人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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238話 迷惑と原因

 午後

 

 ~ポロニアンモール・裏路地~

 

「いたたた……」

 

 今日も何とか練習を乗り切った。

 

 ……歩くだけで振動が体に響き、弱い痛みに変わる。

 ……練習による痛みではない。

 

 練習後には体のメンテナンスとして、老師が中国式の治療を施してくれた。

 治療には江戸川先生も感心していたし、実際に痛みが引いて効果を体感できた。

 仕上げのマッサージにあんな激痛が伴わなければ最高だった……

 

 老師曰く、体の治癒能力を高めるツボを刺激したのだそうだ。

 実際に体内の気の流れが活性化しているのは感じる。

 なんであの方のやる事は何でも激痛が伴うのだろうか……

 本人はすごく穏やかでいい人なんだけど……

 

「ま、それはそうと……お疲れ様です!」

「あら葉隠君」

 

 バイトに顔を出すと、オーナーと島田さんが何か話していたようだ。

 二人とも、深刻そうな表情をしている……

 

 何があったかを聞く事にした。

 

「ゆかりちゃん。体調崩しちゃったんですって」

「今日シフトだけど、行けそうにないってメールが来たの」

 

 島田さんが俺にメールの文面を見せてくれる。

 本当に必要最低限の用件のみ。誤字脱字も目立つし、力を振り絞って書いたような文面だ。

 

「これ大丈夫か?」

「私たちも今そう話してたのよ。そもそもゆかりちゃんは責任感が強いと言うか、一度決めたら頑固と言うか……頑張っちゃう子でしょう? 多少の体調不良ならマスクでもして来ると思うのよね」

「自分から来られないって言う時点でだいぶ悪そうな気がしますね」

「テストが終わって気が抜けちゃったのかな……そういえば最近、眠そうにしてるところをよく見た気がする。一度聞いたらアクセサリー作りの練習を始めたとか言ってたけど、本当に寝る時間を惜しんでまでやってたのかも? 帰ったら様子見に行ってみる」

「そうしてくれると安心ね」

「島田さん、途中まで俺も行って良いか? 女子寮には入れないから代わりにお土産になるものでも買おう」

 

 オーナーとの練習、きっと自主練習もしてたんだろう。

 そこまで頑張ってしまった原因は多分俺の話だろうし、お見舞いの品を送るくらいはしよう。

 

 それから俺たちは彼女を心配しながらも、手分けして仕事をこなした。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~街中~

 

「ありがとうございましたー」

 

 バイトが終わり、適当な店で岳羽さんへのお見舞いの品を購入した。

 

「随分と奮発したね~」

 

 買ったのは“高級果実詰め合わせ”。

 確かに島田さんの言う通り、友人関係で贈るには少々高価かもしれない。

 しかし……

 

「……どうも岳羽さんには下手な物を贈る気にならなくてさ」

「え? 何々? ポイント稼ぎ?」

「違う。単純に岳羽さんは目が肥えてそうだから」

 

 岳羽さんが喜ぶプレゼントはブランド物の財布・時計。バッグ。あと香水……だったっけ? テディーベアとフロスト人形も嫌いではなかったはず……だけど、確実にすごく喜ばれるのはそういう“高級っぽい物”だった。これだけだと多少の俗っぽさも感じるが、彼女の母親は“桐条の名士会に名を連ねる”家の出身……これは言わない方がいいな。

 

「ほら、最初の勉強会。桐条先輩が何気なく高級なお菓子持ってきただろ?」

「あ~……そういえばそんな事もあったね」

「あれを一目で高級と見抜いた眼力。桐条先輩ほどではないにしても、それなりに目が肥えていそうだからな……」

「なるほどね~。でも流石に出費キツくない?」

 

 お金の事なら問題ない。

 Be Blue Vのバイト代とテレビ撮影のギャラ、時間のある時に部屋で翻訳の仕事。

 これらの報酬を全部合わせると結構まとまった収入になる上に、使い道は食事くらい。

 その食事も寮の食事とかロケ弁にサポートチームからの補助(奢り)がある。

 最近はスキルカード……というかストレガとの接触もないし、使い道が無い。

 

「基本的に貯め込んで、使う時に一気に使う方だから。このくらいならまだ懐が痛みはしないよ」

「経済力があるのと、プレゼント代をケチらないのは高評価だね」

「何の評価だ……」

 

 島田さんは恋愛とか、その手の話ばかりだな。

 

「え~? 恋愛対象じゃなくたって、異常にケチケチした人だと付き合いにくいっしょ? お金はトラブルの元にもなるし、ある程度さっぱりした使い方の人が友達付き合いするにもいいに決まってるじゃん」

「それはまぁ、そうか」

「別に無理して高いものを買う必要はないし、お金があるからって無駄遣いもしなくていいんだよ、ていうかそれは普通にマイナスポイント。ただ気持ちを伝える時に渡すような、大切な物の品質を落としてまで予算を浮かせて、気持ちはこもってるから! なんて言われてもさ……

 高いものを頂戴とは言わないけど、めちゃくちゃに値切って出来る限り安く済ませたプレゼントとかもらっても嬉しくないじゃん? それはそれでものすごい労力をかけてるかもしれないけど。あー……普段使いのタオルとか、そういうちょっとした物なら全然安物でも構わないしさ。この微妙な乙女心が分からないかな」

 

 変なポイントを突いてしまったようだ。

 女子寮に到着するまで、島田さんの乙女心講座が開かれた……

 

「とうちゃーく。荷物持ちお疲れ様」

「ここからは頼んだよ」

「おまかせあれ! どの道ゆかりちゃんの方にお見舞いには行くし、ここまで送ってもらったからね。この果物は確実に届けるよ。何か一緒に伝えておく事ある?」

 

 考えてみるが特にはない。

 

「早く回復する事を祈ってる。とりあえずそれだけ――」

「おやおや、これはスキャンダルかな?」

「……突然出てきて第一声がそれですか? 会長……」

 

 いきなり寮から出てきたかと思えば……

 

「会長さんこんばんは~」

「何でこんな所に?」

「何でも何も、ここは月光館学園の女子寮だよ? 女子生徒の私がいてもおかしくないじゃないか」

 

 それはそうなんだけど、なんだか待ち構えていたように見えた。

 

「ん~、それは半分正解で半分外れかな。ずっと玄関前にいたけど、君たちを待ち構えていたわけじゃないんだ。ちょっと気になる話を耳にしてね」

 

 会長はそう言うと俺たちを手招きし、声を潜めてこう言った。

 

「実はうちの生徒がカツアゲの被害を受けたって報告があったんだ」

「カツアゲって、本当ですか」

「うん。最初は人探しのために声をかけられたらしいんだけど、探し人に心当たりがない事を伝えたら、欲しい情報が手に入らないからムカついたとかで殴られたんだって」

「なにそれ……めちゃくちゃ勝手じゃん」

「どうも普段は“駅前広場はずれ”にたむろしてるグループで、相当手が早い連中みたいだね。迷惑極まりないよ」

「……なるほど、それで会長はここに」

「うむ。メールで注意喚起をしつつ、自主的に警戒中。帰宅してきた子に外の様子を聞きたくて待っていたのだよ、ワトソン君」

 

 ……あ、本当だ。俺の携帯にもメールが来ていた。

 

「いつもながらすごい情報力。あと対応早いですね」

「まぁね! これが私の人徳というやつさ」

「自分で言うのか……」

 

 でも、会長はこんな態度だから話しやすい。

 彼女は無言でいれば“美人な女子の先輩”。

 それだけなら俺も含めて下級生、特に男子は話しかけづらそう。

 しかし適度にふざけて、気さくに話しかけてくるから話しづらさを感じない。

 お調子者でムードメーカー。ある意味で順平に近い。

 先輩は意図的に、順平は天然だと思うけど……!

 

 何気なく開いた先輩のメールに、見逃せない文面を見つけた。

 

「……じゃあ俺もそろそろ寮に帰ります。遅くなるほど危ないと思いますし」

「そうだね。道中気をつけて」

「島田さん、岳羽さんへのお見舞いよろしくね」

「任された!」

 

 果物の詰め合わせを掲げてみせる彼女の返事を聴き、女子寮を後にする。

 

 そして向かうは男子寮。

 

 “出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)と名乗る不良グループが駅前広場を中心に、辰巳ポートアイランドで「ヒソカ」と名乗る外国人、またはハーフと思しき男性を捜索中”

 

 出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)……かつて俺が地下闘技場で叩きのめしたグループだ。

 どうやらこの事態は俺と無関係じゃないらしい。

 カツアゲ、それも月高生の被害まで出ているとなれば無視はできない。

 荷物を置いてもう一度街に出てみよう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~駅前広場~

 

 姿を闘技場用(ヒソカ)に変えて駅前を訪れると、

 

「いけすかねぇツラの外人を探してるんだけどよぉ、何か知らねーか?」

「てめえちょっとツラ貸せよ」

「お前そこの英会話教室から出てきただろ。そこにこういう奴いねーか?」

 

 揃いの革ジャンを着てオラついている、いかにもな男たちを見つけた。

 通行人に睨みをきかせているが、あれでは人探しの成果も出ないだろう。

 

「あの、わ、私知りません!」

「あ~ん? なんでそんなキョドってんだよ」

「何かおかしくね? 知ってて隠してるんじゃね?」

「ちょっと詳しく、話聞かせてもら」

「はいそこまで」

 

 女性の腕を掴もうとした男の肩を、後ろから掴んで止める。

 

「あぁん!? なんだテメーは!」

「君達の探し人。違うのか?」

「は?」

 

 男はあっけにとられたように、もう片方の手に持っていた紙と俺の顔を見比べている。

 しかし一緒にいる2人が俺を見て怯えているので間違いではないだろう。

 

「そっちの二人は前に会った事あるな? 人違いか?」

「間違いない、です」

「探されていると知ったから出てきた。何の用?」

「いや、その……」

 

 男たちはすっかりビビっているようだ。

 そんな仲間の態度に腹を立てたのか、

 

「テメェらなんて情けない顔してやがる! ……後でヤキ入れてやるから覚悟しとけ。おいお前、俺らのボスがお呼びだ。おとなしくついてこい」

 

 どうもこいつだけは俺の事を知らないらしい。

 俺も地下闘技場で見た記憶はない。

 

「ボス……確か俊哉って人だっけ?」

「ハッ? いつの話してんだよ。あんな腑抜けはとっくに追放、今は鬼瓦さんの時代だぜ!」

 

 駅前広場はずれの裏路地を歩きながら聞いたところ……

 

 以前俺が俊哉を倒した後、彼らのグループはリベンジするも敗北続き。

 そのうち俺が地下闘技場に来なくなり、相手にもされなくなったという話になったらしい。

 それに対して本人は反抗する事なく、逆に不良から足を洗う事にした。

 

 俺からすれば、いいんじゃない? の一言で終わる話だが、不良にとっては問題のようだ。

 俊哉だけでなくグループやそのメンバーまで舐められ始め、やがて一部が行動を起こした。

 元リーダーの俊哉を追放し、新しく鬼瓦という男がトップの座に。

 俺を探していたのはその男の指示で、俺を倒して名誉を取り戻すとかなんとか……

 

 はっきり言おう。滅茶苦茶馬鹿馬鹿しい。

 言葉は分かるけど意味が分からん。

 心の底から勝手にやってろよ! と思う。

 

「鬼瓦さん! 連れてきました!」

「よくやった! おい、テメェがヒソカってふざけた野郎だな? 俺と勝負しやがれ!」

 

 このあと、滅茶苦茶八極拳の練習台にした。


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