ビルの合間を縫った巨大な炎は町を通過する津波と同様に押し上げられ、その猛火を押し上げる。セントラル・パークから円形に拡がる炎の津波は全く衰えることなくマンハッタン全域を包み込み、尚も放出され続ける。
その中心に在るこの街の規模から考えるならばポツンと小さい紅一点―たった一匹の怪物によって。
…!!!
その光景をたった一匹、上空より見下ろす熾帝はその驚愕の光景に絶句する。そして同時に周囲の異変に気付く。
……!?
両者の激闘によっていくつかは崩壊、倒壊したとはいえ、この摩天楼には巨大なビル等まだまだ所狭しと乱立している。その全てが例外なくその高さを「徐々」に下げていることを空中に居る熾帝は気付いた。
ゆっくりと、まるでフライパンの上で四角いバターが溶けていくかのように。
赤斑が口内より放出した灼熱の津波はビルの合間を伝いながら、ビルの芯棒、そして地面をその苛烈なほどの温度で徐々に溶解、浸食。マグマ状に液状化させ、そのマグマの海にビル群が今沈んでいるのである。
マンハッタン島は巨大な岩盤で形成され、それ故に巨大ビル群の建設には向いた土地柄であった。その岩盤が今赤斑によって溶解させられ、マグマの海と化している。その上に建っていたビル群は当然運命を共にする事になる。
つまり―
「沈んでいる」のだ。
かつての世界最大都市のマンハッタン島が「沈没」しているのである。
地上に居たここの先住者のアラガミ達などひとたまりもなく蒸発、地下鉄構内で息を潜めていたアラガミ達も蒸し焼き状態にされる。シユウなどの飛行アラガミもビル群を走る炎の津波のあまりの高熱さにやられ、ぼとぼとと墜落。マグマに呑みこまれていく。
オラクル細胞どころかバクテリアすら生き残れない。
今やこのマンハッタンで生き残った生物はこれを引き起こした張本人―赤斑とその圧巻の光景を空中で見下ろす熾帝だけである。その熾帝ですらまるで創生時の地球の如き灼熱の光景と現在の自分の高度にまで届く熱波を前に佇む他に出来る事が無い。
赤斑はここに居住していた先住者などに興味は無い。そもそも存在すら認識していないだろう。彼等の巻き添えなど興味の範疇に無い。彼の興味はただ一つ。ただ一つ生き残ったいけ好かない。が、同時に己に唯一比肩する素晴らしい実力を持った「同族」のみ。
炎と氷の対存在である赤い「アイツ」だ。
…「余興」は終わり。本題に入ろう。「紅」の激突。紅蓮の潮流の続きを始めよう。
せめて願い、そして請う。
…簡単には死んでくれるな?
キシャアっ!!
グルァっ!!!
赤斑―双腕、双頭口内より転生前より長大、そして禍々しい形となった炎刃を吐き出す。その双方の切っ先を―
ジジジジジ…
まるで手持ち花火に火を灯すように「主砲」である中央の頭の口内から発される爆炎に接触させる。
すると極太の灼熱の業火は炎刃の切っ先という数センチに満たない狭い範囲に集中、凝縮していく。同時に―
キィィィィイイイイイイイイイイイン……!!!!!!
まるで巨大旅客機、戦闘機が離陸する直前の様な高い音が周囲を劈く。その音は点火、「転火」が終了した事を表す。
赤斑の何よりの本題、命題―空中に居る熾帝を地上に叩き落とす為の準備が整った。
フィイイイイイイイイイイイイン!!!
二対の炎刃の切っ先から極限まで圧縮、凝縮された火炎が放出され、マグマの海をモーセの十戒の如く切り裂きながら双頭の持ちあがりと共にゆっくりと上がっていく。
否。ここまで行くと「火炎」と言うよりも最早黄金のレーザー、プラズマカッタ―と呼ぶにふさわしい。
鉄材等を熱伝導で切り裂くプラズマカッターは「刃渡り」所詮数センチ程度の長さである。しかし赤斑の双刃の先端から放たれるこれの長さは現時点測定不能で在り、尚もどんどん長くなっていく。
そんな凶刃を赤斑の双頭が―
ぐるん
周囲360度を同時にまるで指揮者の様に薙ぐ。
その射程は実にマンハッタン島全域を遥かに凌駕する数十キロ単位に及ぶ。
マンハッタン島ハドソン川流域先の港にひっそりと浮かぶ島―リバティー島でマンハッタンを、そして激変する世界の動向を長年静かに見守っていた女神が
スパッ…
上半身と下半身に綺麗に両断されたのがその証拠である。
バババババババババババッ!!!!!
周囲を薙ぎ払った二対の黄金のレーザーが「沈没」しようとしていた摩天楼の巨大ビル群に一足先に引導を渡す。
レーザーの通過した先は何一つ例外なく切断され、溶解、爆発。
この世の万物を断つ圧倒的な二対の兇刃は全ての障害物を斬り払い、最終目的である獲物を今ようやく捉えようとしていた。
サーチライトの様に上空に巻き上げられた二対のレーザーは遥か頭上に在る雲すらも断ちながら
……!!!!
背部ブースターを放射。最大速力を発揮した赤い弾丸―熾帝の追跡を開始。
キィイイイイイイン!!!
ブオッ!!!
音速の壁を優に突破しながら熾帝は上空へ急上昇。一気に雲を突きぬけ、超える。そして振り返りながらぴったりと追走してくるレーザーを視認。これからして射程外に逃れる事はとてもではないが不可能な事を悟る。これの射程外に逃れる事は即ち敵前逃亡と同義だ。それだけは許容できない。
市街地で転生前の赤斑を追い立てた時とは全く真逆の立場になった。今度は彼が追い立てられる番である。
シュン!!
ぐりん!!
ブオッ!!
キィイイイイン!!
地上で指揮者の様に双腕を振るう赤斑に合わせて二対のレーザーが執拗に空中を超音速で縦横無尽に飛び回る熾帝を追い立てる。それを急停止、減速、急加速、落下、上昇、そして旋回、回転などありとあらゆる手を尽くして熾帝は華麗に回避していく。
その合間を縫って
ガァガァガァッ!!!!
反撃も怠らない。氷球を何発も隕石の様に降らせ、超高度から赤斑目がけて撃ち放つ。その氷球を前に赤斑もまた応戦、二対のレーザーを器用に空中に滑らせて氷球を真っ二つに切り裂き、着弾位置をずらす。
しゅぼっしゅぼっしゅぼっ!!
何重にも切り裂かれた無数の氷球は軌道を逸らされ、目標の赤斑を捉える事はなく、周囲に着弾。マグマの海にほんの僅かの抵抗を試みたかのごとく溶岩を固まらせるが、直に圧倒的物量差に負け、跡形なく呑みこまれていく。それでも苛烈なレーザーの追跡をほんの僅かでも鈍らせる、もしくは逸らせることは熾帝にとって反撃の起点となる光明でもあった。
超反応に加え、適切な対応、最適解の回避の繰り返しの先で僅かにぼんやりとうっすらと光る光明を頼りに熾帝は空中を舞い続ける。そして―
赤斑の一見一分の隙もない攻撃を前にほんの僅かな隙、揺らぎを見つけた瞬間、
ガァッガァツガァツ!!!
無数の氷球の発射と同時。
ズオッ!!!!!
ブースターを極限解放。質量と加速力に任せた超高速のフリーフォールを敢行。一気に赤斑に接近する。赤斑の二対のサーチライトの如き高速のレーザーすら追い付けない程の超速度である。
ガキン!!
両腕の双刃を展開。彼の戦闘本能、勘、センスが光る完璧なタイミングでの急突進、急加速で在った。先刻放った無数の氷球とは全く別角度からの急接近。氷球に赤斑が対応している間に肉迫し、赤斑を切り裂くのに十二分の余裕がある。
ババババババババッ!!!
マグマの海に腹を擦りかねない程の低空飛行で熾帝は赤斑に接近、赤斑の頭上には無数の氷球がホーミング性能を備えながら赤斑を取り囲む様な軌道を描いて迫る。氷球の飛行速度を遥か上回る飛行速度を出せる熾帝だからこそ出来る挟撃であった。
一方的な攻勢から一転、追い込まれたのは赤斑であった。
しかし―
赤斑の「狙い」はここで顕在化した。
ぐらり…
……!????
トップスピードの熾帝に異変が起こる。突然急激な目眩と同時に体の自由が全く以て利かなくなった。飛行姿勢を保てない。ブースターの急激なマックス放射の勢いを制御できないまま、熾帝の体は敢え無く崩れ落ち―
ザザザッザザザザぁッ!!
灼熱のマグマの海の上で紅い巨体が水切りの様に跳ね回る。灼熱の床を舐める様に這いずる屈辱の中、熾帝の脳裏に「一体何が起きたのか」という当然の疑問が駆け巡った。「体の自由が利かない」という今まで経験した事が無い熾帝をこの状態を引き起こしたもの―それは転生前の赤斑が転生後の赤斑に遺した「遺産」の様なものであった。
転生前の赤斑がセントラル・パークで熾帝の突進を双頭で受け止めた際―赤斑は熾帝の腕部に噛みついていた。
そしてその時、強力な神経毒を熾帝体内に流し込んでいたのである。
強力な耐久力と抵抗力を持つ熾帝相手なだけにその効力はすぐに顕在化しなかった。しかし、転生後の赤斑の猛攻によって潜在能力のさらに奥底を引き出したオーバーワークの熾帝の体にひずみが生じ、毒の効力が発揮されるまでの時間が大幅に短縮、結果この攻防のまさしく佳境のこの時においてとうとう顕在化したのだ。
前世の自分と現世の自分、輪廻の先の完璧なコンビネーションである。
体内を駆け巡る毒によって動きを封じられた熾帝は。
……ぎりっ!!!!
溶岩の海の上で歯軋りする。「してやられた」と言いたげに。その頭上で―
...
無数の氷球をレーザーで瞬時に、しかし致命的な隙を晒す筈だった切り裂く作業を粛々と終え、赤斑が脆く熾帝を見下ろしていた。そして徐に上空に掲げた双刃から走る二対のレーザーを交差させる。
キシャアアアアアっ!!!!!!
歓喜の声を上げ―X字に双刃を振り下ろす。地に伏せる熾帝の頭部目がけて。
……!!!!!
ピィイイイイインッ!!!!!!!
ズアッ!!!!
宇宙空間からも確認できるほどの巨大な黄金の「X」がマンハッタン島中心から全域に走る。
ゴゴゴゴゴ…
フっ……
双腕から発せられていたレーザーを赤斑は収束させ、見渡す限り360度拡がる原始の地球の如くマグマで煮え立ち、変わり果てた世界最大の都市の光景を金色の六つの眼で睥睨する。
熾帝の姿は最早ない。数十キロに渡って赤斑が二対のレーザーによって切り裂いたX字の丁度交差した地点―熾帝が這いつくばっていた地点周辺は今はマグマの海が吹き上がっているだけである。
…
その光景を無感動に赤斑は眺め、踵を返した―
ヒュオオオオオオッ…
…そうでなくては。
と言いたげに赤斑は背後で感じた軽快な「冷気」に振り返る。
そこには―
ズズズズズズズ…!
深紅の体を持ちながら対照的とも言える鮮やかな蒼白い翼の如き冷気を纏い、熾帝がゆっくりとマグマを裂いて上昇する姿があった。
あれ程の赤斑の苛烈な攻撃を受けてもなお熾帝は健在。そして今や完全に灼熱の大地、完全にアウェーと化したマンハッタンを見回す。
...最早ここを「マンハッタン」と呼んでいいのかすらも解らないが。
人間であれば余りにも変わり果てたかつて栄華を極めた大都市のその光景に感傷を禁じ得ないほどの惨状も、対峙するこの絶対強者達にとっては状況を構成する要素でしかない。一言言えるのは熾帝にとって完全に不利な敵地に他ならない苛立たしい光景であるということだけた。
よって―
熾帝は至極当然のごとく、しかし第三者にとって完全に世迷い言、血迷ったかとしか思えない判断を下す。それは
「この地を0に戻す」ことだ。
「自分が不利だから」。
ただそれだけの理由で熾帝はこの原始の地球の如く、この星がかつて数億年かけてようやく鎮静化させたこの灼熱の大地を―
ぐぐぐっ…
鎮めようとしていた。
両腕を震えて縮こまり、抱える様にして自らの中心―コアから今はち切れんばかりに溢れださん絶対零度、絶対冷気を―
グ…オアアアアアァアアアアアアア!!!!
ブースターを通して完全開放した。
瞬間―
辺り一面を眩いばかりの真っ白なまさしく「ゼロ」と呼ぶにふさわしい光が覆い尽くす。
……
赤斑は右腕で覆い隠していた眼をゆっくりと開き、辺りを見回す。すると予想だにしない光景が辺りを包んでいた。
…!
辺り一面地獄の様にマグマの海だったはずの大地が冷えて固まり、マグマの吹きあげる水蒸気によって発した厚い黒雲によって先程まで真っ黒に覆われていた空が晴れ渡る様な蒼さで赤斑を照らし出している。
ザァアアアアアアアッ…
赤斑の巨大な「X斬り」で深々と切り裂かれた地点はまるで渓谷の様に深く、ぱっくりと割れており、そこに外海から海水が流れ込み、滝の様に中心地に勢いよく流れ込んでいる。
ここには炎も、そして氷もない。
互いにぶつかりあい、全て対消滅した結果生まれた完全なる―
「ゼロ・グラウンド」だ。
かつて世界一栄えた大都市も、氷河期の如き氷の世界も、原始の灼熱の大地もない。
全てが中立(アンバランス)な世界。
その地の交差地で。
紅蓮の潮流は再び混ざり合う。
チャキ…
いつの間にか熾帝が赤斑の間合い内に侵入。必殺の刃を赤斑の第三の頭部の顎部分に突きつけていた。
しかし―
熾帝はその切っ先をそこからピクリとも動かす事もなく、赤斑もまた大して反応する事もなく佇んでいた。両者の原始的な風貌から今全く以て狂暴さが失せている。
奇妙な光景であった。全てがリセットされた無の大地、流れ込んだ海水のしぶきが上げる轟音だけが響く世界の中心、紅い両者はまるで神話の世界の神々が対峙した姿を象ったオブジェの様に動きを止めていた。
そんな状態が暫く続いた後、動きがあった。先に動いたのは赤斑であった。
クァアアアアアッ……
剣呑で狂暴そうな赤斑の三つの頭部が全てまるでネコ科の生物の様に天を仰いで大あくびをする。まるで好天の下、日向ぼっこでもする様に。そして中心の頭の顎の下に双頭を忍ばせ、
……
本当に寝入ってしまった。
そんな赤斑を見て熾帝は後ずさりし、暫くそんな赤斑を眺めた後―彼もまた猫のように巨大な体を尻尾で巻くようにして丸まり、寝入る。
それから十九時間後―
グググッ…
赤斑―活動を再開。同時に熾帝もまた覚醒、その身をゆっくりと起こす。そして―
スッ…
両者は戦闘を再開することなく、最早お互いに眼もくれずにすれ違う。赤斑はアメリカ大陸内陸側へ、熾帝は大西洋側に向かって真っ直ぐ歩きだした。
今居るここが「ゼロ」。
つまり「X」。交差点だ。
両者はこの地での戦いを通じて知った事がある。
それは世界の広さだ。
互いに生まれた時点で己が進化の頂点であると自負していた中で彼等はめぐり合った。その対峙を通して彼等の中に生まれた物―
それは純粋な世界への興味だ。
自らの絶対性を脅かす絶対的な存在への興味、好奇心。
ひょっとすれば。
今日、自分が対峙した以上の者が自分の道の先に立ちはだかるかもしれない。これから進むお互い全く真逆の道の先に。
そして地球は丸い。
この道の先を何事もなく進んでいけるとするのであれば両者の道はまたいずれ交わる事になる。
この地、「ゼロ・グラウンド」に。
紅蓮の潮流は再び混じり合う。ただ今と決定的に違うのはその時は既にお互いが世界の頂点に在ると確信した状態であるということだ。
その時は。
もう迷う必要は無い。
最期まで―
「殺しあおう」