戦士「ああっ、魔法使いが死んでる!」勇者「もう王様に貰った金ねえよ⁉︎」 作:てのひら
「おはざーっす」
いつものように適当な挨拶をしながら、バイト先である道具屋の裏手に入る。
荷物を置いて準備をしていると、そこはかとなくしょぼくれた表情をした店長が俺に近づいてきた。
「勇者くんか……ちょっと聞いてくれないか」
「ああ、分かります、分かります。店長が俺に話を聞いて欲しいことはよく分かります。
でもそれをひとまず置いといて、俺の比較的どうでもいい話を聞いてくれませんか。
あの、『おはようございます』を『おはザッ!』とちょっと切れ気味に言うとかっこよくありませんか」
「想像以上にどうでもよかった!」
「『おはぁんザッ!』と少し溜めを作ってもいいと思います」
「泣けるくらいどうでもいい!」
小粋なジョークで店長を少し元気にした所で、俺は話を促す。
「いや、それがね……車をぶつけちゃって」
「あらら……原因は何ですか?」
「アイス食ってたんだ」
「馬鹿か!!」
まさかの120%自己責任だった。
「くそ、アイスめ……」
「すごい責任転換してきた!」
この店大丈夫か。
「……一応聞いておきますけど、カップですよね?」
「いや、それが敢えてソフトでね」
「この店ダメかもしれない!」
「くそ、アイスめ……」
「だからあんたのせいだけど!?」
「もうニュースにもなるし最悪でさ……」
「自業自得とはこのことだよ」
道具屋店主、アイス食ってて事故! とか放送されるのだろうか。
「もう、おかげで頭部がちょっと禿げちゃったよ」
「……」
「……」
「……」
「笑えよ」
「ごめんなさい」
/
「らっしゃいマッ!」
「あら勇者くんじゃない、店番?」
「ええ、そうなんです。今日薬草安いですよ」
「あら、なら頂いておこうかしら」
「ありがとうございまシィ!」
薬草を買っていった婆さんを見送り、お金をしまう。
「らっしゃいマッ!」
「おう勇者じゃん。なんか割引してくれよ」
「しょうがないな……薬草、いつもより安くしとくよ」
「おっ、話が分かるぅ」
「ありがとうございまシィ!」
薬草を買っていった友人を見送り、お金をしまう。
「らっしゃいマッ!」
「ちょ……ちょい、ちょっといいかな。勇者くん」
「はい?」
「それ……やめてくれないかな」
「いや、どれですか?」
「その……らっしゃいまっ、ってやつだよ」
「何ですかそれ。流石に怒られますよ。あっ、お客さん来ました。……らっしゃいマッ!」
「それだよそれ! おい!」
「ちょっ、店長……お客さんいますから。ありがとうございまシィ!」
「そっちはもっとひでえな!?」
「いや何ですか店長。今日テンション高いですね」
「君のせいだよ‼︎」
「店長、客です。らっしゃいぁんマィッ!」
「おい! おい! 勇者お前おい!」
「ちょ、店長……うるさっ。お客さんいますから。ありがとうございまッシィーー!」
「勇者ァアアアアッ‼︎」
/
「店長、調合してるとこ悪いんですけど、ちょっといいですか」
「ん、なんだい」
「あの、『夜のバイト』って卑猥な響きがしません?」
「それ今じゃなきゃダメかな!?」
「あとクレーム来てます」
「そっちを先に言えよォ!」
「なんか『キメラの翼』の値段とキメラが落とすGが明らかに釣り合ってないとかで」
「いやそんな馬鹿な…………そんな馬鹿な⁉︎」
店長が白眼をむいて驚く。
「お客さん待たせてますけど、どうします?」
「勇者くん……ジャンケンをしよう」
「拒否権は……」
「オーナーは僕だよ」
大人ってほんと汚い。
「でもやっぱりこういうのはオーナーである僕が対応するべきだと思うんだ。グーを出すよ」
ならジャンケンしてないでさっさと行けよ……。
「はい! 行くよ、行くよ、行くよ勇者くん! はいジャケッポン!」
鬼気迫ったような表情で、店長が腕を振る。
急かされるようにして俺が出したパーに対し、店長は勿論――。
「……その二本指は何ですか」
「チョキかな」
「うひょー! これだから大人は‼︎」
「任せたよ」
「この性悪! 女狐! 三段腹! バーコード!」
「はっはっは、なんとでも――ア゛?」
「行ってきます」
正直店長のほうが怖かったので、俺はカウンターへと躍り出る。しかし客は客で怖かったので、俺はキメラの翼を客の手元に押しつけて言った。
「誠に申し訳アリアハン!」
ビュゥウウウウゥウウウウッ‼︎
物凄い効果音と共に、客が天空の彼方へと飛んでいく。
俺はやり切った表情で呟いた。
「ふう……終わったぜ」
「僕の店がね‼︎」
/
ただ今三時過ぎ。我らが道具屋には閑古鳥が鳴いていた。
俺たちはカウンターに腕をつきながら、だらだらと会話をする。
「客、来ませんねえ……」
「そうだねえ……」
「ゴールデンウィークだからですかねえ……」
「えっ、ゴールデンウィークって客足減るのかい?」
「いや、知らないですけど」
「ああ、そう……」
「……」
「……」
「……エロ同人ってあるじゃないですか」
「世間話のチョイス!」
「うわっ、なんですか」
「悪いけど、そういう話題はNGなんだ。最近PTAがうるさいから」
「ああ、そういう……じゃあエロ漫画でいいや」
「話聞いてた!? じゃあも何も変わってないよそれ。すごいぐいぐい来るけど」
話しながら、店長はカレンダーを取り出して俺に聞いてくる。
「それより、来週のシフトどうしようか」
「ああ……もう超使ってください。そう、まるで日陰でくつろぐ笹パンダのように」
「勇者、来週はなし、と……」
そんなことを話していると、店頭に近づいてくる人影。戦士だった。よく知った顔なので、俺は手を上げるだけに留める。
店先に立つと、商品を一瞥もせずに戦士は言った。
「スマイル一つ、テイクアウトで」
「いや、テイクアウト以外の選択肢ないけど……」
戦士のこの、笑顔の憎たらしいこと。
「あら、アルバイトの勇者くんはお客様のニーズに応えられないのかな?」
「お前、覚えてろよ……」
俺は頬を引き攣らせながら、歪な笑みを浮かべて見せる。
「これで宜しいですか、お客様ァ……?」
「ちっ、真面目に働けや給料泥棒」
「はっ倒すぞ」
/
俺はバイトを終えたその足で、戦士が働く武器屋へと向かう。俺と戦士のバイトの時間はずれているので、今は店番をやっている頃だろう。
店の扉をくぐると、すぐに戦士の声が飛んでくる。
「ッしゃッしゃアィー!」
「ひでえ挨拶だな!?」
「おう、勇者か」
「まるで何事もなかったかのように!」
俺があんまりな戦士の挨拶に驚愕していると、間の悪いことに客が入ってくる。一般のお客様に宇宙人の挨拶を聞かせるわけにはいかないので、俺は戦士を手で制して言い放った。
「はッしゃッしゃホィーーッ!」
「お前それぶっ飛ばされるぞ‼︎」
俺はさりげなくカウンター内に入ると、客に対応する。
「はい、銅の剣。えっと……テイクアウトで?」
「お前は何聞いてんの!?」
「あっ、レシートとシール……あの、シールで剣にレシート貼っつけていいですか?」
「ダメに決まってんだろ!」
「はい、では丁度。……あッしゃッしゃござィー!」
「相当ひでえなこいつ‼︎」
横で見るに徹していた戦士は、さりげなく俺を手でどかしてくる。
「――変われ」
「何!?」
からんからんと、店のベルが鳴る。タイミングのいいことに、丁度客が入ってきたらしい。
戦士はふっ、と腹に空気を貯めると、威勢よく言い放った。
「ッしゃィッアィエィッ!」
「どこの原住民の言語だよ!?」
商品を物色する客に、戦士は笑顔で対応する。
「はい? ああ、持ち手の滑り止めですか……よければレシート巻きましょうか」
「何言ってんの!?」
「シールで補強も出来ます」
「やっぱ戦士は馬鹿だぜ‼︎」
/
俺は一人、夕暮れの帰宅路を歩いていた。
バイト後というのは、中々気分がいい。落ちていく夕日すら、俺を褒め称えているような気がする。俺はテンション高く自宅の扉を開いた。
「ただいマツオデラックス! あなたの勇者が帰って来たわよおーーッ!」
まさにハイテンション。我ながらびびるくらいの声量に、思わず我に返る。
……いや、これ客の一人でもいたら最悪じゃん……。
靴を脱ぎ捨てて、顔を上げる。そして、魔法使いの困惑した瞳と視線がぶつかった。
「……」
「……」
「……」
「……あ……その……元気があって……いい、かと……」
俺は、自身の心が砕ける音を聞いた。
「ぁオぁあああああああああッッ‼︎」
扉を蹴り開け、俺は外に飛び出した。
バイトなんてクソ食らえだと思った。落ちていく夕日すら俺を嘲笑っている気がした。俺はまるで青春ドラマのように頬を涙で濡らしながら、城下町を走り抜けた。
――あの魔法使いの引きつった笑みを、俺は一生忘れないだろう。
END