戦士「ああっ、魔法使いが死んでる!」勇者「もう王様に貰った金ねえよ⁉︎」 作:てのひら
俺たちは久々に草原にやってきていた。
バイトで貯めた金で、装備もそれなりに整った。新規のパックも買ったし、ストラクも三つは買った。そして残っている金の使い道はといえば、どうせ魔法使いが死ぬので一応残しておく……ようなことはせずに、ぱあっと使い切ってしまうことにした。なぜならどうせ全滅して半分になるからだ。
そろそろ出発しようと、俺は地面に置いてあったリュックサックを背負う。
「えっ、鞄重たっ……これ何入ってんの……?」
「お前が買い占めた薬草だよ!!」
/
さっそく魔物を探す――といきたかったのだが、俺は重大なことに気がついてしまった。
腰元のベルト付近に手をやる。そこには、やはりあるはずの感触がない。俺は、何度目か分からない溜息をついた。空を仰いで、やれやれと首を振る。腕を組んで、ニヒルに笑ってみる。俺は振り向いて、震えた声で戦士に告げた。
「あのさ……剣忘れた」
「何やってんの!?」
「ついでに盾も忘れた」
「道理で軽装だよ!」
「ほら、ブランクがさ……」
「そういうレベルじゃねえだろ!! もはや『記憶の喪失』だよ!」
「いや、デッキとベイ○レードはちゃんと持ってきてある」
「お前何しに来たの!?」
/
戦士にケツを蹴っ飛ばされて自宅に戻ると、道具を整えて草原に戻ってくる。ちなみに魔法使いは、忘れてきた枕を取りに帰ろうとして戦士に背負い投げされていた。
魔物を探しに行く前に、一応最後の確認をしておくことにする。薬草がパンパンに詰まったリュックサックを開く、が――
「……戦士」
「今度は何だよ……」
「……デッキとベイ○レード忘れた」
「いらねえよ!! 何必須アイテムみたいに言ってんだ!」
「……戦士」
「次は何だよ……」
「……これ、盾じゃなくてお鍋の蓋だ」
「知らねえよ!! もういいよそれで! 一応盾の部類だよ!」
「……戦士」
「もう勘弁してくれ!」
「……これ、剣じゃなくておたまだ」
「お前ぶっ飛ばすぞ!!」
/
三度目の正直。今度こそ道具を整えて、草原に戻ってくる。ようやく魔物を探していると、例の透明なアイツを見つけた。
「あっ、野生のスライムが現れたぞ!」
「何でちょっとポ○モン意識してんだ」
「スライムA、スライムB、スライムCの三体でお送りします」
「サザ○さんも織り交ぜてきた!」
冗談はこのくらいにして、俺は腰元の鞘から銅の剣を引き抜く。太陽に翳してもまるで輝かない刀身が相変わらず汚かった。
俺は俊敏な動きで距離を詰めると、スライムに勢いよく切りかかる!
「ッしャァッホィホィッ!」
「掛け声!!」
「まずい、バイトの癖が」
「まだ首になってなかったのかよ!」
返す刀でもう一度切りつける。
「はォンほォッ! へィッ!」
「お前もう黙ってろよ!」
「っふッ……」
「っちょ熱ッ!? 魔法使いメラこっちに飛んできたけど!?」
「戦士死ねっ……」
「お前はどさくさに紛れて何言ってんの!?」
なんやかんやで残り一体まで減らした。俺は切りかかろうとして――いや、スライムの目がどことなく潤んでいる。……ような気がする。
「はっ、これはまさか……俗に言う『仲間になりたそうな目でこちらを見ている』か!」
「いや、ないだろ。そんな話聞いたこともないし……」
「じゃあ死ねェ!」
「決断の速さッ!!」
/
「あのさ……」
戦士が言う。
「マジで、想像以上にやばいぜ」
「今週のポ○モンの話?」
「なわけねえだろ!! チームワークの話だよ馬鹿!」
戦士が地団駄を踏む。
「いいじゃん適当で。薬草なら零れ落ちる程あるし」
「むしろ零れ落ちてるけど!?」
後ろを振り向くと、歩いてきた道を示すように薬草が落ちていて、なんというか……ヘンゼルとグレーテルみたいになってる。
「お、おお……これで迷わず帰れるな……」
「この大草原で迷えるなら逆に尊敬するわ」
戦士の皮肉を華麗にスルーすると、俺はさりげなくレジャーシートを敷く。昼時だし休憩にしよう。持ってきた缶ジュースのプルタブを開ける。
「って、飲み物のチョイース! コーラは完全にやる気ないだろ!?」
「この余計に喉が渇く感じが堪らないよなっ」
「お前ってホント馬鹿だよなっ!」
「私はお弁当持ってきましたよ」
「うわあーありがとう! でもそれ絶対中身ぐちゃぐちゃだからな!?」
騒がしく言い合いながら、俺たちはシートの上に腰を下ろす。魔法使いが作ってきたサンドイッチは、その姿を変えて『食パンと多種多様な具材添え』みたいになっていた。悪く言えばクッソ汚ねえ、何だこれ。
「勇者」
「ごめんなさい」
魔法使いがヒノキの棒を掲げたので、俺は光の速さで土下座した。魔法使いが作ったらしいので、あんな姿でも味は美味いに違いないのだ。
サンドイッチであった何かをもっちゃもっちゃと食していると、戦士が言う。
「話戻すけど、俺たち久しぶりでチームワークばらばらじゃん? 誰かが指揮を取ったほうが良いと思うんだが」
俺たちのチームワークが良かった試しは今まで一度もないが、確かに指示を出す人間がいれば少しはマシになるかもしれない。
俺は言うだけ言ってみた。
「あー! 何か今無性に魔王倒してーーっ!」
「凄い露骨にアピールしてきた!」
「ま、デュエルなら俺が勝つけどな」
「何か言ってる!!」
俺が高速でスクワットをしながら迫ると、戦士は諦めたように言った。
「……ま、いいよお前で。曲がりなりにも勇者だしな」
「隊長と呼べカスが」
「凄いつけ上がってきた! お前魔法使いもそうやって呼べよ!?」
「あっ、司令官は座っていて下さい。コーラ飲みます?」
「頭上がってねえじゃねえか! 何だその格差!」
「怒らせたら怖いんだよ……」
「情けなっ! うちの隊長情けなッ!」
「じゃあお前は魔法使いのことカスって呼べるのかよ!」
「呼べませーん!」
「ぶっ飛ばすぞ!!」
/
チーム名『チームワーク過去最悪』の俺たち三人は、魔物を求めて再び草原を散策していた。
がさりと、草むらが音を立てる。身構えた俺に、戦士が言ってきた。
「隊長、何か一言ありますか」
「え……マック食いたい」
「知らねえよ!!」
出てきたのはスライムだった。隊長らしく戦陣を切る。俺は叫んだ。
「食らえ! 必殺、ゴールデンソード!」
「どうでもいいけど刀身めっちゃ汚れてんぞ!」
「金寄越せェ!」
「そういう意味かよ!!」
/
例の如く、俺たちはかなり不味い状態にあった。
魔法使いは何か色々あって死んで、俺と戦士はかなりの数のスライムに囲まれている。俺は背中合わせで立つ戦士に聞いた。
「なあ戦士……『今の俺にとってスライムなど雑魚同然!』とか何とか言って、一人で突貫していった馬鹿は誰だ?」
「お前だよ」
そういえばそうだった。
「でもそれに乗っかって、トリガーハッピーの如くメラを撃ちまくっていたのは誰だ?」
「それは魔法使いだ」
マジで何やってんだよアイツ。
しかし、責任を追及しても状況は変わらないのだ。どうにか現状を打破しなければ、またバイト漬けの日々が始まってしまう。
戦士を餌にして逃げるか? それとも戦士を生贄に捧げる?
いや、そんなこと出来るはずがない。戦士に素早く足払いをかけて、むんずと足を掴み、遠心力を利用してスライムの中へ放り投げるなんてこと、出来るはずがない!
「出来るはずがないーーッ‼︎」
俺は戦士に素早く足払いをかけて、むんずと足を掴み、遠心力を利用してスライムの中へ放り投げた。
「勇者貴様ァアアアアアアアアアッッ‼︎」
戦士の叫び声を背に、俺は夕焼けに染まる草原を駆け出した。
果てしない人生の先、俺たちの前には一体何が待ち受けているのか!
俺たちの冒険はこれからだ!
END