西暦2010年、いくつもの国に別れて争っていた世界は、戦乱の世と化していた。幾度となく繰り返された戦いで、たくさんの人々の血が流された。その後、12年間続けられた戦いは、当時最高の軍事力を誇っていた国、『カルディア帝国』の世界統一と言う形で終わりを告げた。終わりのなかった動乱の世は、一つの旗のもとに統一され、人々は一時の平和を手に入れた。だが、その平和は長くは続かなかった。カルディア帝国第四代国王『インペリウム』は、国民に対して重い重税をかけ、一部の政治家や富裕層には保護法をつくって守り、自らの思うがままに独裁政治を行った。さらに、自分に反発する反対勢力の人間などを、暗殺部隊を使って秘密裏に暗殺させ、都合のいいようにことを進めたのだ。しかし、ある事件がきっかけですべてが明るみに出てしまい国民の不満は爆発。それは大きな反乱に発展し、インペリウム政権は崩壊した。その後、新たに民主主義や、憲法、法律が備わった国へと変わっていき、世界はふたたび、ひとときの平和を取り戻した。
カルディア帝国、市帝都ダルナステリア外周の森
「は~……。もうこんな時間か……早くダルナステリアの町まで行かないと」
俺の名前は鷹名瀬月(たかなせらいと)。昔いろんなことがあって、今は世界中を旅して回っている、すなわち旅人だ。予定では夕方にはダルナステリアの町に着く予定だったのだが、途中で財布を落としたり、不審者と間違えられたり、迷子になってた子供を小さな町の交番に送り届けたりしていたら、いつのまにかこんな時間になってしまっていたのだ。
「本当、ツイてないんだよな俺って」
なんて愚痴をこぼしながら、一人森の中の一本道をトボトボと歩いていた時だった。
「ん?あれは、人……かな?」
百メートルほど先に、数人の気配を感じた。だが、どうも落ち着いた様子ではないようだった。
「おいそこの女。このナイフでその可愛い顔をズタズタにされたくなかったら、金目のもんを全部置いて行きな。そしたら命までは取らねーでやるよ」
そう語る男の手には、刃渡り15㎝ほどのナイフが握られている。回りにも似たような風貌の男達が三人ほどいて、男の言う言葉に相槌を打つかのようにケラケラと笑っている。今まで黙っていた少女は、それが終わるのを待っていたかのように、静かだが力強い声をあげた。
「悪いけど、あなたたちに渡せるお金なんか無いわ。お金が欲しがったら自分で働いて手に入れなさいよ」
ほぉ~、ナイフ持ったイカツイ男相手に言うね~と思っていると、どうやら堪忍袋の緒が切れたようで、顔色を変えて怒鳴り始めた。短気すぎんだろお前ら。
「このクソアマァ!優しく言ってりゃ調子に乗りやがって……おいお前ら!身ぐるみ全部剥いでそこに吊るせや!」
その言葉を聞いた仲間たちは、少女に詰めより着ている服を脱がせようとし始めた。
「やめて!ちょっとやめなさいよ!誰か!誰か助けて!」
あ~……助けて何て言葉聞いたら助けないわけにはいかないじゃないですか。全く……厄介事には関わりたくなかったんだけどな。等と思いつつも腹を決めた俺は、フード付きのロングコートを翻しながらその少女のもとへと向かった。
「そこの皆さん、そのへんにしときましょうよ。彼女、嫌がってるじゃないですか」
よく見れば、少女は服を半分ほど脱がされ、上は下着姿にされてしまっていた。俺の声に反応して振り向いた男たちは、殺意丸出しで怒鳴りを越えて叫び始めた。
「なんじゃワレェ!!死にたいんかごらぁ!!」
その声をきっかけに、男たちは懐からナイフをとりだしてこちらに向けてきた。おー怖い怖い。
「まあまあそんなものしまって、平和的に解決しましょうよ」
これは別に俺の身を案じていっているわけではない。この男たちの身を考えて言っていることなのだが、そんなことは気付くわけもなく、
「ぶっ殺せ!!」
その声を合図に、三人の男たちはこちらへ向かって走り出した。
「おら!!」
一人目の男が真っ直ぐに突きだしてきた刃をするりとかわしジャンプ、二人目の男の頭を踏み台にして五メートルほど前に跳んだ俺は少女の正面まで来ると、落ちていた上着を拾って少女に投げると、
「早くそれ着て。こんな所からはおさらばしよう」
できる限り優しく笑顔でそう言うと、彼女のてを引き走り出した。
「待てやごら!!逃げんのか!!」
男たちは、正しく鬼の形相と言える顔で追いかけてきた。面倒な奴等だよ全く。わざわざ殺さないで助けるという選択肢を選んでやったってのに……。
それから10分ほど走り続け、ようやく男たちをまくことに成功したのだった。はあ、はあ、と息を荒げる少女に安否確認もふまえて話しかけた。
「大丈夫?ずいぶん走ったから」
木に持たれ付きながら、その少女は辛うじて笑みを作ると、まだ息づかいが荒い声で言った。
「ええ……大丈夫よ。さっきはありがとう」
「気にしないで。成り行きで助けただけだから」
彼女の笑みに笑みで答えると、持たれかけていた木から背を離し、彼女に言った。
「それじゃあ僕はこれで行くから。道中気を付けてね」
そう言って彼女に背を向けて歩き出そうとした時だった。
「まって!あなた、今日泊まる所とかあるの?」
「え、いや、特には決まってないけど……」
まありに唐突な質問に、馬鹿正直に答えてしまった。さてこれが吉とでるか凶とでるか……
「そうなんだ……あのさ、お礼といってはなんなんだけど、家に泊まってってよ。きちんとお礼もしたいし」
その言葉は、俺の抱えている過去を洗い流してくれるかのような、純粋で優しい言葉だった。三年間旅をしてきたが、こんな想いをするのは初めてだ。
「いや、嬉しいけど、大丈夫なの?ほら両親とかご家族とかにご迷惑なんじゃない?」
俺がそう言うと、彼女は一瞬暗い顔をして、すぐ笑顔を取り戻して言った。
「その点は大丈夫だよ!あ、まだ自己紹介してなかったね。あたしは涼宮梛木紗(すずみやなぎさ)。よろしくね!」
「鷹名瀬月だ。じゃあお言葉に甘えてご厄介になるよ。よろしくね」
差し出された右手に自分の右手を重ね握手をすると、そのままその手を引かれてダルナステリアの町の方へと走り出した。
「こっちよ!さあいきましょ!」
それにしても、さっき彼女が一瞬見せたあの顔は一体なんだったのだろう。手を引かれながら走る俺の頭は、彼女の優しさと、その疑問でいっぱいになっていった。
市帝都ダルナステリア 中央広場
「うわ、すごい人だな。こんな時間なのに」
すでに夜の9時を回っているにも関わらず、広場はたくさんの人で賑わっていた。
「そうでしょ!ダルナステリアは30ある市帝都の中でも一番活気のある町なのよ!」
自慢げにそう話す梛木紗の顔は、先程おいはぎに襲われ、全部ではないものの、服を脱がされると言う屈辱をうけたとは思えないほど輝いて見えた。
「ねえ、なに見てるのよ」
彼女にそう言われ、我に戻った俺の顔は少し熱がこもっていた。ちょっと見とれてたなんて言ったらどうなることか……。
「まあ、いいわ。そんなことより、早くあたしの家までいきましょ!こっちよ、付いてきて」
彼女に言われるがままに付いていくと、大きな門構えのある家のまえでたち止まった。
「ここよ!ここがあたしの家!」
そう言われて門をくぐってみると、そこにはかなりの大きさの敷地に、城の一部かと思わせるほどの屋敷が建っていて、風情ある石灯籠が、淡い光を放っていた。それはまるで、古き良き和風旅館のような感じだ。
「凄い家だね。これ全部君の家?」
「エエそうよ。凄いでしょ!」
そう言われて改めて見てみると、確かにこれは凄い。ここまで大きくて、なおかつ手入れがなっている屋敷を見たのは久しぶりだ。
「ああ。本当に凄いよ」
真面目に感心していると、梛木紗は嬉しそうにウンウンと頷きふたたび笑顔に戻ると、
「それじゃあ部屋に案内するね」
そう言って部屋へと案内してくれた。
部屋に荷物などを置き終えると、梛木紗が夜食を作って出してくれた。雑炊とお茶という質素な食事だが、体の芯から温まる料理だった。
「美味しかったよ。ご馳走さま」
「うふふ。お粗末様でした」
夜食を食べ終えた俺は、先にお風呂を頂き、寝床に就いたのは夜中の12時を回った辺りだった。
「さてと。時間も時間だし、そろそろ寝るか」
明日、改めてお礼を言おう。そして、何か大変なことが起こる前に立ち去ろう。梛木紗はとてもいい人だ。だからこそ、ヤバイことには巻き込みたくない。そんな風に考えていると、次第に視界は眩み、珍しく深い眠りについた。
ーーーー同時刻
仏の間には、ろうそくの仄かな光だけが灯っていた。仏壇の前に正座して、手を合わせる。これが梛木紗の毎日の日課だ。
「お父さん、お母さん。今日ね、おいはぎに襲われてい所を、鷹名瀬って言う親切な人に助けてもらったの。あたしは大丈夫よ。どこも怪我してないわ」
それから10分ほど、父と母の遺影を前に梛木紗は寂しくも嬉しそうにそう話した。
「じゃああたしもそろそろ寝るわね。それじゃあお休みなさい。二人とも」
そう言うと、部屋に灯っていたろうそくの灯りを、名残惜しむかのように静かに吹き消した。
いかがだったでしょうか。楽しく読んでいただけたのならとても嬉しいです。前書きでも言ったように、アドバイス、感想をお待ちしております。それでは今後ともよろしくお願い致します。