若くして、生きる意味を考え思い、そして気が付いた時には・・・
皆さんは彼のように人生を充実させてますか?
夢を、希望を持っていますか?
自分の生きる意味を見いだせていますか?
若くして、生きる意味を考え思い、そして気が付いた時には・・・
皆さんは彼のように人生を充実させてますか?
夢を、希望を持っていますか?
自分の生きる意味を見いだせていますか?
「膵臓癌・・・ですか?」
1人の男性が医師の言った事を繰り返すようにつぶやいた。
「はい。悪性腫瘍が見つかりました。
正直、手術での摘出は難しいと思います。」
男性が軽く茫然としている中、医師は淡々と告げた。
「すでに癌細胞は膵臓周囲を超え転移するほどまで進行しており、このままではもって三か月かと・・・」
「三か月ですか・・・」
再び男性は医師の言葉を繰り返し口にした。
それと同時に下を向いた。
医師としても当然のような光景でもあった。
昨日まで自分は普通と思っていたのに、突然余命を告げられれば誰しもが唖然とするだろう、絶望するだろう、受け入れることが出来ないだろう。
生きている以上、死については常に敏感である。
だがそれはいつも突然やってくるが、いざ宣言されると死について意識し恐怖を感じる。
生きている以上、そのすべから逃れることはできない。
「分かりました。
それならもう治療とかも結構です。」
「え?」
だが目の前の男性は、死に恐れるどころかすぐに受け入れてしまった。
予想外の事に、医師も驚いた。
「では、ありがとうございました。」
その後の話し合いは簡単に終わった。
男性の意見を尊重し、入院も抗がん剤により癌の進行を抑えることもです、ただただ今までと同じように生きると男性はいい、最後にお礼を残し病院を去った。
『ガチャン!!ガチャ・・・』
その後男性は住んでいるマンションへと帰った。
「ふぅ・・・」
息をゆっくり吐き出すと、ネクタイを解き、上着をハンガーに掛け椅子に座った。
近くには以前受けた健康診断の報告書が置いてあった。
「・・・」
男性は無言でその報告書を広げると、一部に要検査の文字が見えた。
今までそんな文字を見た事がなかった為、当初は驚いたが今回検査結果を聞いて自分の容体を知った。
男性は今まで比較的健康体ではあった。
いや、正確には健康体に見せていたと言った方が正しいだろう。
だがどんな時も、市販の薬などを服用し痛みや苦しみをそうそう表には出さず生活していた。
そんな性格からか、学生の時も社会人になってからも、今まで自分が原因での遅刻もなければ欠席や無断欠勤も一度もなかった。
真面目と言えば真面目ではあったが、決して目立った存在ではなく、比較的おとなしく積極的な性格ではない為、印象にすら残っていないかもしれない。
もし、学生の同窓会など開かれれば、ああそんな奴いたな程度の存在だ。
成績も平均的、何かに優れていたわけではない為大学を卒業し、何社か受けた内の1社から内定をもらい働き始めすでに3年が経とうとしているが、評価はさほど高くはない。
遅刻欠勤がないのは、誇れるところだろうが、男性にとっては別にどうでもいいこと、いや男性にとってはごく当たり前のことをしているだけだった。
「・・・はい、そうです。はい、はい・・・
また明日でにも詳しくお話します。
はい・・・はい、では失礼します。」
電話で上司に病状を伝え、今後について考えようとしていた。
普通の人間であれば、残り3か月しか生きられないと言われれば、仕事を辞め、残りの時間を自分の為に自由に過ごすだろう。
丸一日寝てみる、好きな本をずっと読み続ける、朝から夜までゲームをしてみる、どこか旅行に行ってみる。
その多忙な選択肢は人によって大きく異なるだろう。
現に男性もどうしようか一瞬迷った。
だが、住み慣れた部屋を一通り見てその迷いはなくなった。
あるのは、生活に必要な家具家電。
テレビの前におかれた食事用の小さなテーブル、作業用の机にPC、本棚には好きな作家や様々なジャンルの小説や漫画、衣類が片づけられているクローゼット。
質素な部屋と言えば質素な部屋であり、個性のカケラもなく、誰でも出来るシンプルな部屋だ。
男性にとって趣味は多くあった。
机の隅やテレビ台の下置かれたゲーム機。多種多彩な本。鞄の中に入っているデジタルカメラ。
ゲームや、読書、写真撮影などの他に、本の中には日本史の参考資料などもあり、主に戦国時代や幕末でまとめられていた。
だが、男性にとってはどれも個人的な趣味。
誰かに進められたわけではなく、ただ気が付いたらやってたものばかりだ。
「・・・はぁ。」
何か思う事があったのか、男性はため息をつき台所へ向かった。
気が付けば時刻は6時を回っており、夕飯の準備に取り掛かった。
小さな台所で、慣れた手つきで食材を調理し皿に盛りつけ、テレビを見ながら食事をした。
その後、食器を洗ったり、風呂に入ったり今までと同じように動き、そして床についた。
翌日男性は携帯の目覚ましでいつも通りの時間に置き、いつもと同じように朝ごはんを食べ、身だしなみを整え、いつもと同じ時間に部屋を出た。
男性の職場は住んでいるマンションから徒歩で30分ほどで到着する。
普段は自転車などで通勤するのだが、今日に限っては歩きで通勤した。
そのため普段よりも遅めに会社に到着したが、朝礼までにはまだ時間はあった。
「あれ、今日は珍しく遅かったな。」
「ああ、今日はちょっと歩いて来たからね。」
会社に入るなり一通りのあいさつを済ませて、席につくと同僚が声をかけてきた。
男性はいつも同じ時間帯に出勤しており、それを珍しく思った同僚が声をかけてきた。
「へ~、珍しいな。
何だ、昨日病院に行ってきたみたいだし健康に気を使い始めたか?」
「いや、そんなんじゃない。
ただ、気分的にすこし歩きたかっただけだよ。」
「ん、何かあったのか?」
気分的にと言う言葉が気になったのか、同僚は何かあったのか聞こうとしたが、それと同じタイミングで上司から声をかけられた。
男性は同僚に一言断ってから上司のところへ向かった。
「昨日の電話の事なんだがね。」
「はい・・・
・・・あの、よろしければゆっくりお話したいのですが。」
「分かった。そこの会議室が空いているからそこで話そう。」
男性の申し出に上司も納得し、2人して部屋の隅にある会議室へ入って言った。
会議室とは言っても、ここは部屋の隅を利用して作られたスペースでオフィスとは薄い板のような壁で仕切られているだけだった。
防音もさほどされておらず、オフィスからは人の声や電話の音、ざわつきが聞こえてくるが、男性にとってはさほど問題ではなかった。
ただ、のんびり話せるスペースが欲しかっただけだった。
「う、ん・・・
そうか、非常に残念だよ・・・」
今、上司の手元には診断結果があった。
内容を見ると、上司は驚き男性を見、それと同時に大きく息を吐いた。
「君は今まで真面目に働いてくれてたからね・・・
正直、残念でしかたないよ。」
「・・・すいません。」
「いや、誤らなくていいよ。
けど、どうする?
君がよければ依願退職として受理するよう上に言ってはみるが・・・」
「もし、ご迷惑でなければギリギリまで働いていいでしょうか?」
「は?」
「体調がすぐれない時はすぐにいいます。
けど、これ以上は無理だと判断する時まで、ここで働かせてもらえませんか?」
「あ、あぁ・・・
そうだな、上に掛け合ってみるよ。」
「お願いします。」
死がまじかに迫っているにも関わらず、男性は残った時間を今までと同じように過ごすと決めた。
普通ならば、自分の為に残りの時間を活用はするだろう。
だが、男性には自分の為にという生き方を選ばなかった。
その夜、男性はマンションの自室で何かを探していた。
そして戸棚の引き出しから大量のノートを取り出すと、その中の一冊を手に取った。
表紙には『2014年11月13日~』と書かれていた。
男性はそこに新たに『2018年』と書き足した。
数ページをめくると、そこには1日1日の日付とその日に何があったのか書かれていた。
日によっては2,3行の時もあれば、1ページ丸々使いきっている日もあった。
「・・・久々に、書くか。」
そう静かに呟くと、一番最後に書かれていたのは『2015年3月25日』の日付の下に沢山の文字が書かれていた。
その次のページに新たに年月日を書き、今日の何があったかを書き始めた。
これは男性が以前書いていた日記だった。
高校を卒業してから、大学に入った際その日何があったかを短くも書き留めるようしていた。
そして大学を卒業を迎えると同時に、4年間続けてきた日記を辞めた。
それは男性が学生の気分を捨て、社会人になるための新たな決意とけじめでもあった。
だが、男性は再び日記をつけ始めた。
理由は、ただ一つだった。
日記を書き終えた男性は次にPCの電源を付けると、とあるサイトへアクセスした。
そこには男性の実名が表示されていた。
開いたサイトは男性が登録していたSNSだった。
今まで男性は何かあると近況を投稿していたが、そこに新たに自分が癌になった事、そしてもう長くない事を投稿した。
書き終えると次は別のサイトへアクセスした。
今度は男性が登録している短文を呟けるコミュニティサイトだった。
そこで先ほどのSNSと同じような文を何度かに分けて書き込んだ。
本命で登録していない分、こちらでは文章はどことなく冗談ぽく書かれてはいるが、自らの死が近いことを書きこんだ。
しばらくするとSNSとコミュニティサイトから他ユーザの通知が届いた。
SNSは実名で登録している分、学生時代の友達も多く登録しており、コミュニティサイトにも友達が登録しているため、本当なのかと言った連絡や心配の連絡が届いた。
仲のよかった友達からは、冗談だろ?やお前が嘘を言うなんて珍しいななど連絡が来たり、メールでの連絡もあった。
男性は1人1人に改めて真実を告げた。
それから月日は早く流れた。
死が一歩一歩近づいているのにも関わらず、男性は今までと同じように通勤し働いた。
休日には、心配した友達と会ったり、普段と変わらず部屋でゲームや読書などをし、天候や体調が良ければ外に出かけ写真を撮ったり自分の趣味の時間を過ごした。
気が付けば余命を宣告され2か月が経った頃、男性は限界を迎えつつあった。
職場でも体調がすぐれない事が多くなり、力が入らず、手元も震えまともに仕事ができなくなってきた。
もう限界と悟った男性は上司に言い、退職をした。
その後は今以上に部屋に籠るようになった。
日記は相変わらず書いてはいるが、その内容は1行、2行が当たり前のようになりつつあった。
1人の時間があまりにも多くなった為、男性は死ぬまでの時間暇を持て余した。
「・・・暇、だな。」
あまりにも暇だった為、男性は部屋の隅の本棚に置いてあったアルバムを手にも取った。
それは男性の小学生から大学生までの卒業アルバムだった。
アルバムを見ると、男性は懐かしい思いと共に昔を思い出した。
無知で無邪気でやんちゃをしていた小学時代。
やんちゃは変わらなかったものの、クラスの人気者で常に友達と遊んでいた中学時代。
ようやく落ち着きを覚え、本など様々な事に興味を持ち始めた高校時代。
そして、社会へ出るための勉強をした最後の学生生活を送った大学時代。
だが、ふと男性はとある事に気が付いた。
中学生の時のアルバムには、クラス写真以外にも男性は何枚か映ってはいた。
友達と共にカメラに向かいポーズを取って居たり、何かを見ている時に撮られたものがあった。
だが高校生の時のアルバムにはクラス写真以外、男性の写真はなかった。
大学生時のアルバムも同様、クラス写真以外男性が映っている写真はない。
それはまるで、男性の存在が学生生活の日常から消えているようなものだった。
男性はここで思い出した。
昔から写真を撮るのは好きだったが、高校生になった時ふと撮るのは好きだが撮られるのを異様に嫌うようになったのを。
もし撮られるのならば、男性が気が付かないうちに撮られたものか、顔が隠れているもしくは隠している時しか撮られることはなかった。
そこで男性はふと、今までの自分が歩んだ道を振り返った。
小学、中学生まで自分がしたことが見つからず、高校生になったら何か見つかるだろうと思っていたが、卒業するまで進路が明確になる事はなかった。
そこで更に大学に進み、今度こそ進路を決めようと思った。
だが、そこでも最後まで自分の夢、したい事を見つける事はなかった。
周りが徐々に内定を貰う中、男性は焦りながら何社か手当たり次第に履歴書を送った。
ただ夢の為、やりたい事の為ではなく、単純に内定を貰い卒業しなければならないだけだった。
自分の為と言うよりかは、ただ単純に周りからの評価や学校側、親に対して申し訳ないという気持ちからだった。
卒業し、内定を貰った会社で働くようになったが、ただただ言われた事、命じられた事をこなしていくだけだった。
男性自身も思っていた。
自分はこの会社だけでなく、社会全体にとってたた命じられたことだけをする機械。
いつでも替えの効く歯車の1つ。
自分が動けなくなったら、捨てて新しいのに取り換えればいいだけ。
夢も目標もない男性にとってはただただそれだけだった。
ただ目の前にあることをして生きてきた。
自分の為だけでなく、誰かの為、何かの為だけに生きてきた。
死をまじかに、男性は初めてそのことに気が付いた。
自分の為ではなく、誰か何かの為に尽くすことが男性にとっての目標であり、生き方なのだと。
だがそれと同時に、それが自分の生き方でいいのか?自分にとっての夢とは?
自分の為ではなく、誰か何かの為に尽くす。
そんな生き方に夢は、希望はあるのか?
「・・・はぁ。ない、な。」
男性はしばらく考え込んだが、結果は1つだった。
男性にとって、それ以外の生き方は思いつかなかった。
「・・・虚しく、寂しい人生、だったかな。」
そして男性は1人、呟いた。
静かな部屋の中、呟いた言葉に返事はなく、虚しく寂しく、だがどこか満足げに満ちていた。
それから数日後、男性は部屋で亡くなっているのが見つかった。
男性は死ぬ事前、自ら役所へ電話し死が近いことを語り様子を見にきてくれるよう頼んでいた。
病院に問い合わせた職員は、確認の為に男性のマンションへ訪れ部屋へ向かった。
そこで男性の遺体を見つけたのだ。
だが職員は奇妙な光景を目にしていた。
部屋の真ん中に和服姿で座ったまま息を引き取っていたのだ。
日本史関連の本が多くあったため、歴史ある和服を身に纏って息を引き取りたかったのだろうかと思ったが、奇妙だったのは顔に狐の面を付け素顔を見せないにしていた。
そして机には遺書と、死の直前まで書いていたであろう日記があった。
最後にはこれまでの人生と自分の生き方、後悔が書かれていた。
『2018年11月15日
徐々にではあるが、自らの死が近いことは察している。
恐らく今日には息を引き取るかもしてない。
ごく普通の家庭で生まれ育った私は、そのうちやりたいことが見つかるだろうと安易に考え過ごしてきた。
だが、最後の最後で私にとっての夢、幸せは自分の為ではなく、誰か何かの為に生きていくことだと死をまじかにして悟る。
その事に気が付いた時には、時すでに遅しだが、私は今までそのようにしか生きていけなかった。
他人から見れば愚かだと思うだろう。
おかしいと思うだろう。
自らを犠牲にし他を生かす事しかできぬ生き方など、私から見ても愚かだ。
それは私自身が、自分自身の存在を消したいと心のどこかで望んでいたからだろう。
だが、それと同時に誰かに自分の存在を認めてほしいと願う気持ちもあったのだろう。
その気持ちは矛盾している。
自分を消したいと望みながら、認め欲しいなどおかしな話だ。
だが、そんなおかしな生き方しか私には出来ない。
他の器用な生き方など出来ないであろう。
いや、もし出来たとしても別の生き方を選択する事はなかったかもしれない。
恐らく、すでに私にとって生きる夢、希望は見えていたのだ。
だが私自身その生き方を否定したかったのかもしれない。
人は生まれながらにして、自分自身の生きる夢や希望を持っているのかもしない。
だがその生き方は、その人にとって否定したいものかもしれない。
その真意は私はおろか誰にも分かるものではない。
だが、その生き方は後悔するようなものだろう。
現に私自身、今まで生きてきた事では後悔しかない。後悔ばかりの人生だ。
もっと勉強してれば、いい学校に行ければ、好意のある異性に告白してみれば、やりたいことが見つかれば、夢があれば、希望があれば、目標があれば、数えただけで切りがない。
振り返れば、後悔しかない人生だった。
だが、悔いはない。自分の為に動いた事など圧倒的に少ないのに、誰か何かの為に尽くせた事は悔いの残らない人生だった。
だから、私は最後の最後まで自分の存在を消し、誰か何かの為に生きよう。
最後の最期で私にとって生きる夢と希望を見つけられるとは何とも皮肉な話しである。
だが、これでお終い・・・』
職員は日記を読み終えると、息を引き取っている男性を見た。
すでに警察に連絡はしたが、来るまで時間はかかる。
職員は生唾を飲み、そっと男性がつけている狐の面を取った。
すでに亡くなっている男性の顔は、どこか満足げに笑っている清々しい笑みをしていた。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
このお話はフィクションではありますが、主人公となった男性にはモデルが存在してます。
ですがモデルとなった彼は癌などにはなって居ません。死んでません。そもそも大学を卒業したばかりの新入社員です。
勿論彼には彼自身の話を聞いて、この作品を書くことも承知してくれましたし、実際に読んでもらいました。
彼は「もし末期癌とかになったら本当にこうなるかもな(笑)」など言ってました。
勿論私としても彼がそうならない事を祈っています。
では最後に、皆さんは彼のように人生を充実させてますか?
夢を、希望を持っていますか?
自分の生きる意味を見いだせていますか?
それが見いだせているならそれを突き通してください。
もっとも、この作品の彼のように、気が付くのが最期にならない事を願っています。