途中オリジナルや、サブストーリーの場所などが異なったりしますのでご容赦ください。
また、今回の話は非常に長くなっておりますのでお時間がたっぷりと有り余っているときにお読みください。
それではどうぞ。
side:フィオナ
「アスベル!何で私のこと置いていっちゃうのよ!」
立ち上がったシェリアが少年たちに声を怒りを爆発させる。
アスベル…確か、シェリアの幼馴染みといっただろうか。それに隣にいる青い髪の男の子が弟のヒューバート…だろうか。あの髪の長い女の子はシェリアの話では出てこなかった。
「あ!こら逃げるな!今行くからそこにいて!動いちゃダメよ!」
そしてまた急に走り出す。
けれど段々とその足取りは重くなり、ついには走り出して間もないところで立ち止まってしまった。
「…っもう」
「おい、大丈夫か!?」
辛そうなのが見ていられなくてシェリアの傍まで駆ける。同時にアスベルたちも心配で駆けてきた。
「ダメだよシェリア。貴女のことは貴女がよく知っているでしょう?負担をかけるようなことは避けないと。」
激しく息切れを起こすシェリアの前に立って、橋の上でしたように少しばかりの黒い
「ありがとう。またあなたに助けられたね。」
「もっと自分の体を考えて。貴女のものなんだから。」
うん、とシェリアは頷いた。
そしてアスベルたちに向き直ると腰に手を当て怒り出した。
「あなたたち、彼処へ行ったんでしょう?どうして呼んでくれなかったの!?」
「あ、彼処って?」
「とぼけないで。裏山にある一年中花が咲いている場所よ。行くときは私も行くってあれほど約束したのに……」
…一年中花が咲いている場所?
それはどんなことがあっても不可能だと思うけど…
でも、アスベルの手に握られている『クロソフィ』がその場所の存在を示している以上、間違いはないのでしょう。温暖なこの時期には咲かない筈のクロソフィが咲いているのは、きっと
「だってお前をつれて行ったら、絶対疲れて歩けなくなるだろ。そうなったら、どうせ俺がおんぶすることになるんだ。」
「それで怒るんだよね。『おんぶされるなんて嫌!』って。」
「優しいのね。あなた。」
「そんなことないのフィオナ!それに、それはアスベルのおんぶが下手だから…!っげほっげほっ!」
再び咳き込むシェリアの背中を優しく摩る。私の
「言わんこっちゃない…ほら、おぶってやるから。ヘタかもしれないけど、我慢しろよな。」
シェリアの前にアスベルがしゃがむ。顔を傾けてシェリアの様子を伺う様子は、本当に心配していることがわかる。
…本当に仲が良いのね。
「ひ、一人で歩けるってば!」
頬を紅くしながらシェリアが言う。
仲のいい友人、か…。
「あれ?そういえばあの子は?」
「…あの子?」
あの紫髪の子の事だろうか。
北ラント道への門を見ると微動だにしない女の子が突っ立っていた。
…ん?あの子、なんだか少し…
「あっ!まだあんな所に…ヒューバート、連れて来てくれ。」
「う、うん。」
小走りで走っていくヒューバート。
さて、とアスベルは私たちに向き直る。正確には私に。
「で、お前誰だ?どこから来たんだ?」
「この子はフィオナ。出身は…」
「同じウィンドル。バロニアよりもずっと北の森の奥…」
遺跡を越えた先にある、と言い掛けたところでヒューバートが女の子の手を引いて歩いてくる。
…この子、少しおかしい。具体的な事は言えないけど、
…気のせい、かな。
「お前何でこっちに来ないんだ?」
「動くなって、聞こえた。」
アスベルが問い掛けると少女は瞬きをひとつする。
表情が読み取れない顔。私と似たような子…だろうか。
「ねえ。この子誰?」
「花の咲いている場所にいたんで、連れて来たのさ。」
「なによそれ……」
シェリアは呆れた声をあげる。確かにそこにいただけで連れて来ると言うのも如何なものだと思う。
そっと女の子に歩み寄るシェリア。すると女の子の全身を見たり背を測ったり、それが終わるとアスベルの方を向いて少し不貞腐れた。
「シェリア、そんなににらむなよ。女同士、仲良くしてやってくれ。フィオナ、お前も。」
「…………むう。」
「…私も?」
首を傾げた。
私は長く滞在する気は…
……。
そういえば、さっき決めたんだったか。
「ところでアスベル。さっきから手に持っているものは何?」
「えぇ!?」
「わあ…きれいなお花…!」
間髪入れずにアスベルへと詰め寄り、まじまじと花を見つめるシェリア。
「もしかしてこれ…私にくれるつもりで採ってきた……とか…?」
「いや…それは…」
まあ弁明しにくいだろう。上目使いで期待してるシェリアの顔見たら『違う』なんて言えないと思う。
私は言うけど。
そっと耳打ちするヒューバート。
多分内容は「そういうことにしておこう」って言うものだと思う。
「まあそんなとこかな。」
「アスベルったら…」
ほらやっぱり。しかもやや声上擦ってるし。
シェリアは嬉しそうだから良いかもしれないけど。
「いいわ。この花に免じて今回の事は特別に許してあげる。」
脱力するアスベル。機嫌がよくなってほっとしたのだろうか。男の子という生き物は、大変な生物なのだな。
「これ、クロソフィの花ね。こんな季節に咲いているなんて…あの話は本当だったのね。」
「ああ。いろんな花がどっさり咲いてたぞ。」
「へぇ……」
嬉々として語るアスベルに花に見とれながら聞くシェリア。そんなに貰った花が嬉しいのか?
…何故?
「シェリアってば、兄さんに花をもらってよほど嬉しいんだね。」
「…嬉しい?」
女の子は自分が持つクロソフィと喜ぶシェリアを見比べる。
そして彼女はすたすたとシェリアの後ろまで歩むと左手に持つクロソフィを突き出した。
「え…?あなたもくれるの…?」
驚きながらも尋ねたシェリアの言葉に、彼女は力強く頷いた。
…喜ぶから花をあげたのか?
「あ、ありがとう。あなた、いい人なのね。」
微笑みながら少女から花をもらうシェリア。
「嬉しい……」
少女は呟いて少し目を伏せた。少しでもその気持ちが理解できたのだろうか。
それより、この子の格好は私より変わってる気がした。私のは里の文化とこちらの文化を掛け合わせているから少し変わってる程度だけど…この子の服装は目にしたことがない。もしや、フェンデルの服装だろうか。
「ねぇあなたの名前は?どこから来たの?」
さっきアスベルが私に訊いたことをそのままシェリアは少女に問う。
少女は微動だにせずこちらを見つめているばかりだった。
「それ、俺たちもさっき聞いたんだけど…」
「この子、記憶喪失みたいなんだ。」
「それは大変ね。で、何故あなたはこの子を連れて来たの?」
「えっと…街に連れて来たら何かわかるかもしれないと思ったんだ。」
成程、記憶を刺激して思い出させようってことか。
でも其れをするにはこの子の出身の街と多少似ていないとあまり効果がないような気が……
「ねえ君、街の様子を見て何か思い出すことはある?」
訊かれた少女は辺りを見回してみる。
広場である此処からは見渡せば、左手に風車や民家、右手に商店街が見える。
そして一通り見た少女は首を傾げた。
「だめか。色々な人に話を聞いた方がいいかな。」
「それなら私のおじいちゃんに聞いた方が一番いいと思うわ。街の人のことだったらたいてい知っているはずだから。」
シェリアのおじいさん、か。
確かに年配の方は長く住んでいるから色々なことを知っているし、宛になるか。
「うんそうだな。フレデリックに聞いてみよう。」
うん、とヒューバートとシェリアが頷く。
「よし、それじゃあ俺の家に行こう。ほら、二人も。」
私も?
この子はともかく、私も巻き込まれるとは…
まあこの後の予定は特に無いし、付き合うのも悪くはないか。
「…判った。力になれるなら良いけど。」
少女と共にアスベルたちの後を追う。
____________________________
______________
______
.
「ねえ兄さん、さっきから気になっていたけどこの子は?」
私のことを疑問に思ったヒューバートは何故か私じゃなくアスベルに聞いていた。
「ん?こいつはフィオナ。あ、俺はアスベル・ラント。こっちは弟のヒューバート。もしかしてシェリアから聞いていたか?」
「うん。あなたたち、アストンさんの息子さんだったのね。知らなかった。」
父親の名前を聞いた途端、アスベルの表情が少し変わった。嫌な名前を聞いたかのように。
「…お前、親父の知り合いだったのか。」
「知り合いと言えばそうだけど…三年前に、ちょっとね。」
話せば長くなるだろうから今は止めておく。それに、今聞いたところで大してわからないだろうから。
「フィオナは今何才?年上みたいな感じするけど…」
「シェリアとアスベルと同じ十一才。…年上に見えるの?」
「なんだろうな…雰囲気とかかな?親父たちとかに似てるような気がするんだ。」
すると今度の質問の矛先は少女へと移る。
「お前は何才なんだ?俺たちより上に見えるけど…」
「いくつかな…えっと…十四?」
「そうなのか?」
すると少女はボーッとしてしまった。
「お前…本当に年上か?フィオナの方が上に見えるぞ?」
それでも少女はボーッとしながら着いて来ていた。不思議な子だ。
「そうだ、フィオナはなんでラントに?変な格好してるけど。」
「旅の二週目なの。三年前に旅を始めて…それから二週目。世界を見て回りながら修行しているの。まあこのローブを取るのは基本寝るときだけだから…」
「旅、か…いいな。親父に言ったら絶対に殺される。」
親に反対される、か。
可愛い子には旅を、とは言うが一般的な親ならば子どもだけでの旅はさせないものなのだろう。
「それで、ラントに来たのはアストンさんに用があったのもあるの。終わったらすぐに発とうと思ったけど…手伝う約束をしたからまだいることにした。」
そう告げるとアスベルはにかっと笑った。
彼も私の旅の話を聞きたいのだろうか。そんなに面白いものじゃないと思うけれど…。
「兄さん、さては悪巧みしてるな?」
「そ、そんなことないって!」
…何考えてたのだろうか。
まあそれはさておき、もう視界には一際大きな屋敷が映る。ラント領主の屋敷だ。
(此処に来るのも三年振り…ならシェリアのおじいさんのフレデリックはあのフレデリックか。)
屋敷の庭が見えてくるとアスベルは花の手入れをしていたフレデリックの下へ駆けていった。
相変わらず綺麗に咲き乱れる花々。アストンさんとケリーさんが好きなんだったか。
アスベルの足音に気づいたフレデリックは私たちの方へ振り向く。
…今
被っていたローブのフードを一層深く被る。
「…フィオナ?」
「気にしないで。」
シェリアの後ろに隠れるようにしてフレデリックに近づく。
「お帰りなさいませアスベル様、ヒューバート様。」
「ただいまフレデリック。」
シェリアに気付いたフレデリックはため息をつく。
「……シェリア、姿が見えないと思ったら…」
「ごめんなさい。おじいちゃん。」
「申し訳ございませんアスベル様。アスベル様に迷惑をかけてはならんとあれ程……おや?」
「……っ」
シェリアの後ろの私の存在に気付いたのか、フレデリックが声があげた。
…気付かれたな。
「これはこれは!フィオナ様ではありませんか!背も大きくなられて!アストン様とケリー様もお喜びにられるでしょう!」
「…フレデリック、お久し振りです。変わらずお元気にしていて何よりです。アストンさんとケリーさんは中においでですか?」
諦めてシェリアの影から出て、フードを取った。
「ええ。お陰さまで。アストン様とケリー様は屋敷内に居ります。アストン様にご連絡いたしましょうか?」
「それは後でで構いません。まずはアスベルの用事を優先にしてくれると嬉しいです。」
「なあフレデリック。この子に見覚えないか?」
「こちらのお嬢様でございますか?」
アスベルの隣にいる少女に近づいてよく観察するフレデリック。
暫く観察してみるものの、しっくりはこないようだった。
「ふむ……残念ながら申し上げませんが……」
「おじいちゃん。この子、記憶喪失なんですって。」
「記憶喪失…?それは…困りましたな。もしよければ
「いや、俺たちが行くよ。みんな、街へ…っとその前に、フィオナの用事が先か?」
「…待たなくても結構よ。」
「いや、一応俺たちも着いて行くよ。何するか楽しみだから。」
フレデリックに確認のため見ると、笑って頷いていた。
まあ、あまり面白くはないと思うけど。見たいなら、止める必要もない。
「それでは皆様、参りましょう。」
「シェリアはどうする?面白いものでもないと思うけれど…」
「ううん。仲間はずれは嫌だもん。私も行くわ!」
そうして私たちはフレデリックの後に続く。
アストンさん、元気でいるかな……
_____________________________
_______________
______
.
「アストン様。嬉しいご来客でございます。」
「俺に来客だと?突然だな…」
書類を読んでいたアストンさんはフレデリックの言葉で、書類から目を離した。
そしてフレデリックのすぐ後ろにいるアスベルやヒューバート、シェリアを見てため息をついた。
「まさか、お前の後ろにいる子どもらではないだろうな?」
「アスベル様たちではなく、あの方ですよ。」
フレデリックが体を少し傾け、私が見えるようにする。
するとアストンさんは椅子から勢いよく立ち上がった。
「なんと!フィオナ殿か!」
「お久し振りですアストンさん。お元気でしたか?」
「こちらは変わりはありません。三年振りですか。背も大きくなられましたね。」
「ええ。フレデリックも言うのですから成長したのでしょう。」
お互いに歩み寄って固い握手を交わす。
その様子をアスベルたちは不思議そうに見ていた。
「あの…アストン様、フィオナは一体…?」
「なんだ、知らないのか?フィオナ殿はウィンドルの秘境に住むと言われ、ウィンドルの中にあるにも関わらず独自の文化などを持つと言われる『エルシェ族』の次期長だ。その里は隔離されているが故、完全な一独立国家。その長と言えばこの国の王にも等しいのだぞ。」
「ええ!?国の王様!?」
ヒューバートが驚いて大声をあげる。
アスベルはキョトンとした顔で、シェリアは口許を押さえ、少女は首を傾げていた。
「そんなに大層なものじゃありません。それに今の私は修行中ですから。だから此処に来たんです。」
「ああ、三年前の約束ですか。」
私は強く頷く。
三年前…最後に此処を発つときにアストンさんと約束したことがあった。
「次また訪れたときに手合わせをしよう」と。
「それでは、庭へ参りましょうか。アスベルたちは部屋で待っていればいい。」
「いえ、彼等の同席を許して貰えないでしょうか?彼等には面白いものではないと言いましたが、見たいと言うので。」
「フィオナ殿が構わなければ異存はありません。」
私はアスベルたちを見て頷いた。
アスベルは嬉しそうに笑った。
さて、これからのことを見てどう思うかな。
アストンさんを先頭にして執務室を出ていく。
「あの…フィオナ…様?」
「シェリア。…そういう態度を取られるの、あまり好きじゃないの。」
「そう…ごめんねフィオナ。」
「俺はそのつもりだったけどな。」
へへへっと笑うアスベル。これからが楽しみなのか?
さて、気を引き締めなければ。
庭へ着いた私たちは、私とアストンさんは噴水から一直線のところである程度の間を空け、その間にフレデリックが立ち、屋敷のドア付近にアスベルたちが立っていた。
「それでは、こちらをどうぞ。」
フレデリックが私たちに木製の武器を渡す。アストンさんは木刀、私は環状の武器を持った。
「確か、本物は「乾坤剣」と言いましたかな?」
「ああ、此れですね?フレデリック、ローブと輪廻剣をお願いします。」
「お任せください。」
ローブと乾坤剣をフレデリックに預け、彼が下がったのを確認して私たちは構えた。
「まさかフィオナ、親父と剣の相手をするのか!?」
「それ以外に何があるのだ。アスベル、よく見ているといい。お前の剣術じゃ、まだまだってことをな。」
「では、始めましょうか。三年前のように、手加減はいりませんので。」
そう言って私は彼目掛けて走り出す。
私の武器…乾坤剣は二輪で一つの私だけの武器。武器の回りの
私の初手を見抜いたアストンさんは直ぐ様後ろへ下がり、防御の姿勢へと入る。見事に真っ直ぐ飛んでくる乾坤剣を弾くと、今度はアストンさんが攻撃を仕掛けてくる。飛ばした乾坤剣が返ってくる間を使った、見事な戦術と言える。
(上段の構え…下手に受けるより避けた方がいいか。)
私は地を勢いよく蹴り、体を宙へ浮かせてそれを回避する。そして戻ってきた乾坤剣を再び持ち直す。
これでお互い、最初の位置に戻ったことになった。
「相変わらずお強いですねアストンさん。感服する他ありません。」
「フィオナ殿も背だけでなく、剣術や
お互い息切れひとつなく再び構える。
次に仕掛けてきたのはアストンさんだった。
次々と繰り出される斬撃。縦、横斜め、フェイントで裏拳…それらの合間に私も乾坤剣の一つを操り、もう片手で防御や攻撃をしていた。
「隙を見せないその姿勢!三年経っていても衰えていない様で安心致しました!これならば安心して貴方と剣を交えられるというもの!」
「当然です!三年前、私どもが止めても聞かず歩まれて行っただけのことはある!貴女がこれ以上強くなっていくことに楽しみすら覚えますね!」
激しい攻防の最中、そんな会話をしていた。
互いに手を抜かず、真剣勝負。一歩
ステップで互いの攻撃を避け合い、踏み込み、スレスレでかわしきる。たまに武器でなく拳も出してくる彼の攻撃を片腕で受け流す。
乾坤剣を両手の先に浮遊させ、体ごと回転させた乾坤剣での回転攻撃をアストンさんは木刀を斜めにして受け流し、縦斬りを構えた。
「もらったぁぁぁ!!!」
「掛かりましたね!!」
スッと体を屈ませて体勢を低くした私は、屈ませたと同時に後ろに引いた左足を半円を描くように勢いよくアストンさんの両足を弾くように蹴る。
「なっ!」
体勢を崩したアストンさんの一瞬の隙でひとつの乾坤剣の刃先を彼の首元で止める。
これで勝負はあった。
「…また、引き分けですか。」
「ええ。少し危うかったですが…」
私の勝利は目に見えていた。
だが、その油断が引き分けを招いてしまった。
「申し訳ありませんアストンさん。蹴った足首は大丈夫ですか?」
「勿論…と言いたいところですが、少しだけ痛めたようです。」
上体を起こしたアストンさんの足元に私はしゃがんで、両手を
そう、
これを使えるのは中々いない…今のところは、私だけだ。
「すげーフィオナ!お前、騎士よりも強いのか!?」
「騎士と戦ったことはないからわからない。」
興奮冷め止まず、といった様子で駆けてくるアスベルに拍手するシェリアとヒューバート、フレデリックと共にゆっくりと歩いてくる少女。
翳した手を引いてアストンさんの足首の様子を見る。少し腫れていたのが無くなっていて、完全に痛みは引いたようだ。
「痛みはありませんか?」
「ええ、問題ないですよ。ありがとうございますフィオナ殿。」
私の差し伸べた手を取り立ち上がるアストンさん。
私たちはとても清々しい気持ちで一杯だった。
「フィオナ様、これから如何致しましょうか?」
「これからは…アスベルたちの手伝いをして、それからラントの宿に泊まる予定です。」
「窮屈ですが、ラントを発つまでは家にいらしてはどうですか?アスベルやヒューバートも喜ぶでしょう。」
二人が喜ぶ、か。何で喜ぶのかが私にはわからない。
ちらと二人を見やると何故か期待した目で私を見ていた。
「…では、お言葉に甘えさせていただきます。フレデリック、預かってくれてありがとうございます。」
フレデリックからローブと乾坤剣を受け取る。乾坤剣はズボンのベルト部分にぶら下げるためのフックに引っ掛け、その後にローブを羽織った。
「では、日が暮れる頃にはお戻りになってくださいませ。」
「うん、わかった。それじゃあみんな行こうぜ!」
真っ先に駆けていくアスベル。その後を追いかけるシェリアたち。私はアストンさんたちに一礼してから、彼らを追いかけた。
side:アストン
「フィオナ殿も立派になられた。アスベルたちが何処へ行こうと、一先ずは安心していられるな。」
「ええ、全くでございます。」
息子の後を追う幼い筈の少女を見送りながら、俺達はそんなことを話していた。
俺はあのときフィオナ殿の首元に木刀の先を向けなければ、完全に彼女の勝利だった。
大人の意地として、まだ彼女に勝たせるわけにはいかなかった。何故なら今勝たせてしまうと油断しやすくなるかもしれない。一瞬の隙で彼女の命を散らせたくはないと思ったのだ。
「さて、俺は公務へ戻るが、フレデリック、お前はケリーにフィオナ殿が来たことを教えてやってくれ。」
「かしこまりました。」
そういえばあの少女は誰だ?それに午前からあいつらの姿が見えなかった。
(…さては、裏山へ行ったんだな。)
あれ程駄目だと言ったものを…
帰ってきたら、少し灸を据えねばな。
side:フィオナ
「ねぇアスベル。今の人は誰?」
「ん?フレデリックの事か?」
屋敷の庭を少し出た辺りで少女は尋ねた。
それにしても何故フレデリックだとわかったのかが不思議だ。
「フレデリックはシェリアの家族だよ。」
「家族って?」
「家族は家族だよ。親父や母さんや兄弟とか。お前にもきっといると思うぞ。」
「それは、わたしにとって大切なの?」
「そりゃあそうだよ!家族だからな。」
「アスベルにとっても?」
「そりゃあもち……」
勿論、と言おうとしたアスベルは急に俯いた。
何だか悲しいようで、不思議がっているように見えた。
「アスベル?どうかしたの?」
「どうしたの?」
私と少女の問いかけに、アスベルは俯いたままだった。
「どうだろう……親父や母さんは……俺が好きなのかな?」
「さあ、わたしにはわからない。」
「お前なんかに聞いてない!」
怒り気味の口調で少女に反抗するアスベル。
家族は、きっと大切なものなんだと思う。
「アスベルは、家族が好き?」
「まあ…一応…」
私の問いに少しの落ち込みを見せながら答えてくれた。
なら、答えは決まっていると思う。
「自分が家族を好きだって思うなら、相手も同じなんだと思う。私にはその感情がどのようなものなのかわからないけど…きっと、家族もあなたが好きなんだと思う。」
「そう、かな?」
「きっとね。あまり気にしてたら良くないこともあるから、気にしない方がいい。」
「それで済む話なのかしら?」
シェリアが不思議そうに私を見つめる。
そう言うことにしておこう、とだけ私は言った。
そういえばこの少女は記憶喪失なんだっけ。名前も思い出せないくらい酷いっていう…
「あ、バリー!なあ、この子見たことないか?」
橋の上にいる男の人に、アスベルは少女の手を引いて駆けていった。
「切り替えが早いのね。」
「まあ、良いことでも悪いことでもあるんだけどね…ほら、兄さんはよく父さんに怒られるんだけどその度に同じようなことをしてまた怒られるんだ。」
まあ、性格は様々か。
長所でもあり短所でもあるのね。
「西ラント道の小屋に、ストラタの旅人が来てるらしいぜ。知り合いの可能性があるから、行ってみないか?」
「え…でも、西ラント道は
「大丈夫だって!いざとなればこいつやフィオナもいるし、ひとまず安心は出来るだろ!」
この子も戦えるのね。見たところ武器はなさそうだけど…稀にいる具現化して戦うのかな?
「それじゃあ、西ラント道の小屋に行きましょうか。アスベル、ちゃんと守ってよ?」
「わかってるって!ほら、行こうぜ!」
また一人先に行くアスベル。
すぐにヒューバートは追いかけていった。
ふとシェリアを見ると少女をじっと、憐れむように見ていた。
「あなた、名前も思い出せないの?」
「うん。」
「そっか…かわいそう…」
「どうして?どうして名前がわからないとかわいそうなの?名前があると嬉しいの?」
「ご、ごめん……かわいそうって言われるの嫌よね。私も病気で……わかるから、あなたの気持ち。ごめんね。」
少女は更にわからないというような表情になっていた。
西出口を過ぎるとすぐ西ラント道になる。出る前に、リンゴの木があった。真っ赤な身を沢山実らせていた。
「わあ…リンゴがいっぱい実ってるね。」
「何?」
「リンゴだよ。お前にあげただろ?お前が前いたところになかったのか?」
「わからない。初めて…だと思う。」
少女は手に乗ったリンゴをじっと見つめる。
リンゴが初めて、となるとウィンドルにいたという可能性は少なくなる。リンゴはストラタの一部やウィンドルの名産品でもあるから。
「そっか……となると、やっぱりここの人間じゃないんだな。ほんと、どっから来たんだろうな?」
「さあ?」
少女ははっきりと言って首を傾げる。
考える素振りも間髪も入れずに言ったもんだから皆驚いた。
「さあって……ははは…」
ヒューバートが苦笑する。ここにいる皆の気持ちを代弁したようなものだ。
それはともかく、ストラタの旅人に会ってみないとわからないな。
まず目指すは西の小屋、か。
何故こんなにも長くなってしまったのかは私にも不思議です。
大体3000位で収まるかな?何て思って書いていたらいつの間にか10000越えていたという。
オリジナルの話入れたり、そもそも帰ってきてすぐのあのイベントが長いのが悪いんですよ?←←←
ては、次回は西ラント道~自宅に帰るまでを予定しておりますので、楽しみに待ってくれると嬉しいです。
ではまた次話で!
2018/11/4
追記
最新話から主人公の話し方、性格等などから内容を修正致しました。
大幅な話の跳躍や変化はありません。