【凍結】HSDDにて転生し、運命の外道神父に憑依しました 作:鈴北岳
パンピーがハイスクールD×Dに言峰綺礼って名前で転生したで
英才教育(笑い)でめっちゃハイスペックやで
フリードとアーシアと幼馴染やで。アーシア可愛い
ゼノヴィアprpr>モクヒケントヤラヲ
神器万能ヤッター! でも神滅具には敵わないよ……
バトルマニア(けつりゅうこう)に 眼 を 付 け ら れ た
リアスと綺礼は仲良し。なお、リアスはオモチャにされてる模様
神父悪鬼フリード。曹操とは別行動の模様。おじさんはアーシアに恋をする
日本に忍び寄る至高の堕天使(予定)の魔の手
シグルド……いったいジー誰ードなんだ……
すまない、皆目見当がつかない、すまない
※注意
デート描写有り
爆ぜろリア充のシナプス
――バイバイ
堕天使はそう言って、一誠の心臓を貫いた。
一誠は呆然としている。なにせ、自分の恋人が人間以上の存在であり、あまつさえ自分を殺したのだ。それまで見せていた恋人らしい表情を一切見せずに、いっそ清々しいほど通り魔のように一誠を殺した。貫かれた今でも、ドッキリであることを期待している。
なんと残酷なことか。通じ合っていた愛は偽りで、そもそもその愛すらただ観察するためだけの演技。実験室のモルモットと同じだ。仮説を検証するためだけの存在。用済みすなわち死。
ああ――何と腹立たしい。
綺礼は夕暮れの公園に
この結末は知っている。このような死に様も何度も見たことがある。己自身の手でこなしたことすらもある。その時は何一つとして感慨を抱かなかったが、なるほど。殺人という行為は、俯瞰で見る分にはいささか以上に不快なようだ。
――嫌だ
嫌だ、と。声に出さずに一誠はそう訴えていた。ここで死ぬのは何かの間違いだと、これはただの夢で、この冷たい痛みは幻痛なのだと。赤い夕暮れ。日常の終わりに希う。死にたくない、生きていたいと。
心の底から。真実。
瞬間、紅の閃光が黄昏を追い払う。その紅は漆黒の翼を広げ、夕闇に落ちる夕陽から一誠を遮って。そして。
憤怒と悲哀を顕にした。
映像越しに綺礼はその感情に心動かされた。普段見慣れている一学年上の人間ではない女子生徒。綺礼はその少女の悪感情ならば誰よりも見ているというおぼろげな認識を持っていた。しかし、それは違う。あの憤怒と悲哀は何よりも激しく深く優しい。
「ごめんなさい」
少女――リアスはそう言って一誠に謝罪した。一切自分は何も悪くないというのに。これは不幸な事故だ。リアスは何ら一切その兆候は知らなかった。むしろ、この事件こそが兆候だ。自らの管理する土地――駒王町に狼藉を働く者がいるということの。
「貴方は何も悪くない。悪いのは私よ。だから、生きなさい」
その欲望は正しい。故に生きよ人よ。
たとえ、どのような存在と成り果てようとも。
果たして物語は動き出す。いや、正確には一誠が駒王学園にいる時点で始まってるっちゃあ始まってちゃいるのだが。
綺礼は隠しカメラからの映像を切り、しばし瞑目する。
友人の死とその復活。否、悪魔転生。それらを一度に見た心情を落ち着かせ、これからの動きを脳内で反芻する。正直、かなりやばい不確定要素の比重が大き過ぎて「頭痛が痛い」のだが、それに関しては自身が出張ることで天秤の均衡を図ろう。
――良し、何も問題は無いな。
頭をガンガンと打ち付ける白髪鬼が憎たらしいのだが、マンホールの蓋を閉じることで強引に解決させる。当面はリアスからの連絡を待つことになる。ここで言峰綺礼が動くのは不自然であり、下手すれば首が飛ぶ。物理的に。怖いなぁ。
綺礼は頭痛の種を少なくともリアスに言われるまでは忘却することにし、自衛官養成所のような普通の学生生活を続行することにした。
翌日の昼休み。
いつも通りの笑顔の、しかし尋常ならざる覇気を纏ったリアスに連れられ、今日も今日とて屋上にたむろする倦怠期の夫婦。離婚経験者ならば離婚調停は近いと評するだろう。
「駒王学園の兵藤一誠君が殺されたわ」
普段ならば頼まない言峰綺礼の
「そうか」
友人が殺されたというのに、綺礼は一つ頷いただけだった。リアスはその反応に、腹の底にしまい込んだ憤怒を視線に込めた。
「気づいていた。悪魔に成っていたことなどな。君のことだ。理由が無いわけではないだろう」
その言葉に視線から憤怒を収める。しかし代わりに、嫌疑を込めた。
「……随分と淡白で、私を信用しているのね。私が兵藤君を手駒欲しさに転生させた、とは思わないの?」
「リアスに限ってそれは在り得ない。君は、悪ではないだろう」
「私は悪魔だけど?」
「蝙蝠の翼と例えようの無い尻尾を生やしている、特殊能力を持ち長命なだけの種族だ。主は元から悪しき存在など生み出していない」
特に表情を動かさず、それが当然だと言うように言峰綺礼という神父は断言した。その言葉態度共に、一切の揺らぎは無い。その凄まじい鉄の精神に、リアスは色々なものを揺らがせた。本当に色々なものを。
「貴方、とことんおかしいわね」
「そこは世辞でも論理的だと言うのが人間的だ」
「貴方相手に虚飾は無意味でしょう」
リアスは視線を切り、遠くを眺める。校庭では友達と昼食を取っている学生がいる。
「随分としおらしいな」
「当然でしょう。私の失態よ、こんなの」
「君は知らなかっただけだ。無知を知っている人間が無知を嘆くな。悲観論が過ぎる」
リアスはその言葉に黙り込んだ。食事の進みも遅い。よほどダメージは大きいようだ。
綺礼が食べ終わった頃、リアスは口を開いた。
「……ねえ」
「何だ」
「面倒くさいわ。あんたの言い回し」
「理解できないリアス・グレモリーではないだろう」
「ついでに、気持ちが悪いほど優しいわ」
「二文節ほど余分だな」
「気持ち悪い」
「はっはっは。そうきたか」
綺礼の言葉はこんな時だと言うのに、事務的な色が抜けていない。何だかんだと会話を楽しんでいる気配は感じられる。冗談もそれなり以上にというか腹立つほど挟んでくるので、楽しんでいないという可能性は低いだろう。その楽しみ方がリアスにとって愉快なものかどうかはさて置いて。
「学園生活は、楽しい?」
「職場より楽しませてもらっている。不満は無いな」
「私を慰めているの?」
「そうだな。早く立ち直ってもらわなければ狼藉者に殺されかねん」
「――言峰綺礼。あんたは何を隠しているのかしら?」
ふと。空気が凝固した。
綺礼はそのリアスの気迫を平然と受け流し、尋ねる。
「理由を訊いても?」
「その胡散臭さ、と言いたいけど。あんた、力が落ちているとはいえ、神器が戦闘向きではないとはいえ、ただの一般人に殺されるわけがないでしょう」
「私は人間だ。殺されれば死ぬ」
「緊急の術式くらい準備しているでしょう。お姉さまが言っていたわ。あんたは危険だって」
お姉さま。綺礼はリアスに血のつながった姉がいたかと思い返す。たしか、魔王である兄の一人だけだったはずだ。兄ではなく、姉を指すならばそれは。
――グレイフィア・ルキフグス。魔王ルシファーの女王にして妻。魔王ルシファーほど強くは無いが、その背中を預けられるほどには強い。つまるところ。血統や才能、努力、そして運を山積みにしてようやく勝てるか勝てないかの強者だ。
それだけの大人物のお墨付きが在るのならば、リアスにとって綺礼の戦闘能力は見過ごせるものではない。
「買被り過ぎだ。それに、あんなものはただのジョークだ」
「嘘ね。あんた、どうでも良いジョークはすぐに収めるでしょう。少なくとも、真面目な話の間、私が――怒りを堪えている時は」
さて困った。綺礼はここにきて下手を踏んだか、と悩む。表情は変わらずだが、内心では相当に焦っている。リアスは綺礼が複雑な事情で話すべきかと迷っているのか、と考えているが。さすがにどう誤魔化そうか、とか考えてるとは思わないようだ。というより思えないようだ。
リアスの綺礼に対する評価は実のところ高い。嫌いに嫌っているが、利害が合致している間の仕事仲間としては――まあ、少しの躊躇いはあれど――それでも、背中を任せても良いとは思っている。弱みは見せたくないが。知られたくないが。だが、それでも、信用できる。約束事に全力で取り組む姿勢を知っている。妥協を許さない実直な姿を知っている。真面目な話しぶりに感心している。だからこそ、信用できる。
そんなことは露知らず、綺礼は必死で誤魔化す言葉を考えていた。が。
「――――」
リアスの真面目な眼を見て、諦めた。諦めてどうやって話すべきかを考えて、話し出す。
どうもこの姫君、しおらしくなったのではなく、種々の事柄を一度無理やりに詰め込んだだけらしい。腹に詰め込んで涼しくなった頭で、物事を全力で整理していたようだ。
綺礼はこれだから頭の良い奴は、と。友好を深めるためにとしてみたチェスの内容を思い出して苦笑いする。さすがのリアス・グレモリーだ。異端の傑物達をまとめることになる将軍だ。
「まあ、付き合いの長い友人の初めての、念願の彼女だ。気になって少しだけ探した。――が、残念なことに誰も天野夕麻の詳しいことを知らなくてな」
「それで、後をつけたわけ?」
リアスの眼差しに非難と疑問の色が宿る。どうして一誠を助けなかったのかとの非難と疑問だろう。
「つけたわけだ。即席の使い魔と小型カメラを使った。申し訳ないが、きな臭い相手に手を出せるような身分ではなくてな」
「……はあ。
リアスは嘆息した。嘆息して数秒後、ふと思い出したように。
「私達なら、貴方の能力を最大限に使ってあげられるけど、どうかしら?」
「魅力的なお誘いだが、断っておこう」
リアスはすっごく綺麗な笑顔を綺礼に向けていた。とても不気味だった。綺礼の脳内で自分を使って左団扇にしているリアスの姿が再生された。リアスの脳内では綺礼はリアスに一切関係の無い場所で馬車馬の如く働かされていた。似たり寄ったりだった。
「それで。何をしてほしい?」
「彼を気にかけてあげて」
「どの範疇で?」
「付き合いの長い友人として」
「了解した」
▼
空港のバス乗り場に、白髪の少年と中年の男性がいた。ちょうど多くの旅客を乗せた飛行機が着いたのだろう。昼間であることもあって、多くの人に溢れていた。
「いや、裏の世界というものは凄いな。嘘が真実で真実が嘘。情報社会での虚実の見極めは重要だと知っていたが、いやはや。ここまで徹底されていたら、その見極めも意味を成さないな」
男性は改めて権力の偉大さを思い知った。危ない橋を渡った経験は何度もある。小国の政府も侮れないことを知っている。――けれど、どこかで侮っていた。
こうしておけば大丈夫だろう、とそんな頭があったのだ。
「経験は油断のもと、だな。そう思わないか、神父さん」
「重々承知だ。で、なぜあんさんまで来てるんしゃい」
「君、日本は初めてだろう」
「日本語は話せるぜ」
「……驚いた。語学も完備か」
「いいや。気に食わねえ奴に、日本人がいた」
「――コトミネキレイ、かな」
神父はその言葉に眼を見開いた。
たしかに、アーシア・アルジェントの追跡に当たり、様々な情報を渡した。裏の情報の収集の仕方も教えた。だが、その程度で――。
「いや、辿り着くか」
この三人組は有名だ。はぐれと魔女と不信人者。この歪な三人組は一時世間を賑わせた。特に、白龍皇と相打った事件が出回った時期は凄まじかった。事件の顛末を聞き、魔女とはぐれとの関係を聞けば、それはもう話題性は高い。スキャンダルの火薬庫だ。加えて、そこまで秘するべき情報でないということも話題性を煽った。
「彼は今、グレモリーとシトリーの血族の経営する高校に通っている」
「……知っているサ」
表向きははぐれに対する迅速な解決のためとなっているが、少数意見では融和の一環だと噂されている。一部の戦争に嫌気の差した集団がそう流している。
ただまあ、信心深い言峰綺礼のことだ。はぐれによる被害を防ぐため、という頭もあろうが、何より。はぐれ悪魔の悪辣さを暴くためにしたのだろう。聞けば、冥界でもはぐれ悪魔への対処を考えているとのこと。敵から無能が減るのは都合が悪いが、悪魔転生の数が減るのならば良い。無辜の人間を殺さずに済む。なにせ、悪魔は人の都合などお構いなしなのだ。
「いち一般人として、確執が少なくなるのは嬉しいよ。なにより、この確執に決着が着けば、君達三人は何のしがらみも無く友人に戻れる」
「――」
友人じゃねえよ、と返そうとして言葉に詰まった。脳裏に過るのはアーシアの笑顔と、綺礼の背中。アーシアは幸せそうに笑っていて、綺礼は顔だけこちらに向けている。ああ、それは、一般に幸せと呼ぶのだろう。
「――無理だねぇ。なにせ、
「そうか。それは悲しいな」
男性は顔を曇らせる。神父はその同情に苛立ちと殺意を覚えた。
人は少しづつ減っていっている。
「で、なんで唐突に?」
「だって、君と彼女と彼――はどうかは怪しいけど、君たちそれぞれは独りじゃないか。独りは悲しいものだろう」
訊いて返ってきたのは普通過ぎる言葉だった。普通過ぎて、逆に新鮮な言葉だった。
そうか、と独りは悲しいものなのか、と神父は考える。考えて、違う、と結論付けた。人は、独りでも悲しくはない。そんな人間を知っている。だってそうだろう。たとえ本当は独りであったとしても、独りではないと思えるのなら、それは悲しくない。
「まあ、そう言うおじさんも独り身なわけだが。これがなかなか堪えてね。筋の良い子供を養子にしようと思っているんだ」
「結婚の望みは薄そうだからなぁ。頭と同じで」
「馬鹿を言え。見給えよ、この髪の量を」
「かつらだろ、それ」
「……なぜわかった」
不自然なんだよ、と神父は男性に笑って返す。途端に男性は前髪を触り出し、周囲を見回した。
「あれ、人が少ないな」
男性はここではたと気づく。喧騒が遠い。不自然なほどに。ここは――空港のバス乗り場だろう。
「運が良いな。ゆっくりと眠れそうだ」
神父の言葉が男性の耳朶を打つ。男性は神父を直視できなかった。不穏な気配。死神の気配。いつの間にか、間違った断崖絶壁に立たされたかのような違和感。
「――あんたは、何も知らない」
脳を掴まれた。心臓を掴まれた。
殺される。死なされる。これまでの自分、これからの自分その全て。殺される、失ってしまうと錯覚した。
振り向きながらに拳を振るう。裏拳。出が見えぬが故に、距離感を狂わせる不意打ち。素手における居合斬りと言っても構わない。そこから更に、蛇のようにしなるフリッカージャブに変化する。奥の手の奥の手。並ならば初見殺し、並でなくとも手傷を負わす射手の魔弾――。
それを、悪魔殺しは難なく掴む。一度見た、それで充分だ。と禍々しい瞳は語る。
そうして情報屋の世界はグルリと回り。
▽
「――あれ」
かつらを被った万屋は、どうして日本に来たのかを思い出した。
そうだ。路地裏でたまたま出会った白服の神父が原因だ。その神父は酷く酔っていて、そして、自分に息子がいれば同じくらいの年齢の少年の神父だった。どういうわけか、変な感傷か、万屋はその少年神父の愚痴に付き合って――
「――そうだよ、それで日本行きのチケットとか無駄に買わされたんじゃねえか!!」
日本に仕事は無い。一切無い。用事なんて皆無である。それをどういうわけか、というより一緒に酒を飲まされて、そのテンションでチケットを買ってしまい、ただ何だかんだ日本って初めてなんだよな、と少しウキウキしつつ、しかし腹の奥底に怒りを仕舞い込んでここに来たのだ。やけっぱち気味の観光だ。
バス乗り場で、バスの行先を確認する。日本語は少し不慣れだが、英語が書かれている。ありがたい。
ふと、視界の隅に白いコートを着た少年が見えた。その少年はバスに乗ろうとしている。その少年の横顔を見て、あの少年神父を思い出した。酷く似ていた、酷く似ていたので、怒鳴りつけようとしたが――。
「くっそ、人違いだ。畜生め。あれだけ物騒な奴を、あんな呑んだくれと間違えるなんてどうかしている」
あれは違う。別物だ。そもそもあれは普通ではない。万屋という職業柄で良く見かけている。あれは鉄砲玉だ。誰かの掌の上で踊るようなタマじゃない上に、ああいう人間がもたらすのは破滅と死だけだ。そんな人間の死んだという知らせ、誰かを道連れにしたという話は良く知っている。
嫌なものを見た、と顔をしかめる。不機嫌だ。あまり気分は良くない。
ふと顔を背けた先で、可愛らしい金髪の少女を見つけた。若いのに敬虔なシスターなのだろう。こんな辺鄙な土地でも、使い込まれたシスター服をきちんと着用している。
きっと複雑な日本の地理に、苦しめられているのだろう。普段ならば手助けするが、今はそこまでの余裕は無い。
さて。日本の飯はやや高めだが、値段以上に旨いこともあるというので、さっさと飯を食おう。
▽
見事に暗示にかかった万屋の様子を白髪の神父は見送った。
<システム>の加護によって向上した視覚。渡された神器によって生み出した超能力。その二つを以って、白髪の神父は万屋を監視し切った。
人の好い万屋だった。能力がそれなりに高いということもあったが、何より、分を弁えられる頭があったことが素晴らしい。それでもって人の好さをきちんと残している。非常に好い人物であると言える。
バスの座席に深く腰掛けながら、瞼を下ろす。
迎えは無かった。
忌まわしい頭領の言葉を思い出す。
――自由に動いて構わない。俺らはまだ、仲間集めの最中だ。フリーランス大いに結構。だがね、動向は教えてくれよ。知らぬ間に相打ちなんて、そんなことは寝覚めが悪いからね。
動向は伝えた。目的も伝えた。協力や援軍は不要と伝えた。
同じ派閥の奴が、自分の向かう土地で仕事を請け負ったと聞いた。けれど、助太刀の要請は無かった。状況を見る限り絶望的であるというのに。――つまり、その土地では好きに振る舞って構わない、ということだ。
臓腑に燻ぶる何かを感じた。知っている。知っている。これは憎悪と呼ばれるものだ。これは憤怒の糧となるものだ。黒を赤へ。燃料を火炎へ。
早く、早く、早く――早く。
今は燃やせない。故に早く。待て、待て、待て、と。
燃え上がる心臓とは対照的に、体から力を抜いていく。脱力して脱力して。決して。この感情を暴発させないように。
▼
端的に言うと。
兵藤一誠は命の危機に晒された。
超常の敵ではなく、同級生に。
「死、死ぬかと思った……」
ぜーはーぜーはーと息を切らし、呼吸を整える茶髪の少年。兵藤一誠である。今日も今日とて学生服の下に着た赤いTシャツが鮮やかだ。艶やかでもある。大量の汗で濡れているために。
「まったくだ。……しかし、私の声でも落ち着かんとはな」
幸いなるリアスめ、とその隣にいる青年のような少年、言峰綺礼は内心で独り愚痴る。同時に、敬愛する友人がこれほどまでに慕われていることを少し喜ばしく思う。
「そりゃあな。俺、お前の彼女を寝取ったようなもんだからな……」
「彼女ではない。話が合うだけのただの友人だ」
春の日差しは暖かだった。桜の花びらは既に散っている。どこにも見かけることはできない。
「……そういえばさ。部長からお前のこと聞いたんだけど」
「ああ、盛大に顔をしかめていたことだろう」
綺礼は意地悪くニヤリと笑った。一誠はそれを見てリアスに親近感を覚える。
「何をしたんだよ? 俺、あの人からはあんな表情を想像できなかったんだけど」
「イッセーへと同じ対応をした。今のところ連戦連勝だ」
うわー、と兵藤一誠は心底から同情する。こんなに性格が悪く頭の良い秀才に目を付けられるとは不幸極まりなかった。
兵藤一誠はリアス・グレモリーを善良な人だと思っている。そして、その善性を信じている。だからこそ、この異端の聖者とはとことんまでに相性が悪いとわかってしまっていた。
「ははは。お前とリアスが結婚するならば、私が神父をしてやろう」
「冗談がきつい。お前にだけは絶対に頼みたくねーし、俺らまだ学生だっての」
それを聞き、更に愉快そうに神父は笑った。一誠は思う。このラスボスにはこれからリアスと二人で立ち向かわねば、と。その健気さが神父の愉悦を更に深くしているのだと気づかずに。哀れ。
「学生結婚というのもなかなかに乙だろう」
「本音は?」
「さっさと人生の墓場に行き着くが良い。多くの女を抱きたいお前にとっては、それこそが一番の不幸だろう」
その言葉に、一誠は言葉に詰まる。
よくよく考えればそうなのだ。まだリアス・グレモリーは兵藤一誠の恋人ではないが、ゆくゆくはそうなりたいと思っている。彼女が欲しいというのは紛れも無い本音であるが、同時に、結婚したくないというのも紛れも無い本音である。一人の女性にいれこむのは怖い。
「しかし、お前の女運の無さはここまでくると呪われているとしか思えんな」
その言葉から、いつかの夕暮れが一誠の脳裏を過る。
「――そうだな、本当に。まさかお前と親しい先輩と初登校するなんてなー」
震えそうになる声を押し殺して絞り出した。平然と、平静を装って。
「まあ、大半はお前の自業自得に因るところが多いが」
「オデ悪くない。悪いの、オンナ」
「なぜ片言だ。オークか貴様」
「クッ、殺せ! 慈悲など要らぬ! エロをくれ!」
「よろしい。ならば性戦だ」
「やめろよ、絶対にやめろよ? ……いいか。絶対に、だぞ?」
校舎裏、登校が終わってしばらくの朝の時間。追求受けて逃げた先で馬鹿をする二人の男子生徒。一定の特殊な趣味を持つお方々には垂涎のシチュエーションである。
しばらくふざけ倒していると鐘が鳴った。予鈴は逃げている途中に鳴っていたので、これはもうホームルームの始まりを告げるものである。
「あ」
「もう時間か。……ふむ。どうする?」
「んー……。面倒だなー、ホームルーム」
「今日の授業そのものだろう、本音は」
「わかる? っつかわかるよねー」
ふける? ふけちゃう? と悪魔の囁き染みた一誠の攻撃。
「ふけるか」
会心の一撃。聖職者は気を失った。
「え、良いの? 言峰綺礼さん」
「構わんだろうさ。――騒動を大きくしそうな元浜と松田には連絡をきちんと入れておけ。今回はクラス規模だからな。下手をすると私とお前がいじめを受けた、などという法螺がでっち上がる」
「あ、そりゃまずいな。んー、じゃあ、桐生にも連絡しといた方が良いか」
「そうだな。彼女は悪ふざけの境をきちんと理解している。それに、女子への抑止力になるだろう」
「じゃあ、俺が元浜と松田に連絡する。綺礼は桐生に」
「了解した」
ぽちぽちとスマホを操作する二人。送信をしてしばらくすると着信。桐生は上手いこと先生に言ったとのこと。
「よっしゃーイ! 今日は遊ぶぞー!!」
「声を落とせ。これから先誰かに見つかると面倒だ」
「あ、ですね。ハイ。綺礼、チーズだ」
「何?」
綺礼がスマホから顔を上げ、一誠を見ると、シャッター音が鳴り響いた。音の原因は一誠のスマホである。
「和解写真」
「和解も何も、喧嘩などしていないだろうに」
「だとしてもいるだろ、こういうのって。ほら、チョキと笑顔の用意だ」
内カメラを起動したまま、一誠は綺礼に近寄った。一誠は空いた片手でピースを作り、自分たち二人をフレーム内に収めた。
「はい、チーズ」
快活な笑顔と静かな笑顔が画面に収まり記憶される。ついでに二つのピースも。
「これ、俺から桐生達に送るぜ?」
「ああ、それが楽だ」
送信する。着信が来る。『┌(^o^ ┐)┐ホモォ……』とのこと。
三通全て一緒だった。元浜と松田からのも一緒だった。
「絶対に示し合わせてやがる……」
「薄い本が厚くなる、というやつだな」
はは、コノザマァ、と独り言ちる。
「やめろ、怖い」
「食うか? 辛いものでも」
「 食 べ な い 。 絶対にだ」
こうして二人は隣町へと繰り出す。
「ところでイッセー、大き目のズボンとシャツはあるか? 私が着られるような」
「無えよ。俺とお前の体格差、やべえっての」
「……イッセー。私服に着替えた後、駅前に集合だ。三十分以上、音沙汰が無ければ、私のことは忘れろ」
「あっ」
一誠は察した。
綺礼の父親は厳しいのである。
▼
「綺礼、どうだったの?」
「特に何も問題は無かったな。リアス。そちらは?」
「こちらもよ。ええ、凄く安心しているわ」
「そうか。それは良かった。――だが、それは表面上だ。内側にしっかりとトラウマがある。心の距離を詰めるのは結構だが、詰め過ぎると発症する」
「そう……、やっぱりね。ただ不慣れなだけじゃなかったのね」
綺礼とリアスは互いの状況を報告し合っていた。
無事に一誠と綺礼は隣町に繰り出した。そして開き直ってツーショットを大量に撮りまくり、三人に送り付けた。ついでに綺礼のツテを使い美味しそうな店に入り、一誠と綺礼の共同食レポを作成した。酷い飯テロである。怨嗟の声が途絶えなかったのは言うまでもない。桐生が内心で綺礼の女子力――美味しいスイーツ発見力――に戦慄したのも言うまでもない。
なお、一誠はそのバカ騒ぎの後、オカルト研究部に顔を出している。顔を出して、悪魔の説明を受けた。
「不慣れなのもあるだろう。それが良い具合に覆い隠している」
「まったく。どうして私の眷属は揃いも揃って……」
愚痴るような内容とは裏腹に、その言葉は慈愛に溢れていた。綺礼はそれに少しばかり憧憬を覚えた。
「そういう星の巡りだろう。ああ、君は聖職者にとことん向いているな」
「それ、褒め言葉じゃないから」
「まったく、素直じゃないな」
「アンタに言われたくないわよ。素直に情愛深いって言いなさいよ」
「――ハ」
「笑ったわね、今鼻で笑ったわね……! 良し。明日覚えてなさい。思いっきり引っ叩いてやるから」
「それは怖い」
クツクツと愉快に笑う外道神父。電話の向こうでは絶世の美少女――オトナ体型過ぎるのでカッコハテナの付く――が顔を真っ赤にしているだろう。
「ところで、リアス。ハーレム王という言葉に聞き覚えは?」
「……ええ、あるわよ。本当に元気ね、あの子」
楽しそうな口調だった。
「ああ、元気だろう。私の自慢の友人だ」
「――」
「どうしたのかね? 急に黙り込んで」
「ん、いえ。ごめんなさい。ちょっとね」
「ふむ、疲れか。気を付け給え。今の君に代わりはいないのだからな」
「……ええ、そうね。ありがとう」
「いや、随分としおらしい。明日は槍でも降るかな」
「そうね、鬼の霍乱ってやつかしら」
「ほう、ならば洗濯せねばな。――では、お休み。リアス・グレモリー」
「ええ、お休み。言峰綺礼」
通話が切れる。
リアスは手の中の携帯電話を眺めながらポツリ零した。
「驚いた。本当に自慢の友人なのね」
呆気無く夜闇に言葉は溶けて。
リアス・グレモリーはちょっとだけ穏やかになった心で眠りに着いた。
※注意
なお、男女のそれではない
ざーんねーんでーしたー!
はは、このざまぁ
本当に久しぶりの更新です
ふいんき()を思い出すために読み返すのが辛かったデス
クッ殺したくなりました。なんだあのギャグセンス。目も当てられない駄作ぶりだな、と内心で突っ込みました
遅れた理由に関しては、リアルの方が原因でもあるのですが、言い訳を連ねることが許されるのなら、スランプに陥っていたこともあります
前の話とその前の話と構成っぽいものが被っているのはそのせいです
今回の話も若干被ってしまい、本当に申し訳無く思っています。すまない、本当にすまない
次回の更新も例の如く未定です
ただ多分、展開は駆け足になるかと思われます
ついでに書き方も変化すると思われます
お手元に原作の一巻を用意し、長らくお待ちください
この作品の後書きの最後まで読んでくださった方に改めて感謝を
ありがとうございます