あたしには幼馴染みがいる。不意に呼び出されて仕方無く向かってあげたんだけど……


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冷戦

「一体何の話よ。」

 

 肩を竦めてマフラーに口元を隠すようにして寒さを堪える奏

 本屋に出掛けていた所に呼び出された先は駅

 待ち合わせた場所に赴けばそこで微笑んで立っていたのは幸村

 何故寒い中駅のホームなのか

 何故呼び出されたのか

 わからないことだらけだが、負けるわけにはいかない

 口をついて出た言葉は少々刺々しく冷たく聞こえてしまうものになってしまった

 だが幸村は全く気にした様子もなく、ニッコリと笑う

 

「俺と付き合わない?」

「は?何急に。」

 

 幸村の言葉に呆気にとられた声がポロッと出てしまう

 顔を合わすと突拍子もないことを言いだす幸村に慣れたつもりでいた奏だったがまさかの告白だとは夢にも思わなかった

 何せ奏は他人曰く幸村不信なのらしい

 学校でも二人が揃うとその周りだけ冷たい空気が生じる

 大魔王と陰で言われる幸村

 そんな幸村に真っ向から対峙する奏にも二つ名がある

 大魔王と呼ばれる幸村と対等にやりあう姿から付けられた

 そんな二人のやり取りを見る同じ学校の生徒達は二人は犬猿の仲だと信じて疑わない

 

「付き合うよね?」

「ヤダよ、女子に殺される。」

「付き合って。」

「女子が怖いからヤダ。」

「俺がこんなに頼んでるのに。」

 

 やれやれといった風に肩を竦める幸村に奏の冷ややかな視線が刺さる

 

「とても頼んでる態度じゃねーし。」

「奏だけだよ。俺にそーゆー口きくの。」

「はっ、大魔王が怖くて幼なじみが出来るか。」

 

 鼻で笑う奏と微笑みを絶やさない幸村の周囲から人が遠ざかる

 通勤ラッシュの時間帯程ではないが疎らながらも人の集まる駅のホーム

 電車を待つ時間がこんなにも辛い時間になるとは誰も思わなかっただろう

 幸村と奏のことを知らない人間からしたら余所でやれ、と思うが二人の纏う空気が怖くて誰もそんなこと言わない

 そして二人はそんな周りを気にしない迷惑な二人だった

 

「その割にはすぐ泣くよね。」

「涙脆いんだ。」

「そーゆー所も可愛いよ。」

「へーへー、大魔王様は笑顔が素敵ですよ。あっはっは。」

 

 笑い合う二人

 笑えない周囲

 そーゆーことは本気で違う所でやってほしい

 二人が怖くて、でも話の行方が気になって電車に乗れないじゃないか、とは近くにいた野次馬の一人の心中

 

「…お前さんら、仲いいんか悪いんかはっきりしんしゃい。」

 

 この冷たい空気に口を挟んだ勇者に沢山の視線が集まる

 銀色の髪を持つその男は呆れた様子で溜め息を吐く

 

「あ、仁王。」

「あ、ペテン。」

「周りを見てみんしゃい。ドン引きじゃ。」

 

 二人の知り合いらしい勇者の言葉に冷戦中の二人は首を傾げる

 

「そんな引かれる会話してたっけ?」

「そりゃ大魔王の告白なんて聞きゃドン引きだろ。」

「一途なだけだよ。」

「意味わかんねーよ。」

「一目惚れなんだよ?喜んでよ。」

「お前、一番最初って赤ん坊ん時だぞ?覚えてんのかよ。…ま、大魔王だから何でもありか。」

「うん。」

「うん、じゃねーよ。もー帰ってもいいか?」

「俺と付き合うって言わなきゃ帰さないよ。」

「嫌がらせにも程があんだろ。」

 

 結局勇者も口を挟んでも無駄だと理解したらしく、いや、実際には無駄だと理解しているので小さく肩を竦めて傍観することに決めたらしい

 止める者がいなくなった二人の口論という名の痴話喧嘩は途切れることなくまだまだ続くらしい

 

「じゃ今帰ったら俺と付き合うと見なすから。」

「めんどくせー男に育ったな、おい。」

「だって、奏ったら全然俺の気持ちに気付かないんだもーん。」

「もーん、って似合わねーことすんな。鳥肌が立つ。」

「段々言葉遣い悪くなってってるよ。」

「お前が悪くしてんだろーが。」

 

 傍から聞いていると刺々しく聞こえる二人の言葉だが受け止めている二人は苛立つこともなく淡々と言葉を紡いでいる

 そんな空気を読むことなくダイヤ通りに電車がホームへと入ってきた

 

「あ、電車来たよ。」

「見たい番組があんだけど。」

「知ってる。」

「この大魔王が。」

「ふふふ、付き合ってくれる?」

「まだ言うか。」

「勿論。どーする?」

 

 微笑みを絶やさず奏の次の言葉を待つ

 奏は溜め息を吐くと幸村の後ろに停まる電車へと足を向けて歩きだす

 電車に乗り込む前に足を止めると振り返り幸村を見据えた

 

「…精市が本気なら、付き合ってやるよ。」

「当然だよね。」

 

 幸村は奏の言葉に満足そうに笑うと立ち止まる奏の隣に立ち手を繋ぐ

 その手を引いて電車へと二人で乗り込んだ

 

「あ、じゃあな、ペテン。」

「またね、仁王。」

 

 振り返っていつもと変わらない顔でそう言う奏とその隣で至極嬉しそうに微笑む幸村に小さく返事をする勇者、仁王

 扉が閉まり電車はゆっくりと遠ざかる

 

「…漸くくっついたか…。じゃがなんとも怖いカップルが出来たもんじゃ。」

 

 溜め息を零しながら仁王は遠ざかる電車を見つめる

 二人を少なからず知る仁王からしたら漸くまとまったことに多少の安堵を覚えた

 

「改善されるじゃろうか…?」

 

 冷戦になる最たる理由は奏が恥ずかしさからか素直になれないことだ

 奏の普段を考えてみる仁王

 

「……無理、じゃろうな。」

 

 すぐには無理だろうと諦めの溜め息を零す

 まだ暫くはあの冷たい空気を肌に感じなくてはいけないと思うと疲れる

 だが漸く一歩前進したのだからよしとするか

 そう一人納得して到着した電車に乗り込む

 つい見送ってしまった二人と同じ方向へ向かう電車には慌てて乗り込む人が大勢いて仁王はこっそり苦笑した

 

(大魔王と女帝のカップル、か…。ほんまに怖いのぉ。)

 

 

 

 

 

 

 

(ねぇ、奏。)

(なんだよ。)

(好きだよ。)

(…。)

(奏も俺のこと好きだろ?)

(はっ、自意識過剰やろうめ。)

(ふふふ、照れる奏も可愛いね。)

((頼むから家でやってくれ…!!))


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