いつしか後ろを追いかけていたフランク達はすでに気配が200メートル圏内にはいなかった。そして俺の目には、一際目立つ大きな建物が見えてきた。中央に見える大きな時計台が、その存在感を引き立てている。
「待ってて梛木紗さん。今いくから」
そう語る彼の背中からは、優しい喋り方とは裏腹に、その場の空気を凍らせるほどの殺気が渦巻いていた。
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私がコイツらに捕まってから、すでに二時間がたった。相変わらずやつらは警備隊との交渉を行っている。だが、その交渉も、あまり力を入れて行っているようには見えない。リーダー格の男、最初に私に接触してきた男だけど、持っている日本刀をいじっているだけで、交渉はすべて部下らしい男たちにやらせている。いったい何がしたいのか全く不明だ。
「ねえ、あなた……名前は?」
さっきから刀をいじっている男にそう聞いてみる。それにしても、今時刀を使うというのは珍しい。月も刀を持っていたが、この男もよほど剣に自信があるのだろう。警備隊は銃で武装しているし、部下たちも銃を持っている。剣で銃に勝てるとは思えないのだが……
「おっ、やっと俺に興味を抱いてくれたのかなぁ~?いや~嬉しいねぇ~」
依然としてこのムカつくしゃべり方は変わらない。
「そうだな~、ブラック・イェーガーとでも名乗っておこうかなぁ~」
ブラック・イェーガー……明らかに本名ではないだろう。気にはなったが、話しを続けさせてもらう。
「なんで剣を、しかも日本刀を?確か日本はもう大陸ごと無くなったはずじゃないの?」
そう言うと突然ニィ~と笑い、さっき鞘に納めたばかりの刀を再び抜き放った。
「単に日本刀が好きなだけだよ~。こいつは『へし切り長谷部』って言う刀でさぁ~。よく切れるんだよ~これ」
よほど刀が好きなのか、楽しそうに自らの愛刀の話を始めた。だが、それを打ち止めるように部下の一人が部屋へやって来た。
「隊長、北口に配置した仲間が無線に応答しない。もしかしたら……」
「あぁ~。ヤツが来たようだねぇ~。鷹名瀬ぇ~」
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廊下を全力で走る俺は、走りながら気配を探していた。時計台のある方から数人の気配を感じるが、その中に梛木紗さんの気配はない。
「っ!……前から二人……」
それを感じ取った瞬間、俺は背中に帯刀した刀を高速で抜刀し、通路を曲がろうとしている二人に向かって突進していった。
「うわ!誰だ!」
気がついた一人が声を上げる。だがそれとほぼ同時に俺の刀は敵の小銃の薬室部分を捉え、マガジンごと切断する。ついで刃を返し、首もとに峰打ちを放ち、意識をうばう。もう一人も同様だ。
「これで6人か……梛木紗さん…どこにいるんだ」
刀を鞘に戻しながらそう呟いていると、学校の南側、丁度音楽室があるところから、微かに梛木紗の気配を感じた。
「そこかっ……」
通路を迂回すると時間がかかるので、窓を破壊して中庭に出る。そこからはただ全力疾走、外から聞こえる交渉の声も、集まった民衆の声も、俺の頭には一切届かなかった。
恐らく一分ほどの時間がたっただろうか、音楽室のある棟に着くと、そこから、これまでとはうって変わってひときわ強い殺気を感じ取った。
「コイツ…何処かで……」
どこか覚えのある気配に、正直警戒せざるを得ない。だが、梛木紗さんはそこにいる。ここで引き返すわけにはいかない。ドアを開け、なかに一歩踏み込む。そこには、10人ほどの男たちが、小銃を手に待ち構えていた。
「多いな……少し手間取りそうだ」
そう言って俺が刀に手を伸ばそうとした時だった。
「いくらあなたでもこの人数をやるのに3分はかかるわ。ここは私に任せて行って、月」
どこからともなく声が聞こえてきて、男たちはあわてふためき視線を右住左住させている。天井から垂れ下がっているシャンデリア、その上に声の主はいた。いったいいつからいたのか、全く気配が感じなかった。それは紛れもない、今朝から姿が見えなかった輝坂彩芽その人だった。
「彩芽、大丈夫なのか?」
俺が心配したのは、しばらく剣を抜いていないという彼女のブランクだ。だが彼女は偽りでない自然な笑顔を見せながら、シャンデリアを飛び降りた。
「これくらい、感を取り戻すのには十分よ。ちゃんと梛木紗さんを助けなさいよ。ライバルがいなくなったら張り合いないんだから」
そう言って彼女は、愛剣であるエストック、閃光刃ファルシオンを抜き放ち、敵陣の中央へと突進していった。
室内には、高々と多数の銃声が鳴り響きだし、戦闘が始まった。
「任せたぞ!」
この場を彩芽に任せ、螺旋状に延びる階段を全力でかけ上がった。そこまで来て、敵もこっちの気配を感じたのか、殺気が一段階強くなった。
「やっぱり、何処かでこいつに会ったことがある。だがどこで…」
間違いない。俺はこいつと何処かで会っている。だが、どうしても何処で会ったのか思い出せない。
警戒を解くこと無いまま、扉を開けてなかを覗くと、そこにはロープで腕を縛られ、椅子に座らされている梛木紗がいた。
「梛木紗さん!」
持っていた刀を鞘に納め、梛木紗のもとへ駆け寄る。
「ダメ月!!こっちに来ちゃ!!」
どことなく苦しそうなその声にハッと気付かされた。男の気配が真上から感じたのだ。それに気が付いた瞬間、俺は右足に力を込め前方方向にローリングした。次いで男の持つ大降りの刀が、木のフローリングに刃をめり込ませた。
「あれぇ~はずしたか~。いい線いったと思うんだけどなぁ~」
その男は長身で長い金髪の男だった。
「…誰だ、お前は……」
自分でもわかるくらい、自然に目付きが鋭くなっていく。
「おお~怖い怖いぃ~、まあ落ち着いてよぉ~。俺の目的は君なんだしさ。せっかく久々に会えたんだからぁ~。もう少し昔ばなしに酔いしれようよぉ~」
「……昔ばなしだと?」
そう言うと、男は刀をペロリと舐めながら、ニヤニヤし始めた。
「あちゃ~忘れちゃったか~。ほらほら、あのとき君は陸軍参謀様を殺しにいったでしょ?レオン・トレック・ダニエルのことだよ。俺さぁ~あいつの護衛をしてたんだけど、君らにまんまと殺されちゃったんだよねぇ~」
そういいながら、その男は服をまくり、腹部を見せてくる。
「その刀傷……その気配……お前、レイニー・カーターか……!」
俺がそう言うと、テンションが上がったのかにやけ面は最高潮に達していた。
「そうだよ!ようやく思い出したか!あの時は痛かったよぉ~?君につけられた傷のせいで、俺は仕事をやめざるを得なかった」
突然カーターの喋りが普通にもどり、ついで目付きと殺気が鋭くなっていく。
「あのときは負けたが、今回はそうはいかない……ぶち殺してやるぞ!!鷹名瀬月!!!」
突如はち切れんばかりの奇声を上げたカーターは、刀を上段に構え、体重を乗せた形で降り下ろしてくる。
「ッ……!」
とっさに反応した俺は、左手に持っていた刀を鞘から引き抜き、縦降りの刀に45度の角度で切り結ぶ。この角度が、体重を乗せた斬激の重さを分散し、片手で両手の刀を簡単に受けれるのだ。
だが、カーターはそんなのはお見通しとばかりに刀から左手を離し、腰の鞘から短刀を抜き放ち俺の首もとを狙う。
「くっ……らあ!」
カーターのその動きに合わせ、左手に持っていた鞘で手首を狙い、上手く弾き飛ばすことに成功する。だが、俺はここで、左太ももに鋭い痛みが走ったのを感じた。切り結んでいた状態から2歩ノックバックし、太ももを確認すると、そこには数センチほどのナイフが刺さっていた。
(クソッ……いったいいつの間に……)
険しい表情を見せる俺を見て、カーターはニヤニヤ、ゲラゲラと、愉快そうに笑い始めた。
「あっは~!いいねぇその顔!!そう言うのが見たいんだよそう言うのが!付け加えていっておくと、そいつには毒が仕込んである。まあそれはただの麻痺毒だ。だがこっちは違う」
そう言って男は、小型の圧力注射器を取り出した。中身は入っていないようだ。ならなぜそんなものを……。
「これには、殺傷性の高い神経毒が入っていた。では中身はいったいどこなのでしょうか?答えは簡単。その女の中だ」
カーターの発した言葉に、俺は愕然とした。次いで梛木紗の方を見ると、大量の汗をかき、とても苦しそうにしている。
「貴様ぁ……!」
口調が変わっている。自分でも分かる。昔の、あの頃の俺が戻ってきている。いや、正確にはこの男に戻させられているんだ。この男は、俺が殺気だって声をあげる度に、快感にさいなまれたような顔をする。ぶっ壊れてやがんのかよ……こいつの頭は……!
「まあ心配するなよ。ここに解毒剤がある」
そう言ってカーターは、大きめのカプセルに入った錠剤を取り出した。そしてニヤリと笑うと、それを口に放り込み、ごくりと飲み込んだ。
「3分だ。それが過ぎたら女は死ぬ。その女を助けたいなら、俺を殺すんだ……でなきゃその女は死ぬよ……どうするんだ?鷹名瀬月さんよぉ~」
カーターの挑発じみた言葉を聞き終えると、愛刀の虎鉄を強く握り直し、刃を上にし、刃先を突き出すように両手で構えてそれに答えた。
「決ってんだろ~が……お前を殺すんだよ!!!」
俺は、型を崩さないまま両足に力を込めると、足元に小さなクレーターができるほどの勢いで、刀を構え直すカーターへと向かっていった。
今日俺は、再び人を殺す。
いかがだったでしょうか?楽しんで頂けましたか?もし楽しんで頂けたのなら幸いです。感想、アドバイス等をお待ちしております。誹謗中傷等意外でしたら大歓迎です(笑)それでは、第六話でお会いしましょう。