戦士「ああっ、魔法使いが死んでる!」勇者「もう王様に貰った金ねえよ⁉︎」   作:てのひら

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戦士「ああっ、魔法使いが死んでる!」勇者「もう王様に貰った金ねえよ⁉︎」

 年が十六歳へと変わる記念すべき日。俺の一日は、

 

「今日はとても大切なお前が初めてお城に行く日でこの日のためにお前を勇敢な男の子として育てたつもりです」

 

 という母親のえらく長い台詞と共に迎えられた。

 その滑舌の良さには感嘆の念を抱かずにはいられないが、寝起きの頭によく分からん長文を叩き込まれたこっちの身にもなってほしい。ささやかな抗議をしようと起き上がれば、「さあ、母さんについていらっしゃい」と口先だけの強制連行。じいちゃん見てないで助けてくれ。

 渋々と着いていくこと数分。目の前には、ありえへんような存在感をもってそびえ立つアリアハン城。そこへ続くは、綺麗に敷き詰められた砂のロード。

 

「ここから真っ直ぐ行くとお城です」

 

 と、なぜか説明口調の母を背に、俺は諦めて城への歩を進めていく――と見せかけておいてそれは大いなるフェイント! 母を欺くための大いなる罠! 俺は唐突に身を翻し、来た道を逆走する!

 疾走する俺、驚いた表情の母。その横を華麗にすり抜けていけるか――⁉︎

 

「どうしたの? 王様に会っていらっしゃい」

 

 母バリアー! 体が痺れて動かない! 刷り込み!

 王様からの呼び出しなど確実に碌なことにはならない。とは言っても母(ラスボス)はあの絶妙な位置から梃子でも動きそうになかったので、俺はざめざめと涙で頬を濡らしながら城の門をくぐる。

 歩くこと数分。目の前には長く大きな階段があった。どうやら王様は二階にいるらしい。そこの兵士が教えてくれた。警備ざるすぎだろ。

 ありがちな紅いカーペットの上を通り、王様の前におもむろに立つ。そんな打ち首一歩手前の俺を余所に、王様は静かに話し始める。

 

「世界の人々は未だ魔王バラモスの名前すら知らぬ。じゃが、確実に彼の者の侵攻は進んでおる。それを止められるのは、火口で足を滑らせて亡くなった勇者オルテガの息子、そなただけなのじゃ。どうか、今勇者となりて奴を討ち取ってはくれぬだろうか」

 

 おい台本! せめてその台本隠せ!

 

「うむ、では町の酒場で仲間を見つけ、これで装備を整えるがよかろう」

 

 そう言って、唐突かつ一方的に話を締める王様。いや、話の展開の速さについていけない上に何一つ納得できてないんですけど。

 

「いや、あの……」

「ではまた会おう」

「あの、だから……」

「うむ、ではまた会おう」

「これジジィ惚けてんじゃねえか!」

 

 さっ、と大臣が目を背ける。そして、誤魔化すように言ってくる。

 

「……武器はちゃんと装備するんじゃぞ」

「知ってるよッ‼︎」

 

 /

 

 こうして俺は旅に出ることになった。ニュースで全国放送されてしまったので、そうせざるを得なかったのだ。

 仲間に幼馴染の戦士と魔法使いを加え、俺は今自宅で旅の準備を整えていた。

 大量の薬草を皮袋に突っ込みながら、戦士に聞く。

 

「遊○王いるかな?」

「確実にいらない」

「ソリッドビションないもんな」

「そういう問題じゃないけど」

「ビー○マンは大人げないかな」

「それもいらない」

「まあベイ○レードよりはマシか」

「だからいらないけど⁉︎」

 

 そんなこんなで、俺たちは旅に出た。多分夕方には帰ってくる。

 

 /

 

 青い空、白い雲、どこまでも続く緑の絨毯。

 俺たちは草原にいた。

 摩訶不思議な透明生物、スライムを相手に煤けた銅の剣を振り回していると、後ろのほうで戦士が叫ぶ。

 

「ああっ、魔法使いが死んでる!」

「もう王様に貰った金ねえよ⁉︎」

 

 早々に金が尽きた。

 

 /

 

 魔法使いが横たわる棺を引きずり回しながら、スライムを狩る。蘇生費用の20Gを稼がねばならないのだ。

 俺がでかいカラス相手に奮闘していると、後ろのほうで戦士が叫ぶ。

 

「棺バリアー!」

 

 カキーンと硬い棺で魔物の攻撃をはじく。

 あいつは呪われても文句は言えまい。

 

「棺ディフェンス!」

 

 祟られても文句は言えまい。

 

「棺アタック!」

 

 末代まで祟られても文句は言えまい。

 

「棺ハリケーン!」

 

 あいつは多分明日死ぬ。

 

 /

 

 日が暮れる頃。なんとか20Gを手に入れ、帰り際にスライムを一匹斬り倒したとき、どこからか変な音が聞こえた。

 テレテレッテッテッテー。

 

「今のは……何かの鳴き声か?」

 

 隣を歩く戦士に聞く。

 

「ああ……レベルアップの音」

「レベルアップの音⁉︎」

「レベルが上がると鳴るんだよな」

「ちょっと待って俺十六年間何してたの⁉︎」

 

 グッグゥ、グゥー……。

 

「あ、俺も今上がったか?」

「それは間違いなく腹の音だよ!」

 

 /

 

 翌日。

 俺たちは再び草原にいた。

 今回は魔法使いがやられないように、彼女を男二人で囲むように陣形を組む。

 

「メラ!」

「アーーッ!」

 

 戦士の背中が燃えた。

 

 /

 

 群がるカラスたちに覚えたてのメラをぶちかます。俺たちはかなりマズイ状況にあった。魔物に囲まれ、その上退路までが塞がれているのだ。

 

「おい……これはさすがにやべえぞ! キメラの翼持ってなかったか⁉︎」

 

 戦士の、切羽詰まったような声。安心させてやりたい。やりたいが――。

 

「翼は……魔法使いの棺の中だ」

「あぁっ、また死んでる!」

 

 こうして俺たちは初めての全滅を体験した。

 

 /

 

 じいちゃんから出世払いで借りた50Gを使い、戦士を生き返らせる。

 状況は最悪だった。運び込まれた際に送料として所持金の半分を取られ、魔法使いを生き返らせる目処は立たず。更に俺たちの片方でも死んだら、もはや冒険の書を消すはめになりかねない。

 

「こうなったら、限界まで安全を意識して狩りをするしかないな」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で、戦士が言う。

 

「そうだな……徹底的にいこう」

 

 /

 

 俺たちは再び草原にいた。

 

「ほし、ひくほ」

 

 薬草を噛み潰したような顔で、戦士が言う。

 

「ほお」

 

 それに、俺も薬草を噛み潰したような顔で答える。

 そう、これこそが限界まで安全を追求した結果。常に薬草を頬張りながら戦う、作戦名『命を超大事に』である。ただ一つ問題があるとすれば、それはとてつもなく苦いことだ。

 

「ひたほっ」

「はほめっ」

 

 孤立しているスライムに忍び寄り、二人でタコ殴りにする。もはやどちらが魔物なのか分からないような気もするが、そんなプライドすら俺たちは捨てたのだ。

 無心になって、狩って、狩って、狩りまくる。

 2G、2G、2G……。

 悟りすら開いて、狩って、狩って、狩りまくる。

 2G、2G、2G……。

 そうして日が暮れ、口の中の薬草もなくなった頃……。

 

「なあ……勇者」

「何だい……戦士」

 

 集まったお金を前にして……。

 

「これさ、もしかして……」

「ああ……」

「もしかして、儲けが……」

「あああ……」

「薬草代に、追いついていないんじゃないか……?」

 

 俺たちは静かに泣いた。

 

 /

 

 翌日。

 

「一つだけ、方法がある……」

 

 沈痛な面持ちで、戦士が言う。

 

「……それは?」

「酒場で仲間を手に入れ……身ぐるみを剥いでから、別れる」

「……いくらに、なるんだ」

「布の服一枚で、7G」

「……」

 

 思わず、沈黙する。それは、あまりに魅力的な値段だった。でも、そんなこと……いや、戦士だって分かっているんだ。だから、あんなに痛ましい表情をしているのだ。

 できるわけが……なかった。

 

「……魔法使いはさ、身ぐるみ剥いで得たお金で蘇生してもらって、嬉しいかな」

「――っ!」

 

 戦士の、はっとした表情。

 

「俺だったらさ。どれだけ長くなっても、試行錯誤して、努力して、そして正しい方法で得たお金で生き返らせてほしい」

「勇者……」

「お前も、そうなんじゃないか?」

「ああ……俺、大切なこと忘れてたよ……」

「いいんだ。道を誤ったら正してやる。それが友達だろ?」

「……そうだな、ありがとう」

 

 お互いに、目と目で通じ合う。今、俺たちの心は一つになった気がした。

 

「ところで、俺のデッキに入ってた寄生虫パラサイドについてなんだけど……」

「……」

「……」

「……」

 

 /

 

 一ヶ月後。

 俺たちは長い時間をかけ、試行錯誤し、努力を重ねて、そして正しい方法であるアルバイトによってお金を手に入れた。

 魔法使いは生き返った。

 

 俺たちの冒険はこれからだ!

 

 END

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