戦士「ああっ、魔法使いが死んでる!」勇者「もう王様に貰った金ねえよ⁉︎」 作:てのひら
いつもの草原……ではなく、アリアハンの城下町。その外れ。
そこに、先日小市民系勇者としてテレビで紹介された俺と、もはや死ぬのが板につきすぎて棺に枕を忍ばせている魔法使い、そしてバイト先の店員がホモばっかりで今一番欲しい防具が革のケツ当てである戦士が集まっていた。
丸めた新聞紙を掲げて、戦士が言う。
「勇者と魔王ごっこやろうぜ!」
「うん……うん⁉︎」
勇者と魔王……勇者と魔王……いや勇者は俺ですけど。
「……あのな、戦士。お前の前にいる人間、実は勇者なんだ」
「それでいてやろうぜ」
「あ、それでっ……それでいて⁉︎ お前押し強いな!」
戦士はポケットから折り畳まれた紙切れを取り出すと、俺たちに差し出す。
「じゃ、ここに役職書かれてるから、好きなの取ってくれ」
「これ俺の意見聞いた意味ある⁉︎」
そうはいっても既に二人共取ってしまったので、仕方なく俺も最後の一枚をもらう。
「おっ、俺は戦士か」
早速開いた戦士が言う。
まさか現実と同じ職になってしまうとは、やつもついていない。
「私は……魔法使いですね」
まさか現実と同じ職になってしまうとは、彼女もついていない……。
さーて俺は何かなー?
「――ってそりゃ勇者だよ! いや魔王は⁉︎」
「いないけど」
「いねえのかよ! じゃあ終わりだよこの遊び!」
「いや、これは俺たち三人が魔王を相手にしたとき、どう立ち回るかのシミュレーションを兼ねた遊びだ。だから魔王は必要ないぜ」
「な、何だよ……結構考えてんじゃん」
「あ、お前今ザラキで死んだわ」
「どうしようもない‼︎」
/
そんなわけで、俺たちは勇者と魔王ごっこをやることになった。
目の前には、荘厳な扉。きっとこの先に魔王がいるのだろう。俺と戦士は、二人がかりで扉を押し開ける……振りをする。
「よし、かかってこい魔王よ!」
息巻いて言う俺の隣で、戦士は何かを精一杯押す素振り。
「ちょ、勇者……この扉やけに重くない……?」
「まだ開いてなかった!」
/
慌しく向こうのほう(多分王座か何かがあるのだろう)へ走っていくと、戦士が言う。
「ふはは、よく来たな勇者よ! ここまで辿り着いたことへの敬意を表して……今血沼へと沈めてやろう! ――的な台詞を言うと思うから、お前、どうする?」
行ったり来たりと忙しい。その辺りはしっかりとやりたいらしい。
俺は戦士に合わせて、威勢良く言う。
「ああいいぜ、決着をつけよう。――デュエルでな!」
「ふふ、威勢だけは良いようだな……いいだろう! デュエル!」
お互いに左腕を構え合う。
「我の先行! ――ってなるかーい! お前ほんと好きだな!」
「いやぁ、ついね」
「そのついで今までのレベリングが全て水の泡になったこと理解してる?」
「倒した魔物がカードになるみたいな展開良くない?」
「何の話⁉︎」
/
気を取り直して。
「行くぞ戦士!」
「ああ、背中は任せておけ!」
「私は後方支援に回りますね」
先行するのが俺、その後ろが戦士、最後尾が魔法使い。
この陣形なら中々崩すことはできまい!
「あの、魔法使い……」
魔王との距離を詰める俺の後ろで、戦士の申し訳なさそうな声。
「……悪いけど、もう死んでる」
「シミュレーションでまで⁉︎」
/
魔王の縦横無尽の攻撃を前に、俺たちは躱すのが精一杯で、決定打を見つけられずにいた。
「このままジリ貧じゃあ、俺たちは確実に負ける! もう出し惜しみはなしでいくぞ!」
激しい炎を掻い潜るようにして躱し、魔王が俺を見失っている間に呪文を詠唱する。
「食らえ、俺の最強魔法――ギガデイン!」
視覚まで燃やし尽くしてしまいそうな電撃が、魔王へと落ちる。
どうだ、やったか……⁉︎
「いや……!」
戦士が叫ぶ。
まさか、これでも……?
「――まだ、覚えてない!」
そ、そっちかーー!
メラゾーマが直撃して俺は死んだ。
/
「ちょっと待って、魔王強くない?」
呆気なく全滅した俺たちは、対魔王作戦会議を開いていた。
「俺はメラゾーマ一撃で沈むし、魔法使いに至っては始まる前に瞬殺されてんですけど」
「でも魔王が一人で出てきてくれただけ良心的じゃないか?」
「うっ。た、確かに……」
俺の愚痴に、珍しく戦士から正論が返ってくる。
本当にこっちを倒す気でくるなら、魔王四天王的なやつに加え魔物の軍勢、大量のトラップくらいがあってもおかしくはない。
おかしくはない、おかしくはないけど……。
「俺、勇者やめていい?」
「分かった、魔王を少し弱くしよう」
/
そんなわけで、俺たちは再び魔王城へとやってきていた。
やけに重い扉をやっとのこさ開けると、戦士が忙しく向こうのほうへ走っていく。
「また貴様等か……。くく、今一度絶望の味を教えてやろう……と言いたい所だが逃げたければそこの裏口を使ってもいい」
「ちょっと待って、魔王キャラ変わってない?」
「弱体化の影響だろう。で、なんて返す?」
「今日こそ俺の指テクでお前を倒す!」
「いやお前もちょっと待って、それ何の話?」
「指相撲だけど」
「低次元の争い!」
/
「じゃあ今回も俺が先行するから」
「おう、背中は任せとけ!」
「しっかりと援護しますね」
先行するのが俺、その後ろに戦士、最後尾が魔法使い。
この陣形なら中々崩すことはできまい!
「あっ、魔法使い……」
魔王との距離を詰める俺の後ろで、戦士の申し訳なさそうな声。
「その、なんていうか……」
「はい……? えっ、あ、もしかして……」
「――今、死んだ」
「まさかのフェイント⁉︎」
/
戦闘開始から数秒で二人になってしまったが、めげずに魔王へと立ち向かう。
「くっ……どうする戦士!」
「そうだな……今回は魔王に加えて四天王までいるからな……」
「ああ、魔王が弱体化したとはいえ四天王がいる以上……ちょっと待って四天王いんの⁉︎ じゃあ無理だよ! リレミト使って帰るよ!」
「あっ、それも覚えてない……」
「俺低レベルクリアでも目指してたの⁉︎」
「……貴様等、いつまで喚いている?」
「――ッ⁉︎ お前……誰だ!」
「魔王だ」
「魔王だった! 声同じだから混乱するんだよ!」
「じゃあ今度から魔王のときはスクワットしてるな」
「声を変えろ‼︎」
/
多勢に無勢。数という戦力の前に危うく心折れる所だったが、やはりそこは四天王というべきか、一人ずつ相手をしてくれるみたいなので、気を取り直して立ち向かう。
「くっ……どうする戦士!」
「そうだな……一人ずつ相手をしてくれるとはいっても、さっき足を滑らしてトラップを踏んでしまったからな……」
「ああ……まさかあんな所にトラップがあるとはな……トラップ⁉︎ ちょっと待ってお前トラップ踏んだの⁉︎ 何やってんだよ馬鹿!」
「ああ、俺はもうダメだ……」
「諦めの早さ凄いな!」
「ぬあぁっ」
突然、戦士があらぬ方向へ吹き飛ぶ。どうやら、魔物の大群がそこまで迫っていたらしい。
倒れ伏したまま、最後の言葉を遺す。
「……ひきわりは……納豆に……あらず……うっ」
「意味不明な遺言を!」
「勇者よ、今こそわしの教えを思い出すのじゃ!」
「ころころ役回り変えるのやめてくれる⁉︎」
戦士を飲み込み、Uターンして迫りくる(らしい)魔物。
リレミトすら覚えてない俺に、もはや為す術などなかった。
「……納豆は……大粒で……うっ」
/
「ちょっと待って、難易度跳ね上がってない?」
第二回対魔王作戦会議。開口一番に俺は言う。
「魔王は弱くしたんだけどな」
「そもそも魔王が手を下すまでもなかったけど⁉︎」
あのトラップ強力すぎんだろ。
「勇者はあれだよ。剣ばっかじゃなくて、もっと強力な魔法使ったりしていいんだぜ?」
「お前それどの口が言うの?」
しかし、このままでは本当に勝てる見込みがない。
どうしたものかと首を捻っていると、戦士が自信有り気に言う。
「どうせシミュレーションなんだし、もっと思い切った作戦に出てもいいと思うんだ」
「……例えば?」
「魔法使いのイオナズンで魔王城を爆破する」
「思った以上に思い切ってきた!」
「いや、日が暮れる前に終わらせないといけないだろ?」
「確かにそうだけど!」
「イオナズン!」
「ぎゃーー!」
「時間ないからって雑すぎだろ‼︎」
魔王城は爆発した。魔王は死んだ。
しかし世界に平和は戻らなかった。
END