運命は偶然か、必然か。   作:雪ノ桜

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設定画を投稿してなんとか繋いでみました汗
遅いですね汗すみません汗

さてさて皆様明けましておめでとうございます。
今年も更なる精進を目指して頑張って参ります。

設定画はちょくちょく出す予定です。
画力もないくせに描きます笑
皆様がこの小説を読む上での参考になれば…と思います。

それでは本編どうぞ~


客人の出迎え…何故魔物退治に?

 

 

寝覚めの悪い夢と共に、私は勢いよく起き上がった。が、私の両端で寝ているシェリアとソフィを考えてすぐに横になった。

 

(何なんだ…あの夢は…)

 

両手で顔を被い、カーテンの隙間から漏れる光から目を逸らす。

 

本当に寝覚めの悪い夢を見た。

得たいの知れない()()()()と私は闘っていた。その時の私は、どんな思いだったのかは全くと言っても良いくらいに覚えていない。

 

ただ何かを守るためだったと言うのは覚えているが…それすら思い出せない。

 

そしてその何かは私の中に入ってきて…ぐちゃぐちゃに掻き乱した。吐きそうな、死んでしまいそうな。

それで目を覚ましたんだ。

 

「ほんっとうに目覚めの悪い…今日は何かあったっけな…?」

 

そして真っ先に思い出したのは、今日は王都バロニアから貴族の子がこのラントに滞在するため、来訪するという事だった。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

「おはよう三人とも。よく眠れた?」

 

「おはようヒューバート。フィオナの旅の話を聞いてから寝たからそれはもうぐっすり。ちょっといい夢も見れたのよ?」

 

寧ろ私は嫌な夢を見たけれど。

あまりにも現実的すぎて予知夢のような気もする…考えすぎかな?

 

「ちぇ、二人だけに話したのかよ。」

 

「そうね…いつか話してあげる。」

 

口を尖らせていたアスベルだがその一言で途端に目を輝かせる。単純と言えばそれまでなのだが。

さて、今日は客の来る日ということもあるから何をするか考えないと。

 

ソフィの事を訊きに行っても恐らく今日は判からないだろうし、一日中稽古でも構わないか。時間は沢山あった方が良い。シェリアにも教えることにもなったし…個人的に、ソフィとも稽古をしてみたい。

 

「さて、今日はソフィの身元探しは休んで一日稽古にしよう。今日は客が来るからラントへの出入りは規制される筈だから。」

 

「お客さんが来るんだよね。一体どんな人だろう?」

 

「客が来るんなら、家の前じゃ稽古は出来ないな。どこでやるんだ?」

 

「そうだね…西ラント道の小屋に行こう。彼処は砂浜があるから、足腰も鍛えられる。」

 

王都からの客人ということはアストンさんにとって要人に変わりないだろう。なら、アスベル達は客人の妨げに成らないよう少し遠くに連れ出した方がいい。

 

「それに、貴方達なら終われば遊ぶでしょう?」

 

そう、アスベル達は遊ぶ。けど私も意外と波の音を聴いていたかった。

波のさざめきを聴きながら、驚くように変わっていく私のリセットも兼ねて。

リセット…前の、私に戻るために。

 

 

 

 

 

 

 

_________________

_________

___

..

 

 

 

「位置について…よーい、どんっ!!」

 

シェリアの合図と共に私達は走り出す。初夏だというのに陽を浴び続けて熱くなった砂浜を、全力で走る。

問おう、何故こうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少々遡る。

それは凡そ三時間をかけて少々疲れ気味の彼らを休ませているときだった。

 

「海ってやっぱりキレイだね。ぼく、船も好きだけど海も好きだなぁ。」

 

「ああ。なんだかこう…走りたくなるよな!」

 

「じゃあ、走れば?」

 

そう、私のこの一言が引き金となる。

それからアスベルとソフィとヒューバートの三人で砂浜を駆けて行った。

 

「よく走れるわね…」

 

「あれは最早バカと称える他ない」

 

私達はそれで頷く。

疲れてる筈だから少々の休憩をとっているのに態々疲れにいくなんて。

 

「あ、アスベルがこけた。」

 

私が指差した先にシェリアは目線を移すと、少々呆れたように苦笑いをした。

さて、あんなに元気なら稽古を始めても文句はないだろう。

 

「楽しんで走ってるところ悪いけど、元気なら稽古を始めるよ。」

 

「ハァ…ハァ…ま、待ってくれ…」

 

………………………………。

 

「稽古するために来たのに何で走ったの?」

 

「いや……こんなに疲れるとは思わなくて…」

 

「…まあいいわ。どうにしろ始めるから。」

 

「なっズルいぞ!おれだけ疲れてるのに稽古をつけるなんて!フィオナも走って疲れてからやろうぜ!」

 

「なにワケの判らないことを…大体、好きで走ったのなら文句は言わないの」

 

溜め息と共に視線を逸らすと、自然と視界に入ったヒューバート&ソフィ(ふたり)は私を走らせる気満々のようで、片腕をさっと上に挙げていた。

 

「…なんでさ…」

 

私は更に重たい溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*_*_*_*_*

 

 

そして今に至る。

大分手を抜きながら走っていると後ろからソフィが段々と距離を詰めてくる。スタートラインに立ったのは私とソフィとヒューバートの3人。アスベルは休憩、シェリアは号令係。

足が遅めのヒューバートを置いていき、ソフィも私に付いて来ているがほぼ私の独走状態。…本気で走ってはいないが。

 

「ゴールっ!1着はフィオナね!」

 

「…あと少しで追い付けたのに。」

 

「も、もうだめぇ…」

 

やっとのことで辿り着いたらしいヒューバートはそのままぱったりと砂浜に突っ伏せた。

ソフィと私でヒューバートを起き上がらせ、軽く歩いた。

 

「疲れたのは判るけど、走ってすぐ立ち止まったりすると心臓が止まったりするかもしれない事、貴方なら判るでしょ?」

 

「あはは…すごく疲れちゃってたから、わかってはいたけどどうしてもね。」

 

「どうして、止まっちゃうの?」

 

ふむ、どう答えればいいのやら…

多分言っても判らないだろう。

ソフィとは、いやソフィに限らずこの歳の子は判る筈がない。

 

「大きくなってから、調べてみなさい」

 

「どうやって?」

 

「そうだね…やっぱり、本を読むのが一番かな。」

 

物を知るには本は適当なもの。

適当なものならば…私のこの変化も、本に書いてあるのかな。

 

「よし、それじゃあ稽古をしよう!」

 

軽く歩いて戻ってくると、すっかり休んで体力が戻ったらしいアスベルが気合いを入れて立ち上がった。

…本音を言うと、大して疲れてはいないのだが。

 

「…私が疲れてるとでも思った?」

 

「え、まあ…だって、スゴく速かったし。」

 

「残念ながらあれ、本気で走ってないから。」

 

ということは、ということを想像したのだろうアスベルはがっくりと項垂れた。

本気で走っていないという事を聞いて衝撃を受けたのはアスベルだけではないようだが。

 

「ほら。稽古するんでしょ?早く構えなさいな。」

 

「おう…」

 

まだショックが隠せないようだが、剣を構える。

シェリア達がある程度離れたことを確認してから、彼は私に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

*_____________*

 

 

「くそ…今日も一撃も入らなかった…」

 

「精進あるのみよアスベル。貴方は確実に強くなっているのだから、また明日頑張りなさい。」

 

砂浜に転がるアスベル。砂が付く、と言いたいところだが疲れているようだから放っておく。

座って遠くで見ていたソフィを私は手招きして呼んだ。その際ヒューバートとかも付いて来たけど秘密にするような話でもないからそのままにしておく。

 

「ソフィ、稽古をしない?」

 

「どうして?今、アスベルと稽古をしたのに?」

 

「そうね…アスベルには悪いけど、私にとってあまり身のある稽古ではないから。」

 

「えっと…アスベルが弱い?」

 

「そういうこと。だからお願いしてもいいかな?」

 

こくりとソフィは頷いて何処からかリストを装備する。恐らく、粒子化してあるのだろうか。仕組みは私も判らないが…原素から作ってあることに違いはない筈。

矢張、この子(ソフィ)と私は何処か似ている気がする。

 

「さ、本気でいいよ。敵と戦う感じでいい。私もそうするから。」

 

「わかった。本気でやるね。」

 

 

 

 

 

 

 

―それから15分後。私達の本気試合(稽古)は終わった。ソフィも私も、お互いに切り傷や打ち傷が酷い。けれど、互いに敵対する意思などなかったのだから、当然のように悪い気はしなかった。

 

「フィオナ、強いね。」

 

「ソフィも強いわね。アストンさんを軽く越してる。久々に心が踊ったよ。」

 

ソフィに近づいて傷を癒していく。ソフィも、私の傷を癒してくれた。

 

「二人はすごいな…途中で何してるかわからないくらいだ。」

 

「そうね。でも、こう見たらソフィとフィオナは似てる気がするわ。」

 

「…似てる?」

 

「気のせいじゃないかしら。私もソフィも、面識がないもの。」

 

確かにこの子とは初対面だ。私の知らないところで、気付かぬうちに会っていたのかもしれないが…でも、ソフィとは同じ()()を感じるのは、きっと気のせいではない。

 

「さて、後はシェリアだけね。」

 

「え?私?」

 

「…ナイフ、やらなくていいの?」

 

でも、と渋るシェリアにそっと耳打ちし、すると途端にシェリアはやる気になって予め建てておいた的の近くに歩いていった。

ふとアスベル達を見るととても意外そうな顔をしていた。

 

「シェリアって、あんなんだったかなって。」

 

「そうだよね。なんか意外。こういうのって嫌いだと思ってたから。」

 

「あのね、シェリアはアスベルたちとa「二人がある程度戦えるから、悔しいんだってさ。」

 

大暴露しそうになったソフィの言葉を間一髪で遮り、なんとか誤魔化してみる。

すると勝ち気な性格の彼女から容易く想像できたのか、二人は苦笑いしていた。

 

(にしても、こんなに易々と事を教える私ではなかった…矢張、何処かで変わってしまった。此れでは里に戻った時に支障が出てしまう。)

 

はたとシェリアの基へ行く足を止めた。

 

(…ん?なぜ私はあんなに戻ることを拒んだ里に戻ろうとしている?この外に出て行きたいと、里にいたくないと願ったのは紛れもなく私の筈なのに…)

 

胸中に抱く矛盾はとても痛いものだった。

且つ、心地の良いものではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―*―*―*―*―*―*―*―*―

 

 

 

シェリアをみっちり指導し、終わった頃には海が美しい橙色に染まっていた。

ナイフを凡そ四時間余投げていたのだ。凝り固まって体を痛めないよう、シェリアの体をマッサージで(ほぐ)しながら微かに治療術を掛ける。この治療術は彼女の体に微少の抗体を入れ、侵食された抗体を取り出し浄化する…つまりは現代医療では不可能なことをしている。

兎に角、今日のメインはシェリアの短剣術の稽古になってしまった。お陰でアスベルが少し拗ねてしまっている。

 

「くそ…ズルいぞシェリア…おれの稽古の時間なのに…」

 

「別にいいじゃないの。私だってもっと上手くなりたいし…それに、フィオナはアスベルのものじゃないんだから!」

 

「私は所有物になった覚えはない。それにアスベル。貴方は明日もあるでしょう?シェリアは明日稽古は休まなければならないんだから此のくらい良いとは思うが。」

 

「え、なんで休まなくちゃいけないんだ?」

 

「貴方なら私よりシェリアの事を知っている筈なのに…シェリアは日を続けて稽古することは難しいの。病気を悪化させるつもりは私にはないし、彼女もそれを望んでいる。だから体を休めつつ稽古をするとなると一日空けなければならないの。」

 

シェリアの背中をマッサージしながら言うと、アスベルから何の声も聴こえなくなった。

アスベルが喋らないのは何事かと思い振り返ってみると、橙色の海を静かに見つめていた。

 

「おれさ…」

 

彼は唐突に口を開いた。

ただ真っ直ぐに広大な海を見つめて。

 

「シェリアの病気が早く治れば良いなって思うんだ。おれだけじゃない、ヒューバートだって思ってる。そしたら、もっといっぱいいろんなところを一緒に見て回れるだろ?」

 

「…そ、そっか。そうね。早く…早く治ってほしいわね。」

 

アスベルの真っ直ぐな言葉にシェリアは俯いた。

実を言うと、私はシェリアの未来がほんの少し見えていた。

恐らく、シェリアの病気は治らない。私の治療術を持ってしても。

抑治療術は傷を癒すもの。病気事態を癒すことは出来ない。私が行っているのは細胞の浄化…また汚れてしまうとしても、遅延くらいは出来る。

 

「……」

 

私は、何も言うことが出来なかった。

ただ純粋な思いを打ち明ける彼に、シェリアの病の事はとても言えなかった。

 

そして同時に、悔しさがふつふつと湧いてくる。何故他者にはないものを持ちながら、それを最大まで生かせないのだ、と。

 

「…もうそろそろ、帰ろうか。最近帰るのが遅いんだし、夕飯にも遅れちゃう。」

 

場の空気を何となく察したのだろうか、ヒューバートがわざとらしい明るい声で声を掛ける。

この時間じゃまた遅れるだろう…そう思ってまた私は梟を呼び、書簡を括り付けてアストンさんの基へ飛ばす。

今日も原素(エレス)を使って帰るか…最近、使ってばかりな気もするけど。

 

「ほら、帰るよ。」

 

立ち上がった私は先日の様にソフィとアスベルの手を繋がせて、原素(エレス)を送り込む。

 

「フィオナ、なんだか悔しそうだね。」

 

ソフィが放ったこの言葉が、頭から離れなかった。

 

 

 

 

*.-*.-*.-*.-*.-*.-*.-*.-*.-*.-*.-*.-*

 

 

 

いつも通り帰って、いつも通り寝る。ただ、今日は客人が来るだけ…。

そう思っていた。

だがなんだ、この慌てようは。

 

いや家人でもないのに「いつも通り」というフレーズを使うこと自体が可笑しいのだが、今はそこじゃない。気にするのはそこではない。

 

屋敷の中が妙なくらいに慌てているのだ。

事態を飲み込めない私達は取り敢えずアストンさんを探す。一歩でも屋敷の中に踏み込めば揉み込まれそうだ。

 

「えーっと、親父は…」

 

「あ、居たよ!」

 

ヒューバートが指差した先には焦りの表情を見せたアストンさん。此方に気付いている様子はなかった。

 

大量の人が行き交う最中、私単独で屋敷の中へ踏み込む。人の合間を擦り抜けることくらいなら造作もない。

 

「アストンさん。この状況は一体…」

 

目の前の私に気づいたのか、思考中の頭を一旦止めて私へ振り向く。

その顔には焦りと恐怖。何か、とんでもないことが…

 

「フィオナ殿か!丁度良いところに帰られました。実は…お客人を乗せた亀車が未だに到着しないのです。」

 

「…ふむ。まず、いつ頃出立されたか判りますか?」

 

「確か昼頃に…村を7つ程越えた先の街宿場に泊まられていたと。しかも、最短の道を通って来てる筈なのですが…」

 

「なら、魔物に襲われている可能性が高いでしょう。護衛に傭兵も少しは居る筈。場所は…」

 

目を瞑り、予め飛ばせてあった梟の首輪の原素を感じ取る。

何かを見付けたようで、梟は何度も同じ場所を旋回している。

 

「恐らく、東門を出て一キロ足らずの地点でしょう。彼処には橋がある筈です。戦闘で橋が崩れる可能性も無きにしも有らず、と言ったところでしょうか。少量でも兵は整えてあるでしょうから、急いで行ってください。」

 

「申し訳ない、助かります!」

 

彼はそう言い残すと走って家の外へ出た。

騒がしかった屋敷の中が、彼を中心にして静かに遠退いていく。

 

「なあフィオナ。一体、何があったんだ?」

 

「…私達にはどうすることも出来ない事、かしらね。30分経って彼等が帰ってこないようなら、教えてあげる。」

 

30分もあれば魔物くらい片付く…そう思って、私達は待つことにした。

 

 

 

 

 

その時は、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

「…仕方がない。アスベル、教えてあげる。」

 

アスベルの部屋で黙って座っていたが、30分経った今でも音沙汰がない。

つまり、苦戦するような敵、であることが考えられる。

 

「お。やっとか。それでなんだ?」

 

「客人を乗せた亀車の到着が遅い。それだけなんだけど…道中で魔物に襲われている可能性が高い、ってだけ。」

 

アストンさん達ならなんとかなる―そう言えばアスベルは納得しない。言いかけた口を、静かにつぐむ。

 

「なんだよそれ!危ないじゃんか!早く行かなきゃ!」

 

剣を片手にアスベルは飛び出て行ってしまった。

こうなるからあまり言いたくなかったのに…

 

「こうなったら仕方がない。私達も行こう。ヒューバートはシェリアと一緒にゆっくりで良いから来て。道中魔物が出る可能性も十分にある。だからシェリアにはこのナイフを渡しておく。戻ってこいと念じれば手中に収まるようにしてあるから。」

 

手渡してすぐにソフィを呼び、アスベルに続いて部屋を飛び出す。

広間の見えるところまで来ると私は手すりに飛び乗りそのまま踏み込んで階段をショートカットする。ソフィも見よう見まねで私と同じことをしていた。

 

これに気づいただろうフレデリックを見事なまでに完全無視し、アスベルが開けて行ったままの玄関を通り抜けた。

 

誓いの欠片の反応からして恐らく東門を出た辺り。後ろからは二人の気配も感じる。

此れからはあまり原素を消耗したくない。

 

「ソフィ。全力で駆け抜けるよ。」

 

「うん。わかった。」

 

たった二つ返事。けれどこれに勝る返事は今はない。

言うが早いか、私達は駆け出した。

 

あっという間に街の中心のアーチ橋を走り抜け、商業区を駆けていく。

私とソフィ、二人に息の乱れはあまりない。これで走っていけば三分足らずで辿り着くだろう。

 

ただアスベルがいる。私とソフィに比べれば遅いが…シェリア達にも言った通り、道中魔物が出る事が考えられる。それらは私達で殲滅していけば問題ない。

 

(シェリア…ヒューバートと一緒に居るからきっと大丈夫だろうけど、無理はしないでもらいたいな)

 

問題は亀車の方だ。アストンさん達に限ってやられることは考えられにくいが、かなりの苦戦を強いられてるに違いない。連れていった兵は精鋭の5人。彼も含めて6人。

 

(恐らく力量ではなく戦力差か。数だと明らかに不利だ。)

 

「フィオナ、アスベルが見えるよ!」

 

「ソフィ!進む先の敵を片っ端からやって!横からの奴は放っておいて構わない!」

 

頷いた彼女は狂暴化した魔物達を凪ぎ払っていく。前方はソフィに一任して問題ないかな。

 

「もう追い付いたのかよ!」

 

「アスベル!私達が魔物の相手するから貴方は走って!零れた魔物の相手はしても構わない!兎に角亀車を目指すよ!」

 

一キロは決して長くない。

けれど、陽が落ちてしかも()()()()の狂暴化を果たした魔物の相手をするのはアスベルにはとても無理だ。

 

進む先をソフィ、横と後ろを私が殲滅していく。取り零しはあまりしたくない。この後ろにはヒューバートとシェリアがいるからね。

 

道は緩やかな坂に差し掛かる。橋はすぐそこまで来ていた。

鉄の無機質な音が段々と聞こえてくる。攻撃するような音ではなく、ただ受ける音。

 

「っ!アストンさん!」

 

粗方片付けた私は脚に風の原素を纏い、疾風の如くアスベルとソフィを追い抜く。

 

「フィオナ殿!それにお前達も!何故ここへ来た!ここは危険だ!近付くんじゃ…」

 

「負傷している兵士を守りながら戦い抜くのは無理です!今は意地を張っている場合ではないでしょう!アスベル!ソフィ!敵の殲滅を!亀車に魔物を近づけないで!」

 

「ああ!任せろ!」

 

「わかった!」

 

原素を操り、負傷した兵士3人を亀車に凭れ掛ける。

此方の動ける戦力は私を抜いて4人。仮に私が加戦しても5人。私とアストンさん、ソフィが一人で魔物を倒せると考えるとあまり苦戦はしない。

けれど今は私は戦力外。彼等の力量を信じる他ない。

 

「傷の治療をします。3人纏めて治療するので動かないでください。」

 

乾坤剣を地面に置き、怪我の酷い箇所の鎧を外していく。基本的には原素を駆使すれば造作もない。

しかし皆満身創痍。酷くない所など探す方が難しい。

 

(帰還時に支障の無いところを治療するか…)

 

(となると脚、背中、腹部…時間が許すのなら骨折した箇所も治したい)

 

両手を3人の前で翳し、治療術(ヒール)を広範囲に展開する。力の消費が激しい代わりに、大人数を治療するのに向いている。

 

(亀車の中の客人は怪我をしていないだろうか。仮にも客人だ。怪我なんてさせてしまえばラント家に傷がつくだろう)

 

アストンさんがしっかり護っていたから怪我はないだろうけど…。

 

「っ!フィオナ!」

 

「っ…!?」

 

アスベルの声に咄嗟に反応した私は彼の方を向く。

それと同時に大型の鳥獣が私に向かって来ているのが視界に入る。

 

皆私の位置から遠く、きっと間に合わない。

だが今治療を止めてしまうのは塞がりかけた傷の痛みに兵士達は耐えられない。

けど何とかしなければ最悪皆やられる。

 

どうすれば良い?考えろ――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなの、簡単じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

消してしまえば良いのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「消してしまえば…良いのよ。」

 

無意識の内に左手を魔物に向けて翳す。

その瞬間魔物の(くちばし)が私の掌に深く抉り込む。

逃げられなくなった魔物は引き抜こうと必死だった。

 

 

 

 

バカね、こんなバカな魔物なんて――――――

 

 

 

 

「燃やしてしまいましょう。」

 

また無意識に言葉が紡がれたかと思うと、身体中が一気に熱を帯びた。そしてその熱は体を巡り…

左手から出ていった。

 

「グオァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

鳴き呻く魔物の声が木霊する。

発火した鳥獣はもがいて見せるも、呆気なく消し炭と化し、ウィンドルのそよ風と共に何処かへ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

********************************

 

 

「どぉりゃあ!」

 

アスベルの一声と共に降り下ろされた剣は魔物を一閃し、魔物は原素と帰していく。

治療を終えた私は兵士達の鎧を元通りに着せていた。

 

あの一匹以外に私目掛けて来る魔物はいなかった。お陰で兵士達の骨折の治療も少しはできたと言うもの。

 

「フィオナ、大丈夫か?」

 

アストンさんを無視し真っ先に私の基へアスベルが駆け寄ってきた。

続いてソフィも見える。

 

「ええ…貴方達は?怪我してない?」

 

「俺たちは大丈夫だ!それよりもフィオナ、さっき手のひらやられてただろ?見せてみろよ。」

 

左手を取られ、掌を見せる。だがそこには傷跡の1つも残ってはいなかった。

心底不思議そうな顔をするアスベル。私だって不思議だ。

 

「あー…多分、治療術使ってたから私にまでかけられてたんじゃないかな?」

 

「なるほどな!」

 

「おいお前たち!一体何故ここへ来たんだ!フィオナ殿は兎も角、お前たちは…」

 

「いいえアストンさん。彼等が居なければ確実にこの場は更なる苦戦を強いられていたに違いありません。貴方は少々自らの子を過小評価し過ぎではありませんか?」

 

きっと心配だからこそアスベルを叱るのだろう。

けれど、その所為でアスベルがひねくれてしまうことは望んでいない筈。

 

「ですがっ!」

 

「それに、今は私達よりも()()を優先すべきです」

 

亀車の中から高貴な身形の従者が降りてくる。アストンさんは駆け寄り、何か言われたと思えば深々と頭を下げていた。

 

(…誰かの下に就く、と言うものは些か理解できないな。)

 

あんなに頭を下げて自らのプライドを棄ててしまうのは私には出来ない。

 

「アスベル、帰ろう?」

 

「…ん?ああ、ソフィもフィオナも帰るか。」

 

悲しそうな顔して、アスベルは私達に笑顔を向けた。

…悔しい、のだろうか。

私がソフィに抱いたあの感情と同じ様に。

いや、あれば羨望で、アスベルは…

 

では何故悔しがる?

アストンさんに認められないのが、悔しいのか、悲しいのか、どちら?

…答えは、まだ先のようだ。

 

「やれやれ…全く、客人の出迎えかと思えば、魔物退治をする羽目になるとは思わなかったわ。」

 

「フィオナが中々教えてくれなかったからだぞー。」

 

「でも、助けられた。」

 

穏やかな表情で、ソフィはやや嬉しそうにそう言った。

そして何処からか走ってくる音が聞こえる。ヒューバートとシェリアだろうか。

 

「やっと着いた…ってあれ?魔物は?」

 

「残念だったなヒューバート。もうおれたちが倒しちゃったぞ。」

 

いや、2人的にはほっとしてるだろうけど。

シェリアも無事のようだし、何よりか。

 

「シェリア、ナイフは使えた?」

 

「え、ええ。でも、ほとんどはヒューバートが倒してくれたから…」

 

「それでもいい。ゆっくりと出来ればいいから。」

 

シェリアの握っているナイフを原素に還す。

この2人は魔物を倒してきたのだから、帰りは魔物が少ない筈。傷付いた兵士も亀車も、そして私達も危険を冒すこと無く帰れる。

 

「よし、帰ろうか!」

 

先行していったアストンさんや客人を乗せた亀車の後ろに続いてゆっくり歩く。

 

 

 

 

 

気掛かりなことがあった。

魔物を燃やしてしまった時、亀車のカーテンが少し開いていたのだ。

嘴が手に刺さってからはアスベルもアストンさんもソフィも、兵士達でさえ私を見ていなかった。

 

けれど、もし―――――

もし、客人がそれを見ていたのなら。

 

私も知られてほしくないし、何より私は今現在ラント領主の客人としてももてなされている。

この力のせいでラントが危険な目に遭うことがあるなら…

 

考えたくもないな。

兎に角、誰も見ていないことを願おう。

 

 

 

 




書き貯めしようか悩んでます。
以上!笑

それでは次回お楽しみに!
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