【凍結】HSDDにて転生し、運命の外道神父に憑依しました   作:鈴北岳

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前回までの簡単なあらすじ


HSDDの言峰綺礼という名前の人物に、我々現実世界の住人が転生憑依
言峰綺礼の経歴をだいたいなぞりながら、しかしイリナと兵藤イッセーと出会い、HSDDの世界だと認識しつつ迎えた小学校時代
立派な神父になるための海外研修Part.Xの途中で白髪エクソシストから襲撃を受け、なんやかんやとマジ狩る八極拳で相打ちKO。自身の神器の存在もわかり、エクソシストと学生の二重生活を(強制的に)送ることに
はぐれを狩っている途中、ピンチになり、それがきっかけでグレモリーとただならぬ関係を持つハメに……
加えて白龍皇の策略(笑)にはまり、デュランダル持ちと共同戦線を張りながらも、途中で一騎討ちに
なんとか生き残ると次は、入院中、深夜の病室での密会途中に、黒歌の逆鱗に触れてしまい、地雷危機一髪
退院すると中二総督アザゼルさんと面会。色々奉仕され、愉悦を白龍皇に感じた(意味深)

とりあえず、キーキャラクターとは全員遭えたかな、というところで、原作開始前のプロローグという名前のお遊び、はっじまっるよー♪


10 原作開始、秒読み開始

 物語の歯車はかみ合う。

 

 兵藤一誠は共学になり始めた駒王学園への進学を決意し、アーシア・アルジェントはディオドラ・アスタロトを癒した罪で追放され、フリード・セルゼンは他のエクソシストを殺した罪で追われるように。

 

 確定的に動き出したのはこの三人。

 

 そしてもう一人。この三人と関わり合いのある人物。

 

 何の因果か三人がほぼ同時期に先述の通りになった頃、その人物もまた大きな節目を迎えていた。迎えてしまっていた。

 

 

 

 

 我ながらどこぞの漫画だと思う自覚はある。しかし、こうでもしなければならぬ要因ができてしまっては、言峰綺礼としては泣き言を言うことはほぼ不可能の領域である。

 

 ――狭い視界。そこに一筋の汗が伝う。通常ではありえない熱気で歪む視界の中、俺の眼球は熱の波に揺らぐ世界を歪み無く認識する。平時通りにクリアな視界。無論のことこれは神器の恩恵に他ならない。

 

 担当医師から全快の報告を受け、鈍った体を解し始めて一日目、俺は途轍もない問題に直面したのだ。なんて無様なのだとその日を呪ったことは無い。今にして思えば、あの黒歌相手によくもまああんな喧嘩を売れたものだと背筋が凍る。

 

 ――軋む音。体内で行われる不断の苦行。通常ではありえない負荷を担う骨と肉、俺の心は音を上げる体を弛緩させることなく苛め抜く。平時通りに動かす体。無論のことこれは本来してはならぬ所業。

 

 結論から言おう。現在十五歳である俺の戦闘能力は、過去十三歳の俺に劣る。たかだか二年の差。しかしこの年代の二年は大きい。単純な基礎身体能力の向上度合いを鑑みて。

 

 しかしところで、どうしてエクソシストが悪魔を単独であろうと狩ることができるのか考えたことは無かろうか。

 

 人間は悪魔に比べ、非常に非力である。中には特殊な技能を用いて、そういった超常生物を屠る人間もいるが、エクソシストはそのような技能は基本持っていない。

 

 では、どうして非力なエクソシストが悪魔相手に戦えるのか。それは聖書の神の<システム>に由来する。

 

 聖書の神は人間の因子を持つ者に対し、神器(セイクリッド・ギア)を先天的に与える<システム>を構築した。これは聖書の神が人間が悪魔などの超常生物に完全敗退しないためにあると考えられる。

 

 だが、それだけでは一部の選ばれた人間しか戦えない。

 

 だからこそ、もう一つの<システム>が存在するのだ。

 

 その<システム>は三つの条件で対象の人間に作用する。まずは超常生物を知っているということ、次はほぼ純粋な人間であるということ、最後は――聖書の神を心底から信奉しているということだ。

 

 効果は単純、人間の能力の十全なバックアップ。身体能力の底上げである。悪魔などと戦えるまでに人間の能力を上昇させる。

 

 ここまで言えばおわかりだろう――俺は、その<システム>の恩恵を受けられなくなったのだ。

 

 悪魔や天使や堕天使は知っている。俺は純粋な人間であると診断されている。

 

 ならば答えは一つ――俺はどうも、聖書の神を信奉していないらしい。

 

 ――苦行を切り上げる。体は限界寸前。一応、神器の能力によって正常な状態は保たれてはいるものの、細胞レベルでの正常さは保てない。精々が肉や骨や神経が不恰好にならない程度に補強する程度だ。

 

 さて、困った。

 

 エクソシストとしての仕事は俺にはもう回されなくなっていた。父さんの威光により、エクソシストとしての籍は残っているものの、凍結されている。それももう厳重に。事実上の解任である。

 

 シャワーで汗を流し、身だしなみを整える。あの白龍皇との一見以降、俺は任務に着かない代わり、体を徹底的に鍛えていた。そのために。

 

「――」

 

 姿見の鏡に映る自分の姿が見える。

 

 茶色がかった黒髪に黒く光沢の無い瞳。証明写真でも取るかのような無表情。これらはまあ、俺の過去と大して変わらない。大きく変わったのは体格だろう。身長は百八十に迫り、服に覆われていない首や腕は、隆起した肉によって陰影を落としている。筋骨共々に逞しいことが見て取れる。

 

 無言で長袖のシャツとズボンを身につける。可能ならば首も隠したいが、いかんせん今の季節は夏。それも夏休みという夏真っ盛り。周囲に暑苦しさを与えないよう、服装は涼しげなものにしているものの、どれほどの効果があるものか。

 

 かばんを引っさげ外に出る。向かう先は兵藤のマイホーム。

 

 かの兵藤は相も変わらずエロエロドスケベ根性丸出しである。そんな彼の部屋に行くとしたら普通、AV鑑賞会くらいしかないのだが、俺があ奴の部屋へ向かう理由はそんなことじゃありません。

 

 勉強を教えに行くのである。兵藤はこの地域にある私立駒王学園への進学を決意したのだ。理由は単純、元女子高だったから。加えて、女子の容姿レベルも高いということから、兵藤のやる気メーターはうなぎのぼりである。

 

「――あら、綺礼じゃない」

 

 ふと、声が聞こえた。女の声である。それも相当に聞き覚えのある。

 

 声の方向へ視線を向ければ、そこには紅色の鮮やかな美……少、女、うん。美少女がいた。

 

「リアスか」

 

 リアス、リアス・グレモリー。未来においてスイッチ姫という、名誉とは口が裂けても言えない異名を持つことになる奇特な人生の持ち主である。

 

「二ヶ月振りくらいかしら? 相変わらず暑苦しいわね」

 

「そうだな、暑苦しい。息をするにも少し厳しいな、今年の夏は」

 

 リアスの眉間に皺が寄る。それを見て俺は薄っすらと笑みを浮かべてみせる。

 

「……もう、ホントに嫌になるわ。何でそんなに性根が腐ってるのよ、アンタは」

 

「聖職者に対してその言い分はあんまりだと思うがね。これでも私は立派な息子だと言われているというのに」

 

「外面だけは非常によろしいですもんね、綺礼さんは」

 

 リアスはこれ見よがしに深々とため息をついてみせる。お決まりとなりつつあるリアスの行動だ。

 

「そんなことよりアンタ、またラブコールが着てるけど、色好い返事は要らないわよ?」

 

 ラブコール、というのは俺に転生悪魔にならないか、という悪魔陣営のスカウトのことである。

 

「誘っているのか誘っていないのかはっきりしたらどうだ、リアス」

 

「そんなのできるわけないでしょ」

 

「だろうな」

 

 俺はリアスの言葉に首肯する。リアスはご覧の通り俺を好いてはいない。

 

「私の立場を知っててその発言をしてるなら、消し飛ばすわよ?」

 

 リアスは片手で作ったピストルを俺に向ける。その白い指先に薄っすらと黒く揺らめくものが見て取れた。

 

 表情は非常ににこやかだが、俺にのみ向かって放たれる気配は背筋に悪い。

 

 本気だ、この女。

 

「冗談に決まっている。どうして勝てもしない相手に挑発などするものか」

 

 とはいえ、これもまた毎度のことなので変わらずに対応。俺とリアスが出会えば口喧嘩くらいしかすることがないのである。リアスが面白いくらいに俺のことを好いて無いので。

 

「リアス」

 

「何よ?」

 

「私を呼び止めた理由は勧誘だけか?」

 

「それだけに決まってるでしょう? 私とアンタが話すことなんてこれくらいしかないじゃない。私、アンタのことどうしても好きになれそうにないし」

 

 理由無き嫌悪ほど厄介なものは無いと思う。それはつまり解決策が無いということであり、自分ほど直感に自信が無い人間にとって、これほど心の警戒を解き難い相手はいない。手がかりの一つでもつかめたのなら、そこから解けるのだが、いかんせん、ガードが硬い。……というよりかは、在り処がわからないというほうが正しい。

 

「それもそうだ」

 

 リアスは俺が嫌いだが、悪魔陣営は俺が欲しい。今のところ、白龍皇とやりあえる俺との関わりがあるのはリアスだけである。それ故に、悪魔転生への誘いのメッセンジャーとして、リアスに白羽の矢しか立たないのだ。

 

「ところで、最近の調子はどうかね? これでも人間側の神職者だ。悩みがあれば、人道に沿う解を与える程度のことはできるが」

 

「私とアンタの間柄にそんな会話は無いわよ」

 

「私個人を信用する必要は無い。人格者とされる父を持つ息子を信用すると良い」

 

「だからね、いくらこの町での不可侵、及びはぐれの共同討伐協定を結んでいるからといって、天使陣営と悪魔陣営が話して良い道理は無いのよ」

 

「リアス。それは君の頭が固いだけだ」

 

 俺はこれ見よがしにため息をついてみせる。リアスの顔が苦いものになる。ここからの展開をリアスほど知っている人物はこの世にいないからだ。

 

「三竦み、大いに結構。ただし、君は忘れてないかね? この世の中はたった三つだけの勢力で成り立っているのではない。その三つの勢力に及ばないながらも、ここ日本でも妖怪の一族は存在する。少し海外に眼を広げてみれば――――」

 

「カット。アンタの話は長い。言いたいことはわかるから、黙ってちょうだい」

 

「君は過去の大戦の影響が比較的多いとはいえ、まだ平和的な悪魔の一派の若手だ。それ故に選択肢の幅は広く――」

 

「――だから、黙りなさいって言っているでしょう?」

 

 ――周囲の空気分子が死滅する。熱源を失い、希薄となったこの一帯の空気は寒気を帯びる。

 

 心なし視界が暗くなっていることはあまり考慮したくない。ただでさえ、頭が凍りそうな殺気が突き刺さっているのだ。眼の前の未熟な女性が力を行使しているなんて本当に考えたくない。

 

「そうか」

 

 内心ビクビクドキドキ、だけど変わらず鉄面皮。警戒のそぶりを一切見せず、されど次の瞬間には心臓を抉れるように想定する。

 

 見詰め合うこと数十秒。リアスはいつもの通り、怒りの矛先を収めてくれた。ありがたい。

 

「精神修行が足らない。そんなことでは呆気なく殺されるぞ」

 

 俺の経験からして。感情に頭が支配された瞬間、弱者は死ぬのである。

 

「それに力の収束も甘い。無から有を生み出すつもりでコントロールに励めば君はより強くなる」

 

 俺のその言葉にうんざりしたような表情になるリアス。

 

「アンタって本当に不気味よ。どうして敵にそんなことが言えるのよ」

 

 そんな理由は単純明快。

 

「私は聖職者だ。故に――衆生を導く義務がある」

 

 それもあるけどもう一つ。

 

 俺、誰も敵だなんて思ったことありません。

 

「――――。アンタ、バカって言われたことは?」

 

「そんな覚えは無い。君はどうだ、リアス」

 

「決まってるじゃない、私も無いわ。そうならないように努力しているんだから」

 

「それは重畳。是非、今後ともそれを続け給え」

 

 そう言って踵を返す。

 

 いくら楽しいからって時間をかけ過ぎた。これ以上は兵藤が怒る。

 

「当然よ。アンタこそ、そうやって真人間になりなさい」

 

「私は真人間のつもりだがね。だからこそ、こうして君に期待している」

 

「――何でよ」

 

 歩みは止めない。背中にかかる声は徐々に小さくなっている。

 

「君は情愛深く、そして、善く在ろうとしているからだ。そういった人物ほど、聖職者に向いている」

 

 声は沈黙した。代わりに、遠ざかる靴の音がする。問答は終わった。

 

 これでやっと――――。

 

 

「――久しぶりだな、言峰綺礼」

 

 

 ――今日は厄日であろうか。

 

 悪魔が去ってまた悪魔。俺の通り道に一人の銀白色の美青年が立っておられました。真っ黒な服と、真っ白な肌と銀色の髪とのコントラストが眩しい。ついでに、金色の瞳も。

 

 っつーか、美男美女多過ぎなんだよ。地味で死んでる容姿の俺の周囲に来るなヨ。

 

「どうしてあの話を受けなかった? 聞けばその待遇は上級悪魔に匹敵するほどだそうだが」

 

 爽やかに見えて、その実獰猛でしかない笑みを浮かべる美青年。もとい、ヴァーリ・ルシファー。

 

「今からでも遅くはない。今すぐあの紅髪の女の後を追え。そうすればお前は素晴らしい動乱の世(生涯)を過ごすことができるぞ」

 

 動乱の世と書いて生涯と読むな。それは死亡フラグの乱立した地雷原を駆け抜けるようなものだろうが。

 

「断る。私は悪魔に成るつもりは毛頭無い」

 

 今のところは。悪魔転生するにしても、原作キャラ(あんた達)原作(動乱の世)を終わらせてからだよ。

 

 その言葉にヴァーリは笑みを深くする。爽やかそうに見えて以下略。白銀の荒ぶる龍を連想させる。神々しき暴力と評そうか。つまるところ、かなり怖い。

 

「――超エリートコースだ。貰える領地は広大で、首都に近い。上級悪魔としては平均を下回るが、下級の転生悪魔にしては破格の給料、十年ほどかければこの人の世の快楽を全て制覇できる。加えて、二年以内には中級悪魔になるための試験、それに受かれば六年以内には上級悪魔になるための試験を受けることができる」

 

 ――――ちょっと揺らいだ。

 

 やべえ、魔界の事情を知っている我が身としてはその条件は旨過ぎる。それって人間に例えるなら、大企業の社長の椅子が確約されているようなもんだ。

 

 悪魔の世界では世襲制が未だ主流だ。最近は実力も重視されてきて、中にはその拳一つで上級悪魔に至った転生悪魔がいるというのは割りと有名な話だ。ただそれは、凄く特別な場合だ。平々凡々で割とボンボンな我が身ではそこまで至ることはまずありえない。

 

 だが、この条件ならば少々の労苦はあるが、先述の上級悪魔ほどの努力は必要無い。割と真面目にやっていれば、簡単に上級悪魔までいける。難易度としては、自分が社長のベンチャー企業が大成功するというのが、国家公務員試験の一種に受かるっいうくらいに下がってる。……いやまあ、これもこれで辛いんだけどね。ある程度自分の精神状態を操ることができる我が身としては、まだ許容範囲だ。

 

 俺の反応を見て手応えを感じたのか、ヴァーリ。

 

「俺の見立てではな、お前は()()()()()を手に入れられる。富も名声も権力も女も、――力も」

 

 悪魔のような笑みを浮かべて、そう言った。

 

「言峰綺礼、脆弱で未熟な人の肉で、この俺を追いつめることのできるお前ならば。

 人にとっては永久に等しい時と、人にとっては神々に等しい体を手にいれたお前ならば。

 ――あるいは」

 

 ヴァーリは恍惚と陶酔したように獰猛な笑みを浮かべている。

 

 一体全体この男の脳内ではどのような妄想がなされているのか。俺という人間はそういった力への意思とはまったくの無関係だというのに。というか、そういうのは俺の一番苦手とするところだ。世界の全てを手に入れるなんて、俺にとっては夢のまた夢。現実感など皆無に等しい。

 

「――――――第二の聖書の神に至れるだろう」

 

 ――だというのに。

 

 ヴァーリは告げる。まるで俺が時代の傑物だとでも狂信するかのように。

 

 勘違いも甚だしい。盲信も甚だしい。俺という男はそんな器ではない。正直ヴァーリにここまで言われるとなると、俺自身も勘違いしてしまいそうだが、ここは自制。簡単に山一つ吹っ飛ばす赤龍帝のエピソードなど思い出して無理だと自分に言い聞かせる。

 

「それはお前の妄想だ。ヴァーリ。私はそんな器ではないし、聖職者だ。背徳者ではない」

 

「<システム>の加護を受けていない身分で何を言う」

 

 俺の台詞が面白かったのか、ヴァーリはクツクツと笑った。

 

「今のお前は立派な背徳者だ。皆が信じるべき対象を信じていない。それを背徳といわずして何と言うか」

 

「そう言われては立つ瀬が無いが、こうとは考えられないのかね? ヴァーリ・ルシファー。たしかに私は<システム>の恩恵を受けていない。それは私の信心が至らぬ――というわけだが、私はそう思ってはいない」

 

「ほう? では、どう思っているのだ、聖職者」

 

「――主は私に試練を与えたもうた」

 

 俺がそう言うと、ヴァーリが停止する。信じられないものでも見たかのような表情だ。

 

「これより先、私には艱難辛苦が降りかかるだろうと、主は思ったのだろう。そのために、主は私に試練を与えた。他者の不理解と、不信。人は人との仲で生き、自らに社会的価値を見出している。それこそが人として生きるということであり、それこそが我らと獣とを分ける分水嶺だ。だからこそ、この不理解と不信はこの世――人の世において大きな障害と成り得る。その大きな障害が我が人生の内に生じることを見越した主は、まだ私の理解者が在る内に、この試練を与えたのだ」

 

「――」

 

 ヴァーリは沈黙して、俺を凝視した。どうも本当に信じられないらしい。

 

 俺が本心からこれを信じている()()()思えるのが。

 

 八割がた出任せではあるが、ヴァーリは疑いはするものの、理性では完全に理解しているし、そうであるが故に、この答えに七割ほど納得している。

 

 後の納得していない三割は恐らく、彼自身の勘だろう。シックスセンスとか、野生の、とか、そういうの。どっかの白夜叉の襲撃経験からくるそういう危機察知能力しかない非才の我が身としては、それがとても羨ましい。

 

「――ふん、下らんな」

 

 ……目算で七割がた納得、というのはさすがに期待しすぎたらしい。ヴァーリの機嫌は急降下、ついでに周囲の気温も怪しくなってきている。

 

「そんなものは試練とは呼ばん」

 

 吐き捨てるように、ヴァーリはそう言った。

 

「この世で信じられるのは、真に頼ることができるのは己――己の力のみだ。いかに言葉を交わそうと、いかに共に時を過ごそうと、――いかに、いかに深い()()()()があろうと。この真実は揺るがない。信用など、信頼など、そんなものは力を前にしては塵にも劣る」

 

 ヴァーリの獰猛ながらも涼やかだった相貌に、初めて濁ったものが過ぎる。獰猛ながらも純粋な白には相応しくない、混濁した黒と赤。コールタールのような、溶岩のような。

 

「その力を奪っておいて、何が試練だ」

 

 ヴァーリはそれまで斜に構えたものを取っ払い、本当の意味で俺の眼前に立つ。

 

「神は言峰綺礼を見捨てた」

 

「否、主は私を見捨ててはいない。我が父がその証明だ」

 

「それはお前の力の可能性をまだ買っているからだ。お前がこの先も、そのように非力な存在であると知れば、予言してやる。お前はただ奪われるだけの存在に堕する」

 

「否、それは在り得ない。我が父が私が無力だった時代から変わらないことがその証明だ」

 

「二度も言わせるな、それはお前の力の可能性を買っているからだ。この言い回しの意味に、気づかないお前ではあるまい」

 

 可能性は時間でもある。時間がより多い者ほど、可能性が存在するのだ。

 

 そんなことはわかっている。そんなことは。子供であれば、ほとんどの者はそこに秘められた可能性に希望を託す。俺がこうしてまだ守られているのは、その可能性を信じているからだ。

 

「是、気づいている。気づいた上で、そう言っている。――この言い回しの意味に、気づかないお前ではあるまい」

 

 子供であるということは、価値に直結する。有能であることが、価値をより高めるということは自明の理だが、たとえ無能であっても価値はある。子供は白紙であるが故に、白紙の状態に近い故に、理想を描き易い。その無能が、ただまだ白紙であるからなのか、それとも雑多に染まってしまったからなのかは、自分を表現できる大人になってからしかわからない。……まあ、中には表現できない名ばかりの大人もいるわけだが、それはそれ。

 

 理想とは希望であり、見えぬ未来への活力だ。だからこそ、人は生きることができる。力を出すことが出来る。その理想が実現する可能性――これは、誰もが欲しがってやまないものだ。

 

 だが。

 

()は、信じている」

 

 父さんはそういったものを抜きにして、息子である私を永久に信じてくれると。

 

 その信頼には報いねばならない。その信用には報いねばならない。

 

 なぜなら、信じるという行為はこの世でもっとも難しいことだからだ。盲信でも、狂信でもない信じるということ。理性でそのメリットとデメリットを把握し、デメリットが多くとも信じる。今の俺はデメリットの塊であり、つまるところ不良債権である。早々に手放すべきであるこの俺を、まだ父さんは手持ちにし、そして、以前と変わりなく信じてくれている。

 

 俺の人生経験はそう薄くは無い。濃くもないが。

 

 けれど、この父がそうまでして俺を信じていること、それはこの世で最も幻想に近いが、しかし現実に在るモノだと俺は認識している。

 

 儚く尊く、一時は唾棄せども、生涯は捨てられぬソレ。

 

 ――ヴァーリの顔が歪む。

 

 それが憤怒によるものか、それとも悲壮によるものかは、ヴァーリについてほとんど知らぬ俺には判別がつかない。しかしどちらにせよ悪感情。

 

 俺が言外に告げた、ヴァーリは持たざるであろうソレは、ヴァーリにとっては忌むべきものか。

 

 忌むべきものなのだろう。力こそ全て、とか言っている辺り、(手段)に振り回されているだけだ。獣と何ら変わらない。生存の意義がそのままその生存になってしまっている。

 

「翼を捨てろ。地に堕ちてこそ、見えるものもある」

 

「既に堕ちた。堕ちたからこそ、今の俺がいる」

 

 ならば仕方ない。心の奥底に疑心暗鬼の住まう悪魔にこれ以上言っても詮無きこと。

 

「――――」

 

 しばし視線を合わせ、互いの内心を読み合う。

 

 ヴァーリは今ではすっかり落ち着いている。先程までの苛烈さは既に無く――無いからこそ、異常だといえる。恐らく、心底に飲み下しているのだろう。心に蓋をしているに違いない。

 

 そこまで推測して、不意に一つ思い出した。

 

「ヴァーリ」

 

「……。何だ」

 

「私は悪魔になる気は無い。ここまでの問答を通してこうならば、これ以上は互いに時間の浪費だと考えるが、どうだ」

 

 兵藤をすっかり忘れていた。約束の時間はもう既に大分過ぎている。やばい。ご機嫌を何か取らねばまずいような。

 

「…………フン。それもそうだな。これ以上は浪費だ。俺もお前も退く気が無い以上、ムダだ」

 

 そう言ってヴァーリは俺の隣を通って行く。

 

 ああ、帰るんだな、と俺が安堵した。その時。

 

 

「テメエ、綺礼! やっと見つけた!!」

 

 

 不意に、後ろから声が聞こえた。

 

 やけに聞き覚えがあるのである。

 

「兵藤か」

 

 俺は振り向きながらそれに応える。

 

 茶髪の少年、兵藤一誠は肩で息をしながら、怒りながら俺の方へ向かってきた。銀髪の美青年に一切の注意を払うことなく、銀髪の美青年もまた一切の注意を払うことなく。

 

「おい、どういうことだ。めちゃくちゃ約束の時間オーバーしてるじゃねえか! 受験まで後僅かなのに!!」

 

「――」

 

「……って、おい。何かあったのかよ」

 

 何でだろう、凄く面白い。面白いぞ、この状況。

 

「ハハハハハハハハハ――――――!!」

 

 笑いを堪えきれなくなり、爆発。というか暴発。まったくカミサマ、アンタってやつはサイコーだ。

 

 腹を抱えて狂ったように笑う。いやだってやべえだろ、この状況。白龍皇と赤龍帝がとんだニアミスだぜ? それで双方気づかないときた。因縁もここまで堕すると笑えてくるさ。

 

「兵藤、お前は最高だ。お前を見ていると、世の中が面白くてしょうがない」

 

「おい、それは皮肉か。皮肉だろ。暗に俺を見て笑ってやがることを隠すなお前」

 

「いや、すまない。ここまでくると、もはやアレだ。――素晴らしい」

 

「へーへー、そりゃあ良かったでござんすね、この遅刻魔。

 ――殴ってやる。そこになおれ」

 

 いやあ、ここまでくると皮肉だね。

 

 運命は。

 

 

 

 

「――――――ふゥ」

 

 切り刻んだ肉片の飛び散る赤い土地。さすがに大っぴらに市街戦なんざしねえので、盾がなくてひたすら面倒だったが、何とかまあ片付いたか。

 

 黒いコートに視線を落とす。黒いコートは赤黒く、血色が強い。

 

 いやあ、やっぱり人間を斬るのは一苦労だ。まず最初に精神的なダメージがでかいのが最悪だ。でもまあ、それも戦ううちに削がれ落とされるので終局は変わらない。

 

「っつぅか、あいつら頭わいてんじゃねえの、マジで」

 

 俺は化け物共を追いつめまくってるってのに、どうして俺が裁かれなきゃならん。この世で一番ゴミ掃除をしているのは俺だというのに、どうして俺がこうして同門殺しをやらなきゃならん。

 

 たしかにまあ、傍目から見れば見境無く殺していると取られる自信はある。けれど個人ならともかく、でっかい組織でそりゃねえよ。

 

 地面に落ちている血に染まった白い服。白い神父服。エクソシストの制服だ。つまり、俺がさっきまで斬り殺していたのは、ご同輩だということになる。俺にこれだけ回す人数がいるのなら、その分を化け物に向けるべきだ。奴らは人類の敵なのだから。油断ならぬ敵なのだから。

 

 生温いんだよ。化け物に余力を与えてどうする。奴らは必ず俺ら人間より強いんだから、最初から殺す気で行かないといけないというのに。

 

 ――その点、あいつのあの姿勢には感服を覚える。

 

「――」

 

 不意に、遠い知人を思い出した。

 

 それも二人同時に。一人に関しては心当たりがあるが、もう一人に関しては心当たりが無い。

 

 舌打ちを一つ。エクソシストは戦いの道具であり、神の尖兵だ。そこに感情を挟む余地などまるで無く、ましてや悪魔や堕天使などの異形の化け物に対して人情を感じてはならない。

 

 感じては成らず、感じては成らず。――だからこそ、頭蓋が軋む。

 

 どす黒いものが胸からせり上がってくる。嘔吐感にも似たその悪感情、その行き場など殺意にしかないと悟っているから、ギリギリと歯を噛み締めるしかない。

 

 

「――やあ、はぐれのエクソシスト君。同僚を殺した気分はどうかな?」

 

 

 噛み締めるしかない、噛み締めるしかないからこそ――その、さえずるような、その声に

 

 唇が捲れ上がる。上から食われた真っ赤な三日月。怒りより憎しみより、狂気を湛えたその赤色。持ってるだけで暴発するほどメンテナンス不足な拳銃、それこそ今の俺のこの状態に相応しい。

 

 体が一陣の風を断ち切る感覚。速度を身上とするこの身には幾度と無く感じた馴染み深いもの。

 

 気がつけば、破魔刃を振るっていた。手応えは無い。

 

「悪いね、気に障ったのなら謝ろう。俺は君と戦いに来たんじゃないからね」

 

 視界にいるのは中華風の装飾品を身につけた、学生服の少年。年齢は同じくらいか。

 

「誰だテメェ」

 

「俺は曹操。曹孟徳」

 

 曹操――三国志においての大国の一つを建国した英雄。情に流され難い判断力を武器とした優れた将軍だ。とはいえ、その曹操に不老不死なんていう化け物染みた能力など無い。となると、この眼の前にいる人物は曹操の偽者になる。

 

 なるのだが、この世において、そうした偉人の名を語るのは大きな意味がある。それは自身が英雄の子孫であると示すことであり、非凡な人間であると告白していることだ。

 

「ハッ、親七光りか」

 

 だが、そんなものなんてどうでも良い。

 

 問題は、俺に声をかけるまで存在を知覚させなかったことだ。いくら人間とはいえ神器持ち、さんざんばらそれと切り結んだ記憶のある俺には馴染み深い気配だ。その気配は手が伸びる範囲にまでいたら詳細にわかるというのに、曹操のは相対して初めて気づいた。

 

 となると曹操の神器は瞬間移動系か結界系のはずだが、放つ雰囲気がそういった戦闘補助に携わる奴のじゃない。逃げより攻め、違いはあるが、分類としてはあいつ寄りだ。

 

「親七光りとは手厳しい」

 

 学生服はそう笑う。にこやかな表情だが、その眼は本当には笑っていない。

 

 笑みは一種の威嚇行為らしいが、曹操のはまさにそれだ。威圧する気満々。こやつ、権力を握ったら確実に独裁だ。つまり権力志向が強い。力への意思って奴だ。素晴らしいね、斬りたくなる。

 

「で、ご用は? まさかお喋りしましょうってわけじゃねえですよなァ」

 

 だったらkill。人の不機嫌突いたから私刑だ。

 

「勧誘さ。俺達、英雄派へのね」

 

 不意に、曹操の手に槍が握られる。

 

 それが奴の神器であることは明白だ。溢れ出る生々しい神々しさが、<神器システム>とつながっていない聖剣や聖槍と段違いだ。

 

 ――黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)

 

 神器の頂点、神殺しの代名詞。我が主の息子を刺し貫くも、祝福を与えられた槍。

 

 どうも、ただのボンボンではないようだ。

 

「化け物を、倒したくはないかい?」

 

「抜かせ、殺し尽くすのさ」

 

 剣を構える。口角が吊り上げる。上から食われた赤い三日月。首を切り取る乱獲の刃。

 

 何を腑抜けたことを抜かしやがる。何をとぼけたことを抜かしやがる。じくじくと傷口が疼く。ぞぞぞぞと憎悪がもがく。笑い出したい衝動。殺し尽くしたい衝動。

 

「ああ、そういえば、神器使いを殺せば、その神器が残ることがあるんだってなァ」

 

「まったく、口説き文句を間違えたみたいだ」

 

 とんだヘマをしちまったもんだ、と呟く獲物。聴覚は機能せど、前頭葉は機能せず。言葉の意味がさっぱりわからない。

 

 

「――槍を置いていけ、臆病者

 強大な力は、俺にこそ相応しい」

 

 

 鎖はいらない。楔はいらない。

 

 我ら霊長に、より上位の(ケダモノ)はいらず。

 

 その獣を殺し尽くす気概の無い軟弱者は、俺にその力を寄越して死ね。迷惑だ。

 

 

 

 

 寒い、この季節はこの一言に尽きます。

 

「うぅ、どうして私はコートを持っていないのでしょうか」

 

 数日前の出来事を思い返す。

 

 その時、私は路上で一人のご老人が寒さに震えていたのを見たのです。ホームレスだと推測されるその方の唇は紫色で顔色は悪く、とてもその日を生きて過ごせそうにありませんでした。私は急いでその方に聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)での応急処置を施し、着ていた安物のコートを着せたのです。

 

 その後、私は寒さに震えながら急いで近くの教会に走ったのでした。寒さに凍えて死にそうなご老人がいると伝え、その直後に魔女だと叫ばれたのでした。

 

 ……それからは必死で逃げたのでした。路銀は乏しかったのですが、命には代えられず、形振り構わずタクシーに乗り込み、襲われかけ、教会の戦士達二人から教わった撃退術で退けつつ。

 

 退け、つつ、山奥に迷い込んでしまったのでした。

 

「労苦を厭わず、あのご老人を教会の前まで運ぶべきでした……。きっと朝までは保ちましたから、それなら私もご老人も穏やかに過ごせましたのに……」

 

 こういうのを「ふくすいぼんにかえらず」と言うのでしょう。後悔は先に立たないそうです。だからこそ、後に悔いるという意味での後悔だそうな。

 

 季節は春に入りかけているとはいえ、まだまだ冬真っ盛り。寒くないわけが無いのです。神器の力で何とか生命維持活動をキープしていますが、こんな中で眠ったら神器が起動を止めるので、本当に死んでしまいます。

 

 うぅ、人里から少し離れた山奥になら、山小屋の一つか二つはあっても良いと思うのですが……。

 

 そうして山小屋やら洞窟を探しながらさまようことしばらく、私は一つの洞窟を見つけました。急いでその中に入り、雪を払い落とします。そしてすぐに中に落ちていた枯れ木や葉を集め、かじかむ手でライターで火をつけました。

 

 雪に湿った衣服を傍に転がっていた岩にかけ、火に当てます。その間私はどうしても薄着になるので、とても寒いです。眠くなるくらいに。ここで寝たらとても楽なのでしょうが、寝たら天国です。本当に洒落にならない方向の。

 

 私には、まだすべきことが残っているのですから。

 

 火に当たりながらも、未だ一向に痺れの取れない指に息をかけて、重い瞼を必死に持ち上げます。冷たい指先は体のどこに当たってもすぐに意識を覚醒させますが、眠気はまったく減衰する兆しがありません。

 

 朦朧とする意識。夢現に現れる教会での日々。それはいつもいつも気が休まらなくて、休む間すら惜しませて。

 

「……、――熱っ、い!?」

 

 額に灼熱。地面にまたしても額をぶつけたのかと思うと、眼前は真っ赤な景色。すぐそこにあった炎はありがたいことに私から一瞬で眠気を追い払ってくれました。

 

「あたっ!?」

 

 後頭部に追い討ち。今度は違う意味で眼が開けられませんでした。固い岩に頭をぶつけ、痛みに数秒悶絶してやっと、私は自分の神器を使うことができました。……こんなことなら神器の訓練を綺礼さんに教えてもらうべきでした。

 

 綺礼さんの顔が横切ってすぐに、フリードさんの顔が出てきました。

 

「……どうして、あの方は」

 

 ぱちぱちと火の弾ける音。薄暗く寒い闇が周囲に漂う。そこに浮かんでくるのは、悪魔を殺していた時の、フリードさんの悲しい顔でした。

 

 ――どうしてこうなってしまったんだろう。

 

 あの教会での、和やかとは言いがたい、けれど満ち足りた日々。それが崩れ始めたのは、私が悪魔を神器の力で治療した時からでしょう。

 

 その行為に悔いはありません。魔女と蔑まれる今でも、もし私がもう一度同じ状況に出遭ったとしても、私は必ず同じように治療を施すでしょう。悔いは無い。悔いは、無い、けれど。

 

 背筋から悪寒が這い上がる。ガチガチガチと歯が不揃いにぶつかり合う。体は完全に冷え切っているのだから鈍く動くはずの心臓は、これっぽっちもおかまいなしに全身に血を叩きつける。

 

「――……は、ァ」

 

 走っても無いのに、走っても無いのに。頭がくらくらする。息苦しい。空気が淀んでいる。暖かな光を放つはずの焚き火が、どうしようもなく不気味に思えてしまう。……思えて、しまいます。

 

 ――息を、整えました。きっと、風邪を引いたのでしょう。それで少し呼吸がおかしくなったんです。私の神器なら、この程度の病、長くとも一日休めば完治させます。

 

「……」

 

 風の音がしています。冷たい風の音。それに乗って、ざくざくと、動物の足音が聞こえてきました。

 

 その足音は徐々に徐々にこちらに近づいてきていて、私はすぐに生乾きの服を着て、洞窟の奥の方の岩陰に身を隠しました。息が漏れないように、息を止めて、そして、洞窟に入ってきたモノをそっと覗きました。

 

 ……大きな、熊でした。ここの洞窟の主でしょう。焚き火のある異常事態に警戒しているのか、洞窟の入り口の方で唸っています。

 

 うぅ、そのままどこかへ去っていってくれないでしょうか…………。一日だけ、一日だけ貴方の洞窟を貸してください……。

 

 そんな祈りはまったく通じず、熊はゆっくりとした足取りで洞窟を進んできました。その行動に、私はすぐに腹を括って、腰を落としました。……とりあえず、焚き火の炎を武器としましょう。動物は火に弱いはずだと聞いてますので、松明モドキを使えば、少なくともこの洞窟の熊から逃げられるのではないでしょうか……。

 

「意外に骨はあるようね。だけど、少々お(つむ)が足りないわ」

 

 ザクン、と熊が光の槍で貫かれました。

 

 私はすぐに熊に近寄りました。光の槍はすぐに消え失せて、傷口からは熊の血液がどくどくと流れ出しています。

 

 私の眼の前に、黒髪の美しい女性が現れました。彼女は背中から黒い翼を生やしていて、否応無く、私は彼女の正体がわかります。

 

「私はレイナーレ。〝神の()子を()見張()る者()〟に所属する堕天使よ」

 

 

 

 

 ――――不意に、心臓が脈打つ。

 

 鎖につながれ、楔を打ち込まれたはずの意識が鎌首をもたげる。

 

 しかしソレは未だまどろみの中にいた。深い混濁の底から、その浅瀬まで意識が浮上したものの、まだそのまどろみからは逃れられない。

 

 ソレはあくびを漏らし、一言、寝言を呟いた。

 

「殺してやる」

 

 

 









謹賀新年、今年もよろしくお願いします


いやホント、本当に申し訳ありません
ここまで更新が遅れたのは偏に慣れない新生活が始まったからだと思いたいです
……思いたいです



これまでの私の所業に関わらず、この話を最後まで読んでくれた優し過ぎる方々、一言聞いていただければ幸いです

ありがとうございます





そしてごめんなさい……




PS.
始めた理由がかなり昔に解決しましたので、暁様との二重投稿をやめます
今日から一週間の間に、タグの整理などをしようと思います

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